2020年11月01日

「エピジェネティクス時計」でヒトとイヌの年齢を計る


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「年齢とは何か?」と問われたら、ふつうは「そりゃ、生まれてからのどれだけ時間が経ったかだろう」と答えますよね。もちろん正解。でもこれは「暦年齢」とよばれる年齢です。「では、他の年齢ってあるの?」と問われたら「あります。それは生物学的年齢です」と答えることができます。生物学的年齢とは、組織・細胞の老化の程度から求められる指標です。ある程度歳をとってくると、暦年齢より生物学的年齢で勝負!となる機会が多いかもね。

ヒトの設計図はDNAという遺伝情報からできています。DNAは外界の紫外線とか化学物質によって損傷を受けたり、それを修復したりしているのですが、DNAに“修飾”が加わることもあります。このような修飾を「遺伝子のエピジェネティクス変化」と呼びます。そしてこの遺伝子修飾は次世代にも伝達可能です。

最も有名なのはDNAを構成する塩基のひとつであるシトシンの水素基(H-)がメチル基(CH3-)に置き換わる“DNAメチル化”です。このメチル化が起こると原則としてその遺伝子は働かなくなります。それが運悪く“がん抑制遺伝子”だと、がんが発生する可能性があるのですが、それはまた別の話・・・・・・今回はこのDNAメチル化のレベルが生物学的年齢と強く相関しており、DNAメチル化測定を“エピジェネティクス加齢時計”として使うことができるという話題です。

ここで突然ですが、イヌの年齢の話です。イヌの年齢をヒトに換算するとき、最もラフな換算法は「イヌの年齢×7」とされていることが多いようです。しかしイヌでは大型犬の方が小型犬より寿命が短い≒老化のスピードが早いことは良く知られています。そこでイヌの大きさによって、異なる換算式も存在するようですが、多くは経験則にのっとったものです。ところが最近DNA メチル化を用いた“エピジェネティクス加齢時計”でイヌの年齢を推計した論文が発表されました。

この研究を行ったのはカリフォルニア大学サン・ディエゴ校のグループで、0.1〜16歳のラブラドールレトリバー犬104匹と1〜103歳のヒト320人から血液サンプルを得てDNA メチル化を測定しイヌとヒトの年齢の相関関係を明らかにして換算式を求めました(セル・システムズ 2020 7月1日号 セル出版)。

その結果導き出された式は、「16×In(イヌの年齢) + 31」=相当するヒトの年齢
でした。“In(イヌの年齢)”については、ネットで“対数関数計算サイト”で検索して入力すれば簡単に答えが得られます。イヌは生後半年でヒトに換算すると20歳くらい、イヌ1歳でヒトなら31歳、イヌ2歳にしてヒトなら42歳、孔子さま流で言えば、既に「不惑」です。イヌ12歳でヒトなら70歳、「従心」ですね。「七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」の心境になっているのでしょうか。ラブラドールレトリバー犬ならそうかも知れないな〜マンションで私の顔をみたら吠えるあのイヌたちとは、たたずまいが違うしな・・・・・・

興味深い論文だと思うのですが、残念ながらラブラドールレトリバー・クラスの大型犬の換算式です。中小型犬はまた別のサンプルと解析が必要でしょうね。またひょっとしたら犬種毎に違う可能性もあります。ドーベルマンとか土佐闘犬とかともなれば、検体採取も命がけですね・・・・・・

それはさておき、このDNA メチル化、ヒトの生物学的年齢のみならず休止状態にある遺伝子を知ることもできます。さまざまな疾病予防や今後の健康戦略に有意義かも知れません。知りたい気もしますが、究極の個人情報でもあります。

「だいたいなぜDNA メチル化などという機構があるのだ?」という疑問もでるかと思います。まだ分らないことはたくさんありますが、ヒトの有核細胞すべての核内には、人体すべてを構成できる全DNAが格納されています。でも至る所で勝手に遺伝子が発現したらもう大変なことになります。例えば肺の細胞の隣で勝手に肝臓の細胞ができてきたりしたら、収拾がつきません。必要以外の遺伝情報は凍結されているのが原則なのです。しかし、ヒトの一生のなかで、受精卵が誕生した瞬間は、すべてのDNA メチル化がキャンセルされると考えられています。まさに“生物学的に何にでもなれるポテンシャルを持つ瞬間”ですね。

“何にでもなれる”というのはちょっと素敵ですね〜以前紹介したかも知れないけど、19世紀のイギリスの作家、George Eliot女史はIt is never too late to become what you might have been.とおっしゃいました。「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということはない」・・・・・・美しい言葉だけど「そんなの嘘だぁ〜」とつい言いたくなります。私が思うに、人は生きていくうちに、さまざまな秘めたる可能性に“メチル化修飾”がかかって発現できなくなる・・・・・・それが歳をとるということ・・・・・・そんな気がします。なんだか考え方にも夢がなくなってきたな〜ちょっと反省、でもtoo late・・・・・・
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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