2020年10月15日

アルツハイマー型認知症のリスクを下げるには?!

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さて、ご承知のとおり、アルツハイマー型認知症(AD)は日々増え続けています。65歳以上の高齢者の約15%がADに罹患しているとされ、2012で462万人、2025には700万人に達すると言われていますので、現時点では約600万人といったところでしょうか。こうなるとADのリスク因子とそれに対する評価と対処はことのほか重要です。

この問題について、最近中国・上海にある復旦(Fudan) 大学のグループが、現時点での大規模な系統的レビューを行い、英国医師会雑誌系列の専門誌である「神経学、脳神経外科学&精神医学誌 2020 7月20日 on line」で報告しました。
解析対象は2019年3月までに出版された44,676編の論文から一定の基準を満たした前向き観察研究 243編とランダム化比較試験 153編の合計396編です。

さて結果ですが、ADのリスク増大と関連する強い科学的根拠がある因子は、@糖尿病、A肥満、B高血圧、C起立性低血圧(立ちくらみ、加齢や薬物による自律神経機能障害など)、D高ホモシスティン血症、E頭部外傷、Fストレス、Gうつ病の8項目でした。一方、ADリスク軽減に関連する因子は@教育歴の長さと、A高齢期の認知活動(たとえば読書、このブログを読むのも良いかもね)でした。

Dはあまり馴染みがないと思いますが、ホモシスティンは必須アミノ酸であるメチオニンの中間代謝産物で、一般に高値だと血栓症になりやすいと考えられています。しかし通常の診療や人間ドックでルーチンに測定されることは、まずありません(若年者の血栓症などで原因精査のために測定されることはあります)。ホモシスティン増加の原因としては、先天性の代謝異常や酵素欠損など稀な原因を除けば、加齢(男性>女性)、喫煙、ビタミン欠乏、腎障害などが指摘されています。

また、科学的根拠が弱いがADリスク増加と関連する可能性のある因子として、@喫煙、A脳血管障害、B脳微小出血、C頚動脈超音波検査での「内膜中膜複合体肥厚」(正常ではごく薄く1mm以下くらいなのですが、頚動脈硬化があると分厚くなります)、D心血管疾患、E心房細動(心拍がばらばらになります)、Fフレイル、があり、逆に根拠の弱いリスク低下因子としては@身体活動、A健康的食習慣、BビタミンC摂取、C中年期に肥満がなく、高齢期以降に体重減少がない、が挙げられました。

薬剤によるリスク低下効果については、女性の閉経期のエストロゲンによるホルモン補充療法と、ADの治療薬として用いられているアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプトという薬が有名です)が検証されましたが、いずれも投与は推奨されない、という結果でした。

まっ、何というか、想定内の結果ですね〜健康的に過ごせ、持病は放置するな、体も頭も動かせ・・・・・・もっと他に何か良い方法はないのかい!と言いたくなります。そこでちょっとユニークなアプローチを紹介します。ひとつは日本の理化学研究所のグループが「フロンティアーズ・イン・エイジング・ニューロサイエンス誌 2020 7月2日 on line」に発表した研究です。対象はAD患者なのですが、大勢で集まって輪になり、ドラムを叩くと認知機能が改善するとのことです。ADでは麻痺がなく、運動そのものは可能だけど、合目的運動ができない(これを「失行」といいます)という症状があるのですが、それも改善が見込めるようです。

これはたぶん、上肢を使ってリズミカルにドラムを叩く、ということが脳も上肢も刺激することになり、それが認知症に一定の効果があるのだと思われます。対象がAD患者ですので、大人数でのコミュニケーションもまた、好結果の一因かも知れません。でもADを発症していない段階なら、一人でやってもADのリスク低下に繋がるかも、と期待したくなります。どうせやるなら体全体を使って“ドラムセット”を叩くのも一興です。ビートルズのリンゴ・スターさんやブルコメのジャッキー吉川さんを想い出して・・・・・・でもドラムセットを持っている人はごく少ないし、かりにドラムがあっても、自宅でやると近所から苦情がでるかも知れない・・・・・・そのあたりの皿か鍋に座布団を乗せて消音して・・・・・・う〜ん、あまり楽しくなさそうですね。

いまひとつ、これはまだ論文にはなっていなくて、学会発表のレベルですが・・・・・・2020年7月にバーチャル・ミーティング行われたAD協会国際会議の演題に、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種した人はADの発症リスクが20〜30%ほど低下するとの複数の報告がありました。

ちょっと話がうますぎる様な気もしないではないですが、ADでは感染症にかかると死亡リスクが上がるのは周知の事実ですし、この新型コロナ流行のご時世、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの予防効果を期待するのは、ごく自然な成り行きかと・・・・・・つぶせるリスクはつぶしておくのが上策と思うのです。

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2020年10月01日

REM睡眠が長寿の鍵を握る!?


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良質の睡眠が健康、ひいては寿命に好影響を与えることは間違いないようですが、睡眠のうち“深い睡眠”であるノンREM(NREM)睡眠か、はたまた夢と密接に関連する“浅い睡眠”であるREM睡眠か、どちらがより重要なのかは議論のあるところです。でも最近の文献を見る限り、死亡率低下という観点からは、どうも鍵となるのはREM睡眠の方のようです。個人的にも“夢も見ずに脳もしっかり寝ている徐波睡眠主体のNREM睡眠”よりは“夢に彩られたREM睡眠”の方が好きですね〜文字通り夢があって・・・・・・

夢と言えば、高校の音楽の授業で、野間嘉代子先生がスティーブン・フォスターの「夢見る人(Beautiful Dreamer)」を歌っておられたのを想い出します。あっ、でもひょっとしたら中学の音楽の授業と記憶がごっちゃになっているのかも・・・・・・あるいは野間先生が歌っておられたのは同じフォスターの曲でも「金髪のジェニー(Jeanie with the Light Brown Hair)」だったのかも・・・・・・52年の時の流れによる記憶の変容は恐ろしいものです。

野間先生とは高校卒業十数年後に意外なところで接点がありました。当時私は福島区にあった旧阪大病院の第二内科病棟の現場監督のような仕事をしていました。ある日病棟にあがると、「片桐くん、片桐くん」と、どこかで聞いたことがある、優しいけど張りのある女性の声が・・・・・・声の主を探してみると、何とそこに野間嘉代子先生が・・・・・・びっくりしてお聞きすると先生の御夫君がその日に検査入院されたということでした。当時の阪大の入院申込書には大阪府在住かつ別所帯の保証人の署名が必要だったのですが、適当な方が見つからない、ということで私が保証人になりました。

すると病棟の看護師(当時は看護婦と呼ばれていましたね)さんたちからは、「先生が保証人って、ご親戚ですか?」と聞かれたので「高校時代の音楽の先生です」と説明すると、彼女たちはその旨、ご丁寧に申し送りをしていました。そんな申し送り、いらないのに・・・・・・野間先生も慣れない入院で緊張されていたところで私に会って安心されたのか、病室を訪れる看護師さんたちに私の高校時代の話をされて・・・・・・でも、その内容は「そんなことあったかな〜」「それはいくらなんでも大袈裟〜」「それは誰か違う人でしょ〜」というエピソードのオンパレードでした。しまいには看護師さんたちが皆、私のことを野間先生の口まねをしながら「片桐くん、片桐くん」と呼ぶので困りました。今となれば懐かしい想い出ですね〜

2017年11月のブログでREM睡眠の減少が認知症リスクに関連するという論文を、そして2019年12月にREM睡眠の記憶を消去するシステムが備わっているという論文を紹介しました。最近の睡眠医学の分野では、REM睡眠が興味の中心になっているようです。とりわけ寿命とその裏返しである死亡率とREM睡眠との関連は気になるところです。

最近スタンフォード大学のグループが「中年〜高齢成人におけるREM睡眠と死亡率との関連」と題する論文を発表しました(米国医師会雑誌 神経学 2020年7月)。対象は平均年齢76.3歳の男性2,675人(追跡期間平均12.1年)と平均年齢51.5歳の男女1,386人(男性54.3%、平均追跡期間20.8年)のふたつの集団です。

その結果、高齢男性の追跡データでは総睡眠時間に占めるREM睡眠の割合が5%減るごとに心血管疾患による死亡率およびすべての原因による死亡率が13%も上昇することが分かりました。女性を含めた中年の人達の追跡データでも同様の結果が得られたとのことです。

こうなるとREM睡眠不足は立派なリスク・ファクターです。ぜひとも人間ドックの項目に入れて・・・・・・と言いたいところですが、REM睡眠の動態を知るには「睡眠ポリグラフ」で一晩の睡眠記録をとる必要があります。この検査は「睡眠時無呼吸症候群」の診断にも用いられるのですが、原則入院を要するのでけっこう大変です。とてもじゃないけど人間ドックの項目に加えて普及させる、というのは難しそうです。

それに一番の問題は、REM睡眠を量的・質的に改善する手段がないことです。ですからREM睡眠の多寡以前に、他の修正可能な睡眠に関する問題を解決する方が現実的かも知れません。上記の「睡眠時無呼吸症候群」はその代表です。罹患していると良質な睡眠にはほど遠いのは自明ですし、いびきの頻度、大きさ、呼吸の一時停止の有無が心血管疾患リスクに関連することが明らかにされています(チェスト誌 エルゼビア出版 2020年7月)。睡眠中のひどいいびきや無呼吸があれば、かかりつけ医にご相談下さい。あとは睡眠剤の使用です。眠れないのはつらいので、使用もやむを得ないことはあるのですが、薬剤は睡眠リズムを乱すので一考の余地があります。やはりまずはかかりつけ医に相談です。

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