2017年12月15日

“表情”というイヌたちの戦略


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今回は動物ネタのお話です。ほとんどの哺乳類には“顔の表情”があることが知られていますが、これらは“能動的なコミュニケーション・ツール”というよりむしろ、“意図的ではない感情の表出”であると考えられてきました。むろんヒトの古き良き友人であるイヌにしてもその例外ではありません。ところが最近、飼い犬の顔の表情は、飼い主と意思疎通を図ろうとする積極的な意図によるものである可能性を示す研究が発表されました(サイエンティフィック・リポーツ 2017年10月号)。

この研究を行ったのは英国ポーツマス大学のグループで、彼らはこの研究に「顔面動作コーディング・システム(Facial Action Coding System FACS)」を用いています。この顔の表情のFACS解析、40年の歴史をもつ技法で、“顔の表情は解剖学的に独立し、視覚的に識別可能な表情動作の最小単位=動作単位(action unit :AU)によって構成されていて、これらを観察・分析することで非言語的コミュニケーションの一端が明らかになる・・・・・・”
とのことです。そこで著者たちは飼いイヌを対象として、ヒトが注目する場合としない場合、食べ物がある場合とない場合について、FACSでイヌの表情の変化の頻度と現れる動作単位の特徴を解析しました。

結果はなかなか興味深く、イヌはヒトから注目されている時により頻繁に表情を動かすのですが、食べ物は表情変化に影響しませんでした。このことは“社会的コミュニケーション刺激”であるヒトの注目はイヌの表情に大きな影響を与えるのですが、イヌにとって“興奮を呼び起こすものではあるものの、非社会的な刺激”である食べ物には、表情に対するインパクトがない、ということを意味します。すなわちイヌの顔の表情は、単なる意図的でない感情の発露というよりむしろ、ヒトに対する意図的なコミュニケーション・ツールである可能性があるのです。

イヌがヒトに対して最もよく使う表情、すなわち“得意技”が“inner eye brow raise”という動作単位で、“眉頭を上げて目を大きくして子犬のように可愛く見せる”という表情である(思わず自分でやってみた方は好奇心旺盛かつ実証主義的な方ですね)。ヒトが注目していると、この動作単位の出現頻度は倍以上になります。なお、このような動作は生物学的には“幼形保有”というカテゴリーに入るとされています。すなわち“幼い頃の姿・形、動作を再現して愛嬌を振りまく”という行動で、平たく言えば“ぶりっ子”ですね。この手段、イヌ・ヒト間では非常に有効のようです。でもヒト・ヒト間では・・・・・・時と場合によるだろうな〜しばしば“気味が悪い”と捉えられて逆効果のことも稀ではないでしょうね。

さて、この研究結果に対する私の感想は「イヌたち、なかなかやるじゃないか」である。ひょっとしたら飼い主に愛嬌を振りまいて立場を良くする、という立派な戦略的意図に基づく可能性も無きにしもあらずです。また最近、ネコの人気が高まってきていて、ネコ番組の放映が多くなっています。あるいはイヌたちも危機感を持っているのかも・・・・・・もしみなさんがネコ番組を視聴していると飼い犬たちが一生懸命“inner eye brow raise”でアピールしているかも知れませんよ、ぜひ注目してあげてください。

また私は“inner eye brow raise”に対する飼い主側の反応としての表情変化についても興味があります。きっとFACS解析に値する変化がみられるかも知れません。加えて声も優しくなったりして・・・・・・“ネコ撫で声”ならぬ“イヌ撫で声”ですね。

さて、年内のブログはこれでおしまいです。今年一年、おつきあい頂きましてありがとうございました。今までもそうなのですが、たまには一般科学ネタとか動物ネタとか、医学に関係しないジャンルのブログも書いてみたいと思います。まあ、“箸休め”ということで・・・・・・お暇なときには、また読んで頂けたら嬉しいです。

では、10日ほど早いですが、Merry Christmas! そして良いお年を。

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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