2019年06月01日

結核は稲作と一緒に渡来した?!


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少し前にネットで鳥取大学医学部の先生たちのグループが中国の長江流域の遺跡で東アジア最古、約5,000年前の結核の痕跡がある女性の人骨を発見した、という記事をみつけました。面白そうだったので記事の元になった論文(「国際古生物病理学雑誌」エルゼビア出版 2019年1月号)を読んでみました。

このグループが発掘したのは上海市にある「広富林遺跡」で、肥沃な長江のデルタ地帯にあり、数千年前から盛んに稲作を行われていました。どうやらこのあたりから稲作技術が日本に渡来したと推測されているそうです。発見された人骨には胸椎と腰椎が癒合・変形した「結核性脊椎炎(脊椎カリエス)」の徴候がありました。専門家によれば、日本では結核の痕跡は縄文時代の遺跡からは発見されておらず、弥生時代に渡来したと考えられるので、今回の発見は結核が長江流域から稲作とともに日本に渡来した可能性を示唆している、とのことです。

結核は日本のみならず、世界中で猛威を振るった、そして今も振るっている感染症です。日本ではかつては“労咳”と呼ばれ恐れられてきました。結核によって多くの著名人が亡くなっていますが、ここ150年くらいで幾人か名前を挙げると、幕末歴史ファンなら新撰組の沖田総司と長州の高杉晋作、文学ファンなら脊椎カリエスで34歳の若さで亡くなった明治の俳人、正岡子規の名が頭に浮かびます・・・・・・「いくたびも 雪の深さを 尋ねけり」なんて、病床に臥せる彼の心情が分かるような気がするな〜

結核は飛沫感染または空気感染で経気道的に人から人に伝搬します。体内に入った結核菌はまず肺胞に定着しますが、そのほとんどは人体の感染防御を担う好中球と肺胞マクロファージにより貪食され処理されます。しかし時には結核菌が自らを貪食したマクロファージの中で増殖し、ついにはマクロファージを殺して初感染巣を作ります(ちょっとした“エイリアン”ですね)。

しかしたいていは、結核病巣は“乾酪壊死”という現象を起こして、結核菌も封じ込められて病気も終息・・・・・・なのですけど一部の人では結核菌は早期にリンパ節、その後血流に入って肺以外に病巣を作る「肺外結核症」を発症し、また、一見何事もなく治ったかにみえても、死なずに残った結核菌が長い時間の後、免疫が低下したときに再燃する、などの現象が起こります。なお脊椎カリエスのような骨・関節結核は未治療の数%に発症するとされていますが、幸い現在では稀な合併症です。

ドイツの研究グループによれば、結核菌群のルーツは約40,000年前の東アフリカまで辿ることができるそうです。彼らは人類がアフリカを出て世界中に移り住むようになるのと一緒に結核もグローバルに広がったと推論しています(「PLOS微生物学」2008年)。

また、結核症の痕跡は数千年前のエジプト、先コロンブス期(石器時代〜西欧人の米大陸進出までの期間とのことです)のアメリカ大陸、新石器時代のヨーロッパにみてとることができます。脊椎カリエスなどの肉眼的な人骨の変化のみならず、最近のDNA解析技術により、一見病変のないミイラの組織や骨にも結核菌の存在を証明することができます(「米国微生物病学会誌」2016年8月)。

稲作・農耕技術が確立したことにより、人類は安定した食物エネルギーを入手できるようになりました。それによって狩猟で動物を追いかけてあちこち移動する必要がなくなり、定住生活が可能となって人口も飛躍的に増加しました。実はこの人類の定住化と人口増加が“人から人への伝搬で生き延びている”結核菌にとっても絶好の条件だったのです。

人口の増加(正確には人口密度の増加)以外に結核菌繁殖にとって好都合な条件といえば戦乱による衛生環境の悪化(集団の免疫不全につながります)があります。実際、結核は産業革命や第一次世界大戦などで増加し、抗生物質の発見によって一時頭打ちとなり、その後HIVの蔓延で再度増加傾向を示していることが明らかになっています(「ネイチャー遺伝学」2015年3月)。

今の日本、とくに大阪府は稲作・農耕が盛んでもないし、戦乱もないけど人口密集地域です。また、若者を中心に結核菌に対して免疫のない人も少なくありません。従って会社や施設で複数人が同時に結核に感染することがあります。また結核患者さんがそれとは知らず、一般病院外来を受診したことが判明して感染対策で大騒ぎすることも珍しくはありません。

微熱・咳・痰などが2週間以上続けば、とりあえず胸部X線写真をとるべきだと思います。必要があれば痰の検査や結核に対するリンパ球の反応をみる検査など、診断ツールは揃っています。結核は“誰でもなる可能性がある病気”、“他の人に伝染する可能性がある病気”であることを忘れないで下さいね。
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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