
さて、ご承知のとおり、アルツハイマー型認知症(AD)は日々増え続けています。65歳以上の高齢者の約15%がADに罹患しているとされ、2012で462万人、2025には700万人に達すると言われていますので、現時点では約600万人といったところでしょうか。こうなるとADのリスク因子とそれに対する評価と対処はことのほか重要です。
この問題について、最近中国・上海にある復旦(Fudan) 大学のグループが、現時点での大規模な系統的レビューを行い、英国医師会雑誌系列の専門誌である「神経学、脳神経外科学&精神医学誌 2020 7月20日 on line」で報告しました。
解析対象は2019年3月までに出版された44,676編の論文から一定の基準を満たした前向き観察研究 243編とランダム化比較試験 153編の合計396編です。
さて結果ですが、ADのリスク増大と関連する強い科学的根拠がある因子は、@糖尿病、A肥満、B高血圧、C起立性低血圧(立ちくらみ、加齢や薬物による自律神経機能障害など)、D高ホモシスティン血症、E頭部外傷、Fストレス、Gうつ病の8項目でした。一方、ADリスク軽減に関連する因子は@教育歴の長さと、A高齢期の認知活動(たとえば読書、このブログを読むのも良いかもね)でした。
Dはあまり馴染みがないと思いますが、ホモシスティンは必須アミノ酸であるメチオニンの中間代謝産物で、一般に高値だと血栓症になりやすいと考えられています。しかし通常の診療や人間ドックでルーチンに測定されることは、まずありません(若年者の血栓症などで原因精査のために測定されることはあります)。ホモシスティン増加の原因としては、先天性の代謝異常や酵素欠損など稀な原因を除けば、加齢(男性>女性)、喫煙、ビタミン欠乏、腎障害などが指摘されています。
また、科学的根拠が弱いがADリスク増加と関連する可能性のある因子として、@喫煙、A脳血管障害、B脳微小出血、C頚動脈超音波検査での「内膜中膜複合体肥厚」(正常ではごく薄く1mm以下くらいなのですが、頚動脈硬化があると分厚くなります)、D心血管疾患、E心房細動(心拍がばらばらになります)、Fフレイル、があり、逆に根拠の弱いリスク低下因子としては@身体活動、A健康的食習慣、BビタミンC摂取、C中年期に肥満がなく、高齢期以降に体重減少がない、が挙げられました。
薬剤によるリスク低下効果については、女性の閉経期のエストロゲンによるホルモン補充療法と、ADの治療薬として用いられているアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプトという薬が有名です)が検証されましたが、いずれも投与は推奨されない、という結果でした。
まっ、何というか、想定内の結果ですね〜健康的に過ごせ、持病は放置するな、体も頭も動かせ・・・・・・もっと他に何か良い方法はないのかい!と言いたくなります。そこでちょっとユニークなアプローチを紹介します。ひとつは日本の理化学研究所のグループが「フロンティアーズ・イン・エイジング・ニューロサイエンス誌 2020 7月2日 on line」に発表した研究です。対象はAD患者なのですが、大勢で集まって輪になり、ドラムを叩くと認知機能が改善するとのことです。ADでは麻痺がなく、運動そのものは可能だけど、合目的運動ができない(これを「失行」といいます)という症状があるのですが、それも改善が見込めるようです。
これはたぶん、上肢を使ってリズミカルにドラムを叩く、ということが脳も上肢も刺激することになり、それが認知症に一定の効果があるのだと思われます。対象がAD患者ですので、大人数でのコミュニケーションもまた、好結果の一因かも知れません。でもADを発症していない段階なら、一人でやってもADのリスク低下に繋がるかも、と期待したくなります。どうせやるなら体全体を使って“ドラムセット”を叩くのも一興です。ビートルズのリンゴ・スターさんやブルコメのジャッキー吉川さんを想い出して・・・・・・でもドラムセットを持っている人はごく少ないし、かりにドラムがあっても、自宅でやると近所から苦情がでるかも知れない・・・・・・そのあたりの皿か鍋に座布団を乗せて消音して・・・・・・う〜ん、あまり楽しくなさそうですね。
いまひとつ、これはまだ論文にはなっていなくて、学会発表のレベルですが・・・・・・2020年7月にバーチャル・ミーティング行われたAD協会国際会議の演題に、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種した人はADの発症リスクが20〜30%ほど低下するとの複数の報告がありました。
ちょっと話がうますぎる様な気もしないではないですが、ADでは感染症にかかると死亡リスクが上がるのは周知の事実ですし、この新型コロナ流行のご時世、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの予防効果を期待するのは、ごく自然な成り行きかと・・・・・・つぶせるリスクはつぶしておくのが上策と思うのです。
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