元市立豊中病院病院長の片桐修一さん(小西ホーム)が最新の論文を元に気になる医療情報を語ってくれます。
2020年12月24日

メリー・クリスマス・・・・・・なんて言っている場合じゃないですね。COVID-19の蔓延は大阪のみならず、日本中で止まる気配がありません。感染者数は各地で日々最多記録を更新し、「医療崩壊が現実となる!?」という警鐘も鳴りっぱなし・・・・・・COVID-19の患者さんを入院させる病床は逼迫しつつあります。そのためにCOVID-19以外の病気に対する医療体制の維持も怪しくなってきているのは確かです。
現在、主に地域の基幹病院で一般病床をCOVID-19用に転用して対応しているのですが、有効な治療法が確立していないので治療に難渋すること、また院内感染対策を重視した治療・ケアに途方もない人手(そして費用も)がかかることなどの理由により、おおまかに言えば、病床数の5%をCOVID-19に転用しようとすれば、従来の病院のアクティビティを15〜20%くらい落とさないと達成できない、という状況だと思います。今後は軽症者・無症状者の自宅待機という選択肢も増えてくるかも知れません。これはこれで待機中の急変リスクを完全にコントロールすることが難しいという問題があります。
いずれにしても、今後はCOVID-19陽性になった家族と同居する、あるいは家庭外で地域のコミュニティで自身が“濃厚接触者”となった時など、どのような状況において感染リスクが高まるのかを知ることはとても重要です。この点に関しては、メディアを通じて、連日さまざまな情報が発信されているのですが、科学的エビデンスは乏しいと言わざるをえません(今の時期に良質のエビデンスを求めるのは“無いものねだり”なのですが)。
そんな中、濃厚接触者の感染リスクに関して、かなり良質の研究論文が最近報告されました。複数の一般Webサイトでも紹介されているから、世界的に見ても高い評価を受けているようです。
報告したのはシンガポール国立感染症センターを中心とした多施設共同研究グループです(ランセット 感染症学誌 2020 11月2日 on line)。シンガポールは新型コロナ感染症対策において、瞠目すべき成績を上げています。とくに現在までの感染者約58,000人で死亡率が0.05%というのは驚嘆すべき値です。日本の死亡率は感染者約207,000人で死亡率1.5%、米国は日本の百倍規模の患者数・死者数ですが、死亡率は1.8%、英国・欧州は死亡率が高くて3%超、シンガポールはなんと二桁少ないのです。人口570万と小国ですが、確かに裕福で世界から注目されている医療ツーリズムのメッカとして有名です。それにしてもすごいです。国外からの労働者の寮で50%近い集団感染も起こしたこともあるのですが、うまく制御できたようです。これも2003年のSARS流行の教訓を活かして作られていたリーダーシップに富む指揮命令系統と精緻に組み上げられたシステムの賜のようです(と論文に書いてあります)。
さてこの論文の対象は今年の1月23日〜4月3日の間に確定診断されたCOVID-19患者1,114人に関わる、ほぼすべての濃厚接触者7,770人です。その内訳は家庭内濃厚接触者(同居家族)1,863人、仕事場での接触者2,319人、コミュニティでの接触者3,588人でした。なお非家庭内の濃厚接触者は“2m以内の距離で30分以上接触”と定義されています。またシンガポールではCOVID-19患者は全員入院治療となるのですが、濃厚接触者は14日間1日3回の電話によるモニタリングを受けています。
結果ですが、全対象のうち96.8%で完璧にデータが収集されました(これもすごいです)。
症状に基づいたPCR検査で188例のCOVID-19感染が認められました。二次感染率は家庭内で5.9%、仕事場、コミュニティではともに1.3%でした。また、濃厚接触者1,150人(家庭内 524人、仕事場 207人、コミュニティ419人)についての抗体検査と問診を統計学的手法で解析すると、症状のみに基づいたPCR検査戦略ではCOVID-19の62%が見落とされ、感染者の36%は無症候であると考えられました。
さて、この研究が示した高リスク状況というには、家庭内では「寝室の共有(リスク約5倍)」、「COVID-19患者から30分以上話されること(約8倍)」,家庭外では「2人以上のCOVID-19との接触(約4倍)」、「COVID-19患者から30分以上話されること(約3倍)」、
「「COVID-19患者と同じ車にのること(約3倍)」でした。一方、家庭内、家庭外いずれにおいても「間接的接触(例えば患者からの物の受け渡し、患者が触ったところを触るなど)」「食事を一緒にとる」「トイレの共有」では有意なリスク増加では認められませんでした。
この論文を読むと、やはり家庭内感染の方が家庭外よりも有症状二次感染が多いことが分ります。有症状二次感染率は家庭内ではほぼ抗体陽性率に等しかったのですけど、家庭外では有症状二次感染者の2倍以上の抗体陽性者が確認されました。やはり家庭内では、より濃厚かつより長時間の接触があるからでしょう。注意すべきは “近接”と“会話”は独立した危険因子であることです。また、感染者の三分の一が無症状者であるのもやっかいです。家庭内の無症候性感染者が今のパンデミックの一因かも知れません。
さて、論文の著者たちの結論は何かと言えば、「物理的な距離をとり、会話は必要最小限に・・・・・・」世も末、身も蓋もない感満載だけど、このご時世、ちょっとでも体調が変だと思ったら“できるだけ家庭内自主隔離、沈黙は金!”を守るのが安全かも、です。
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COVID-19
2020年12月15日

日本で供給される血液製剤の安全性は世界のトップクラスにあります。かつて日本ではB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)による輸血後肝炎が蔓延していた時期がありました。十分な消毒や針交換を行わずに実施されていたワクチン接種によるHBVやHCV感染も少なくありませんでした。
しかしHBVやHCV感染の病態が明らかになり、予防や治療法が確立し、さら日本が世界に先駆けて行った輸血によって伝搬する可能性のあるウイルスを検出するための全献血検体を対象とした核酸増幅検査(NAT)スクリーニングの導入により、輸血後B型肝炎、C型肝炎の発症は激減、ほぼ皆無となりました。
献血によって得られた血液製剤は、日本のどこで採血されても、すべて全国8カ所のNAT検査施設でHBV、HCV、それにHIVについてのウイルス検査が行われます。大阪府の検体は福知山にある検査センターに送られるのですが、私も一度見学に行ったことがあります。血液製剤のひとつである新鮮凍結血漿保存のための全館冷凍庫仕様の地上5階建てビルというすごい施設が整備されています。中にも入りましたが、プチ南極でした。NATといえども新規感染からごく短期間(“ウィンドウ期間”ウイルスによって異なります)で献血されたら検出できないことがあるのですが、ほとんどの感染検体をチェックすることができます。しかし問題となる肝炎ウイルスはHBV、HCVだけではありませんでした。
日本赤十字社は去る2020年8月5日採血分より、核酸増幅検査(NAT)の対象ウイルスに、従来行ってきたHBV、HCV、HIVに加えてE型肝炎ウイルス(HEV)を追加しました。E型肝炎は従来、主として輸入感染症だったのですが、近年国内発生が増加傾向にあり、重症血液疾患での“輸血後E型肝炎”での死亡例も報告されました。また関東圏の献血検体でのHEV・NAT陽性例が0.18%(関東圏のデータ)ということからHEV・NATが追加されることになったのです。
国内発生E型肝炎は元来、北海道・東日本に多くみられ、豚肉や豚内臓の不十分な加熱摂食によるものが多いとされていましたが、最近西日本でも人里での“接近遭遇”が増えた野生の猪や鹿肉の生食ないし不十分な調理による事例が増加しています。皆さんの中には、自分で猪や鹿を捌く人はそうはいないと思いますが、素人が捌いた肉を分けてもらったりしても危険ですのでご注意下さい。「猪と鹿はダメ、では蝶は?」と聞きたくなる方、賭け事はいけませんよ。
現在、ウイルス性肝炎はA〜E型の5種類が知られています。A型肝炎は汚染された魚貝類(昔から生牡蠣が有名です)などから経口感染し、劇症化はごく稀、慢性化はありません。B型とC型肝炎は、以前は輸血後肝炎の主役で慢性化が大きな問題でしたが、現在は予防や治療の進歩によってほぼ制圧されつつあります。D型肝炎は原因ウイルスが一種の“欠陥ウイルス”で、HBVの存在下でしか増殖しないのですが、発症した場合には重症化する危険が高くなります。
問題のE型肝炎はA型と同様に原則として経口感染、多くは無症状で劇症化は稀、慢性化もほぼないとされていましたが、輸血後肝炎の形式をとり得ること、そして免疫抑制状態では肝炎が遷延・再燃・重症化することがあり、また妊婦さんに感染すると劇症化のリスクが非常に高くなることが知られています。世界的にみればHEVの感染は年間2,000万人に達し、肝炎のみならず血液・腎臓・神経系などの肝外合併症を起こし得るので油断できません(CMH韓国肝臓学会機関誌 2020)。
ウイルス感染で肝機能が明らかに上昇する、すなわち“臨床的な肝炎”は肝炎ウイルス以外のウイルス感染でもしばしば見られます。主としてリンパ球に感染するEBウイルスやサイトメガロウイルスの初感染時、あるいは麻疹罹患時などでも中程度のAST・ALT上昇、すなわち“急性肝炎”が起こります。ただしこれらのウイルス感染の主座は肝臓ではなく、慢性化もしません。ですので急性肝炎が生じても、これらのウイルスを“肝炎ウイルス”とは言いません。
繰り返しになりますが、肝炎に関して言えばやはり生の獣肉は危険性が高いので注意が必要です。また未知のウイルス感染のリスクもあるかも知れないし、新型インフルエンザや新型コロナウイルスも動物由来という話もありましたし・・・・・・
とにもかくにも、新型コロナ元年が暮れようとしています。今年もブログご愛読ありがとうございました。もし来年も続くようなら引き続きご愛顧をお願いします。
では、少し早めのご挨拶・・・・・・
Merry Christmas and a Happy New Year! So long, my friends!
posted by みみずく at 00:00|
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日記
2020年12月01日

世界を見渡せば、さまざまな地域と歴史に根付いた食習慣がありますが、日本食もそのひとつで、世界的にも“体に良い食事”としても注目されています。文献では「地中海食」と双璧じゃないかな、と思えます。ただ、日本食と地中海食とどちらが優れているかガチで勝負、というのは臨床研究としてはとてもハードルが高く、なかなか実施困難なので、日本人を対象として、“より日本食の色彩の濃い食習慣を持つ人”と“そうでない人”を比べるのが現実的です。
国立がん研究センターが主導するコホート研究にJPHC研究というものがあります。コホートというのはある特定地域の住民を対象にして長期間観察を行い、生活習慣と疾病の関連などを調査する研究手法です。JPHCでは全国11の保健所管内の住民を対象としています。最近、JPHCの研究グループが日本食パターンと死亡リスクとの関連について研究結果を発表しましたので紹介します(欧州栄養学雑誌 2020 7月16日 on line)。
この研究は1990年と1993年の2期にわけて始められました。1990年は岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、1993年は茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の各保健所管内の住民が対象となりました。対象住民の年齢は第1期では40-59歳、第2期では40-69歳で、合計約13万6千人のうち75%が研究開始5年後に行われた食事調査票に回答し、極端に高いまたは低い摂取カロリーの人を除いた92,969人(うち男性42,700人;年齢56.5±7.8歳)を平均18.9年の間観察し、ほぼ全例でフォローアップが完遂されました(これは立派なデータです。ふつうはこうはいきません。脱落者がたくさんでます)。
さて、食生活における日本食パターンの評価ですが、「8項目日本食指標(JDI8)」を用いています。これは米飯、味噌汁、海藻、漬け物、緑黄色野菜、魚貝類、緑茶の摂取が多ければそれぞれ1点、牛肉・豚肉摂取が少なければ1点、合計8点満点で食事調査票を採点します。点数が高いほど日本食の色合いが濃い食事ということになります。
次に対象者を得点順に並べて4つに等分して、JDI8スコアとすべての原因による死亡、がんによる死亡、循環器病疾患による死亡、心疾患による死亡、脳血管障害による死亡との関連を検討しました。このコホートでは、総計1,635,302人・年を観察したことになるのですが、この間、20,596人に死亡が確認されました。そのうちわけはがん死亡7,148人、 心血管疾患4,990人(うち心疾患 2,600人、脳血管障害 1,950人)でした。
さて、対象を4群に分けて、最もJDI8スコアが高い群と低い群を比較すると、
JDI8スコアが高い群では全死亡のリスクが14%、循環器疾患・心臓疾患の死亡リスクは11%低下していました。一方、がん死亡と脳血管障害での死亡については有意差が認められませんでした。また、全死亡リスクを各食品別でみると、海藻を多く摂取すると6%、漬け物で5%、緑黄色野菜で6%、魚貝類で3%、緑茶で11%の低下が認められました。
日本食に効果、なかなかのものですね。他にも同様の報告があって、東北大学が主導している宮城県大崎保健所管内の国民健康保険加入者を対象としたコホートでも日本食パターンが強ければ寿命が延長するという結果がでています(臨床栄養誌 エルゼビア出版 2020)。
ただ“日本食は塩分過多じゃないか”という疑問ないし問題点が指摘されています。たしかに私が学生時代の夏休みに自主研修させていただいた信州地方の漬け物などは塩分濃かったな〜でもいまは全国的に塩分控えめになってきていますね〜“塩分控えめ梅干し”とか“塩分控えめ塩ラーメン”とか店頭で見かけますものね。酷暑の時期などはむしろ塩分をしっかり摂取しろ、という広報がテレビなどで流れるほどになりました。
今回紹介した論文でも、漬け物を多く摂ると全死亡率が多少低下する、というデータがでています。これはたぶん漬け物が日本食パターンと強くリンクしていることもありますが、多少塩分(ナトリウム:Na)が多くなってもカリウム(K)が豊富に摂取できていればNa/K比が低下するので、Naによる血圧を上昇させる効果が打ち消される(高血圧雑誌 2015 ウオルタース・クルーワー出版)とする報告があります。この食事におけるKを十分摂取することの意義はNaの過剰摂取を避けること以上に強調されても良いと思います。ただし腎機能が悪い人にはK摂取は危険なのですが・・・・・・
さて、コロナ年であった2020も暮れようとしています。今年もブログご愛読ありがとうございました。お正月にお節を食べられる方、日本食の良さを再認識してください。えっ、うちは中華お節、洋風お節だって!!そう言われたら困るな〜
posted by みみずく at 00:00|
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