2019年06月15日

女性の脳は男性より三歳若い?!

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最近“脳の老い”、感じたことはありますか?「いや〜ワシも歳とったわ。なかなか思いだせないし、新しい事は覚えられないし・・・」「ワタシは大丈夫よ!まだまだ若い人には負けないわ〜」さて、あなたはどちらでしょう?・・・なぜ語り口に性差をつけているのだ!とご不満の方もおられるかも知れませんが、この書き分けは科学的根拠に基づいています。女性の脳は男性より“代謝年齢”では三歳ほど若いようです。

脳は活動に必要なエネルギーのすべてをブドウ糖に依存しています。ブドウ糖は細胞に取り込まれると“解糖系”という生化学的システムで分解され、その過程でエネルギーを発生します。酸素がなくてもエネルギーは産生できるのですが、酸素があれば、はるかに効率よく(およそ18倍)エネルギーを産生することができます。前者を嫌気的解糖、後者を好気的解糖とよびます。脳の糖代謝は嫌気的、好気的両方の解糖系が動いているのですけど、このシステムは大きく加齢に影響されることが分かってきました。

セントルイス・ワシントン大学(“ワシントン大学”という名称は全米で複数あるので、所在地を付けて表記するようになったようです)のグループは以前から“脳の老化と糖代謝の関係”に注目して研究をすすめてきました。彼らによれば、若い脳では好気的解糖と嫌気的解糖が混在しているのですが、加齢が進むにつれ好気的解糖は減少し、60歳あたりでほぼ消失するそうです。ただしこの変化は認知機能が正常で、認知症と関係が深いアミロイド沈着がない人にも生じるので、加齢の指標ではあっても病的な神経変性によるものではないようです(「細胞代謝誌」2014 年、2017年)。でもこの加齢による変化によって、かなり脳内のエネルギー産生効率が悪くなりそうな気がしますね〜何となく実感とも合致するし。

最近この研究グループが加齢と脳内糖代謝の男女差を明らかにするために、認知機能正常の20〜82歳の成人(女性121、男性84名)を対象として「陽電子放射断層撮影(PET)」を用いて脳の局所ブドウ糖利用、酸素消費量、脳血流のデータを得て、それらをもとに好気的解糖を計算したデータを加えてコンピュータにインプットし、「機械学習アルゴリズム」に“年齢と脳代謝の関係”を見つけるように訓練させました(コンピュータを訓練して演算式を求めるやり方です。何でもできるようになっているのですね〜)。次にそれに基づいて実年齢と“代謝年齢”との関係における男女差を比較したのです(「米国科学アカデミー紀要」 2019年2月号)。

さて結果ですが、男性のデータで学習したアルゴリズムに女性のデータをインプットすると「女性の脳年齢は実年齢(男性のデータに基づいています)より3.8歳若い」という結果が得られ、逆に女性のデータで学習したアルゴリズムに男性のデータをインプットすると「男性の脳年齢は実年齢(女性のデータでに基づいています)より2.4歳老化している」という結果が得られました。すなわち「女性の代謝年齢は男性より3歳ほど若い」と推論できます。

この“女性の脳の若さ”は既に20歳代からみられ80歳まで一貫しているようです。「やっぱり!そうじゃないかと思っていたわ!」と強気になる方もおられるかも知れませんが、ここは慎重に考える必要があります。確かに高齢の同年齢で比較すれば女性が有利かも知れません。実際、高齢者の認知機能を同年齢で比較すると女性の方が良い結果を出す、という報告も少なくないことと符合します。しかしこれを“脳の老化についての性差の優劣”と解釈すべきではない、という意見があります。脳は他の臓器とは異なり、身体が大人になってからも成熟を続ける性質を持っています。この性質を「幼形成熟」というのですが、この特性を考慮すると、今回紹介した研究の知見は単に“男性の脳の方が成人期に女性より3年早く成熟し、その差が老年期まで持続している”ことを示しているに過ぎないと考えることもできます(著者らもこの可能性を指摘しています)。

だったら「20歳頃の男女の脳の成熟度を比べてみたら分かるじゃないか、男性脳が先に成熟しているはずだから」となりますよね。この研究は口で言うほど簡単ではなく、実際にこれを検討した論文は寡聞にして知らないのですが、個人的な感覚で言えば、20歳レベルで男性脳が女性脳より成熟しているとはとても思えません・・・・・・私は女性脳が3歳若くてちょうど良いと思います。だって女性の平均寿命は男性より6年長いのですから。6−3は3、もうあと3年若返りたいところ・・・・・・なんて余計なお世話ですね。

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2019年06月01日

結核は稲作と一緒に渡来した?!


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少し前にネットで鳥取大学医学部の先生たちのグループが中国の長江流域の遺跡で東アジア最古、約5,000年前の結核の痕跡がある女性の人骨を発見した、という記事をみつけました。面白そうだったので記事の元になった論文(「国際古生物病理学雑誌」エルゼビア出版 2019年1月号)を読んでみました。

このグループが発掘したのは上海市にある「広富林遺跡」で、肥沃な長江のデルタ地帯にあり、数千年前から盛んに稲作を行われていました。どうやらこのあたりから稲作技術が日本に渡来したと推測されているそうです。発見された人骨には胸椎と腰椎が癒合・変形した「結核性脊椎炎(脊椎カリエス)」の徴候がありました。専門家によれば、日本では結核の痕跡は縄文時代の遺跡からは発見されておらず、弥生時代に渡来したと考えられるので、今回の発見は結核が長江流域から稲作とともに日本に渡来した可能性を示唆している、とのことです。

結核は日本のみならず、世界中で猛威を振るった、そして今も振るっている感染症です。日本ではかつては“労咳”と呼ばれ恐れられてきました。結核によって多くの著名人が亡くなっていますが、ここ150年くらいで幾人か名前を挙げると、幕末歴史ファンなら新撰組の沖田総司と長州の高杉晋作、文学ファンなら脊椎カリエスで34歳の若さで亡くなった明治の俳人、正岡子規の名が頭に浮かびます・・・・・・「いくたびも 雪の深さを 尋ねけり」なんて、病床に臥せる彼の心情が分かるような気がするな〜

結核は飛沫感染または空気感染で経気道的に人から人に伝搬します。体内に入った結核菌はまず肺胞に定着しますが、そのほとんどは人体の感染防御を担う好中球と肺胞マクロファージにより貪食され処理されます。しかし時には結核菌が自らを貪食したマクロファージの中で増殖し、ついにはマクロファージを殺して初感染巣を作ります(ちょっとした“エイリアン”ですね)。

しかしたいていは、結核病巣は“乾酪壊死”という現象を起こして、結核菌も封じ込められて病気も終息・・・・・・なのですけど一部の人では結核菌は早期にリンパ節、その後血流に入って肺以外に病巣を作る「肺外結核症」を発症し、また、一見何事もなく治ったかにみえても、死なずに残った結核菌が長い時間の後、免疫が低下したときに再燃する、などの現象が起こります。なお脊椎カリエスのような骨・関節結核は未治療の数%に発症するとされていますが、幸い現在では稀な合併症です。

ドイツの研究グループによれば、結核菌群のルーツは約40,000年前の東アフリカまで辿ることができるそうです。彼らは人類がアフリカを出て世界中に移り住むようになるのと一緒に結核もグローバルに広がったと推論しています(「PLOS微生物学」2008年)。

また、結核症の痕跡は数千年前のエジプト、先コロンブス期(石器時代〜西欧人の米大陸進出までの期間とのことです)のアメリカ大陸、新石器時代のヨーロッパにみてとることができます。脊椎カリエスなどの肉眼的な人骨の変化のみならず、最近のDNA解析技術により、一見病変のないミイラの組織や骨にも結核菌の存在を証明することができます(「米国微生物病学会誌」2016年8月)。

稲作・農耕技術が確立したことにより、人類は安定した食物エネルギーを入手できるようになりました。それによって狩猟で動物を追いかけてあちこち移動する必要がなくなり、定住生活が可能となって人口も飛躍的に増加しました。実はこの人類の定住化と人口増加が“人から人への伝搬で生き延びている”結核菌にとっても絶好の条件だったのです。

人口の増加(正確には人口密度の増加)以外に結核菌繁殖にとって好都合な条件といえば戦乱による衛生環境の悪化(集団の免疫不全につながります)があります。実際、結核は産業革命や第一次世界大戦などで増加し、抗生物質の発見によって一時頭打ちとなり、その後HIVの蔓延で再度増加傾向を示していることが明らかになっています(「ネイチャー遺伝学」2015年3月)。

今の日本、とくに大阪府は稲作・農耕が盛んでもないし、戦乱もないけど人口密集地域です。また、若者を中心に結核菌に対して免疫のない人も少なくありません。従って会社や施設で複数人が同時に結核に感染することがあります。また結核患者さんがそれとは知らず、一般病院外来を受診したことが判明して感染対策で大騒ぎすることも珍しくはありません。

微熱・咳・痰などが2週間以上続けば、とりあえず胸部X線写真をとるべきだと思います。必要があれば痰の検査や結核に対するリンパ球の反応をみる検査など、診断ツールは揃っています。結核は“誰でもなる可能性がある病気”、“他の人に伝染する可能性がある病気”であることを忘れないで下さいね。
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2019年05月15日

アドヒアレンスが良い人は死亡リスクが低い?!

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「コンプライアンス」という言葉があります。「法令遵守」という意味で、企業コンプライアンスがどうのこうのとか・・・・・・最近は「コンプライアンス委員会」なるものを置く会社も少なくないようです。法令守るのに委員会がいるの?!と思わないではないけど、単に法令のみならず、社会的なマナーを含めて“遵守する”ことが求められるからでしょうか。

医療の世界では「コンプライアンス」は「服薬遵守」を意味します。処方された通りに薬を服用しているか、どうか・・・・・・「ではまた1ヶ月後に。ところでくすりはきちんと飲んでいますか?!」「もちろんですよ、先生。あっ、でも薬はずいぶん残っているので、今日はけっこうです。」「・・・・・・」なんてマンガみたいな会話はよくあることです。

ところが最近、「薬をきっちり服用する、ということだけでは不十分だ。処方薬のみならず、日々の食事、運動、体重管理など、患者自身が十分に説明をうけて同意をしたうえで適切なガイドラインを遵守するなど、自発的かつ積極的に治療管理にコミットすることこそが重要だ!」と主張する理屈っぽい専門家が増えています。かれらの言わんとすることを簡明に表現すると「アドヒアレンスが重要だ!」となります。辞書では「アドヒアレンス=固執・執着」というあまり良くない語感だったのですが、いつのまにか「アドヒアレンス」は“善玉ワード”になったようです。

良きアドヒアレンスの代表として、「慢性疾患予防のためのライフ・スタイルのガイドラインを守る」、という態度を挙げることができます。米国人女性(正確なデータが取りやすい看護師さんたちです)77,782人を24年間追跡した研究では、禁煙、体重管理、適度な運動、適度な飲酒、食事制限の5項目を遵守するのと、しないのとでは、全死亡リスクで4倍以上の差がみられることが報告されています(「英国医師会雑誌」2008年)。でもまあ、そりゃそうだろう、と思いますよね。遵守して益がないと、ガイドラインの意味がありませんものね〜

では“そりゃそうだろう”とは言い難い研究を紹介します。「推奨されるがんスクリーニングをきちんと受けている人と、受けていない人の間で、“スクリーニング対象のがん以外の死亡率”に差があるか否か」というのがテーマです(「米国医師会雑誌 2018年12月号」。

この研究には「PLCOがんスクリーニング・トライアル」という“元研究”があり、今回紹介する“がんスクリーニングに対するアドヒアレンス”は、同じ集団を解析対象とした“副次的研究”です。元研究は、胸部X線、S字結腸内視鏡(男女とも)、前立腺がんマーカーのPSA+直腸指診(男性のみ)、婦人科がんマーカーのCA125+経腟超音波(女性のみ)を実施し、合計77,443人を最長13年間フォローして、がんスクリーニングの死亡率低下効果を検証したものです(結果については未だ議論があります)。

今回とりあげる研究は、上記がんスクリーニングをきっちり受けた人(アドヒアレント群=A群;85.3%)、一部だけ受けた人(部分アドヒアレント群=PA群;3.9%)、全く受けなかった人(非アドヒアレント群=NA群;10.8%)の3群に分けて、10年のフォローの後、スクリーニング対象となったがん以外の死亡率を比較しています。結果は、確かに「NA群はA群に比べて死亡率が高かった」のですが、それは単に“A群はNA群に比べて“健康意識”が高かったので、その結果死亡率が低かった”のではなさそうです。もしそうなら“そりゃそうだろう”なんですけど。

この研究では、NA群とA群とで死亡率を比較するときに、年齢、性、人種のみならず、喫煙状況、BMI、婚姻状況、教育レベル、さらには種々の疾患(冠動脈疾患/心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、がんの病歴、慢性閉塞性肺疾患、肝疾患)など考えられる限りの要因で補正した後も、NA群はA群に比べて5年間で1.45倍、10年間で1.26倍、15年間で1.38倍死亡リスクが高かったのです。なおPA群はNA群とA群の中間リスクを示していました。

疾患別にみると、NA群でリスクが高くなるのが、消化管疾患(2.26倍)と呼吸器疾患(1.97倍)で、ついで心血管疾患(1.40倍)、がん(1.28倍)が有意に高リスクでした。一方、感染症(1.19倍)、神経系疾患(1.13倍)、事故(0.96倍)では両群に有意差はありませんでした。内分泌疾患(1.37倍)は高リスクと思われたのですが、補正していくと有意差はなくなりました。

“推奨されるがんスクリーニングを受けないという行動様式”が、がんとは関係のない特定分野の疾患による死亡リスクを上昇させるという結果が得られましたが、「なぜそうなるのか?」については明らかではありません。行動科学的なものなのか、ある種のストレスが関係しているのか・・・・・・「心・行動・身体の関連」について、まだまだ分からないことがたくさんある、そう思わせる研究でした。
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