2017年06月15日

好中球数というリスク

片桐先生1.jpg

健診、人間ドックなど、およそ採血の機会があれば必ず行われるのが検血です。基本は赤血球数、ヘモグロビン(赤血球中の酸素運搬含鉄蛋白の重量)、ヘマトクリット(全血に占める赤血球成分の体積)、白血球数、血小板数(止血にかかわる血液細胞数)ですが、最近はここに自動計算で出てくる「赤血球恒数(赤血球1個あたりのヘモグロビンと体積、あるいは単位体積あたりのヘモグロビン)」も付記されることが多いです。これらはMCV、MCH、MCHCと記載されていて、貧血があれば鑑別診断の手がかりになる数字です。白血球数には「白血球分類」がセットされているかが問題です。

赤血球や血小板とは異なり、白血球は5種類に分かれています。過半数を占めるのは好中球、アメーバのように動くことができて、細菌や異物を貪食(文字どおり食べます)して処理する機能をもっています。リンパ球は好中球に次ぐ割合を占めていて、高度な免疫機能の中核を担っています。単球は全体の数%強くらいで好中球と同様の貪食機能を有していますが、貪食した細菌や異物を処理し、抗原としてリンパ球に提示する作用を持っています。好酸球も数%程度を占める白血球でアレルギー・アトピー時に増加し、寄生虫に対する免疫を担っています。好塩基球は1−2%程度しかなく、喘息や花粉症などの1型アレルギーで症状を起こすもとになっていることが知られています。

すなわち白血球集団は見た目も働きも異なる複数の細胞から構成されています。ですから5種類の割合を示した「白血球分類」がなければ単なる「白血球数」を調べる意義は非常に小さくなります。健診などで白血球分類が行われていないケースもあるけど、実に嘆かわしいというか、何というか・・・・・・今の機械なら自動ですぐできるのに(保険点数も150円だし)・・・・・・

さて今日の主題は白血球のなかの好中球数です。好中球は「白血球数×好中球%」で求められ、最も有名な臨床的意義は細菌感染症で増加することで、急性虫垂炎、肺炎などでは診断の入り口として重要です。また細菌感染に限らず、さまざまな炎症(たとえば痛風とか)で増加がみられ、感染・炎症以外でもアドレナリンが出るような緊張状態、運動後、副腎皮質ホルモン投与でも増加します。感染・炎症などがない“平常時”の好中球数は人によってかなり異なりますが、おおむね2,000〜7,000/μl(立方o)に分布しています。

近年、心血管病に慢性炎症が深く関わっていることが明らかになっています。ここでいう慢性炎症は、一見症状もなく病気とも思えないレベルで持続的・潜行性に起こっている“個人の基礎的な炎症の強さ”と考えられます。そうであるなら炎症に深く関与する好中球数と心血管病が関連していてもおかしくない、ということになります。そういう考えにたって今まで小規模の研究はいくつか行われできました。しかしこのようなタイプの研究はやはりメガ・スタディでないと真偽のほどは明らかにはなりません。

そこで最近発表された英国のグループによる研究を紹介します(米国心臓病学会誌2017)。対象は心血管病の病歴がない30歳以上の住民775,231人で、何らかの急性病態にある時の検血データ154,179 例、とくに何事もない時の検血データ621,052例を元にして平均3.8年フォローしたところ、12種類の心血管病55,004例の発症がみられました。

さて結果ですが、結果に影響を与える可能性があるさまざまな交絡因子を調整して好中球6,000~7,000の人と 2,000〜 3,000の人を比較したところ、好中球が高い人のリスクは低い人に比べて心不全が2.04倍、末梢動脈疾患1.95倍、予期しない冠動脈疾患による死亡1.78倍、腹部大動脈瘤1.72倍、非致死性心筋梗塞1.58倍に増加していました、このリスク増加は“直線的”ですので、わずかの好中球増加であってもその分リスクは増えるということになります。また虚血性脳卒中では軽度のリスク増加(1.36倍)がみられましたが、安定狭心症や脳出血のリスク増加はみられませんでした。

“平常時の好中球数”は遺伝的要因もありえますが、喫煙、大気汚染、運動不足、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症など、よく知られたリスクファクターによって引き起こされた“気がつかないうちに生じている慢性炎症”を反映しているのかも知れません。
もしそうなら、健診で指摘されたリスクファクターをみて「治療しようかな〜様子見た方が良いかな〜」と迷っている時には好中球数をみて、高ければより治療に積極的に
なる・・・・・・というのも選択肢のひとつになり得るかも知れません。

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/180032492
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック