2020年01月15日

楽天主義の人は罹患リスクが低く長生きする?!

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あなたは楽観主義ですか?それとも悲観主義?・・・・・・と言われても、何をもって楽観主義、悲観主義とするかですが・・・・・・ここは30年以上前からこの“楽観主義という心の有り様”が健康に良い影響を与えると説くマイアミ大のチャールス・S・カーバー教授の提唱する定義(ジャーナル・オブ・パーソナリティ ワイリー出版 1987年6月号)に従って“未来に良いことが起こると期待する”のを楽観主義、逆に“未来に悪いことが起こると気を病む”のを悲観主義としておきます。

この楽観・悲観主義という心の有り様(欧米ではしばしばマインドセットと表現されます)、意外と臨床疫学の分野で注目されています。これらは単なる精神的な性向と思われがちですが、以前からネガティブな感情や慢性ストレスが心血管病など身体的な健康に関連するという報告があり(米国心臓病学会誌 2005年3月号)、これを“修正可能な危険因子”として捉えて、さまざまな研究が行われています。マインドセットもまた修正可能だと考えるところがまさに欧米人らしい“楽観主義”ですね。

しかし楽観主義が体に良い影響を与えるとなれば、そうなるべく努力してみるのも一興です。ではどの程度の“御利益”があるのかということで、最新の研究論文をふたつほど紹介しましょう。まずニューヨークのマウント・サイナイ・聖ルカ病院の研究者らによるシステマティク・レビュー&メタ解析論文です(米国医師会雑誌・ネットワーク・オープン 2019年9月号)。

著者らはデータ・ベースを検索して楽観主義と心血管病罹患リスク・すべての原因による死亡との関連を研究対象にしている論文15編(がんリスクを対象とした研究は除外)を抽出しました(対象者総計 229,391人)。15編のうち心血管病リスクを検討していたのは10編、全死亡リスクを検討していたのは9編で、平均観察期間は13.8年(2〜40年)でした。

すべてのデータを集積して解析したところ、楽観主義の程度が高い人では心血管病リスクは35%低く、全死亡リスクも14%低くなっていました。ただし論文間での結果のバラツキは小さくはありませんでした。ここで言う“楽観主義の程度が高い人”とは、多くの論文では性格を判断する質問紙法の点数によって対象を3ないし4群に分けて、最も悲観的なグループを基準にして最も楽観的なグループの相対リスクを検討しています。

この質問紙法、最も多くの論文で採用されていたのが「改訂版ライフ・オリエンテーション・テスト(LOT-R)」というもので、冒頭で触れたカーバー先生らが発表したものです(臨床心理学レビュー誌 エルゼビア出版2010年11月号)。日本におけるこの分野の専門家である筑波大学の外山美樹準教授によれば、このLOT-R、日本語版もあるようですが批判も多く(心理学研究 2013年 第84巻 第3号)、外山先生らは楽観主義にも(そして悲観主義にも)二面性、すなわち功罪の面があることに注目されているようです。全くそのとおりだと思うな〜

ともあれ、楽観主義は全死亡リスクやがん死亡リスク低下に繋がるとする研究報告はあったのですが(米国疫学会雑誌 2017年5月号)、今回紹介した論文は、悲観主義が修正可能な、あるいは修正すべき心血管病リスクの危険因子であることを示したという点で意義があります。

でも・・・・・・とくに切迫していないニュートラルの状況であればいざしらず、客観的に厳しい状況で楽観主義を貫くのは危機管理の観点からいかがなものか、と思わないではありません。しかし現在までに蓄積されているエビデンスから考えると、やはり楽観主義の方が健康や疾病対策には有利のようです。では、ほんとうに楽観主義者の方が長生きするのでしょうか?

この観点から研究を行ったのがボストンのグループです。かれらは米国の女性看護師と男性退役軍人のデータデースを用いて、マインドセットと寿命の関連を調べたところ、最も楽観的な人は悲観的な人に比べると85歳以上生存する可能性が約15%高いという結果がでました(米国科学アカデミー紀要 2019年9月号)。

同じ状況でも、ある人は楽観的に、またある人は悲観的になる、というのは不思議な気がします。19世紀を代表する詩人・作家であるオスカー・ワイルド氏は“The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole.”(楽天主義者はドーナツを見て、悲観主義者は穴を見る)と言ったそうです。そうか、ドーナツの穴を見たらダメなんだ・・・・・・

突然ですが古い唄を思い出しました。クレイジー・キャッツ・植木等さんの「だまって俺について来い(曲 萩原哲晶、詞 青島幸男:1964)」です。“銭のない奴ぁ俺んとこに来い!俺もないけど心配するな。見ろよ、青い空〜白い雲〜そのうち何とかな〜るだろう♪”

まさに前途に対する無根拠かつ過剰な期待、これぞ究極の楽天主義であり、ひょっとすれば最も低リスクの生き方なのかも知れません。

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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