2018年08月15日

がんになると糖尿病に罹りやすくなる!?


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糖尿病は代表的な生活習慣病であり、患者数は数百万人を超えると言われています。糖尿病でみられる高血糖・高インスリン血症・インスリン抵抗性は網膜・腎臓・末梢神経に独特の「糖尿病性細血管障害」を引き起こすだけではなく、全身の動脈硬化病変の進展を加速し、心血管病や末梢動脈疾患のリスクを大きく高めることはよく知られています。一方、糖尿病は「がん」の危険因子でもあることが明らかにされています。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖尿病の患者さんはがんに罹りやすいことは、まず間違いないと考えられています。

では、逆にがんに罹ると糖尿病になりやすくなることはあるのでしょうか。最近、お隣韓国のグループこの問題について研究を発表しました(米国医師会雑誌・腫瘍学 2018年6月、オンライン版)。韓国では医療保険が一元化されていて、すべての外来・入院患者情報は国の機関が管理しているので正確な大規模データが得られますし、日本人と人種的にも近いので、参考にすべき点も多いと思うのです。

著者らはまず、データベースから、2003年から2013年の間で、調査の時点で糖尿病に罹患しておらず、がんの病歴もない20〜70歳の住民ピックアップし、その後のがんの発症と糖尿病発症リスク増加との関連を検討しています。対象となったのは住民494,189人(男女比1:1)で、平均7年間フォローアップしたところ15,130人ががんを発症し、26,610人が糖尿病を発症しました。結果を年齢・性別・がん発症前の糖尿病の危険因子などで補正して解析したところ、がんを発症すると、その後の糖尿病に罹患する危険度は、がんを発症していない人に比べて1.35倍高いことが分かりました(がん発症後の糖尿病発症率の実測値は患者1,000人あたり1年に17.4人)。すなわち“がんに罹ること”は糖尿病の独立した危険因子だったのです。


がんの部位別でみると、最もリスクが高くなるのは膵臓がんで約5.2倍、ついで腎がん、肝臓がんで約2倍、血液がん、乳がんで約1.6倍、胃がん、甲状腺がんで約1.3倍でした。
一方、子宮・卵巣がん、大腸がん、前立腺がんなどでは糖尿病発症のリスク増加はみられませんでした。がん発症後の年数でみると、がん発症後1〜2年以内が最も高くて約1.5倍だったのですが、少なくとも10年後までは糖尿病発症リスクは約1.1〜1.2倍程度高まったまま推移しました。

膵臓は糖尿に最も深くかかわるインスリンの産生臓器ですから膵臓がん発症後に糖尿病発症リスクが著しく高くなるのは当然かも知れないのですが……その他の部位のがんと糖尿病発症との関連を明快に説明することは簡単ではありません。しかしがんに罹患することによって生じるさまざまな内臓機能の変調や炎症・免疫システムの変化、あるいはさまざまな治療による生物学的ストレスの増加など、いずれもインスリン作用を阻害し、これらがその後の糖尿病発症に結びつく可能性は十分あります。そう考えると「がんに罹ること」が糖尿病の独立した危険因子であることは、それほど不思議なことではありません。

この研究を踏まえて、実践に生かせることがあるとすれば、ひとつは、がんに罹患して運良く長期生存ないし治癒が得られても、糖尿病を対象とした項目を含む検診を怠らないことです。できればがんの経過観察とともに、新たな病気にも目配りして頂けるような「かかりつけ医」を決めておくことをお勧めします。

もうひとつは、めでたく長期生存ないし治癒〜すなわち“がんサーバイバー”になったからと言って、「おれの人生観は変わった。せっかく勝ち取った残りの人生、うまいものをたらふく食って、思い切り酒飲んで……」という生き方は止めておく方が無難です。こういう方、実は少なくないのですよね〜まあ、気持ちは分からなくはないけど……「幸運を無駄使いすれば、すり減ってタダの運になる」という警句をご存じですか?えっ、知らない!?そうでしょうね〜今、思いついた警句ですから……でも自分では真実に近いと思っています。

Good luck, my friends!

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年08月01日

“うつ病の時代”〜薬剤誘発性抑うつ障害

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病気のことを、あまり単純化して説明するのはいかがなものか、とは思うのですが、うつ病という病気をあえて一言でいえば、「うつ病は心的エネルギーの低下である」となります。その中核となるのは“悲哀(メランコリー)”や“自己否定”の感情で、しばしば睡眠障害や食欲低下、頭痛・腰痛などの身体症状を伴い、身体症状のみが前面に出ることも稀ではありません(仮面うつ病)。また一見、“落ち込み”ではなく“不安・焦燥・興奮”などがめだつこともあります。「うつ病」「抑うつ障害」「気分調節障害」などさまざまな名で呼ばれ、その病型分類は複雑です。加えて最近は「新型うつ病」など、新たな概念や名称が提唱されたりして、よけいにややこしくなっています。

うつ病(いろいろなうつ状態をひっくるめていると考えて下さい)、いったいどれくらいの人が罹っているのでしょうか。以前は日本では一般人口の1〜2%と言われていました。しかし欧米では10〜20%以上という報告はざらにあります。日本も1〜2%どころではなく少なくとも5%程度はあると考えるのが自然です。すなわちうつ病はありふれた病気なのです。また、うつ病は本質的には治る病気です。軽症なら診察を受けるだけでもかなり改善しますし、中等症〜重症でも多くは投薬治療で改善します(すなわち脳内に生化学的変化が生じているのです)。とにかく早めに専門医の診察を受けることが大事で、これによりうつ病の最悪の転帰である自殺企図のリスクを最少化できます。

また、私たちの年代では、うつ病を違った観点から考える必要があります。“持病”と“薬剤”の影響です。たとえばがんや糖尿病などの病気に罹患しているとうつ病を発症する確率はかなり上昇し、欧米人並に20%以上となるという意見もあります。もうひとつの問題は薬の服用で起こり得る“薬剤誘発性抑うつ状態”です。どんな薬がうつ病を起こすのかについては、「ほとんどの薬でその可能性がある。しかし頻度は不明(実際、副作用リストにもそう記載されます)」と言わざるを得ません。

“うつ状態を起こし得る薬剤”の横綱格は、多種多様の炎症・免疫疾患などに処方される「副腎ホルモン剤」、それにウイルス肝炎治療に効果を発揮する注射剤の「インターフェロン」です。後者については、最近優れた経口抗ウイルス剤がでてきたので、使用機会はめっきり減りましたが……このふたつの薬剤なら投与された人の数%くらいに確実にうつ病の症状が現れます。次に多いのはおそらくは降圧剤です。多くの種類の降圧剤でうつが生じることが報告されています。頻度はそう高くはないと推測されますが、何しろ使用頻度が高く、もともと一般人口の約5%がうつ病に罹患しているので、個々のケースで薬剤が原因であると特定することは容易ではありません。また降圧剤以外にも、頻用される抗潰瘍剤、頭痛薬、心臓病薬など、うつ病を引き起こすポテンシャルを持つ薬剤は枚挙にいとまがありません

また、高齢になればなるほど、複数の病気を抱えることが多くなってきます。ということは複数の薬剤が処方され、何種類も服用する〜これを“ポリファーマシー”といいます〜機会が増えることになります。では、この現象はどれくらいうつ病のリスクを高めるのでしょうか。

この問題に関連して、最近米国イリノイ大学シカゴ校のグループが米国医師会雑誌6月号に論文を発表しました。著者らは18歳以上の米国人26,192人(平均年齢46.2歳、男性49%・女性51%、うつ病罹患7.6%)を対象に2005年から2014年までの10年間、「可能性がある有害事象として“うつ”が記載されている薬剤」の処方歴と、実際にうつ病と共存しているか否かを解析しています。なお、市販薬の抗うつ剤を使用している人(米国では抗うつ剤が市販されていて診察なしで購入可能とのこと。常用者はなんと数千万人!?)、既に抗うつ剤で治療を受けている人、降圧剤で治療を受けている高血圧症患者は対象から除外されています。

さて結果ですが、副作用として“うつ”記載がある薬剤の使用者は、ここ10年で35%から38.4%に上昇しており、これらの薬剤を3種類以上同時に服用している人は6.9%から9.5%に増加していました。また、観察期間中にうつ”の症状が現れたのは、これらの薬剤3種類以上同時服用者では15%、これらの薬剤を全く服用していなかった人では4.7%でした。やはり“ポリファーマシー”には一定のリスクがありそうです。

ありふれた薬剤服用中に、ありふれた病気の症状がでてくる……その関連性の有無を検証することは簡単ではありませんが、たいていの薬剤はネットで副作用の詳しい情報を得ることができます(処方薬をもらう薬局で薬剤師さんが副作用の概略は説明してくれるのですが、稀なものも含め、すべての可能性のある副作用に言及するのは無理だと思います)。

「このところ気持ちがネガティブになってしまう、体のだるさや食欲不振がとれない……
昔はこんな自分じゃなかった……」なんて思うときには、「薬剤惹起性うつ!?」ということもあるので、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。

「役に立つクスリ、でもときどきリスク」ということもまた、現代のありふれた情景なのです。



posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記