2018年10月01日

静かに蔓延しつつある慢性腎臓病(CKD)

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腎臓は「後腹膜(腹腔の背中側、脊椎の両脇)」に左右1対で存在し、ヒトの体液環境の恒常性維持という役割を担っています。すなわち、@腎臓は人体の水とナトリウム(塩分)の排泄を調節することにより、血液の浸透圧と水分量を一定に保ち、Aナトリウムのみならずカリウムなどのさまざまな「電解質」も適正範囲に維持しています。また、B体内で生じた代謝老廃物を排泄し、C血液における酸塩基平衡を調節しています(血液のpHを一定に保つ働き)。これらの機能を果たすために、腎臓は1日に流入する150Lほどの血液を「腎糸球体」に存在する「ネフロン」という“濾過器”で濾過することにより、必要な成分は再吸収しつつ、流入血液量の百分の一量ほどの尿を作り、それを媒体として老廃物を体外に排泄します。その他の重要な機能としてはD赤血球造血を調節する「エリスロポエチン」というホルモンを産生・分泌しています。このような多彩な機能をもつ腎臓の病気で重要なのは、その原因や病態というよりも“腎機能障害の程度”です。

腎臓の機能は左右合計して約200万個ある「ネフロン」という “濾過器の数”に依存しています。腎臓の機能障害には、さまざまな原因で数時間〜数日のうちに進展する「急性腎機能障害」と“深く静かに発症して長い経過をとる”「慢性腎機能障害」がありますが、健康問題として注意を喚起すべきは後者です。急性なら原因を除去できれば完全に回復することも期待できますが、慢性腎機能障害の場合は、知らないうちにある程度まで腎臓機能が低下すれば、もはや回復は困難となり、腎機能は進行性に低下して「腎不全」に至ります。腎不全がとことん進行すれば、生命を維持するために人工透析(または腎移植)が必要となります。

現在、慢性の経過をたどる腎機能障害の原因としては糖尿病が最も多く、その他高血圧症、糸球体腎炎などが主なものですが、これらを一括して「慢性腎臓病(CKD)」とよんで、早期に発見して腎機能保護を図り、できるだけ腎機能低下の速度を遅くして、最終段階である透析導入を可能な限り遅らせる、という試みが世界中で進められています。CKDを放置すれば透析のリスクが大きくなるのは当然ですが、透析導入前の状態でも心血管疾患や感染症などの罹患率が高くなることが知られています。すなわちCKDは他の重大な疾患の危険因子でもあるのです。しかもCKDはかなり進行するまでは、ほとんど自覚症状がなく気付きにくいという特徴があり、国内外の専門学会でその啓発に本腰をいれているところです。

CKDは、「一定以上の蛋白尿」(“−〜3+”のような定性検査ではなく、“○○mg/dl”のような定量検査での評価が必要です)または「一定以上の糸球体濾過量(上記ネフロンの実力を示します)の低下」が3ヶ月以上持続する状態、と定義されます。その頻度は学会の推計によれば全国で約1,300万人、なんと成人人口の13%に及ぶとされています。なお、今年の7月の国際腎臓病学会プレス・リリースによると、全世界のCKD患者は全人口の10~11%、約8億5千万人とのことです。また、日本人のネフロンの数は欧米人に比べると数が少なく、2/3くらいしかないという報告があり(米国臨床研究学会誌 2017年)、日本人は欧米人に比べてCKDになりやすい可能性があります。

CKDは放置できません。まず第一歩は自分の腎機能レベルを知ることです。そのためには、検診、人間ドック、あるいは診療所、病院で行った検査結果の中の「クレアチニン(Cr、CRNなどと記載してあるかも)」という項目を見て下さい。これは腎機能障害を判断する上で非常に有用性が高い検査です。たとえわずかでも正常範囲を超えていたら無視できませんし、たとえ正常範囲でも、上限に近い値なら油断できません。

次にクレアチニン値の近くに(すぐ下の欄が多いのですが)「推算GFR(eGFR)」という項目が書かれているかどうかを確認してください。もし記載がないなら、ネットで「eGFRの計算式」で検索すると必ずヒットしますので、性別・年齢・クレアチニン値を入力すると「eGFR」が分かります。「eGFR」は腎臓の実力を示す「糸球体濾過量」の推定値です。「eGFR」は「○○ml/分/1,73m2(体表面積1,73m2あたりの値))」という単位で表示されます。これが60未満ならばCKDの可能性があります。まあ、試験に例えたら60点未満で欠点というところです。該当する方は放置しないで、必ずかかりつけ医に相談して、追試(再検査やその他の腎疾患・腎機能関連検査)や指導(食事療法や合併する生活習慣病の治療など)を受けてください。腎臓病の管理は、「一に根気、二に根気、三、四も根気、五も根気」というのが特徴ですが、頑張って下さいね。



posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記