2017年11月01日

がん治療における“代替療法”のリスク


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みなさんは「代替療法」ってご存じですか?英語ではalternative therapyというのですが、この“オルタナティブ”という単語には、「二者択一のもう一方のほう」「とって替わるもの」「主流でないもの」などの意味があります。今回は、この代替療法が現代のがん治療を侵食してきている、という話です。

最近のがん治療の進歩はめざましく、その成果は着実に現れてきています。にもかかわらず、がんと診断され初回治療を受ける段になって、科学的根拠に担保された最善・最良の治療、すなわち「標準(standard)治療」を拒否し、根拠が定かではない(そしてしばしば荒唐無稽としか言い様のない)「代替療法」を選ぶ人たちも未だに少なくありません。これらの人たちの多くは、命があれば、いずれ標準治療の道に戻って来ますが、“時、既に遅し”ということも稀ではないのです。

代替療法のほとんどは“よく分からない○○水”など単なる詐欺に過ぎないもの、“ビタミン大量療法”など既に広く用いられている薬剤の適応・用法・用量を無視した根拠のない治療、あるいは動物実験や基礎実験レベルの結果を曲解?!(ほとんどはわざとだと思います)した医師による“先進的?!免疫療法”、時には医師免許をもつ者が共犯となった確信犯的詐欺行為(最近摘発された臍帯血輸血によるがん治療がその典型です)などさまざまな“フェイク療法”があり、それに関する情報が膨大で、ネットで検索すると、医学的に正しく吟味された情報と誤解された情報、それにフェイク情報が同時にヒットして、専門知識がなければ判別は難しい状況です。この“正邪混在・情報氾濫状態”がまず大きな問題です。

しかしこの代替療法が実際のがん治療においてどの程度の影響があるかについては明らかではありませんでしたが、最近、エール大学グループが研究成果を公表しました(「米国国立がん研究所雑誌」on website 8月10日2017、出版1月1日2018予定)このニュースは同研究所のプレス・リリースでも取り上げられて世界中に拡散し、日本でもたくさんのメディアで紹介されて話題になりました。

この論文のタイトルは「がんにおける代替療法の使用とそれが生存に及ぼすインパクト」で、対象は乳がん、前立腺がん、肺がん、結腸・直腸がんと診断された患者281人です。彼らは診断の時点では転移はなく(ここが重要です。すなわちまだ“治癒の可能性”があります)、初期治療として化学療法、放射線治療、手術療法そしてホルモン療法(乳がん、前立腺がんが対象)のいずれも受けることなく、少なくとも一種類以上の代替療法を選択しました。この代替療法グループと標準治療を受けた560人のグループと比較したところ、5年以内の死亡率は、グループ全体では2.5倍、乳がんで5.7倍、肺がんで2.2倍、結腸・直腸がんで4.6倍に上昇していました。初回治療として代替療法を選択するリスクが明瞭に示されたのです。

驚くことに、代替療法を選択する患者さんは必ずしも“情報弱者”ではなく、比較的若く、社会経済的に高い地位にあり、全身状態の良い人が多いのです。著者らは、「そのため死亡率も、低めにでている可能性があり、代替療法の悪影響は実際にはもっと深刻かも知れない」と危惧しています。情報収集力に自信がある人ほどフェイク情報に引っかかりやすいのではないかと私は感じています。

最大の問題は、「なぜ代替療法を選ぶ人がいるのか」ということです。“標準(standard)治療”という名称が良くない、という意見もあります。「標準は最善・最良(best)にあらず」と考える患者が少なくないのでは、という指摘です。あるいはそうかも知れません。また「がん治療を受けなければいけない」という事実に直面したとき、“インフォームド・コンセント(説明と同意)の原則に従って、主治医は”悪い経過をたどる可能性“にも言及します。この”悪い話“を受入れられない人たちは、“どこかに必ずあるはずの完全無欠、理想の治療(幻想に過ぎません)”を追い求めようとします。そういう時に、「あなたが望む治療がありますよ」との魔の囁きに魅せられることは無理からぬことかも知れません。そこにつけ込む商法があり、それが放置されていることが大問題なのですが・・・・・・残念ながら、そのすべてを洗い出して法の網にかけるのは至難の業です。判別法をひとつ、「高額な自費診療はフェイクだ」と考えて間違いありません。

一方、科学的根拠に裏打ちされた“まっとうな代替療法”も存在していて、それらにはちゃんと出番はあるのです。それらは主として、がんそのものの症状や治療の副作用緩和、そして精神心理的なサポートを目指す「支持療法(標準治療をサポートする役割を担います)」の一環として行われます。一例を挙げれば「心身(マインド−ボディ)療法」で、リラクゼーション、イメージ療法、催眠療法、ヨガ、医療メディエーション(一種の対話療法)、太極拳、気功、芸術療法などがこれに含まれ、がん治療中の倦怠感やうつ症状などに対する効果についての検証が進行中です(カレント・オンコロジー・リポーツ 2017)。

ただ、がんが再発・難治になった段階ではちょっと話が違ってきます。確かに全身状態が許す限り、何らかの治療法は存在します。しかし効果がみられる可能性はしだいに小さくなり、多少の効果があったとしても、患者さんが望む“劇的な寛解”にはほど遠いのが常です。そのような状況では、がんそのものをターゲットとはせずに、症状のコントロールを第一とする「緩和ケア」がはっきりとした形で提示されることもあるでしょう。そうなれば“現代医療の限界”が患者さん達に、“幻の奇跡を呼ぶ青い鳥”としての代替療法を選ばせることになるのかも知れません。

実は私も現在、胃がん再発で外来化学療法を受けています。最初の治療(ファースト・ラインといいます)は空振りだったけど二番目の治療(セカンド・ライン)は大健闘・・・・・・
毎日おおむね元気で病院臨床検査部の管理医師の仕事をしています。そりゃ、治療についてはいろいろ考えるところがあります。医学文献検索とその吟味は何十年もやってきていますので、再発胃がん治療に関する、ほぼすべての論文にアクセスして評価することができます。それによって一定水準の論文になっていない代替療法は、ほぼすべてフェイクと判断できます。しかしなかには将来夢のような治療に結びつく可能性がある代替療法も絶無ではないかも知れないけれど、それは広大な砂漠で一粒の真珠を探すようなものです。探している間に熱中症で倒れてしまいそうです・・・・・・希望を持つことと幻を求めることは根本的に違うと思うのです。

「後悔のないように、やるだけのことはやった」・・・・・・そう思いたい気持ちはわからないではありません。ですから追い詰められたときに代替療法を選択する人を責めるつもりはなく、むしろ彼らを止める言葉がないことを残念に思います。でもね、“裏に悪意が見え隠れする幻想”を見抜くこともまた、人生における、ひょっとして最後となる後悔のない選択だと思うのです。
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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