
“街の灯がとてもきれいねヨコハマ〜♪”私たちの同期でご存じない方はまずいないでしょうね。いしだあゆみさんの大ヒット曲、「ブルーライトヨコハマ」です。ネットで調べるとこの曲のリリースは1968年の12月25日だったそうですが、ブレイクしたのは翌年からです。ちょうど高三の冬なのでこの曲を聴きながら大学受験勉強にいそしんでいたことになります。記憶をたどると、何といっても1969年1月安田講堂攻防戦が勃発して東大入試が中止になったのはインパクトがあったな・・・・・・あれからもう半世紀とは、まさに光陰矢の如し。
ちょっと前置きが長くなりましたが、今回は「ブルーライト(以下BL)が寿命に及ぼす影響」についてのお話です。「なんだ、思い切り引っ張ってそれかよ〜」と言わないで下さいね。字数の都合とかいろいろありますので。BLと言えば、2014年ノーベル物理学賞の“青色発光ダイオード(LED)”ではなくて、つい“街の灯がとてもきれいねヨコハマ〜♪”が出てくるところが年齢のなせる業でしょうか。
BLとは波長380〜500nmの可視光線をいいます。LED照明と電子機器の普及によって、ごく身近な存在となりましたね。照明機器以外の三大BL曝露源はスマートフォン、電子ゲーム、パソコンだそうです。光・電磁波を波長の短い順番で並べると、BLは紫外線A波のすぐ後に位置します。紫外線に近いということは、可視光線の中では最も高エネルギーを持つということです。ですから植木等さんではありませんが、“そりゃ、体にいいわけないよ、わかっちゃいるけどやめられない”(「スーダラ節」1961年)ということになります。
確かに以前よりBLが睡眠やサーカディアンリズムに良からぬ影響を与え(米国科学アカデミー紀要 2015年)、皮膚老化(フリー・ラジカル生物学・医学誌 2017年)や、うつ・糖尿病・高血圧・肥満・がんなどの加齢関連疾患に関連しているという報告(ネイチャー・パートナー・ジャーナル/日本加齢学会誌 2017年)はあったのですが、実際に寿命に及ぼすBLの影響についての実証的な研究はありませんでした。そこで今回、米国オレゴン州立大学のグループはキイロショウジョウバエを用いた寿命実験を行い、その結果を発表しました(ネイチャー・パートナー・ジャーナル/日本加齢学会誌2019年)。
「なんだ、ハエか」と言ってはいけません。キイロショウジョウバエは昔からヒトの睡眠や日内変動、あるいは寿命関連の研究に用いられ成果をあげている実験対象なのです。驚くことに多数の重要な疾患関連遺伝子が人類と共通しているとされています。もし見つけても、簡単に殺虫剤などを振りかけないで下さいね。そうは言っても、ふつうのハエと見ても区別つかないけど・・・・・・
それにヒトを対象とした寿命実験など行った日には、結果がでるまでに莫大な時間を要するので、研究費が保たない、それ以上に研究者の寿命が保たない・・・・・・いずれにしても非現実的です。やはりここは動物実験しかありません。
結果はなかなか興味深いものがあります。1日12時間BLを浴びたハエは、24時間暗闇で過ごしたハエや1日12時間BLをカットした白光を浴びたハエに比べて有意に寿命が短く、網膜細胞と神経細胞に変性・損傷が生じ、壁を登る能力も低下していました。脳の神経細胞変性は、眼のない突然変異体のハエにおいても認められているので、脳への影響は必ずしも眼を経由しているわけではありません。また老いたハエではBL曝露によりストレス応答遺伝子が発現していました。この現象は若いハエでは見られないので、著者らはBL曝露の蓄積は老化の過程でストレッサーとなりうる、すなわちBLは老化を促進する可能性があると推論しています。
ストレス(ここでは生物学的・物理化学的な“侵襲”という意味です)に応答するシステムはいかなる生物にも存在しています。ストレス状態は生命体にとって危機ですので、生命体は免疫・炎症などのシステムを起動して対応します。これは危機回避のためには必須の反応なのですが、皮肉なことにこれが積み重なれば生命体を害する、というジレンマがあります。たぶんハエの寿命短縮もこれに関係しているのでしょう。
聖書を読まれたことがある方はご存じかと思いますが・・・・・・「創生記第1章」の有名な言葉を紹介します。私のような不信心者が僭越の極み、恐れ多いことですが、New King James Versionの聖書・英語版を訳させて頂きます・・・・・・ “神は仰せられた。「光あれ。」すると光が立ち現れた。神は光をご覧になり、「良きかな。」と思し召された。”
さあて、神様はBLについてどう思し召されるかな?きっと「良きかな。」じゃないでしょうね。BL、どう考えてもやっぱり使い過ぎですよね。
「汝、信号だけにしておくべし。」というご託宣がでそうな気がします。
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