2020年06月15日

骨格筋を守るラジオ体操

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2016年11月15日付のグロブで「前期高齢者が気になるカタカナ語の警鐘」と題して、身体・社会・精神神経機能の衰えを意味する「フレイル」、運動機能低下を意味する「ロコモティブシンドローム」、そして筋肉量・筋力の低下を意味する「サルコペニア」を紹介しました。このサルコペニアはそれ自体“加齢症候群”のひとつであるとともに、フレイルやロコモティブシンドロームの主要原因でもあります。サルコペニアの予防は、“健やかな老後”の大きな柱のひとつです。そこで今回は、サルコペニアを防ぐのにラジオ体操が有効!というお話です。

私たちの世代でラジオ体操を知らない人や、やったことがないという人はいないでしょうね。ラジオ体操第一、第二の音楽が聞こえたら自然に体が動く、という人も少なくないかも知れません。私も小学生のときに夏休み朝6:00からのラジオ体操に皆勤したら文房具がもらえると聞いて、初日から行きましたが、三日くらいで止めました。「やっぱり三日坊主か」と言われそうですが、子供心にも、“払う労苦”と“得られる利得”を天秤にかけたとき、「割に合わない」という結論に至ったからだと思います。我ながら幼くして“トレード・オフ”の概念が確立していたと評価できます。この概念が医師になってどれだけ役だったことか・・・・・・(「嘘つけ!」と思われた方、正解です)

さて、私とは違ってラジオ体操を高く評価され、研究を続けられていたのは京都府立医科大学の先生方です。彼らは最近、強度の高い筋力トレーニングでなくとも、1日2回のラジオ体操を行うことによって糖尿病患者(サルコペニアのハイリスク群です)の筋肉量を維持できることを報告しました(英国医師会雑誌オープン:糖尿病研究&ケア 2020 8:e001027)。

この研究の対象者は「糖尿病教育入院(2週間)」の入院患者さんたちです。糖尿病教育入院は糖尿病診断時、あるいは悪化時に入院し、糖尿病についての講義や食事療法・運動療法の実践、合併症精査そして治療方針決定を行うシステムです。日本中の病院で大流行したのですが、最盛期ほどではないにしろ、今でも行われています。

著者らは42人の2型糖尿病のうち15人(男性11人、女性4人)に朝食前と夕食後の1日2回、ラジオ体操第二(第一よりも筋力を鍛える効果が高いとされています)を3分間行ってもらいました(ラジオ体操実施群)。残りの27人(男性13人、女性14人)は対照となるラジオ体操未実施群です。なお両群とも1日60分の有酸素運動(速歩)を行いました。なお両群間で年齢やBMI、糖尿病管理状態の指標であるHbA1cなどには差がありませんでした。

この研究では、入院14日後の体重と身体組成(とりわけ四肢骨格筋量)の変化を両群で比較するのが主な目的なのですが、ここで身体組成評価の方法を簡単に書いておきます。最近はちょっと上等の体重計には脂肪量や筋肉量が測定できる機能が付いているものが市販されていますが、身体組成評価で最も信頼できる測定法は二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)です。体重計の付属機能は生体電気インピーダンス分析(簡単に言えば電気抵抗で組成を推定する方法)の原理を応用しているのですが、さすがに臨床研究となればDXA法との相関が極めて良いことが証明されている機器を用いる必要があります。この研究ではInBody 720という機器を用いているのですが、これは市販の体重計より桁2つくらい高価でDXA法と高い相関があることが証明されています。

さて、結果はといえば、体重はラジオ体操実施群、未実施群ともに入院期間終了後に1.5〜1.7kgほど減少していましたが、骨格筋量指数(SMI=四肢骨格筋量/身長[m]2)の平均値はラジオ体操実施群ではほぼ不変であったのに対し、未実施群では有意に減少していました。SMIが減少していた人は、未実施群で85.2%(23/27人)であったのに対し、実施群では46.7%(7/15人)に止まりました。

糖尿病の有無にかかわらず、筋肉量の維持には有酸素運動、筋肉負荷がかかった状態での運動(レジスタント・トレーニング)が良いのは周知の事実ですが、きっちり実行できる人は少ない、というのが世界共通の悩みです。一方、日本伝統のラジオ体操は1回3分という手軽さながら、ラジオ体操第二であれば、その運動量は4.0-4.5 MET、すなわちバドミントン13分間に匹敵します(ちょっとホントか、と思いますがホントみたいです)。

筋肉量というものは、運動量が減少したら、簡単に減ってしまいます。これを防ぐには、そりゃ、ちゃんとした運動を毎日行うのに越したことはないけど、もっと楽をして何とかならないか、と思う方にはラジオ体操がオススメかも知れませんよ。いまなら私もラジオ体操を高く評価するのに吝かではありません。別に毎日早起きしなくても良いし、筋肉量を維持できるのなら賞品を貰えなくても我慢できるしね・・・・・・

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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