2015年07月01日

MERS-CoV in Korea〜コロナウィルスの不都合な変貌


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MERS(Middle East Respiratory Syndrome:中東呼吸器症候群)が韓国で発生・流行しています。この原稿を書いている時点(6月22日)で、韓国で患者さんが確認されてから1か月経過しましたが、患者数は172人、死亡は27人、死亡率は15.7%です。数千人が隔離対象となっていますがWHOはまだ「緊急事態宣言」を出すには至っていません。今後の拡大は抑えられると踏んでいるのか、政治的・経済的影響を重視しているのかは分かりませんが……今後収束に向かうことを祈るばかりです。

MERSはコロナウイルス(Coronavirus)の一種によっておこる呼吸器感染症で、MERS-CoVと表記されます。2012年9月にサウジアラビアで最初の患者が見つかってから現在までに約1200例の発症があり、死亡率は30%を超えていますが、韓国例ではそこまで高くはないようです。症状は、発熱は95%以上、咳も80%以上、呼吸困難も70%以上にみられ、25%くらいで下痢などの消化器症状も伴います(2012‐2013発症例のデータ)。すべての年齢層で発症が報告されていて、持病に糖尿病、高血圧、慢性心疾患、慢性腎疾患があると罹患リスクや重症化のリスクは高まります。ウイルスの自然宿主としてはラクダやコウモリが考えられていますが、間違いなくヒト−ヒト間の感染が存在します。

コロナウイルスはありふれた「かぜ症候群」を引き起こすウイルスのひとつ、というくらいに認識されていました。まあ、「どうってことないウイルス」だったのです。その認識を一変させたのは2002年に中国で始まりアジアとカナダで広がったSARS(severe acute respiratory syndrome:重症急性呼吸器症候群)です。1年足らずで8000人以上が感染し、死亡率は約9.6%でした。SARSとMERSは異なるウイルスですが、同じコロナウイルスに属します。SARSの後10年を経てMERS が出現したわけです。MERSが収束しても、遠くない未来にまたコロナウイルスが変異を起こして人類社会に新たな脅威をもたらすことがあるかも知れません。

さて、MERSの感染経路ですが、インフルエンザと同様に「飛沫感染」が主体であると思われます。すなわち咳やくしゃみで飛び散る湿性生体物質(体液)に含まれるウイルスによる感染です。これらの湿性物質は直径5μm以上ですので、飛沫到達距離は通常1mまで、最長でも2mくらいです。しかし湿性物質が床に落ちて乾燥すると、より小さなサイズの粒子が舞い上がり感染の原因となることがあります。これが「飛沫核感染」で「空気感染」とほぼ同義語です。この感染様式では、感染性粒子は飛沫感染と比べてはるかに遠くまで到達するのみならず、密閉空間での空調のような条件では同時に多数の人に感染を起こす可能性があります。韓国でのMERSの病院内での感染を思わせる報道をみると、飛沫核感染が起っているのかも知れません。

現在のところMERSに対する有効な治療法は知られていないので、発症例に対しては対症療法を行うしかありません。それだけに、もし日本で感染が確認され広がるようなことがあれば、個人レベルでも可能な限り予防に努めることが重要です。

MERSの予防と言っても、何も特別なことはありません。感染対策で「標準予防策」と呼ばれる基本的な予防策の励行につきます。すなわち頻回の水と石鹸による手洗い(1回20秒)、水道が利用できないところではアルコール含有速乾性手指消毒剤も有効です。市販のマスク(ほとんどが“医療用サージカルマスク”タイプです)は飛沫感染防止には効果を発揮します。ただし大きな隙間があると無効ですし、鼻腔がでているのは論外です。また手を洗っていない状態で眼・鼻・口に触れるのも避けなければいけません。うがいはしないよりマシかも知れませんが、手洗い・マスクほどの効果は期待できないかな……

では今回のむすびとして諺を……”Hope for the best and prepare for the worst”〜「最善を期待し、最悪に備える」……でも私としては ”Tomorrow is another day”「まっ、なんとかなるさ〜」なんだけどもね……
posted by みみずく at 11:00| 2015年