2015年06月15日

コーヒーは百薬の長!?

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飲み物付の食事で必ず聞かれるのが「Coffee or tea?」 もちろんどちらを選ぶかは好みだけど、私はコーヒーです……スタンダード・ミュージックでも「二人でお茶を」より「コーヒールンバ」の方が好きだし……今回はコーヒーが病気を防ぐかも知れない、というお話です。


ある集団の健康・疾病に関する研究を行う学問が臨床疫学です。コーヒーの健康に対する益あるいは害を検証するには、通常コホートと呼ばれる研究手法を用います。コーヒー消費量の異なる集団を長期に観察して比較するので時間もコストもかかるけど、複数の疾患との関係を同時に検討できます。観察の対象となる集団のサイズが大きいほど信頼性が高まるのですが、人種差もあり得るので自国民のデータの方が望ましいですね。

そこで3月に米国臨床栄養学会誌に発表されたコーヒーに関する日本発の研究を紹介します。日本にしては珍しい大規模コホートで、対象は登録時にがん・脳血管疾患、虚血性心疾患の病歴のない40〜69歳の日本人90,914人です。平均観察期間は18.7年で、この間に12,874人の死亡が確認されています。

結果をみると、性別にかかわりなくコーヒー摂取であらゆる原因を合算した全死亡リスクが低下することが明らかになりました。すなわちコーヒーを全く飲まない人のリスクを1とすれば、1日1杯以下の人で0.91、1〜2杯で0.85、3〜4杯で0.76、5杯以上では0.85というリスク比が得られました。1日3〜4杯の摂取では全死亡リスクが約25%減少することになります。1日5杯以上では死亡リスク低下効果は弱くなるようです。このリスクの低下は心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患などで明らかでしたが、がん死亡のリスク低下は認められませんでした。

コーヒーの効果については欧米でも多くのコホート研究があり、肯定的な結果も少なくありません。では、紅茶はどうかといえば、健康に寄与するというデータもあるのですが、コーヒーと同じ土俵に上がった研究では若干分が悪いようです。どちらにも血圧・血液循環に有益な作用をもつ成分は含まれているのですが、飲用1回分で考えたらコーヒーは10g、紅茶は2gくらいと相当差があるので、紅茶の有用性は証明されにくいのかも知れません。

とは言っても、ふだん飲まない人が「ではあすから毎日コーヒーを3杯!」というのは早計かも……このような集団のデータを個人にあてはめる時には、それぞれの年齢、性別、生活習慣、病歴、さらには価値観も考えたうえで、結果を適応するかどうかを決めるのが現代の「エビデンスに基づく医療」の根幹です。それともうひとつ “現実的な効果の大きさ”も考えておく必要があります。

この研究では約90,000人がエントリーされて約19年で全体の死亡率は14.2%、がん死亡はコーヒーとは関係ないので、がん以外の死亡率を計算すると8.3%です。コーヒーによるリスク低下はがん以外でみると、全体でみるより効果が高まるので最大35〜40%のリスク低下としてみます。さらにコーヒーを飲まない人と飲む人が1:1〜1:2として死亡率を概算してみると、それぞれ10〜11% VS 6〜7%となり、19年間の死亡リスク低下の絶対値は約4%となります。言い換えると「約25人のコーヒーを飲まない人がコーヒー党に転向したとすれば19年間で25人中1人の死亡を防ぐことができる」ということになります。

この効果の大きさをみなさんならどう評価されるでしょうか。ぜひコーヒーや紅茶を楽しみながら、一度ゆっくり考えてみてくださいね……
posted by みみずく at 10:00| 2015年