2018年03月15日

ストレスは、がんのリスク因子か?!


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ストレスがさまざまな疾病に関与していることはよく知られていて、心血管病や糖尿病のリスク因子であるという疫学的研究がいくつか報告されています。しかしそのメカニズムについては明らかではなく、観察研究に頼らざるを得ないのが現状です。またストレスというのは自覚的なもので数値化が難しいし、おまけに個人を取り巻く環境の変化などで一定不変のものではないので、研究対象とするのは簡単ではありません。

「ストレスとがん」というのも重要な問題で、ちょっと考えると関係がありそうだな・・・・・・と思いますね。しかしこのテーマについて複数の研究報告がされているものの、その結果は一致しているとは言い難く、「ストレスとがん」の関係は、あるとも無いとも確かなことは言えない、というのが現状でした。しかし昨年10月に日本の共同研究グループが「サイエンティフィック・リポーツ誌」に発表した大規模研究の結果は、この問題の解決に寄与するものかも知れません。

研究を行ったのは、国立がん研究センター・社会と健康研究センター、国立循環器病研究センター、東京大学、それに全国10カ所の保健所です。調査対象となったのは1990年と1993年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の各保健所管内にお住まいの方でがんに罹患していなかった40〜69歳の101,708人(男性48,588人、女性53,120人)で、
アンケートで自覚的なストレス程度(ストレス・レベルは低・中・高の三段階に分けています)とその推移を調査し、同時にがんの罹患について2012年までフォローしています。

さて、結果ですが、追跡期間中に17,161人のがん罹患が確認され、おおまかに言えば、長期的にみたストレス・レベルが高いこと、そして男性であることが、がん罹患リスクを高めることが分かりました。とは言っても、調査開始時のストレス・レベルはあまり関係なく、あくまで高ストレス・レベルが持続すること、ストレス・レベルが時とともに高くなっていくこと、という状況が、がんリスクの上昇にとって重要な因子であるようです。

さて、がんリスク増加の程度ですが、この研究での比較検討の方法は、ストレス・レベル低の人を基準にして他のグループのリスクが増加しているか否かを検証しています。全がんでみると、ストレス中・高レベルで4〜6%、ずっとストレス高レベルが持続していると11%のリスク増加となっています。しかもがん腫によってかなり異なっていて、ストレスの影響が強いのは肝臓がん(33%リスク増)と前立腺がん(28%リスク増)です。前立腺がんでの罹患リスク増加が男性でのリスク増加に深く関わっていると思われます。また、食道・胃・大腸・直腸、肺、乳腺のがんとストレスの有意な関係は認められませんでした。

この研究はかなりスケールが大きく(対象人数が多く)、観察期間も長いところは評価できます。しかしあくまで観察研究ですので、結果から直ちに「ストレスが強いとがんのリスクが高まる!」とまでは言えません。リスクが増加するがん種としないがん種があるように見えますが、これも現時点であまり重要視しすぎるのもどうかと思います。

ただストレスが続くと自律神経系や免疫系に一定の影響が及ぶことは疑いがありません。そしてその影響はおそらく人体にとって益ではなく、害をもたらす可能性の方が高いと考えられます。事実がはっきりするのには、今後の研究の進展に待たねばなりませんが(医学や自然科学の研究の決まり文句です)、ストレスを軽減する・避けることはがん罹患のリスクを考えるうえで、益をもたらすことが期待できます。

すると別の問題が見えてきます。「私たちはいかにしてストレスを避けることができるか」です。これが簡単にできたら苦労はしないのだけれど・・・・・・趣味、スポーツなどなどの効果を力説する人も少なくないのですが、ほんとうのストレスを軽減するのは一筋縄ではいきません。だったらどうしたら・・・・・・なんてことを真剣に考えていたらもっとストレスが溜まりそう・・・・・・ここはやはり「無の境地に達して悟りを開いてストレスの本質を透徹する他無し」・・・・・・と言いたいところですが、この私、残念ながらそういう境地に達したことも悟ったこともございません。今世はどうも無理そうです。来世に期待するかな〜
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2018年03月01日

“雨の日は関節が痛む”という都市伝説

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「今日の調子はいかがですか?」「今日は良くありません。雨が降っているでしょう?私、雨が降るとだめなんですよ。」「やはり雨が降ると痛みますか・・・・・・それはつらいですね〜」「ほんと、私は天気には敏感なんですよ。雨が降る前から痛み出すので、天気予報の替わりになりますよ。気象庁の予報より良く当たります!」・・・・・・こういう会話を経験した医師は決して珍しくありません。今回は“痛みと天気”についてのお話です。

慢性の関節・運動器疾患を抱えている患者さんはとても多くて、加齢とともに増加します。一口に関節・運動器疾患と言っても、「慢性関節リウマチ」のような炎症性疾患や「変形性関節症」「変形性脊椎症」のような加齢による変性疾患、あるいは椎間板疾患のような構造上の異常によるものなど、原因はさまざまですが、その中には“天気が悪くなる、あるいは雨が降ると痛みがひどくなる”という方は少なくありません。私の患者さんでは「慢性関節リウマチ」の方にこの訴えが多かったように思います。

これは日本だけではなく、世界中でまことしやかに流布されている話です。患者さんのみならず、医師の中にも「そのとおりだ」と認識している人も少なくないと思います。私もどちらかと言えばそう思っていました。原因は不明ですが、湿度、温度変化、気圧変化などが細胞間相互作用に干渉して・・・・・・など、それこそ“まことしやか”な病態生理で説明する人も現れたりして・・・・・・根拠は定かではない多くの人が信じている、まさに医療版“都市伝説”の一つですね。

ではこの天気と痛みの関係、検討した研究がないのか、と言えばそうではありません。実際にいくつかの研究報告があるのですが、研究の規模も小さいし、はっきりした結果は得られていません。「まあ、人によってはそういうこともあり得る・・・・・・」という程度のものが多かったのです。もっとも、病気もいろいろだし、天気の変化も細分化すればいろいろです。結果の解釈はそれほど簡単ではなさそうです。だったら、ものすごい数の患者さんで検討したらどうでしょう。患者さんや天気の変化の多様性も薄められて、真相にたどり着けるかも知れません。

そこで昨年12月英国医師会雑誌に掲載された米国のグループによる論文です。対象は米国の高齢者保険に加入している65歳以上の外来患者さん、その数なんと1,552,847人、この人達が2008年〜2012年の間の総受診回数、なんと11,673,392回・・・・・・こりゃちょっとすごい数です。このデータは保険給付支払請求に基づくものですが、これと米国気象庁のデータをつきあわせています。そして関節痛と腰背部痛で受診した人の割合を、雨の日とそうでない日を同じエリアで比較する、という方法です。基礎疾患は慢性関節リウマチ、変形性関節症、脊椎症、椎間板疾患、とその他の非外傷性疾患とさまざまです。もし雨と関節痛・腰背部痛が関係しているのならば、雨の日には、これらの症状による受診者の比率が増加していることが予測されます。

さて結果はどうだったかといえば、約1,170万回の受診のうち、雨の日の受診は18.0% でした。そして、やはり雨の日には関節痛、腰背部痛による受診者が統計学的に有意に増加していました。やっぱり!・・・・・・と言いたいところですが、その差の大きさはどれくらいだったかと言えば、補正なしの値で6.23% VS 6.42%、さまざまな因子で補正後の値で6.35% VS 6.39%、 わずか0.05~0.19%程度だったのです。
いくら統計学的に有意とはいえ、この程度の差ではとても臨床的に意味があるとは思えません。また1週間に何日雨が降ったか、という尺度で見ると有意差は消失し、これまでの報告で、最も雨に関係ある可能性が高いと考えられていた慢性関節リウマチにおいても有意差は認められませんでした。

結局のところ、痛みと天気(雨限定ではありますが)の関連は“都市伝説”のままで終わりそうです。想像するに、慢性の運動器の痛みがある人は、雨が降るとよけいにうっとうしくて、痛みの記憶が刻印されやすいのかも知れません。でもその差は人が感知できるとは思えないほどわずかなものだ、という可能性が高そうです。でもこの結果、「気象庁に勝つ!」と言っている患者さんは、絶対受入れないだろうな〜

私は基本的には批判的吟味を行った上での科学的根拠を信じています。現時点ではもっとも優れた方法論であると思っています。従ってこの研究の結果は真実を突いていると考えます・・・・・・それはともかく、最近ちょっと腰が痛くてね・・・・・・今日はいつもより痛いので、この分では明日は雨になるかもね〜


posted by みみずく at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記