2017年05月15日

末梢動脈疾患(PAD)/閉塞性動脈硬化症(ASO)とABI

片桐先生1.jpg

医学部では教養課程2年間、基礎医学2年間、そして5年次と6年次では附属病院で臨床医学を学ぶ、というのが従来からの基本カリキュラムでした。もっとも最近では医学系の単位を前倒しにする、一部の医学系講義を英語にする、臨床技能のトレーニングを4年次から始める、大学を離れて一般病院の臨床医に臨床実習の指導を受ける、などなど……さまざまな工夫が行われています。それでも大学教育では、第一線の現場とは若干遊離したことを教えることもあります。ある程度は仕方のないことだけど……

私が学生のときには、受け持ちの患者さんが入院してきたときには、必ず全身の触知可能な動脈はすべて触知して確認し、四肢の血圧をすべて測定して記録すること、と教えられました。大学の研修1年目ではそのとおりやっていて、2年目に市中病院にでたときには、同じ事をやっていたら先輩に「お前、何をしているんだ?!」と珍しい動物でも見るような目で見られて・・・・・・しばらくすると要領が良くなったのか、はたまた手抜きを学んだのか、必要と思われる患者さんだけに行うようになりました。これを成長というのか堕落というのかは微妙なところです。

末梢動脈疾患、英語の頭文字を並べて通称PAD、そのほとんどは動脈硬化によって生じる閉塞性動脈硬化症ASOとよばれる病気です。ASOは虚血性心疾患、脳血管疾患とならぶ三大動脈硬化性疾患で、高齢者の増加と高血圧、糖尿病、高脂血症の増加とともに有病率は高くなってきています。

ASOはやっかいな病気で、初期にはほとんど症状がありません。特徴的な「間欠性跛行」、すなわちしばらく歩いていると下肢の痛みで歩けなくなり、休憩するとまた歩けるようになる、という症状が出現した時には、既に相当進行しています。そのため以後の治療はけっこう難渋することになり、とことん進行すると壊疽になって下肢末端が腐って切断を余儀なくされる、ということにもなりかねません。またASOがある人は高率に(ほぼ全例と言っても過言ではありません)虚血性心疾患や頚動脈硬化も合併していて、生命予後も悪くなることが知られています。

そこでASOの早期発見が望まれるところですが、最近はABIという簡単・便利・無侵襲・比較的安価な検査が普及しています。ABIというのは「足関節/上腕血圧比」の略です。現在医療機関で使われているABI測定装置はなかなかのスグレモノでABIのみならず血圧脈波が伝搬する速度(PWV)も測定することができます。原理は簡単、足関節の血圧は上腕と比べると同じか、あるいは少し高いのが当たり前なのです。ですからもし足関節の方が低ければ、下肢の血流に問題がある可能性が極めて高い、ということになります。ABIの正常値は0.9〜1.3とされていて、0.9未満は臨床的に下肢動脈狭窄ありと判断され、値が低ければ低いほど重症ということになります。

しかしABIは高ければ高いほど良いのか、と言えばそうではありません。1.3を超える値もまた異常です。ASOの主要原因のひとつとして糖尿病があげられますが、糖尿病などでは動脈壁に石灰質が沈着し、動脈壁が硬くなりすぎて下肢血圧が異常に上昇する、という現象が起こることがあります。このような場合には上記PWVが早くなることや足趾血圧(足の指の血圧です。動脈壁の石灰化が起こりにくい場所です)/上腕血圧の比が下がっていることでABIの欠点を補完することができます。

ところでASOの特徴的な症状である「間欠性跛行」を呈する病気がもうひとつあります。それは「腰部脊柱管狭窄症」です。これも頻度の高い病気で、主として加齢によって腰部の脊柱管という脊髄神経の通路が狭くなって神経が圧迫される病気なのですが、ASOの間欠性跛行と症状は良く似ています。しかし症状の微妙な違いでどちらの間欠性跛行か見当をつけることは可能です。ASOの場合は、とにかく休息すれば、運動によって相対的に不足していた血流が行き渡るようになって症状は良くなりますが、腰部脊柱管狭窄症の場合には、安静のみならず、座って前屈みになって脊髄神経の圧迫をできるだけ軽減する姿勢をとらないと症状が改善しないことが多いのです。ASOは循環器科や心臓血管外科、腰部脊柱管狭窄症は整形外科で診てもらうことになります。

「最近、駅まで歩くときに、ついひと休みしたくなる……」「歩く会に行くと、みんな歩くのが速くてついていくのが大変……」なんて症状があったら初期のASOかも知れません。かかりつけ医の先生に相談してみてくださいね。



posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年05月01日

“肝機能”の評価のためのガイドライン


片桐先生2.jpg

今までに一回も肝機能を調べたことがない、という方はまずいないでしょうね。肝機能は赤血球や白血球数などを調べる検血と並んで血液検査の基本中の基本です。人間ドックはむろんのこと、職場の健診でも必ず含まれていますし、診療所を受診したときにも「ちょっと血液検査をしてみましょうか」となれば、たいてい肝機能も行われるので、最も身近な検査のひとつといえるでしょう。

しかし時代の移り変わりとともに肝臓病も徐々に変貌していますし、新しい知見も集積されてきています。時代にあったガイドラインが求められるところです。グローバルな視点からは“ウイルス肝炎の時代から脂肪肝炎の時代へ”なのですが、日本はB型肝炎、C型肝炎の蔓延地域だったので、今でもかなりの患者さん(ほぼ中高年以降の年代)がおられて、今も治療や公的補償への注意を喚起する広報が続けられています。

昨年末に米国消化器病学が「異常肝生化学(liver chemistries)の評価についてのガイドライン」を発表しました。“肝機能(liver function)”と言う言葉を用いていません。それどころか「肝機能という名称は不適切」としています。肝機能の多くは障害を受けた肝細胞から血中に漏れ出た酵素の量を計測していることを考えれば、“肝機能”というより“肝細胞障害の程度”をみているので、それを踏まえて表現すべきだ、ということです。“お説ごもっとも・・・・・・”ではあるのですが、とりあえず本稿では、使い慣れた“肝機能”でいきたいと思います。

肝機能の基本となる検査はAST(旧名はGOT)とALT(GPT)、それにALPです。
AST、ALTは最も有名な肝機能項目なのですが筋細胞障害でも上昇するので、ときに筋疾患を除外する必要があります。AST、ALTを比べるとALTがより肝臓に特異的なので、「肝細胞の障害があるか?」という問いに対してはALTの値をみれば、そこに答えがあります。なおALPは肝臓ではなく骨疾患を反映する場合もあるのですが、たいていは肝臓で合成される胆汁の産生・分泌に関わる胆道系細胞の障害を反映しています。アルコールとの関連が良く知られているγGTPにもALPと同様の意義がありますが、肝臓疾患への特異性はそれほど高いわけではありません。

さてこのガイドラインによればALTの上限は男性で29〜33、女性で19〜25で、これを超えると「肝細胞障害あり」と判定します。ではなぜここに線引き(少し幅はあるのですが)が可能なのかといえば、これ以上のレベルでは「肝臓病関連の死亡リスクが有意に上昇する」からです。そのため、肝機能異常はたとえわずかであっても、その原因を明らかし、とり除ける原因はとり除く、ということになります。

では、たまたま検査を受けて異常が見つかったとき、次に何をするかというお話をしたいと思います。急性肝障害、すなわち高熱、黄疸、全身倦怠が突然出現!!というパターンは即刻入院して精査・治療ということになりますので省略します。ただ経口感染する急性肝炎についてひとつだけ……このタイプは貝類などの摂取によるA型肝炎が有名なのだけど、E型肝炎というのもあります。この病気はアジア・アフリカ地域からの帰国者くらいしか発症しないだろうと思われていたのですが、日本にも土着のE型肝炎が存在することが明らかになっています。原因として多いのがブタ・イノシシ・シカの生肉、生レバー摂取・・・・・・変わった生獣肉はやめときましょうね。

肝機能異常がみつかったら、押さえておくべきは日本ではやはりB型、C型肝炎ウイルスです。HBs抗原、HCV抗体検査でスクリーニングできます。HCV抗体は既感染・治癒でも陽性になり得るのでウイルス遺伝子の検査(HCV-RNA)を行って確認します。過体重・肥満、糖尿病、高脂血症など生活習慣病がある場合には、脂肪肝のスクリーニングのための超音波検査が必要です。また、アルコールが肝臓障害を起こす危険域は女性で週にエタノール換算140g以上、男性で週に210g以上とされていますので、毎日ビール1本、または他のアルコール飲料で同等量以上飲んでいる人は、まずは禁酒して肝機能の推移をみるべきです。

またALTの上昇があって、自己免疫疾患(最もありふれた病気は女性に多い橋本病/甲状腺機能低下症です)を指摘されている場合や、原因不明のALP上昇がある場合には、それぞれ適切な自己抗体などの免疫学的検査が必要です。

一番覚えておいて頂きたいことは、処方薬、市販薬、健康補助食品、漢方薬、サプリメント、ハーブ類など、“薬あるいはその類似物、または健康のために摂取している食事以外のありとあらゆるもの”は肝臓障害を起こす可能性があるということです。“これだけは大丈夫”という例外はありません。もし肝臓の問題でどこかに受診されるときには、忘れないで服用歴を申告してくださいね。


posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記