2019年02月15日

インフルエンザが心筋梗塞をひきおこす!?

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“風邪は万病の元”とよく言われますが、だったら風邪の親玉であるインフルエンザ(flu)は“メガ万病の元、ということになります。事実、香港大学の研究者が中心になって(日本の研究者も参加)、1998〜2009年のデータをまとめて発表した論文(感染症学雑誌 オックスフォード出版 2012年12月号)によれば、flu罹患によって、1年間で人口10万人あたり11.1人の死亡超過が生じ、その大部分は65歳以上で、死亡原因としては呼吸器系疾患が53%、心血管病が18%を占めていました。呼吸器系は当然としても、fluは心血管系にも大きな負のインパクトを与えるのです。

心筋梗塞は横綱格の心血管系疾患ですが、fluと心筋梗塞の関係は1930年代から注目されていました。要するに“fluが流行ると心臓発作で死ぬ人が増える”という現象が昔から知られていたのです。豪州のグループがこのテーマに関連する過去16編の論文をレビューして英国医師会雑誌の姉妹誌「ハート」(2015年8月号)に発表しているのですが、それによれば直近のflu、あるいはflu様疾患、または呼吸器感染症の罹患によって心筋梗塞の発症リスクは約2倍となり、fluワクチンはその心筋梗塞の発症リスクを約30%低下させるとの結果でした。

しかしこのような研究は規模を大きくする必要があり、一方「flu」「心筋梗塞」の診断の信頼度も問題になります。また、他に結果に影響を及ぼしそうな要因の検討はとくに重要です・・・・・・などの理由で、明瞭な結論を引き出すのは簡単ではないのです。ここは研究手法に一工夫が必要です。

そこでカナダのグループは、「自己対照ケース・シリーズ」という一捻りしたデザインの研究でこの問題に挑みました(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌 2018年1月号)。この論文の研究方法は、まず“対象期間”を設定し、この間に“flu陽性となり(ウイルス学的検査でflu陽性が確定)、かつ心筋梗塞を発症して入院した”患者さん364人を選び出しました。そしてflu陽性となってから7日間を“(fluによる)リスク期間”、そのリスク期間の前後1年間を“対照期間”として、“リスク期間”と“対照期間”とで、どちらが心筋梗塞を生じるリスクが高いかを比較しました。こうすれば、同一の患者さんを、同じ時間軸の上でflu罹患と心筋梗塞との時間的距離を測定するだけなので、他の要因の影響を最少にできます。

さて、結果ですが、リスク期間の心筋梗塞発症リスクは対照期間より6.05倍高いことがわかりました。fluの型や他のウイルスで比較してみると、flu Bのリスクが一番高くて10.11倍、次にflu Aで5.17倍、RSウイルスは3.51倍、その他のウイルスで2.77倍という結果でした。ウイルス性急性呼吸器感染症は、その多くが心筋梗塞発症リスクを増大させるのですが、やはりfluが最もリスキーだと言えそうです。なおflu陽性後7日を過ぎるとリスク超過は消失します。

この研究はけっこう注目を集めたようで、同誌の6月号にさまざまな意見が「編集者への手紙」として寄せられました。いくつか紹介しますと「この研究方法を用いるとflu以外のさまざまな病気(例えば逆流性食道炎や胃炎)でも同様に心筋梗塞リスク増大という結果が得られる」「fluにより稀に発症するウイルス性心筋炎が除外できているのか?」などなど・・・・・・なかでも私が注目したいのは「flu感染時に服用した鎮痛解熱剤が心筋梗塞のリスクを上げている可能性は?」という意見です。

鎮痛解熱剤の多くは「非ステロイド系消炎鎮痛剤(略称NSAID)」に分類される薬剤です。そしてほぼすべてのNSAIDはfluとは無関係に心筋梗塞のリスクを高めるとする報告があります(英国医師会雑誌 2015年5月号)。これは100%確実とまでは言えませんが、無視できないレベルの報告が蓄積されています。また最も歴史がある鎮痛解熱剤であるアスピリン(NSAIDには含まれません)は、小児ではfluで稀に生じる脳症との関連が否定できず禁忌となっているのですが、高齢者でflu罹患時のアスピリンの功罪については信頼できるデータがなく、やはり頓用の鎮痛解熱剤としては、避けておく方が無難です。従ってfluの時には、比較的安全だとされる「アセトアミノフェン」が第一選択の鎮痛解熱剤として処方されることが常です。

以上まとめますと、fluに罹患すると1週間は心筋梗塞のリスクが上昇する可能性があるので要注意。そしてもし鎮痛解熱剤を使うのなら、NSAIDやアスピリンではなくて、“fluの定番処方”となっている「アセトアミノフェン」を服用するのが無難です。とくに心筋梗塞のリスクが高めの人は気をつけて!時間がない・・・・・・とか言って、家で見つけた鎮痛解熱剤を勝手に服用する(これだけでも原則アウトです)前に、せめて薬剤名と成分を確かめましょう!

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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