2019年04月15日

“帰ってきた水ぼうそう”〜高齢者の敵、帯状疱疹

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俗称“水ぼうそう”、正式名「水痘」はありふれた幼児・小児の感染症です。私たちの世代はみな罹ったことがあるのではないでしょうか。水痘はごく一部の不幸な例外を除くと、3週間もすれば治癒して、生涯二度と罹ることはありません。ただし運悪く成人で罹患すると重症化し易く、高度の免疫不全状態や高容量の副腎ホルモンや抗がん剤で治療中だと命に関わることもあります。

水痘を引き起こすウイルスは「ヘルペスウイルス3(1から8まであります)」、別名「水痘-帯状疱疹ウイルス」、英語の頭文字をとってVZVと呼ばれます。VZVの最大の特徴は、水痘に罹患して治癒してもVZVは体内から完全に排除されるわけではなく、生涯知覚神経細胞のなかに潜伏し、“隙があれば活性化して神経細胞を伝って皮膚で増殖しよう”と企てています。しかし、それを防ぐために人体には「免疫監視機構」が備わっていて、VZV特異的メモリー細胞(Tリンパ球に分類される白血球の一種)がVZVの再活性化を阻止すべく、絶えず“巡回・監視”しています。

VZVは潜伏していると言っても、“ウイルスDNAの尻尾”である「オープン・リーディング・フレーム」がコードする蛋白質を発現しているので、再活性化するとすぐ巡回・監視細胞に感知され押さえ込まれます。いわば“頭隠して尻隠さず”の状態なのです。

ところがある条件が整うと、VZVは再活性化するとともに免疫監視を突破し、神経細胞を経由し皮膚で増殖して皮疹形成と神経痛を特徴とする「帯状疱疹」という病気を引き起こします。その条件とは巡回・監視細胞の機能が低下するとき、すなわち“細胞免疫の低下”です。免疫不全を来す疾患、高容量副腎皮質ホルモン・免疫抑制剤・抗がん剤投与時などがその代表なのですが、最もありふれた細胞免疫低下を来す原因は実は「加齢」なのです。従って帯状疱疹は高齢者の疾患ということになります。

帯状疱疹で最初に起こる症状は体の片側の知覚神経分布に一致した(すなわち帯状に)神経痛あるいは異常知覚(痛みとは言えないまでも、ピリピリした不快な感覚)で、これが数日〜1週間ほど持続し、その後同部位にやや膨らんだ紅斑が出現、中に水疱が出来てきます。そして神経痛は悪化し、しばしば非常に強く痛みます。帯状疱疹が起こる場所は脊髄神経領域なら胸部、腹部(このあたりは気がつきやすいのですが)の他、大腿、臀部、顔面(三叉神経領域、目の症状があれば視力低下の危険があります!)、頭部など、どこでも出来ます。

神経痛だけがでているときには、帯状疱疹かどうかは分からないのだけど、皮疹がでたら、出来るだけ早く、遅くとも72時間以内に抗ウイルス剤による治療を開始する必要がありますので、直ちに受診して下さい。経験したことがないような神経痛や異常感覚を感じたら、しばらくは変な皮疹・水疱がでて来ないかどうか、その部位の皮膚を毎日確認してくださいね。

では帯状疱疹の高齢者における頻度はどれくらいなのでしょうか。米国デユーク大学の論文(「老年医療の臨床誌」エルゼビア出版 2016)と日本の釧路市の複数の病院・診療所による論文(日本皮膚科学会誌英語版 2016)とを比較してみると、欧米と日本で罹患率には大きな差はなく、欧米では65歳以上で10〜14人/1,000人・年、日本では60歳以上で10.2人/1,000人・年で、釧路グループのデータによると、罹患すれば平均5.7回の通院加療を要し、3.4%は入院加療が必要となりました。

帯状疱疹の最もやっかいな合併症は「帯状疱疹後神経痛」です。神経痛が皮疹軽快後も長期間持続(時には数年以上)し、しかも日常生活を脅かすような強い痛みも稀ではありません。この「帯状疱疹後神経痛」はやはり入院加療を要するような重症例に多く、外来患者の9.2%、入院患者の26.5%にみられたそうです。また、「帯状疱疹後神経痛」に発展するリスク因子として男性(2.5倍)、70〜74歳(3.5倍)、免疫抑制剤投与中(6.4倍)、初診時重症例(3.1倍)、上肢の皮疹(3.5倍VS上肢に皮疹なし)が挙げられました。

繰り返しますが、帯状疱疹の治療は、とにかく早期発見・早期治療、そしてもし神経痛が強かったら、早めに「ペイン・クリニック」の専門医を受診することが大事です。また、子供用の「水痘ワクチン」が成人の「帯状疱疹ワクチン」として認可されています。実は水痘ワクチンは、1974年に世界で初めて大阪大学微生物研究所で開発されたのですけど、そのわりには日本での普及が遅れていて・・・・・・

同期のみなさんの帯状疱疹罹患率を推定してみると、いちおう90歳まで生きるとして・・・・・・おそらく5〜6人に1人は罹患する計算になります。もう罹患したよ!とおっしゃる方、よほどの基礎疾患がなければ、たぶんもう心配いりません。まだ罹っていなくて痛いのは嫌という方、自費診療になりますがワクチン考えてみて下さいね。
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2019年04月01日

“禁断のお菓子”を遠ざける方法


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“禁断の果実(Forbidden fruit)”は、私のようなキリスト教信者でない人間でも知っている有名なエピソードです。出典は「旧約聖書」の「創世記」。曰く、エデンの園で暮らしていたアダムとエバが、悪魔の化身だった蛇に唆されて神様から禁じられていた“知恵の樹の実”を食べて楽園を追放される・・・・・・ジョン・ミルトンの叙事詩、「失楽園」ですね・・・・・・私は本屋で立ち読みしてすぐ止めたけど・・・・・・読破した方がおられたら尊敬するな〜でも原題の英語名「Paradise Lost」って、ちょっと素敵な響きがありますね。

では現代の“禁断の果実”とはいったい何でしょうか。もちろん合法的なものに限ってですけど・・・・・・病気を中心に考えると、やはり体に悪い食べ物の代表、肥満や糖尿病の最大の敵、つい手がでる美味しいお菓子もそうかも知れません。これら“禁断のお菓子”の悪影響については、広く周知されているはずなのですが、いざ目にすると、きっぱりと“買わないという選択”ができる人はそう多くはないでしょうね。

“国民の疾病回避・健康増進”という観点に立って、“健康的ではない食品をどのようにして避けるか”という問題を考えるとき、国民個人の努力や克己心だけに委ねていいのか、という議論があるのです(もちろん私自身も克己心に自信がない、ということは自信をもって言えます)・・・・・・すなわち食品提供者の方も何らかの努力と責任を果たすべきではないか、という意見があります。そこでひとつの例として、スーパー・マーケットの「レジ横の菓子類の陳列」が挙げられます。「今日は甘い物は厳禁、誰が何と言っても、絶対お菓子は買わないぞ!」という強い意志をもって買い物に来た人に、最後の最後でレジ横で“悪魔の勧誘”をするのは“エデンの園の蛇同然の所行”ではないか、という批判がありました。

そんな大袈裟な、と思う方もあるかも知れませんが、年々肥満の問題が大きくなりつつある英国では、2013年に大手スーパー9社のうち6社が「レジ横に菓子類(砂糖菓子、チョコレート、ポテトチップスなど)を置かない」との決定を実行しました(これを名付けて「チェックアウト・フード・ポリシー」と呼びます)。そこでケンブリッジ大学のグループは、これにより消費者行動にどのような変化が生じたかを検討を行ったのです(プロス・メディシン誌 2018年12月号)。

さてこの「チェックアウト・フード・ポリシー」の効果、なかなかどうしてたいしたものでした。購入食品をすべて記録している30,000家庭(きっちりした家庭もあるのですね〜)を対象とした2013〜2017の調査では、上記菓子類の購入(家庭へ持ち帰り分)は実施直後から17%減少し、1年後でも16%減少を維持していました。また持ち帰りせずに外で食べる食品の購入をすべて記録している7,500人(これまた、きっちりした人もいるのですね〜)を対象とした調査では、レジ横に菓子類を陳列している店と比べてみると、購入が何と76%も少なかったのです。やはりスーパーにおいて食品の陳列場所というのは購買意欲や購買欲求に大きな影響を及ぼしていることが分かりました。

こうなると、“国民の疾病回避・健康増進”のための新たな戦略が浮かび上がってきます。スーパーなどの食品販売者側の理解と協力を得て、健康に悪影響を及ぼす可能性が高い食品・菓子類をレジ横から一掃するのはもちろん、目に触れにくいところに移動してもらう、という対策です。販売者側も商売だから、そう簡単には納得できないとは思いますが、ここは国民の未来がかかっているのだから、せめて「レジ横陳列だけは」止めて欲しいものです。

もっとも、この“健康志向・菓子類のレジ横からの追放”が一大ムーブメントとなって全国に広がったらどうなるでしょうか・・・・・・私は予言します!・・・・・・日本中のスーパーのレジ横には、ありとあらゆる健康食品とサプリメントとが満ち溢れることでしょう!・・・・・・

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さて、このブログも掲載開始から早4年、今回が記念すべき100回目です。 
今まで読んで下さっている皆様、このHPとブログ記事掲載を管理して頂いている丸山登志子さんに厚く御礼申し上げます。

今後も同期の皆様、読者の皆様の健康維持に少しでもお役に立てるよう、また私自身の認知機能のセルフ・チェックのためにも続けていきたいと思っています。まっ、そんなこと言ったらすぐ終わってしまいそうなので・・・・・・実は市立豊中病院で週2回“病院長ブログ”を病院HPに連載していたのですが、100回達成!したとたんに病気になって、あえなく105回で終了・・・・・・教訓を生かし、意識せずに、あくまで一歩一歩、自然体で・・・・・・

ではまた。

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