2018年04月15日

“飼い犬に手を噛まれる”についての一考察


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2017年、ついに飼い猫の数が飼い犬の数を上回ったというニュースが流れたのは記憶に新しいところです。しかしそれでも飼い犬の数は約900万頭で、犬は人間の親しい友人であることには変わりありません。でも犬はときどき人を噛みます。ではどれくらいの人が噛まれるのか、噛まれる方に何か要因があるのかについては、まとまった報告はありませんでした(そりゃ、なかなかないだろうな〜とは思いますが)。今回はこの問題についてのユニークな研究を紹介します。

研究を行ったのは英国リバプール大学のグループで、結果は「英国医師会雑誌」の姉妹誌である「疫学と住民健康誌」の2月号に掲載されました。調査対象はイングランドのチェシャー州の1260世帯で、犬を飼った経験、噛まれた経験、そのときの状況など、さらに感情的な安定性に関する評価についても調査しています。回答が得られたのは、385世帯の694人からなのですが、うち犬に噛まれた経験があったのは25%でした。そのうち治療を要した人は約3人に1人、入院するほどの傷を負ったのは0.6%でした。噛まれる頻度は18.7/人口1,000人/年と算出されました。

英国の飼い犬の数は約850万頭で日本とほぼ同じですが、人口は半分なので、相対的な“対人犬口密度”は日本の倍、ということになります。もし犬に噛まれるという事象が“犬口密度”に比例するのならば、日本では人口1,000人あたり約10回/年、おおよそ一年あたり100人1人程度でしょうか。

この英国発の研究結果で特徴的なのは、男性は女性より1.8倍噛まれやすいことです。また、現在犬を複数飼っている人は飼っていない人に比べて3.3倍噛まれやすいという結果でした(そりゃ、当たり前だろう、とは思いますけど)。注目すべきは噛まれた人の過半数(55%)は“全く面識がなかった犬”に噛まれている、という事実です。文字通り“飼い犬に手を噛まれた”人は男性で17%、女性では16%にすぎませんでした。そういえば私も今までで2回ほど犬に噛まれそうになった経験があるのですが、どちらも知らない犬でした。もちろん親しげに寄ってこられた経験も複数回あります。だから決して犬にとって私が“怪しい人物”に見えるわけではないと思っています。

もうひとつ興味深い結果がでていて、それは“感情的に安定”している人は犬に噛まれるリスクが低下する、ということです。この研究では心理学の分野でよく用いられている質問票で評価しています。回答によって1点〜7点のスコアが付き、高い得点であるほど感情的に安定していて不安傾向も少ない、という評価になるのですが、スコアが1点上昇すると噛まれるリスクが23%低下することが明らかになりました。

この論文の結果を総括すると、まず男性は女性より噛まれやすい、ということです。犬が向かってきたら、男性は逃げた方が良さそうです。問題は、犬は人より足が速い、ということですけど……また「飼い犬に手を噛まれる」ことはもちろんあるけど、「飼い犬でない犬に手を噛まれる」ことの方がずっと多い、ということです。いまひとつはメンタルに安定していない時は噛まれやすい、ということです。確かに犬は賢い動物です。犬を飼っている人に聞いた話ですが、「悲しくて泣いていると犬が慰めにきてくれた」とのことです。昔、我が家にいた “愛犬”と比べると、あまりの落差にため息がでそうです……ただ飼い主メンタルがあまりに不安定だったりすると、飼い犬の方もついにキレて、「え〜い、うっとうしい奴!」となってガブリ、と一噛み……なんてことになるのかも。

たまに噛むことがあったとしても、犬は人の友人であり、家族同然の存在です。そればかりではなく、犬を飼うことで心血管病の罹患や死亡が減少する、という報告が複数あります。うち最も信頼できる研究は最近サイエンティフィック・リポーツ誌2017年11月号に掲載されたスウェ―デンのグループによるものです。研究規模は大きく、同国の2001年1月時点での40〜80歳の全住民約400万人のうち340万人を対象としています。犬を飼っていた人は全体の13.1%でしたが、単身者で犬を飼っている人の全死亡リスクは33%低下していました(他に家族が居て犬を飼っている人のリスク低下は11%)。また心血管病による死亡リスク低下は36%(同15%)でした。犬の種類で比べると、猟犬種で最も効果が高かったとのことです。猟犬を飼うと運動量増えそうですものね。

犬を飼えば、むろん癒やされるし、運動量が増え、社会とも繋がる機会も増えます。とくに単身者で心血管病リスク低下効果が顕著なのは分かる気がします。でも北欧は広いし人口密度も低いから良いけど、狭い日本で猟犬を飼ったら犬のストレスが溜りそうですね〜それで機嫌悪くなったらちょっと怖いな〜

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2018年04月01日

体温が高いと死亡率が上がる!?

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「熱っぽくて、しんどいのですね?でも体温は36.3℃ですので熱はないようですね。」「先生、でも私、平熱が36℃ないのです。だから絶対!、微熱があると思います!!」・・・・・・確かに体温は、とくに病気にかかっていない状態では人それぞれです。では、体温の高低の違いにはどのような意味があるのでしょうか。昨年末の「英国医師会雑誌クリスマス特集」に掲載された米国ボストンのグループの研究結果はなかなか興味深いものでした。

研究方法は、ある大規模病院の外来患者35,488人を対象に243,560回の体温測定のデータと電子カルテの情報を解析するというものです。対象患者の平均年齢は52.9歳、うち64%が女性で、41%は非白人という構成です。体温が研究対象になっていますので、感染症病名がついた人や抗菌剤が処方された人は対象から除外されています。

結果は、平均体温は36.6℃でした。この論文では体温測定部位による違いについての記載もあるのですが、口腔温を基準にして(体温測定ではしばしば直腸温が最も正確とされるのですが、外来での測定にはちょっと無理があります)、腋窩測定では−0.26℃、鼓膜測定では−0.06℃、スマホアプリを使った側頭動脈測定では−0.03℃でした。また、体温に関係するいくつかの因子や状態も明らかになりました。年齢が高くなると体温は低下し(−0.021℃/10年)、人種ではアフリカ系米国人女性が最も高値でした(白人男性に比べて+0.052℃)。

もちろんいくつかの病気と体温の関係も示されました。よく知られたことなのですが、基礎代謝が低下する甲状腺機能低下症ではやはり体温が低いことが確認されました(−0.013℃)。また、がんでは0.020℃体温が高くなり、肥満の指標となるBMI(身長m/体重kg2)と体温との関係をみると1m/kg2あたり0.002高くなる、という結果でした。しかしこれらの因子を合算しても、それらの体温に対する影響はわずか8.2%にとどまりました。

では体温の高低と最も関連していたのは何だったのでしょうか。それは将来の死亡率だったのです。体温0.149℃の上昇は1年間の死亡リスク8.4%の上昇と関連していました。
実はこの結果、今までに発表された基礎的、疫学的研究結果を踏まえると、予想されたものでした。ただ実際の総合病院の患者さんから得られた“ビッグ・データ”で確認されたところに意義があります。

ではネットの世界では高体温はどう捉えられているのでしょうか。目につくのは、「体温を上げると免疫力がアップしてがんなどに罹りにくくなる!」という言説です。もう、ほんと、いい加減!真逆のことがまことしやかに流布されているのです。言いたい放題の世界ですね・・・・・・ちゃんとした科学的根拠の裏付けのない意見は、たとえ専門家・権威の意見であっても重んじるに値しない、というのが現代医学の常識です。また、たとえ論文の裏付けがあったとしても、意図的に自分の意見に合うものだけを引用する、というのもアウトです(これはメディアでもよく使われる手法です)ましてや非専門家の思いつき・体験談などは論外です。せいぜいBSテレビによく出てくる通販の宣伝程度の信頼度でしょうね。

・・・・・・と言いながらも、“権威でない論文マニア”である私の意見を・・・・・・潜在するがんや炎症が検査をくぐり抜けて診断には至らなかったけど、体温だけは少し上昇させていた、という説明は否定できないけど、ちょっと無理筋かなと思います。一方、高体温が代謝亢進にリンクしているとすれば、過剰なエネルギー燃焼は、やはり酸化ストレスの増加など、ある種のリスクに繋がる可能性はあります。代謝亢進を来すことで有名な病気に「甲状腺機能亢進症(バセドウ病またはグレーブス病)」があります。発汗、頻脈、高体温、甲状腺腫大を来たし、放置すれば最悪死に至る疾患です。血液検査で甲状腺ホルモンと下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンを測定すれば簡単に診断できます。ところが甲状腺ホルモン関連検査がすべて正常範囲にあっても、甲状腺ホルモンが“低めの健常人”は“高めの健常人”に比べて寿命が長いとする報告があります(「米国医師会雑誌・内科学2017年9月号」)。やはり代謝亢進や体温上昇は生物にとって負荷であり、寿命に対するリスクなのでしょうね。

というわけで、“体温が低い”ことは欠点ではなく優れた資質かも知れません。“being cool”は”being hot”より有利のようです。それに何に対しても活動的なのも良いのですが、アルカイック・スマイルを浮かべて静謐の中に生きる、というのも何だか“かっこいい(It’s so cool)”感じがしませんか?・・・・・・もう体温あげないように、じっとしておこうっと・・・・・・

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2018年03月15日

ストレスは、がんのリスク因子か?!


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ストレスがさまざまな疾病に関与していることはよく知られていて、心血管病や糖尿病のリスク因子であるという疫学的研究がいくつか報告されています。しかしそのメカニズムについては明らかではなく、観察研究に頼らざるを得ないのが現状です。またストレスというのは自覚的なもので数値化が難しいし、おまけに個人を取り巻く環境の変化などで一定不変のものではないので、研究対象とするのは簡単ではありません。

「ストレスとがん」というのも重要な問題で、ちょっと考えると関係がありそうだな・・・・・・と思いますね。しかしこのテーマについて複数の研究報告がされているものの、その結果は一致しているとは言い難く、「ストレスとがん」の関係は、あるとも無いとも確かなことは言えない、というのが現状でした。しかし昨年10月に日本の共同研究グループが「サイエンティフィック・リポーツ誌」に発表した大規模研究の結果は、この問題の解決に寄与するものかも知れません。

研究を行ったのは、国立がん研究センター・社会と健康研究センター、国立循環器病研究センター、東京大学、それに全国10カ所の保健所です。調査対象となったのは1990年と1993年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の各保健所管内にお住まいの方でがんに罹患していなかった40〜69歳の101,708人(男性48,588人、女性53,120人)で、
アンケートで自覚的なストレス程度(ストレス・レベルは低・中・高の三段階に分けています)とその推移を調査し、同時にがんの罹患について2012年までフォローしています。

さて、結果ですが、追跡期間中に17,161人のがん罹患が確認され、おおまかに言えば、長期的にみたストレス・レベルが高いこと、そして男性であることが、がん罹患リスクを高めることが分かりました。とは言っても、調査開始時のストレス・レベルはあまり関係なく、あくまで高ストレス・レベルが持続すること、ストレス・レベルが時とともに高くなっていくこと、という状況が、がんリスクの上昇にとって重要な因子であるようです。

さて、がんリスク増加の程度ですが、この研究での比較検討の方法は、ストレス・レベル低の人を基準にして他のグループのリスクが増加しているか否かを検証しています。全がんでみると、ストレス中・高レベルで4〜6%、ずっとストレス高レベルが持続していると11%のリスク増加となっています。しかもがん腫によってかなり異なっていて、ストレスの影響が強いのは肝臓がん(33%リスク増)と前立腺がん(28%リスク増)です。前立腺がんでの罹患リスク増加が男性でのリスク増加に深く関わっていると思われます。また、食道・胃・大腸・直腸、肺、乳腺のがんとストレスの有意な関係は認められませんでした。

この研究はかなりスケールが大きく(対象人数が多く)、観察期間も長いところは評価できます。しかしあくまで観察研究ですので、結果から直ちに「ストレスが強いとがんのリスクが高まる!」とまでは言えません。リスクが増加するがん種としないがん種があるように見えますが、これも現時点であまり重要視しすぎるのもどうかと思います。

ただストレスが続くと自律神経系や免疫系に一定の影響が及ぶことは疑いがありません。そしてその影響はおそらく人体にとって益ではなく、害をもたらす可能性の方が高いと考えられます。事実がはっきりするのには、今後の研究の進展に待たねばなりませんが(医学や自然科学の研究の決まり文句です)、ストレスを軽減する・避けることはがん罹患のリスクを考えるうえで、益をもたらすことが期待できます。

すると別の問題が見えてきます。「私たちはいかにしてストレスを避けることができるか」です。これが簡単にできたら苦労はしないのだけれど・・・・・・趣味、スポーツなどなどの効果を力説する人も少なくないのですが、ほんとうのストレスを軽減するのは一筋縄ではいきません。だったらどうしたら・・・・・・なんてことを真剣に考えていたらもっとストレスが溜まりそう・・・・・・ここはやはり「無の境地に達して悟りを開いてストレスの本質を透徹する他無し」・・・・・・と言いたいところですが、この私、残念ながらそういう境地に達したことも悟ったこともございません。今世はどうも無理そうです。来世に期待するかな〜
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記