
JPHC研究という日本の有名な「多目的コホート研究」があります。コホートとは、ある時点で研究対象とした病気にかかっていない人をたくさん集めて将来にわたって長期間観察を続けることにより、どのような要因がどのような病気の発生あるいは予防に関係するかを知る研究方法です。JPHCは国立がん研究センター、国立循環器病センターをはじめとする研究機関や大学、それに全国10の保健所が共同で多種多様なテーマについての研究を行っています。
今回紹介するのは、摂取する食品の数と死亡リスクとの関係を検討した研究で、
大妻女子大学の小林教授らを中心としたグループが欧州臨床栄養学雑誌(2019年5月号)に発表したものです。研究期間は1995〜2012年で、対象となった人は岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部と宮古、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、そして大阪府吹田の計10保健所管内に居住していて登録時点で虚血性心疾患、脳卒中、がんの既往がない79,940人(男性37,240人、女性42,664人:年齢45〜74歳)、平均観察期間は14.9年でした。
この研究では、133の食物・飲物(アルコールは含まない)品種をリストアップして、研究開始から5年目の時点で食事調査票アンケートを用いて調査しています。そしてこれら133品目について1日に何品目摂取したか、さらに魚・肉・野菜・果物・大豆製品については、それぞれについて何品目摂取したか、すなわち摂取食品の種類の多さ=“食事の多様性”とその後の全死亡、主要原因による死亡リスクとの関連を検討しています。
さて、結果ですが、男性と女性ではかなり異なっていました。摂取食品の数の多寡によって5段階のグループに分けて死亡リスクを比較すると、男性では摂取する食品目の数と、全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡、いずれとの間にも統計学的に意味のある相関はありませんでした。一方女性では、摂取する食品目が多いほど全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの有意な低下がみられました。品目が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて、全死亡率、循環器死亡率、その他の死亡率はそれぞれ19%、34%、24%低かったのです。
また食品ごとの多様性とリスクの関係をみると、男性では肉類を最も多品目摂取する人は全死亡リスクが有意に高く(35%)、果物を多品目摂取すればリスクは最大13%低下しました。また女性では大豆製品の品目が多ければ、全死亡リスクが11〜13%低下しました。
一般に「食事はできるだけ多くの食品目をバランス良く摂取するのが望ましい」ということになっています。これは日本のみならず諸外国でもそのように推奨されています。よく「1日目標30品目」といいますね。30品目をクリアするのは、なかなか大変じゃないかと思うのですけど、実際どれくらいの効果があるかについて、はっきり示した研究論文はなかったと思います。今回の研究はひとつの答えといえます。それに日本人が対象ですので、よけいに参考になるでしょうね。
そこで「多品目の食品を摂取することは、全死亡、循環器死亡、その他の死亡など、がん死亡以外のリスクを低下させる可能性がある」というのが、私の当面の結論です。この傾向が女性だけに現れ、男性では認められなかったことについて、著者らは(統計学的な補正操作は行ったようですけれど)「男性ではアルコール摂取量、喫煙者が女性より多かった」ことを原因に挙げています。あるいは“摂取食品目を増やすことによるリスク低下効果”はそれほど強いものではなく、“高リスクとなる良くない生活習慣”で打ち消される程度のものかも知れません。また、肉・果物・大豆製品などにおける“食品ごとの多様性とリスクの関係”については、まだ結論を下すには早いように思います。
考えてみれば、食事で食品目数を増やすことが健康に寄与することは容易に想像できます。そもそも品目を増やさないと“バランス”をとるのは難しいでしょうから。ただ多品目を食事に取り入れる=他品目の食品を購入する、ということですから、所帯あたりの人数が少ないと、不経済だし“食物ロス”にも繋がりかねない・・・・・ある意味、カロリー制限や運動の励行など個人の努力と意志で達成可能な対策に比べると、食品目数を増やすことには、“社会経済的な困難”があるかもしれません。
私の希望としては、高齢者都市住民を対象とした自宅調理、出来合のおかず購入、外食の割合とリスクの関連をぜひ研究してほしいと思うのです。そのほうがアーバン生活の実態を反映して・・・・・・待てよ、今から研究してもらっても、結果が論文になる頃にはもう・・・・・・やっぱりしてもらわなくても良いです。