2016年07月15日

運動でがんを防ぐ

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適度の運動が健康に良いのは言うまでもありません。運動は生活習慣病の一般療法としての必須アイテムとしてゆるぎない地位を占めていますし、心肺機能の維持・改善にも有用です。加えてがん予防にも有効かも?!となれば、ますますその価値が高まりますね。今回紹介するのは、今年の5月に米国国立がん研究所のグループが「米国医師会雑誌・内科学」に発表した“運動はがんの罹患リスクを下げる”という論文です。

この研究は「仕事や家事を除く余暇の運動(“レジャー・タイムの運動”と表現されています)についての申告がある人」を対象とした米国と欧州の12の前向き研究の結果を合わせて解析したものです。対象者は総計1,440,000人で平均年齢は59歳(19〜98歳)、うち女性が57%を占めています。対象者は1987年〜2004年にそれぞれの研究に登録され、解析は2014年1月から2015年6月の間に行われました。がん患者の発生は186,932人に認められました。

さて結果ですが、運動とがん発生の関係を26種類のがんで検討したところ、半数の13種類のがんにおいて運動のがんリスク低下が認められました。この低下は喫煙歴や肥満で統計学的調整を行った後でもなお、10種のがんで統計学的に意味のある低下でした。

ではがん種別の詳しいデータをみてみましょう。リスク低下は運動を活発に行う人とほとんど運動をしない人とを比べた結果だと思ってください。まずは食道腺がんのリスク低下42%……ただし日本人の食道がんは90%が喫煙・アルコールとの関係が深い扁平上皮がん(欧米は半数以上が腺がん)ですので、日本人には参考程度の結果です。次に肝臓がんのリスク低下27%……しかし日本の肝臓がんは80%以上がB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス(+アルコール)が原因ですので、これも参考程度……

続いて肺がんのリスク低下は26%、腎臓がんのリスク低下は23%でした。胃がんについては、噴門がん(食道につながる部分)のリスク低下が22%です。ここはちょっと注釈がいります。胃がんの大部分は噴門ではなく、それより下部の部分(胃体部、前庭部、幽門部)に発生しますが、この部分の胃がんの主な原因はヘリコバクタ・ピロリ菌の感染であると考えられています。従って運動によるがん減少効果を証明できるのは噴門がんに限られるようです。

また子宮内膜がんでは21%のリスク低下、血液がんである骨髄性白血病・骨髄腫はそれぞれ20%。17%のリスク低下でした。大腸がんでは16%、頭頸部がん(耳鼻咽喉科領域のさまざまながん種の総称です)15%、直腸がん13%、膀胱がん13%、乳がん10%のリスク減少……これで13種です。

一方、運動が罹患リスク増加に関連するがん種も少数ながらあるようです。まず皮膚がんの一種である悪性黒色腫ではリスクが27%増加していました。悪性黒色腫は紫外線との関連が強く、白人は黄色人種に比べて皮膚がんが多いので、このような結果が得られたのかもしれません。もうひとつは前立腺がんで、こちらは5%のリスク増加です。
前立腺がんの増加はわずかですが、理由付けはちょっと難しいです。

運動は実にさまざまながんでリスク低下をもたらすようですが、がん種の頻度を考えると、肺がん、大腸がん、乳がんのリスク低下がとくに期待できそうです。なぜ運動が、がんリスクを下げるかについては未だ明らかではありませんが、慢性炎症、高インスリン血症、酸化ストレスなどの軽減効果が関係していると推察されます。

ここでいう“がんリスク低下を目指す運動”とは、中等度の運動(速歩〜軽いジョギング、階段昇降、練習レベルのテニスなど)を週150分、または強い運動(本気のジョギング、水泳、勝ち負けにこだわるテニスなど)を週75分が目安です。ただし心肺疾患がある人は主治医と相談してからにして下さいね。持病があればがんリスク低下以前に心臓発作のリスクなどが上がってしまうので……また、持病がない人でも運動に慣れていない場合には脈拍100/分までにおさえる“高齢者向け中等度の運動”が無難かも知れません。そして運動後の喉の渇きにビールが一番!……というのは何をしているか分からなくなるのでご注意を!

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2016年07月01日

ABO血液型と病気


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私達が高校を卒業してまもなく、“ABO血液型と性格の相関”が話題となり、マスコミがしばしばテレビや雑誌で取り上げ、関連書籍もよく売れた時期がありました。「血液型占い」系の本も大ベストセラーになりましたね……書籍というのは波に乗るとバカ売れするのですよね〜ところが専門書となるとそうはいきません。同時期に大阪の血液内科医の“叡智を結集”し、私も分担執筆した血液腫瘍の専門書は700部くらいしか売れませんでした。もらった印税はわずか8000円〜あれは最悪だったな〜

ちょっと話が逸れましたけど、ABO血液型と性格の相関は全くないことが、もはや常識となっています。元来この“血液型伝説”は、ほぼ日本に限られていて、欧米では“血液型と性格?! What?!”という反応だそうです。しかし“血液型伝説”は意外に根強く、現に2014年に縄田先生(現九州大学)という方が日本心理学会のオフィシャル・ジャーナルに、日米の10,000人以上を対象とした大規模研究で「血液型と性格の無関連性」を改めて実証した、という趣旨の論文を発表されていました(心理学研究85:148, 2014)。学究の世界でもこうですから、一般社会ではまだ“血液型伝説”は生き残っているのでしょうね。

ABO血液型は数百ともいわれる赤血球型の中で最も早く(116年前)発見され、臨床的にも最も重要な血液型で、その発現は第9染色体上の遺伝子によって規定されています。ご承知の通りA、B、O、AB型の4通りに分類され、その相対頻度は日本ではおおむね4:2:3:1です。ABO血液型の違いは赤血球表面の血液型物質(抗原)の「糖鎖構造」の“わずかな”違いに由来します。基本構造はH(ヒューマンを意味するHです)型物質で、この構造だけを発現しているのがO型、そこにさらにA型、B型を規定する糖鎖が結合すれば、それぞれA、B型に、両方の糖鎖が結合すればAB型になります。この血液型物質は元をたどれば太古から地球に存在した細菌に由来し、それが遺伝子移入という現象でヒトの遺伝子になったとされています。またA、B、O型の人にはそれぞれ抗B、抗A、抗A+抗B抗体が生まれながらに産生され(自然抗体)、輸血時の制約となります。

血液型物質の生理的役割は十分には解明されていませんが、赤血球表面のみならず、血管内皮細胞など、さまざまな組織にも発現されているので、体内や体外の多くの生理活性物質との間で相互作用が生じていることは容易に想像できます。となると、ある種の病気が血液型に関連していたとしても不思議ではありません。

病気とABO血液型との関連で最も有名なのは、血液凝固システム・血栓塞栓症との関連です。すなわちO型以外の血液型の人はO型の人に比べて血栓塞栓症が起こりやすいとされています。この結果はかなり前から血液学や輸血学などの専門誌に報告されていたのですが、最近の米国心臓病協会の機関誌に発表された北欧のグループの研究によると、非O型の人はO型にくらべ、深部静脈血栓症のリスクは1.9倍、肺塞栓症のリスクが1.8倍も高いようです。熊本地震の後でも駐車場での車中泊による肺塞栓症の多発が問題になりましたが、このような場合、非O型の人はより積極的な予防策が必要かも知れません。また長時間のフライトによる「エコノミークラス症候群」にも注意してくださいね。むろんO型の人も安心して爆睡しないように。

ABO血液型は感染症とも関連しているという報告も多数あります。これには外界の微生物が糖鎖を“足場にして”感染を成立させる可能性、糖鎖構造によって生体の炎症システムが影響を受ける可能性などが関係しているのかも知れません。一般にO型は免疫能が強くAB型が弱い傾向にあるといわれていたのですが、O型はノロウイルスやヘリコバクタ・ピロリ菌に感染しやすいとする報告もあり、一概には言えません。また生活習慣病についてもさまざまな報告があります。非O型はO型に比べて10〜20%ほど糖尿病発症リスクが高い、AB型は虚血性脳血管障害がおこりやすい、などという研究がみられます。

以上を総合すれば、O型は非O型に比べて若干有利かな〜でも「だったら明日からO型になるわ」というわけにもいきませんしね……ABO型以外にも血液型は多数発見されていてその組み合わせの数は、ほぼ無限大……この過剰とも思える多様性が、おそらく人類の生存に有益だったのでしょう。何事によらず多様性は重要です。もっとも、実社会では人間の多様性に悩まされることの方がずっと多いのですけどね。あくまでhuman beingという種にとって重要、ということで……納得しましょう。
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記