2020年04月10日

特別増刊号−2  「COVID-19の薬」、「COVID-19と薬」


ついに緊急事態宣言が発令されました。大阪市内も不気味なほど人出が減っていますが、患者数は未だ増え続けています。日本は過去にインフルエンザのパンデミックは経験しているはずですが、このように街の風景が変わるのは、初めての経験ですね・・・・・・

前回のCOVID-19特別増刊号の記述を振り返ってみると、昨今の状況を見るに薬物療法の記述はちょっと愛想無かったかな〜と反省。もちろん、“COVID-19に確実に有効な薬”は未だ知られてはいないけど、さまざまな国で有効薬剤を探すべく、懸命の研究が進んでいます。そこで今回は多少なりとも明るい希望を探る視点で「COVID-19の薬」の現状を紹介し、併せて最近話題となった、普段よく服用している薬とCOVID-19との関連、すなわち「COVID-19と薬」についての情報について書いておきたいと思います。

これは想像なのですが、中国は2002のSARS、2012のMERSの経験から、再度の新型コロナウイルス感染症の発症をある程度予期し、それなりにシュミレーションもしてきたのではないかと思うのです。事実COVID-19の発症とともに、低酸素血症を来している入院患者199人を対象に、既にHIVの治療で実績のある抗ウイルス剤カレトラ錠(リトナビル/ロピナビル配合剤)の治験を遅滞なく行いました。その結果は3月18日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メデイシン誌に掲載されたのですが、カレトラ投与+標準治療群VS標準治療群で比較すると、カレトラ投与群で死亡率はわずかに低い傾向があったものの有意差はなく、臨床的改善や治療後のウイルス検出率にも差がなく、副作用はカレトラ投与群で多く、13.8%で投与中止となりました。このデータを見て、世界中の多くの専門家は、がっかりしたのではないでしょうか。もちろん「カレトラはもう、見込みなし」と判断するにはまだ早いのですが・・・・・・しかしCOVID-19の蔓延は止まることを知らずに拡大しつつあり、確実に効果がある薬・治療法の探求は急務です。

その期待される薬剤の中でも、安倍総理の口からよくでるのが新型・再興インフルエンザ治療薬のアビガン(ファビピラビル)です。まずは日本の期待の星、アビガンから・・・・・・

[アビガン(ファビピラビル)] 富山大学名誉教授・現千里金蘭大学副学長の白木公康先生が中心となって開発された抗インフルエンザ薬です。合成、製造はこの分野で高い技術力をもつ(株)富山化学(現富士フィルム富山化学)が担当しています。既に国内に相当量が備蓄はされていますが、日本では高病原性新型または再興型インフルエンザが発生し、国が認めたときにのみ投与可となります。今の流れでは、臨床試験で一定の効果がでたら速やかにCOVID-19でも認可されて投与が始まると思います。

アビガンはインフルエンザウイルスの遺伝子であるRNAが複製される過程で、RNA合成酵素が“偽の材料”としてアビガンを取り込むことにより、RNA合成が停止し、ウイルスの増殖を阻止します。動物実験モデルではタミフルが無効の“致死的実験系のマウス”をすべて救命できたと報告されています。また薬剤耐性が生じず、インフルエンザ以外にもエボラ出血熱ウイルス、ラッサ熱ウイルス、狂犬病ウイルス、ダニに媒介される重症発熱血小板減少症候群(SFTS)ウイルスなどの多くの致死的RNAウイルスに実験系や動物実験モデルで効果を発揮します(薬理学&治療薬 エルゼビア出版 2020 オンライン先行出版〜白木先生ご自身の著作論文です)。日本でも、もう臨床試験が始まっていると思います。

中国では既に2月14日にアビガンのジェネリック薬を用いた臨床試験が開始されています。アビガン投与群と対照群(カレトラ投与群のようです)併せて80名規模の臨床試験ですが、アビガンの効果はカレトラを上回り、問題となる副作用もなかったようです(青島大学の研究者による「ドラッグ・デイスカバリー & テラピューテイクス誌 2020」の総説による;実際の臨床試験の具体的な内容は中国語の記事にしか行き着けず検索断念)。白木公康先生ご自身もアビガンのCOVID-19に対する効果には自信を持っておられるようで、心強い限りです。結果の発表が待たれるところです。なお動物実験では催奇性があるので妊婦の方には投与できません。

[レムデシビル(4/29修正済)] 米国ギリアド社のエボラ出血熱治療薬です。この薬剤も4月には臨床試験開始とのことです。アビガンとよく似た部位でRNAウイルスの複製を抑制するので、多くのRNAウイルス感染症で効果が期待されています。ただ実際にコンゴでエボラ出血熱に対して投与された結果では、効果は抗体療法に劣っていたようで(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メデイシン誌 2019)、ちょっと心許ない気もしないではありません。

[ナファモスタット:先発商品名 フサン] この薬剤は既に長期間臨床の場で広く使われてきました。急性増悪状態の膵炎や播種性血管内凝固症候群とよばれる血液凝固異常に保険適応があり、安全性も確立しています。SARS-CoV-2がヒト細胞に感染する際には、ウイルス外膜とヒト細胞の細胞膜が融合することが必要なのですが、今年の3月東京大学医科学研究所はナファモスタットがこの過程を強力に阻害することを報告しました。この効果が臨床レベルで見られるのなら、COVID-19に対する強力な武器になるかも知れません。なお、同効薬に経口剤のカモスタット(先発商品名 フォイパン)というのがあるのですが、これも同様の抗ウイルス効果をもつことをドイツのグループが発表しているそうです。ただし血中濃度からみると、ナファモスタットの方がより期待できそうだけど。

[シクレソニド:商品名 オルベスコ−喘息用吸入ステロイド剤] 現在では吸入タイプのステロイド剤が気管支喘息の標準治療となっています。強力な抗炎症作用を持つステロイドは喘息の原因となる「気道の慢性炎症」を改善し、喘息を寛解に導きます。副作用も少ない優れた治療ですが、細菌・ウイルスなどによる感染症の悪化を来すことがあるので注意が必要、というのが今までの常識でした。ところがこの吸入薬がCOVID-19の重症肺障害に有効であったという報告(日本感染症学会HPで症例報告が閲覧できます)があり、一躍この薬剤が注目を集めました。確かに国立感染症研究所のコロナウイルス研究室はこの薬剤がSARS-CoV-2のRNAの複製を阻害すると報告していて、この薬剤の効果が単に気道炎症の抑制のみならずSARS-CoV-2に対する直接作用による可能性も示唆されています。また、市場にでている数多くの喘息様吸入ステロイド剤のうち、SARS-CoV-2への効果が証明されたのは今のところシクレソニドのみ、ということです。現在全国から症例を集積して臨床試験が進行中です。なお、COVID-19の肺障害に対するステロイドの全身投与の有効性は確認されていない、という意見が一般的です(ランセット誌 2020 on line )。

[クロロキン/ヒドロキシクロロキン] もともとは70年以上の歴史を持つマラリア治療薬ですが近年“免疫調節作用”も併せ持つことが明らかになり、自己免疫疾患などに投与されるようになってきました。日本でも全身性エリテマトーデスと皮膚エリテマトーデスに保険適応が認められました。ただこの薬剤、マラリアにも免疫疾患にも、どのようなメカニズムで効くのか分かっていません。COVID-19に対しても単独で、あるいはアジスロマイシンという抗菌剤との併用で有効であったという報告もありますが(国際抗菌剤化学療法学会誌 エルゼビア出版2020、バイオサイエンス・トレンド誌 2020)、未だ根拠不十分とする専門家もいます。しかし日本でも今回のCOVID-19に有効であった症例もあるようです。米国のトランプ大統領は、なぜかこの薬剤がお気に入りのようで、認可にも熱心ですし、最近「医療従事者に予防投与したらどうか。オレも服用する」と言ったとか、言わないとか・・・・・・でも米政権の感染症問題の知恵袋的存在のアンソニー・ファウチ国立感染症研究所所長(私でも名前を知っているような内科学・感染症学の巨匠です。著書も買ったことがあります。)はこの薬剤の導入については慎重な立場をとっています。一方ピーター・ナヴァロ大統領補佐官もこの薬剤に肩入れしていて、ファウチ博士とバトルしたとか・・・・・・経済学者のくせに失礼な奴だ(怒)・・・・・・あっ、別に経済学者みんながどうこうと言うつもりはありませんので、誤解なきようお願いします。


次は、COVID-19がふだん服用する薬に影響を与えるかも知れないと、ネットなどで話題になった話についてです。

[降圧剤:アンジオテンシン転換酵素阻害薬ACE-I、アンジオテンシンU受容体拮抗薬 ARB]
ACE-I、ARBともにとても人気のある降圧薬です。とくにARBの方がよく使われています。同じく人気の降圧薬であるカルシウム拮抗薬との合剤もありますので、降圧薬を服用されている方はお薬手帳やネットでいちど成分を確認してみて下さい。これらの薬剤がなぜCOVID-19との関連が取りざたされたのかといえば、“SARS-CoV-2がヒトのACE-2受容体を介して感染する”からです。そこでACE-I、ARBのフル・ネームを見て下さい。ねっ、何か関係ありそうでしょう?まず話題になったのはACE-I、ARBを服用しているとACE2受容体が増加してくるので、感染しやすくなるのでは?という疑問でした、実際、COVID-19死亡の危険因子のひとつとして高血圧・心血管病が挙げられています。ところがACE-I、ARBは心疾患にも適応がありますので、高血圧・心血管病患者さんの多くがACE-I、ARBを服用しています。そこで「ACE-I、ARBを服用しているとCOVID-19のリスクが高い?!」という話が広まったのです。そのため外国では勝手に薬剤を中断して持病が悪化した人も少なくなかったようです。この状況を憂慮した米国と欧州の高血圧や心臓病の関連学会は、相次いで声明を発表しました。その骨子は、「ACE-I、ARBを服用していてもCOVID-19に罹りやすいとか、罹ったときに重症化しやすいというデータは全くないので、勝手に服薬を中断してはいけない」というもので、この声明はもっともです。COVID-19は肺のみならず心臓にも臓器障害を来すとされており、現段階では専門家でさえ「ACE-I、ARBがCOVID-19において、不利に働くか、有利に働くか、何ともいえない」というのが本当のところのようです(米国心臓病協会誌 2020)。一方、高血圧・心血管疾患そのものがCOVID-19の危険因子であることは間違いないので、十分な感染対策と高血圧・心臓病を良い状態に保つことがなによりも重要であることは疑いありません。

[非ステロイド系抗炎症剤 NSAID] NSAIDは非常によく使われる消炎鎮痛・解熱剤です。アスピリン(現在は少量を血栓予防剤として処方されることが多いです。鎮痛解熱剤として中等量以上を服用すれば日本人は胃腸障害が出やすい傾向にあります)とアセトアミノフェン(インフルエンザの発熱に対する第一選択薬です)は通常NSAIDの範疇には入れません。代表的なNSAIDにはイブプロフェン(ブルフェン、イブ)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)などがあります。これらのNSAIDはCOVID-19の予後を悪化させる、という話が広まりました。これは全く根拠がないわけではありません。NSAIDの長期連用は心血管病や呼吸器病に悪影響があり、腎障害のリスクもあります。また病初期に用いると発熱などの症状をマスクしてしまう可能性もあり、少なくともCOVID-19に罹患した可能性があるときには、NSAIDによる“付加リスク”の可能性は否定できず(英国医師会雑誌 社説 2020)、自己判断で服用するような薬剤ではありません。

とはいえ、NSAIDとCOVID-19との関連については、データは少なく、科学的根拠は乏しいのが現状です。慢性疼痛・慢性炎症性疾患ではNSAIDを連用せざるをえない状況も少なくありません。このような場合、NSAIDの自己中断もまた別のリスクとなります。それ以外なら、やはりアセトアミノフェンが第一選択になるかと思います。まあ、“効き目の切れが悪い”ときもあるのだけど・・・・・・ではみなさま、ご無事で。

posted by みみずく at 22:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記