2018年04月01日

体温が高いと死亡率が上がる!?

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「熱っぽくて、しんどいのですね?でも体温は36.3℃ですので熱はないようですね。」「先生、でも私、平熱が36℃ないのです。だから絶対!、微熱があると思います!!」・・・・・・確かに体温は、とくに病気にかかっていない状態では人それぞれです。では、体温の高低の違いにはどのような意味があるのでしょうか。昨年末の「英国医師会雑誌クリスマス特集」に掲載された米国ボストンのグループの研究結果はなかなか興味深いものでした。

研究方法は、ある大規模病院の外来患者35,488人を対象に243,560回の体温測定のデータと電子カルテの情報を解析するというものです。対象患者の平均年齢は52.9歳、うち64%が女性で、41%は非白人という構成です。体温が研究対象になっていますので、感染症病名がついた人や抗菌剤が処方された人は対象から除外されています。

結果は、平均体温は36.6℃でした。この論文では体温測定部位による違いについての記載もあるのですが、口腔温を基準にして(体温測定ではしばしば直腸温が最も正確とされるのですが、外来での測定にはちょっと無理があります)、腋窩測定では−0.26℃、鼓膜測定では−0.06℃、スマホアプリを使った側頭動脈測定では−0.03℃でした。また、体温に関係するいくつかの因子や状態も明らかになりました。年齢が高くなると体温は低下し(−0.021℃/10年)、人種ではアフリカ系米国人女性が最も高値でした(白人男性に比べて+0.052℃)。

もちろんいくつかの病気と体温の関係も示されました。よく知られたことなのですが、基礎代謝が低下する甲状腺機能低下症ではやはり体温が低いことが確認されました(−0.013℃)。また、がんでは0.020℃体温が高くなり、肥満の指標となるBMI(身長m/体重kg2)と体温との関係をみると1m/kg2あたり0.002高くなる、という結果でした。しかしこれらの因子を合算しても、それらの体温に対する影響はわずか8.2%にとどまりました。

では体温の高低と最も関連していたのは何だったのでしょうか。それは将来の死亡率だったのです。体温0.149℃の上昇は1年間の死亡リスク8.4%の上昇と関連していました。
実はこの結果、今までに発表された基礎的、疫学的研究結果を踏まえると、予想されたものでした。ただ実際の総合病院の患者さんから得られた“ビッグ・データ”で確認されたところに意義があります。

ではネットの世界では高体温はどう捉えられているのでしょうか。目につくのは、「体温を上げると免疫力がアップしてがんなどに罹りにくくなる!」という言説です。もう、ほんと、いい加減!真逆のことがまことしやかに流布されているのです。言いたい放題の世界ですね・・・・・・ちゃんとした科学的根拠の裏付けのない意見は、たとえ専門家・権威の意見であっても重んじるに値しない、というのが現代医学の常識です。また、たとえ論文の裏付けがあったとしても、意図的に自分の意見に合うものだけを引用する、というのもアウトです(これはメディアでもよく使われる手法です)ましてや非専門家の思いつき・体験談などは論外です。せいぜいBSテレビによく出てくる通販の宣伝程度の信頼度でしょうね。

・・・・・・と言いながらも、“権威でない論文マニア”である私の意見を・・・・・・潜在するがんや炎症が検査をくぐり抜けて診断には至らなかったけど、体温だけは少し上昇させていた、という説明は否定できないけど、ちょっと無理筋かなと思います。一方、高体温が代謝亢進にリンクしているとすれば、過剰なエネルギー燃焼は、やはり酸化ストレスの増加など、ある種のリスクに繋がる可能性はあります。代謝亢進を来すことで有名な病気に「甲状腺機能亢進症(バセドウ病またはグレーブス病)」があります。発汗、頻脈、高体温、甲状腺腫大を来たし、放置すれば最悪死に至る疾患です。血液検査で甲状腺ホルモンと下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンを測定すれば簡単に診断できます。ところが甲状腺ホルモン関連検査がすべて正常範囲にあっても、甲状腺ホルモンが“低めの健常人”は“高めの健常人”に比べて寿命が長いとする報告があります(「米国医師会雑誌・内科学2017年9月号」)。やはり代謝亢進や体温上昇は生物にとって負荷であり、寿命に対するリスクなのでしょうね。

というわけで、“体温が低い”ことは欠点ではなく優れた資質かも知れません。“being cool”は”being hot”より有利のようです。それに何に対しても活動的なのも良いのですが、アルカイック・スマイルを浮かべて静謐の中に生きる、というのも何だか“かっこいい(It’s so cool)”感じがしませんか?・・・・・・もう体温あげないように、じっとしておこうっと・・・・・・

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記