2017年10月15日

運動に関する「マインドセット」が健康の鍵を握る・・・・・・

片桐先生1.jpg

現代社会では運動不足・身体不活動は深刻な健康問題と捉えられており、何と全世界の死亡の10分の1が運動不足で説明できるとされています。「運動不足・不活動性」という生活習慣が「非感染性疾患」(心血管疾患、がん、慢性肺疾患、糖尿病などの総称です)における主要な危険因子であることは疑いのないところです(ランセット誌2012)。

しかし現状をみると、2015年の米国での全国問診健康調査によれば成人の79%が運動の適正基準を満たしておらず、WHOの推計によれば2012年から2030年の間に全世界の非感染性疾患による死亡は、年間3,800万人から5,200万人にまで増加すると予測されています。この状況を改善するために、生活習慣としての運動を定着させることは、今や世界的急務といえます。ところが最近、“単に運動するだけでは、運動の効果が発揮されないのかも知れない”とする、ちょっと意外な研究がスタンフォード大学から発表されました。(米国心理学会誌 2017)。

では何が必要なのでしょうか。著者らは、「それは物の見方であり、考え方(パーセプションperception、あるいはマインドセットmindset)である」と説きます。彼らの研究は成人61,141人を対象に21年間追跡したものです。その結果は、「同年齢の人に比べて自分は運動不足だと考えている人」は「同年齢の人に比べて自分は活動的だと考えている人」に比べ、追跡期間中に死亡する可能性が71%高かった、というものでした。驚いたことに、“実際には人並みに運動を行っているにもかかわらず、自分は運動不足だと思っている人”も死亡率が高くなるというのです。

正直、「ほんと?!」と思わないではありませんが、著者らは「正しい生活態度」をとるとともに、その行動に対して「正しい見方・考え方」を兼ね備える必要があると主張しているのです。すなわち「自分は活動的だ」と自覚していなければ、運動の効果がキャンセルされてしまう可能性があるということになります。くどいようですが「ほんと?!」と言いたくなりますね。

しかしこの“物の見方・考え方”、確かに侮れないところがあります。最近、企業などでもこの「マインドセット」を会社運営、社員教育に取り入れているところも少なくないようです。それなりの効果を期待してのことでしょう。もっとも、こういう心理学系の手法をすぐにビジネスとして立ち上げて売り込む人達がいることを見るにつけ、「たくましいような、うさんくさいような」と思ってしまうのですが・・・・・・ですが「正しいことを行っている」と「正しいことを行っているという確信を持つ」とは異なる結果をもたらすという可能性は否定できません。例えば、自身が行っている運動習慣に対する自己評価(すなわち意識=脳における認識)が自律神経系を介して何らかの影響を身体レベルで発揮する・・・・・・あり得るかも知れない・・・・・・ただ、ここまで大きな差がでるのでるのかどうか・・・・・・ただしこの研究のレベルは一定水準を満たしていますのであながち無視するわけにはいきません。

“All it takes is faith and trust” 「信じること、ただそれだけが大事なのさ」・・・・・・1953年のデイズニー不朽のアニメ「ピーターパン」の中のセリフです。正直なところ、「またそんな甘っちょろいこと言って・・・・・・」と思わないではありませんでした。でもピーターパンは正しかったのかも知れません。きっと「自分と自分の行動、そして自分の未来を信じる」ということは、幸せに生きる必要条件なのでしょう。そのうえ健康で長生きできる一助になるのならば、言うことなし、です。それにね・・・・・・信じること、良きマインドセットを持つことはコスト・フリーですからね。万一効果がなかったとしても、あきらめもつく、というものです。

そこでひとつ提案があります。適度な運動を生活習慣にしている人は、毎日朝起きたら鏡に向かって、「私は、同世代の誰よりも健康に良い生活習慣を身につけている!だから健康な人生を送れる!」と自分に言い聞かせる、というのはどうでしょう?意外に良い方法かも知れませんよ。そのうち鏡も「世界で一番健康に良いことをしている人、それはあなたです!」と言ってくれるかも・・・・・・あっ、これは「ピーターパン」じゃなくて「白雪姫」でしたね!


posted by みみずく at 10:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年10月01日

運動は認知障害を防ぐのか?

片桐先生2.jpg
「超高齢化社会に到来で認知障害が急増!」という話は、最近耳にタコができるくらい聞かされます。厚生労働省の発表によると、65歳以上の4人に1人は認知症、またはその前段階である軽度認知障害であるとのことです。加齢によって、ある程度認知機能が衰えるのは致し方ないのですが、それが日常生活に支障を来すようになるのは、できれば勘弁して欲しいところです。体もさることながら、心の方もいつまでも健やかで生きることができたらな〜と誰しも願っているのではないでしょうか。

そうなると、もし認知障害のリスクを少しでも減らす方法があるのなら、是非やってみたいと思うのが人情です。米国人も同じように考えているようです。今年の6月22日、国立衛生研究所(NIH)と国立加齢研究所(NIA)のリクエストに応えて、全米科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が認知機能低下予防における現時点でのエビデンスに関する報告書をまとめあげました。対象になった認知障害予防のために介入は「認知機能トレーニング」「血圧管理」「運動」の三つです。実は、その他にも10種類の介入についても検討されたのですが、検討に値するようなまともなエビデンスがなく、事実上“予選落ち”となったようです。

さて三つの介入の効果についての総合評価は”encouraging although inconclusive”と表現されています。“決定的ではないが有望”“確証はないけど見込みあり”“期待しても良いけど、ひょっとしたら裏切られるかも”・・・・・・受け取り方は人それぞれでしょうけど、どちらかと言えば肯定的な表現ですね。今後、より洗練された臨床研究の結果を集積すれば、予防効果が明らかになることを期待させます。ただ「認知機能トレーニング」はさまざまな手法で行われているので、どのような方法論が最善か、ということをはっきりさせる必要がありそうです。「血圧管理」は認知障害予防作用があろうとなかろうと、脳血管障害など心血管病予防の観点から、ぜひとも行う必要があります。三番目の「運動」ですが、これは従来から多数の肯定的な研究結果が報告されていて、かなり有望との見方が多かったのですが・・・・・・

ところが時を同じくして、身も蓋もない論文が発表されました(英国医師会雑誌 2017)。この“空気を読まない論文”の著者たちはフランス・イギリス連合軍です(やっぱり仏・英か・・・・・・深い意味はないけど)。10,308人を対象として28年間フォローアップしたWhitehall Uという研究で、運動の強さ、費やした時間と認知機構の低下の関係を検討しています。この研究の結論を一言で言えば「運動には認知障害予防に有益な神経保護作用は全くない」でした。著者らはこう言います。“我々の検討によれば、認知症と診断される平均9年前から運動量が低下するので、「運動をしている人たちは認知症リスクが低い」とする研究は、単に原因と結果を取り違えているだけである・・・・・・”

この結果には、多くの専門家もがっかりしたのではないかと思います。書き方がけっこうキツいので、カチンときた人も少なくなかっただろうな〜でも、対象の数も十分だし、何しろ観察期間が長い・・・・・・無視するわけにはいきません。確かに「○○している人は認知症になりにくい」という言説は、実は「認知症になってない人は○○できる」ということを意味しているのではないか、という疑いは持ってしかるべきです。よく考えてみると「健常者」がまず「軽度認知障害」となり次に「認知症」に進行する、という図式は、“連続性変化”なので、健常者と軽度認知障害の間には「移行帯」があり、しかも臨床研究ではそれらの人たちは“健常者”と判断される可能性は高く、その期間に何らかの変化が生じている場合、解釈を誤る可能性は否定できません。そうなれば確かに“原因と結果を取り違える”危険性があります。

それでもね・・・・・・とくに運動を控えなければならない持病を持っていないのなら、運動を続けるべきだと思います。もしこの論文が正しいのならば、認知症の予防効果はないのかも知れないけど、運動がいつもどおりできるということは、まだ“認知障害の前段階に足を踏み入れていない可能性が高い”と言えないこともありません。とりあえず“束の間の安心”にはなるかも知れませんよ。この世の中には“永遠”なんてないのだから、とりあえず“束の間”で我慢しましょう・・・・・・

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記