2020年03月15日

宿題を先延ばしにするとメタボになりやすい?!

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臨床研究にはいろいろありますが、中には多くの人を敵に回すのも厭わない、という研究もあります。とくに昔のことをほじくり返して、某有名アニメのように、「おまえはもう〇〇している。」と言われても納得できない人もいるでしょうね。

子供の頃の宿題、とくに夏休みの宿題のことを思い出して下さい。いつまでに仕上げていましたか? 1.直ちに終わらせた、2.なるべく早めに終わらせた、3.期限内に終わるよう均等に仕上げた、4.期限の終わりの方で仕上げた、5.ギリギリになってやっと終わらせた、の五択です。1〜3は“先延ばし(procrastination)”しないタイプ、4は中等度の先延ばし傾向、5は強い先延ばし傾向と分類されます。

愛知医科大学の二人の研究者は、ある電気メーカーの男性従業員(795人、46.9±8.1歳、BMI 23.1 ±3.2kg/m2、“ホワイトカラー族”515人、“ブルーカラー族”280人)を対象に、宿題の仕上げ方と大人になってからの体重増加やメタボリック・シンドローム(Met S)のリスクについての関連を検討しました(英国医師会雑誌 Open On line 11月18日号)。

著者らが“宿題先延ばし傾向”と比較したパラメーターは、肥満(BMI >25kg/m2)、成人期体重10kg増加(AWG10: 20歳時と2015年の体重を比較して10kgを超える体重増加の有無)、内臓肥満(腹囲≧85cm)とMet S(腹囲≧85cmに加えて高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常のうち二つ以上を有する)です。対象とした795人中、肥満は182人(22.9%)、AWG10は169人(21.3%)で、Met Sと判定された人は123人(15.5%)でした。

さて、これらのパラメーターと“宿題先延ばし傾向”との関連ですが、“ホワイトカラー族”においては、強い先延ばし傾向を示した人は、先延ばし傾向がなかった人と比較すると、AWG10を示すリスクが1.85倍高く、Met Sになるリスクも2.29倍高いことが分かりました。また年齢、教育レベルやさまざまな生活習慣で補正してもホワイトカラー族では先延ばし傾向とMet Sリスクは相関していたのですが、ブルーカラー族にはこのような相関は認められませんでした。著者らは“先延ばし傾向と肥満関連因子とは相関するが、労働形態によって変容することが示唆される”としていますが、「ん?!どういうこと?!」と思わないではありません。ここはちょっとひっかかりますね〜

ただ、今回の論文が示した結果、背景に医学以外、とくに「行動経済学」という学問の裏付けがあるようです。論文の中に見慣れない記述や専門用語が頻出しているので調べてみました。曰く、“社会情緒的スキル、とりわけ自己管理や自己調節と、肥満などの良くない健康アウトカムとの関連が注目されている”だの“時間的非整合選好(「時間割引」または「現在バイアス」による選好)”だの、「なんのこっちゃ?」という箇所がたくさんありました。「時間的非整合・現在バイアス理論」は何と2002年ノーベル経済学賞を受賞していました・・・・・・

思い切り簡略化して言えば(簡略化しない部分=よく理解できなかった部分なのですけど)、「現時点で望ましいとされた行動は、将来の時点では望ましいとは限らない(時間的非整合)」「将来の利益や満足を、現在のそれに比べてどれくらい割り引くか(時間割引あるいは双曲割引)、という選好は選択者の“我慢のなさ”のパラメーターになる」ということのようです。

“将来の肥満による不利益よりも、今目の前にあるお菓子の美味しさ”を高く評価して選び取る(現在バイアス)、という行動は“宿題を先延ばしにして、より楽しいことを先にする”という行動に通じると言うのです。ここまで理解する?のに、主に大阪大学社会経済研究所教授をされていた池田新介博士(現関西学院大学経営戦略研究科教授)の国内・海外の論文を参考にさせて頂きました(健康経済学雑誌 2010 29:268 エルゼビア出版など)。池田教授の著書に「自滅する選択−先延ばしで後悔しないための新しい経済学(東洋経済新報社 2012)」というのがあります。このタイトル、まさにMet Sに対する刺激的すぎる警鐘です。

とはいえ、若干の疑問が残ります。私は夏休みの宿題は、休みに入って翌日には「絵画」(今も苦手です。でも猫の顔を描いたら孫は褒めてくれたけど・・・・・・)を除いてすべて終えていました。ところが大人になって60歳の時点で20歳時と比べた体重増加はちょうど10kg、腹囲はかろうじてセーフというところまで来ていて、病気にならなければ今頃は間違いなくMet Sに突入していたはずです。

いくら子供の頃は“先延ばしとは無縁”であっても、大人になってその“美点”を失って先延ばし族に仲間入りし、Met Sへまっしぐら、というのは珍しくないと思います。命名するとすれば「成人発症先延ばし症候群」かな・・・・・・まさに私自身が“リアル・ワールド・ケース・リポート”です。

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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