2017年01月15日

「いびきがうるさい」ではすまない睡眠時無呼吸症候群

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みなさんは自分のいびきで眼が覚めたことがありますか?私は何度かあります。40歳を過ぎた頃からやや体重が増加して、急にいびきが大きくなり、睡眠中に時々呼吸が止まるようになりました。体重が増えたと言っても、BMIでいえば23.8くらいで正常範囲だったのですが・・・・・・たぶん頚が短いところによけいな脂肪がついたからかな・・・・・・

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は男性では中年以降、女性では閉経期以降に有病率が上昇する「繰り返す睡眠中の無呼吸」を主徴とする病気で、無呼吸の結果、低酸素状態に陥って無意識のうちに何度も覚醒して睡眠の質が低下し、昼間の眠気、頭痛などを生じます。さらに度重なる夜間の低酸素状態による臓器障害や内分泌環境への悪影響によって高血圧やメタボリック症候群を併発し、心血管病の罹患率が上昇するというやっかいな病気です。また日中の眠気のため、交通事故を起こしやすいことでも知られています。

SAS のほとんどは睡眠中の上気道の閉塞による閉塞型SASで、最大の誘因は肥満ですが、日本人は顔の構造上(要するに欧米人に比べて“のぺっ”としている)、さほど肥満でなくても起こりやすいとされていて、好発年齢以降では男性4%、女性2%が罹患していると推計されています。いびきはともかく、睡眠中に自分の無呼吸を自覚している人はいないけど、“家人の証言”があればSASを強く疑うことができます。しかし確定診断にはポリソムノグラフィーなどの機器で睡眠中の呼吸状態をモニターすることが必要です。これによって無呼吸・低呼吸の1時間あたり頻度(無呼吸低呼吸指数、略称AHI)を計測し、5回以上ならSASと診断できます。AHIが1時間に15回までなら軽症、30回までなら中等症、30回以上は重症となります。

SASの治療で、まず何よりも重要なのは、過体重あるいは肥満があれば体重を減らすことです。その他適度な運動、アルコールの制限、いびきをかきにくい睡眠体位の工夫や入眠剤の服用中止などの生活習慣の改善も一定の効果をもたらすことがあります。また、常に車の運転をしている人にはSASは交通事故を起こしやすい、という注意喚起を行うことがとても重要です。ドイツのある研究によれば、アウトバーンの事故によって救急病院のICUに搬送されるリスクはSAS患者で8倍高くなると報告されています。

SAS特異的な治療としては、「機器による睡眠中の上気道閉塞の回避」があります。軽症例では歯科でマウスピースを作成してもらうという手もありますが、中等症以上では機器を装着し睡眠中に送気して気道を確保するという方法を用いることになり、保険適応もとれています。これを「経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)」といいます。この治療法はとても理に叶っているのですが、欠点は“眠る時に鼻マスクを装着するのでうっとうしい”ことです。このためにどうしても夜間のマスク装着遵守が悪くなり(無意識にはずしてしまう)、装着時間が短くなることが稀でなく、これがひとつの治療限界となります。

CPAPの臨床的有効性については、多くの研究があり、研究精度を高めるために “偽薬ならぬ偽装置”を用いた大規模ランダム化試験も複数存在します。その中から最近「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された数編の論文内容をまとめてみます。

中等症〜重症のSASでは夜間に酸素吸入を行って低酸素状態を改善しても血圧低下は得られませんが、CPAPを行うことにより血圧は低下します。しかし血中脂質やインスリン抵抗性などの代謝指標を改善するにはCPAPだけでは不十分で、同時に体重を減らす必要があります。ただ、残念ながらSAS治療の最終目標ともいえる心血管病の予防については、一次予防(心血管病の初発を予防する)でも、二次予防(心血管病の再発を予防する)でも、はっきりとした効果は証明できていません。ですが複数の研究データの二次的な解析によって、その理由はおおよそ明らかになっています。それはやはり「経鼻マスクの装着時間不十分」だと考えられます。多くの研究では被験者が十分な効果を発揮するための必要ラインと考えられる「一晩あたり4時間以上の装着」をクリアできていないのです。このあたりがCPAPの解決すべき問題点なのでしょうね。

蛇足ながら・・・・・・私のSASは胃の手術を契機として、体重が大幅に減少してすっかり治ってしまいました。まあ、何か一つくらい良い事がないとね〜
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飲酒と喫煙は外見を老化させる!?

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可視性年齢関連徴候、すなわち“見た目の老化徴候”は生物学的年齢に相関し、これらの早期出現は“実年齢に比べて不健康な状態にある可能性”を示唆するという考えがあります。一方、飲酒や喫煙はさまざまな加齢にも関わる疾患のリスク・ファクター(RF)であることは周知の事実です。そこでデンマークの研究者のグループは、飲酒と喫煙が“見た目の老化徴候”と関連しているか否かについて検討して「疫学と地域健康誌」2017年12月号に発表しました。

この研究の対象はコペンハーゲン在住の111,613人で研究期間は1976〜2003年、この間飲酒・喫煙の状況やその他のライフスタイルについての聞き取りを行ない、加えて“4大加齢関連徴候”を調査しています。なお週当たりの平均飲酒量は女性でグラス2.6杯、男性で11.4杯、喫煙者の割合は女性57%、男性67%でした。別の大規模疫学研究のデータを用いているので調査年代が少し古く、喫煙率は今と比べてずいぶん高めになっています。

さて、この研究で調査された“4大老化徴候”とは@角膜環(黒眼と白眼の境目にできる灰白色のリング状のゾーン、A眼瞼黄色腫(上まぶたにできる黄色の結節)、B耳たぶの深いヒダ(耳たぶの後下方に走るヒダ)〜「フランク徴候」ともいいます。@〜B、思わず鏡をみてしまいそうでしょう?C男性型禿頭〜英語ではmale pattern baldnessというのだけど、androgenetic alopeciaという言い方もあって略称AGA、こちらの方はテレビのコマーシャルで耳にしたことがあるかも・・・・・・

では、これら4徴候がRFとしてそれぞれどのように評価されているかということについてですが、@角膜輪は、男性の心臓血管病において他のRFとは独立したRFとする報告があります(米国眼科学会誌2017)。Aの眼瞼黄色腫は高脂血症、とくに高コレステロール血症との関連がよく知られているのですが、脂質異常のない人にもしばしば見られるので、健診などで脂質測定が広く行われている日本ではRFとしての価値はそれほど高くはありません。Bの耳たぶのヒダについては、脳血管障害で入院した患者さんで検討すると、一過性脳虚血より脳梗塞において、より多く見られたとする報告があります(米国内科学会誌2017)。Cの男性型禿頭については早期に始まる人では脳血管疾患やメタボリック・シンドロームのリスクが高いとのことです(ブラッド・プレッシャー誌2016)。しかし男性型禿頭は欧米人のみならず日本人でも若くてもざらにあるし、他の老化徴候とはちょっと違うような・・・・・・いずれにしても@〜Cとも、多少の報告はあるけれども、それほど強いRFではありません。

さて、デンマークの研究に話を戻します。結論として、喫煙量が増えるに従って、@〜Bの徴候が出現するリスクは増大しました。飲酒量に関しては、大量飲酒者で@とBの出現リスクが増大していましたが、少量〜中等量の飲酒は影響しませんでした。要するに、喫煙と多量の飲酒は、見た目の老化徴候を起こしやすくなる可能性があるということです。とくに「角膜輪」と「耳たぶのヒダ」とは顔の老化を特徴づける代表的な徴候だから、「やっぱり幾つになっても若く見られた方が良いな〜」と思う人は、もしスモーカーなら禁煙して、お酒も控えめにしてくださいね。「それで絶対、見た目若々しくなるの!?」と言われても困りますけど・・・・・・「タバコも吸わないし、お酒も飲まないのだけど、どうしたら良いの?」とおっしゃる方、いや〜きっと周りの人たちは、あの人若いな〜と思っていますよ〜(ちょっと無責任になっているけど)

余談ながら、予想どおり喫煙・飲酒関連老化徴候としては相関に乏しかった「男性型禿頭」だけど、イタリアのグループが2017年8月に「国際皮膚科雑誌」に「過体重と喫煙量増加が組み合わさると男性型禿頭が悪化する」という研究報告を行っていました。こちらの方は、やはり老化というよりメタボリック・シンドロームとの関連の方が深そうです。

とりあえずは、若く見えたほうが良ければ、飲酒は控えめに!・・・・・・日本の基準では「多量飲酒者」というのは1日あたり純エタノール換算で60ml(ほぼ日本酒3合またはビール中瓶3本)以上とされているのですが、ちょっと甘すぎ・・・・・・せいぜい40mlまでが無難かな〜

結局のところ“年齢を経ても見た目若々しくあるには、禁煙してお酒も控えめに”というごく常識的な結論でした。あまりにも意外性がなさ過ぎる結論ではありますが、やはり「健康に王道なし」ということでしょうね。
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2017年01月01日

ヒトの寿命はどこまで延びるか?


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あけましておめでとうございます。本年も暇をもて余しているときなど、流し読みして頂けたら幸いです。

さて、2017年冒頭はヒトの寿命の話です。ヒトの平均寿命は19世紀後半から急速な延びをみせ、ここ30年でも10年くらい延びています。そのうちに地球規模で高齢化惑星の道をまっしぐら・・・・・・では“ヒトという種が届く最高寿命”は、果たして延びているのでしょうか?

そこで、昨年秋に話題になった論文とそれにまつわる論争を紹介します。2016年10月、米国アルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームが「ヒトの寿命には限界があるという根拠」と題する論文を「ネイチャー」に発表しました。この研究を英国のBBCが取り上げ、そのウェブ・サイトで専門家の異論・反論を集めた記事を掲載してちょっとした話題になったのです。

この論文の著者らは、長寿に関する国際的データベース「Human Mortality Database」の分析に加え日、米、英、仏の110歳以上の“超長寿者”の死亡記録を検討し、「最近100歳以降の寿命の延びは衰えつつあり、ヒトの最高寿命は1990年代以から延びていない。この結果はヒトの寿命には限界があることを示す」と結論付けました。私は「そりゃ、そうだよな〜」と思うのですが、この論文が、「老化のメカニズムを明らかにし、そのコントロールを目指す研究者をコケにしている!」と捉えて熱くなった人もいるようで・・・・・・

著者の一人はBBCのイタビューで、こう述べています。「希有な例外があるとしても、ヒト寿命の上限は115歳くらいだろう。125歳のヒトに出会うには、地球が1万個必要だ」・・・・・・これに対してドイツのMax Plank人口研究所のボウペル教授は「茶番だ(怒)!ヒトの寿命の限界の話は聞き飽きた(怒)!科学的根拠ではなくて、ただ彼らの“直観”(原文”gut feelings”・・・・・・“直観”ならぬ“腸感”ですね)で論文書いているに過ぎない(怒)!」……ちょっと興奮気味です。

一方、冷静に結果を受け止めているのは米国イリノイ大学のオルシャンスキー教授で、「マウスは1,000日、イヌは5,000日、ヒトの命も自然が定めた限界に近づきつつある」と述べています。そうするとヒトは平均30,000日、MAX40,000日・・・・・・それでも日本の中世に成立したとされる幸若舞の「敦盛」では「人間五十年、下天の内をくらぶれば・・・・・・」ですから約18,000 日、確かに十分延びてはいるのですが。

動物種の寿命に最も影響を与える因子として、飢餓、疾病そして天敵を挙げることができます。ヒトでは飢餓は貧困や戦乱と一緒に考える必要がありそうですね。またヒトの天敵は強いて言えばヒト自身かも……疾病については、かつてはさまざまな原因による乳児死亡や感染症(疫病)が大敵だったのですが、現代のいわゆる先進国社会では、心血管病、がん、認知症が最も大きな問題となりつつあるのはご存じのとおりです。

しかしこれらはあくまで平均寿命の話です。一方、最大寿命は、おそらくは老化という観点からヒトで最も恵まれた遺伝子背景を持つ個体の最長不倒距離を示しているのでしょう。正確な戸籍に裏付けられた世界最高齢記録は122歳まで生きたフランス人のジャンヌ・カルマンさん(1875-1997)ですが、彼女はエッフェル塔が建つ前に生まれて、かのフィンセント・ファン・ゴッホにも出会ったそうです。日本でも、徳川家康のブレインであった天海僧正は108歳まで生きたという説も・・・・・・まあ、これは眉唾ですが、世界のあちこちに歴史に名を残す超長寿者の逸話があることもまた事実です。とすれば、古から超長寿者が存在した可能性は高く、ヒトの最高寿命は意外に延びていないのかも・・・・・・

結局のところ、最高寿命延伸への挑戦の成否は、“老化のコントロール”にかかっています。この分野で優れた成果をあげているメイヨー・クリニック医科大学のグループの研究によれば、ある臓器で“老化ストレス”によって機能低下あるいは成長が停止した細胞がしだいに出現・増加してくると、ついに臓器の機能全体が低下する。従って老化が生じた細胞を除去すれは臓器の機能低下の阻止あるいは遅延につながり、ひいては寿命の延長が可能となるかも知れない、ということです。寿命限界のブレイク・スルーがあるとすれば、やはりこのあたりかな〜

しかし同時に寿命の延長に伴う細胞のがん化を阻止する遺伝子操作技術も必要だし、認知症の有効な治療法も必須だし・・・・・・おまけに食料、仕事、年金、介護・・・・・・なんて現実的なことを考え出すと、夢はしぼみますね〜生物学的に成功したとしても,社会学的には到底もたないもの。

さて、人類は寿命の秘密を解き明かすことができるのでしょうか……でも人類の寿命はさておき、やっぱり自分の寿命の方が重要な問題だろうな〜
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