2017年02月15日

夜の光が肥満のもとに・・・・・・

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“夜の闇を照らす灯が近代を開いた・・・”なんて、ちょっと名言っぽくないですか?私が「灯」と聞いて想い出すのが映画「Gaslight」・・・・・・1944年の映画だけど、イングリッド・バーグマンとシャルル・ポワイエのサスペンスの古典、雰囲気あったなあ・・・・・・とにもかくにも、灯がこの世に生まれて百数十年、「灯は世界を変えた」のは間違いありません。

でも灯のもたらしたものは、必ずしも良いことばかりではなさそうです。現代社会の大きな健康問題である肥満、この一因が「夜間の環境光への曝露」であるという研究があります。今回紹介するのは奈良県立医大のグループが100年の歴史をもつ海外名門専門誌「臨床内分泌・代謝学雑誌」に昨年7月に発表した論文です。研究の名称は「HEIJO-KYO Cohort」さすが古都奈良、「平城京 コホート」とは考えましたね・・・・・・対象は60歳以上の地域住民1,127人(平均年齢71.9±7.1歳)で、うち766人は平均21ヶ月間経過も観察しています。検討したのは環境での光に対する曝露とウエスト・身長比(WHtR)とBMIとの関連です。

ご承知のようにBMIは体重(kg)/身長(m)×身長(m)ですが、WHtRも有力な痩せ・肥満の指標です。ウエスト/身長ですのでBMIのように計算器もいらないですね。それに日本のメタボ健診の腹囲とは異なり、身長の要因が加味されているので、ある意味公平感があります。健常範囲は男性で0.43〜0.53、女性で0.42〜0.49くらいとされていますが、おおむね0.5以上は過体重とみなすことができます。WHtRはとくに高年者において、肥満のみならず心血管病の予測因子として優れているとする報告があります。

さて、平城京コホート研究の結果ですが、光に対する曝露とWHtRの増加との間には、カロリー摂取、運動量、睡眠状況とは独立した相関関係があることが分かりました。すなわち夜間や夕方でたくさん光を浴びるとWHtRは増加し、朝に500ルクス以上の光を長く浴びる、あるいは夜に3ルクス未満の光環境で長く過ごすとWHtRは低下します。これらの結果は指標にBMIを用いてもほぼ同様でした。夜間に平均3ルクスの光に曝露している人は、3ルクス未満の人に比べて10年間でWHtRが10.2%、BMIでは10.0%増加したそうです。

地球の生命は、その原始から太陽の光によって育まれて来ました。そのため、ありとあらゆる生物は、何億年の進化の過程で太陽光照射のリズムによって形作られた“体内時計によるサーカディアン・リズム”をその体内に発達させて、生命活動・エネルギー消費などを調節するようになりました。体内時計の中枢はヒトでは脳の視床下部の視交叉上核に存在することが分かっています。

体内時計は複数の“時計遺伝子”によって発現される機能です。時計遺伝子は体内のすべての細胞が持っていますが、“親時計”は視床下部にあって、すべての細胞の時計遺伝子を調節しているとされています。体内時計は朝に光を浴びるとリセットされるのですが、日中に浴びる光量の減少や夕方から夜間に浴びる光量の増加が体内時計のリズムに干渉し、脂質・糖代謝などに影響して肥満を引き起こす可能性が指摘されています。

地球生命体のもっとも自然な姿は、「日の出とともに活動し、日の入りとともに休息する」であることは間違いないのでしょうが、さすがに現代では、これは無理がありますね。でも確かに現状は、あまりにも自然のリズムとはかけ離れています。何しろ昼間はほとんどの人が屋内で過ごし、夜には光が満ちあふれていますから。健常な体内リズムを維持するのは難しく、それが肥満に結びつくというのも仕方ないかも・・・・・・さらにもうひとつ具合の悪いことがあります。最近“大増殖中”のLED照明ですが、とりわけ社会でもっとも有用とされる“青色LED”が、体内時計にはもっとも有害だということです・・・・・・

いずれにしても、“溢れる何百万個のLEDの輝き、華麗なるイルミネーション”は、少なくとも肥満対策の面からはお勧めできません。また、「早寝、早起き」は生理学的、内分泌学的観点からも全く正しいと言えます。夜になったら、電気を消して早めにお休みください。肥満対策、資源節約、電気代節約まさに一石三鳥の秘策!!たまには役に立つことも書かないとね〜

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2017年02月01日

菜食主義でがんリスクは減少するか?!


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2015年12月1日付けのブログ「ハム・ソーセージ にはタバコ・アスベストと同等の発癌性?!」で国際がん研究機関(IARC)が加工肉と赤身肉のがんリスクについての警鐘を鳴らして一悶着あった、という話を紹介しました。もめた原因は、やはりIARCの直球過ぎる表現でした・・・・・・

一般に「○○が悪者だ!」と主張するとどうしても議論は沸騰しがちです。では「○○は善玉か否か?」と表現すれば意外に冷静な議論もできるかも・・・・・・ということで「肉を食べるとがんリスクが上がるか?」という疑問の裏返しで、「肉を食べない人はがんリスクが下がるか?」という問題を考えてみたいと思います。

上記「肉を食べない人・・・・・・」という設問は、「いくつかのがんにおいて菜食主義(ベジタリアン)は、非菜食主義者に比べてがんのリスクは低いか?」という問いに立て直すことができます。この問いにマッチした研究成果が昨年の10月に英国栄養士会のオフィシャル・ジャーナルにイタリアのグループから発表されました。

研究結果を紹介する前に、少し「ベジタリアン」についての説明が要りそうです。私もよく知らなかったのですが、ベジタリアンはいくつかに分かれていて、けっこう複雑です。もっとも先鋭なのは「ヴィーガン」で、すべての動物性食品を摂らないし、食のみならず動物由来の衣類も身につけない、というものです。こうなると食事嗜好というより思想ですね。

単に「ベジタリアン」と言えば、動物性食品を摂らない、ということになりますが、動物肉は避けるが月に2回くらいはOKで卵・乳製品も可という「セミ(半菜食)・ベジタリアン」、獣肉・鳥肉と加工魚製品はだめだけど野菜と魚はOKという「ペスコ(魚菜食)・ベジタリアン」、肉・魚は摂らないが卵・乳製品は摂るという「ラクト・オボ・ベジタリアン」などさまざまな人たちがいます。食事と健康問題を考える場合、どの範疇の菜食主義かを明らかにする必要がありそうです。

イタリアのグループの研究に話を戻しますと、この著者らは乳癌、大腸がん、前立腺癌のリスクについて、菜食主義者・半菜食主義者・魚菜食主義者と非菜食主義者を比較した研究をデータベースから9件抽出し、データを合算して解析を行っています。対象者総計は686,629人で、この中から乳癌が3,441人、大腸がんが4,062人、前立腺癌が1,935発生していました。解析の結果、菜食主義者では非菜食主義者に比較して乳癌・大腸がん・前立腺癌のリスク低下は認められませんでした。ただ半菜食主義者・魚菜食主義者の食事と大腸がんのリスク低下との関連性はあったようですが……

やや拍子抜けの結果でしたので、少し観察規模は小さくなりますが、他の研究も探してみました。2016年にオランダのグループが「欧州臨床栄養学会誌」に報告した研究(対象11,082人、観察期間20.3年間)によると、菜食主義者、魚菜食主義者、週1日肉を食べる人、いずれも肺がん、閉経後乳がん、前立腺がんのリスク低下はみられませんでした。また米国のグループが2016年に英国栄養学会誌に発表した乳がんについての研究(対象96,001人、5年間)によると、菜食主義者(さまざまな種類を含みます)は全体でみると非菜食主義者に比べて乳がんリスクの低下はみられないけれど、“もっとも先鋭な”「ヴィーガン」はリスク低下の傾向があるかも(有意差はありませんでしたが)・・・・・・ということでした。

「菜食主義の食事とそれが健康に与える影響」という分野はまだまだデータ不足なのですけど、現時点では、IARCが主張するように赤身肉消費の増加が、がんリスク増加に結びつくのが仮に事実であったとしても、直ちに菜食主義でがんリスクが低下するわけではなさそうです。ただ当然のことながら、食事は何もがんリスクだけに関係しているわけではありません。例えば日本の研究グループによると菜食主義は血圧低下をもたらす(米国医師会雑誌・内科学2014)ようですが、一方では菜食主義は骨粗しょう症と骨折のリスクを高めるとする報告(米国臨床栄養学会誌2014)もあります。

とすると・・・・・・やはり野菜も肉も魚も、そして果物もバランス良く摂取・・・・・・というのが無難なところですね。「そんなことは専門の論文を読むまでもなく、分かりきったことじゃないの?!」と感じる方もたくさんおられるかと思いますが・・・・・・まっ、研究とはそういうものです。そんな中にも、たまには“当たり”が出ることあるからね〜“大当たり”は出たことないけどね・・・・・・

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コーヒー摂取量と健康、結論はいかに?!


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2015年6月15日付のこのブログで、日本初のコーヒー摂取量と健康についての研究を紹介したのですが、その後もコーヒー摂取量と健康に関する研究論文は多数出版され、その益や害に関する意見もさまざま・・・・・・そこでより正確な結論を得るために、複数の論文のデータを統合して解析する「メタ解析」あるいは「システマティク・レビュー」という手法をとった論文も続々出版されるようになりました。「では、その更に上を行く研究を・・・・・・」となれば複数の「メタ解析」・「システマティク・レビュー」を統合した研究手法があります。これを「アンブレラ・レビュー」といいます。イメージとしては“傘解析”・・・・・・今回はコーヒーと健康に関するアンブレラ・レビュー(英国医師会雑誌2017年11月号)を紹介します。

コーヒーは世界で最も愛飲されている飲物のひとつです。ですからコーヒーが健康に何らかのインパクトを与えるのなら、たとえ個人にとっての影響はわずかでも、世界中で積算される影響は“計り知れない”とも言えます。より深い科学的検討と洞察が望まれるところですが、これは簡単ではありません。なにしろ焙煎したコーヒーに含まれる生理活性物質は何と1,000種類を超え(欧州食品研究技術誌オンライン 2014年10月)、そのいくつかの成分は抗酸化作用、抗炎症作用、抗線維化作用(線維化とは組織の炎症後などに線維芽細胞が増殖して組織が硬くなり機能障害に陥ること〜例えば肝炎後の肝硬変症など)、そして抗がん作用を持つことが知られています。

コーヒーの生理活性物質のうち、その核となるものがいくつか同定されており、カフェイン、クロロゲン酸、ジテルペン、カフェストール、カーウェオールなどが代表的成分で、それらの作用も詳細に分析されています(食物機能誌 2014年8月)。そうは言っても、コーヒーは未焙煎の生豆の状態から焙煎されることによって“化学的変容”を遂げてさまざまな生理活性を示すと考えられています。その過程は複雑で、アラビカ豆かロブスタ豆かによっても違うし、焙煎から抽出に至る方法によっても影響を受けます。生理活性がある限りは、その量によって益と害が生じる割合は異なってくると想像されますが、一定の結論を得るには、大量の文献情報をまとめて解析するしか手はありません。そこでこの「アンブレラ・レビュー」の出番ということになります。

この「アンブレラ・レビュー」の対象となった論文は201編の観察型研究と17編の介入型研究で合計76の知見が報告されていました。コーヒー摂取はおおむね益が害に勝っていて、摂取量は増えれば増えるほど、とはいえないのですが、1日3〜4杯くらいが最も益がでる可能性が高いという結論が得られました。“1日3〜4杯摂取群”と“コーヒーを全く飲まない群”とを比較すると、「すべての原因による死亡」におけるコーヒー摂取群のリスクは0.83(すなわち17%リスク減少)でした。また「心血管病による死亡」リスクは0.81、「心血管病罹患」リスクは0.85でした。がんについては「コーヒー摂取量が多い」と「少ない」群を比べると、摂取量が多い群で18%のリスク低下が認められました。その他にもコーヒー摂取はいくつかの特定のがん、パーキンソン病などの神経疾患、代謝疾患や肝疾患のリスク減少に関係しているという結果も得られました。コーヒー摂取の害については、多くの場合、喫煙という因子で補正すると影響は消失しました。

しかしコーヒーの多量摂取を絶対避けるべき状況があります。それは妊娠です。コーヒーの高容量摂取は低体重出生児や早産あるいは死産のリスクを20〜46%くらい高めるという結果が得られました。コーヒーの成分であるカフェインは妊娠中血中濃度が2倍になり、しかも胎盤を容易に通過することが知られています。おまけに胎児のカフェイン代謝活性は低いので、この結果は重要視すべきです。親しい方に対象の方がおられるなら、頭の隅に留めておいてくださいね。またコーヒー摂取は女性においては骨折リスクを高める可能性があるのですが、男性ではこの傾向は認められず、むしろ逆に骨折リスクが低下します。この点については、もうちょっとデータの積み重ねが必要かと思われます。

さて結論は・・・・・・コーヒー摂取は、妊娠など特別な状況は別にして、健康には悪くはなさそうです。益もありそうです。コーヒー好きの方は引き続き安心して飲んで頂いて良さそうです。しかし女性の骨折リスクなどまだまだ未解決の問題もあるので、コーヒーを飲まない方が、今から飲み始める必要もないと思います。「時々飲むのだけど・・・・・・」という方は、ここはじっくり考えてみてくださいね。まっ、とりあえずコーヒーを1杯淹れて・・・・・・

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