2018年10月15日

“風呂は命の洗濯”のエビデンス

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ある有名アニメの中で「風呂は命の洗濯よ〜」というセリフがありました。疲れた後など、ほんとうにそのとおりだな〜と思いますね。もちろん、世界中どこでも日本のように、ゆったりと湯船に浸かる・・・・・・という国ばかりではありません。格別水事情が悪くなくとも、ホテルの部屋はシャワーだけ、というところも少なくないようです。それはそれで不便というほどではないのだけれど、やはり何か物足りませんね〜とはいえ、私はどちらかといえば“カラスの行水”だから、たとえ立派な“檜風呂”とか“岩風呂”とかでも、大して変わりはないのですが・・・・・・

温泉大国ニッポンでは、昔から入浴の健康に対する効用については各地で言い伝えられてきました。“湯治”という言葉もありますしね。それ以上に日本では入浴は一種の文化でした。もっとも“銭湯の文化”は“時代は遠くなりにけり”ですけど……銭湯文化を歌っている南こうせつさんの「神田川」は今でもよく耳にしますけど、実感がない人も増えているでしょうね。

医学研究の世界においても入浴の効用についての科学的根拠が報告されるようになったのはつい最近のことです。やはりこの分野を牽引するのは日本をはじめとする温泉大国の研究グループです。最近の報告をみますと、まずサウナ浴(sauna bathing)の効果についての報告が国内外からされました(米国心臓病学会誌:富山大学2012、米国医師会雑誌・内科学:東フィンランド大学2015、日本循環器学会誌・英語版;和温療法研究所2016)。なお「和温療法」というのは鹿児島大学名誉教授(現和温療法研究所)鄭 忠和先生が開発された“サウナ浴15分+安静保温30分+水分補給”からなる心不全などに対する日本発の入浴治療法です。これらの臨床研究は、サウナ浴には心血管疾患の死亡率の低下や、心不全患者の運動能力改善などの効果が期待されることが示されています。

では、私たちが日常普通に行っている入浴(hot water bathing)には効果はあるのでしょうか?この観点から研究を行った愛媛大学のグループの論文が最近発表されました(サイエンティフィック・リポーツ 2018)。対象は同大学の“抗加齢・予防医療センター”の人間ドックの受診者873名(平均年齢約66歳、男女比=4:6)で、入浴に関するアンケートを行う一方、動脈硬化指標として「超音波による頚動脈内膜中膜厚」と「上腕足首間脈波伝搬速度」を測定、また「中心血圧(大動脈起始部での血圧:普通に測定する血圧よりも低く、その質も異なっていて、臨床研究の評価項目としてより適正だとする意見があります)」の推定値を橈骨動脈(ふつうに脈をとる場所です)圧波形から求め、さらに心臓負荷の指標として血液中B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP:既に心機能を簡便に知る血液検査として定着しています)を測定しています。

さて、結果ですが、一回あたりの入浴時間は最長120分、平均12.4±9.9分でした。1週間あたりの入浴回数最多はなんと24!回(この方は道後温泉近くにお住まいかと推察します)で平均回数は5.8±1.9回でした。湯の温度については熱め(41℃<)は約13%、多くの人は中間温度(40−41℃)かぬるめの温度(40℃>)で入浴していました。入浴の効果について要約すると、「週5回以上の人は、4回以下の人に比べて動脈硬化指標、中心血圧、心臓の負荷、いずれもが低くなる。なお2回以上データがとれた対象者164人でみると、週5回以上の入浴者では経年的変化でも良い傾向がみられる」ということでした。

以上の結果から、効果を期待するなら週5回以上は入浴した方が良さそうです。動脈硬化を遅らせ、血圧を下げ、また心臓に対する負荷を減らせる、となれば値打ちがありそうですね。なお湯の温度については、“熱め(41℃<)”の方が、より高い効果が得られそうなのですが、これについては、著者らは「さらに検討が必要」としています。風呂が嫌いじゃなかったら毎日入浴、で良さそうです。湯の温度については、今のところ個人の好みに合わせれば良いのではないでしょうか。

この入浴に関する研究、日本では大いに発展しそうです。“有○温泉VS草○温泉”とか“天然温泉VS温泉の素”とか・・・・・・でも大規模研究ともなれば時間もお金もかかるからな〜実際にやるかどうかは、温泉にでも浸かってゆっくり考えてからかな。

以上のように“風呂は命の洗濯”はあながち間違いではなさそうです。一方、入浴して“極楽、極楽〜”という良いながらリラックスする、という場面もよく目にするのですが、入浴と心血管病の予後について検討を加えてきた立場から言うと、「極楽」を連呼するのは、いかがなものかと思うので、やはり“命の洗濯”としておきましょう・・・・・・




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2018年10月01日

静かに蔓延しつつある慢性腎臓病(CKD)

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腎臓は「後腹膜(腹腔の背中側、脊椎の両脇)」に左右1対で存在し、ヒトの体液環境の恒常性維持という役割を担っています。すなわち、@腎臓は人体の水とナトリウム(塩分)の排泄を調節することにより、血液の浸透圧と水分量を一定に保ち、Aナトリウムのみならずカリウムなどのさまざまな「電解質」も適正範囲に維持しています。また、B体内で生じた代謝老廃物を排泄し、C血液における酸塩基平衡を調節しています(血液のpHを一定に保つ働き)。これらの機能を果たすために、腎臓は1日に流入する150Lほどの血液を「腎糸球体」に存在する「ネフロン」という“濾過器”で濾過することにより、必要な成分は再吸収しつつ、流入血液量の百分の一量ほどの尿を作り、それを媒体として老廃物を体外に排泄します。その他の重要な機能としてはD赤血球造血を調節する「エリスロポエチン」というホルモンを産生・分泌しています。このような多彩な機能をもつ腎臓の病気で重要なのは、その原因や病態というよりも“腎機能障害の程度”です。

腎臓の機能は左右合計して約200万個ある「ネフロン」という “濾過器の数”に依存しています。腎臓の機能障害には、さまざまな原因で数時間〜数日のうちに進展する「急性腎機能障害」と“深く静かに発症して長い経過をとる”「慢性腎機能障害」がありますが、健康問題として注意を喚起すべきは後者です。急性なら原因を除去できれば完全に回復することも期待できますが、慢性腎機能障害の場合は、知らないうちにある程度まで腎臓機能が低下すれば、もはや回復は困難となり、腎機能は進行性に低下して「腎不全」に至ります。腎不全がとことん進行すれば、生命を維持するために人工透析(または腎移植)が必要となります。

現在、慢性の経過をたどる腎機能障害の原因としては糖尿病が最も多く、その他高血圧症、糸球体腎炎などが主なものですが、これらを一括して「慢性腎臓病(CKD)」とよんで、早期に発見して腎機能保護を図り、できるだけ腎機能低下の速度を遅くして、最終段階である透析導入を可能な限り遅らせる、という試みが世界中で進められています。CKDを放置すれば透析のリスクが大きくなるのは当然ですが、透析導入前の状態でも心血管疾患や感染症などの罹患率が高くなることが知られています。すなわちCKDは他の重大な疾患の危険因子でもあるのです。しかもCKDはかなり進行するまでは、ほとんど自覚症状がなく気付きにくいという特徴があり、国内外の専門学会でその啓発に本腰をいれているところです。

CKDは、「一定以上の蛋白尿」(“−〜3+”のような定性検査ではなく、“○○mg/dl”のような定量検査での評価が必要です)または「一定以上の糸球体濾過量(上記ネフロンの実力を示します)の低下」が3ヶ月以上持続する状態、と定義されます。その頻度は学会の推計によれば全国で約1,300万人、なんと成人人口の13%に及ぶとされています。なお、今年の7月の国際腎臓病学会プレス・リリースによると、全世界のCKD患者は全人口の10~11%、約8億5千万人とのことです。また、日本人のネフロンの数は欧米人に比べると数が少なく、2/3くらいしかないという報告があり(米国臨床研究学会誌 2017年)、日本人は欧米人に比べてCKDになりやすい可能性があります。

CKDは放置できません。まず第一歩は自分の腎機能レベルを知ることです。そのためには、検診、人間ドック、あるいは診療所、病院で行った検査結果の中の「クレアチニン(Cr、CRNなどと記載してあるかも)」という項目を見て下さい。これは腎機能障害を判断する上で非常に有用性が高い検査です。たとえわずかでも正常範囲を超えていたら無視できませんし、たとえ正常範囲でも、上限に近い値なら油断できません。

次にクレアチニン値の近くに(すぐ下の欄が多いのですが)「推算GFR(eGFR)」という項目が書かれているかどうかを確認してください。もし記載がないなら、ネットで「eGFRの計算式」で検索すると必ずヒットしますので、性別・年齢・クレアチニン値を入力すると「eGFR」が分かります。「eGFR」は腎臓の実力を示す「糸球体濾過量」の推定値です。「eGFR」は「○○ml/分/1,73m2(体表面積1,73m2あたりの値))」という単位で表示されます。これが60未満ならばCKDの可能性があります。まあ、試験に例えたら60点未満で欠点というところです。該当する方は放置しないで、必ずかかりつけ医に相談して、追試(再検査やその他の腎疾患・腎機能関連検査)や指導(食事療法や合併する生活習慣病の治療など)を受けてください。腎臓病の管理は、「一に根気、二に根気、三、四も根気、五も根気」というのが特徴ですが、頑張って下さいね。



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2018年09月15日

地球温暖化を防ぐ食生活とは?!


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前回が“プラネタリー・ヘルス”、すなわち地球という惑星規模からみた健康問題だったので、今回も視野を広げて・・・・・・ということで論文を探していると、 “食品による環境負荷を減らすには?”という研究がありました(サイエンス誌 2018年6月号)。英国オックスフォード大学とスイスのライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の研究所との共同研究です。

環境問題の中心といえば、やはり「CO2排出量と地球温暖化」でしょうね。この問題は元米国副大統領のアル・ゴアさんが主演した2006年の映画「An Inconvenient Truth(不都合な真実)」ですっかり有名になりました。現在の主要先進国の趨勢は“地球環境を守るために化石燃料使用を減らしてCO2排出量を削減し、温暖化に歯止めをかけよう!”ということなのですが、「CO2による温暖化なんてフェイクだ!」という人たちや、あるいは「発展途上国にはCO2を排出する権利がある!」という主張もあって、今でもホットな、というか、ほとんど喧嘩腰の議論が戦わされています。

単なる気象やCO2データの科学的解析だけなら、簡単に結論がでそうなものだけど、そうはいかないのが世の常・・・・・・確かにCO2削減となれば、国や地域によっては死活問題だろうし、政治的・経済的にさまざまな利害関係を持った勢力がこの問題にコミットして問題を複雑化しているようだし・・・・・・おそらく数十年〜100年といった時間がこの議論に決着をつけてくれるのでしょうけど、“時、既にtoo late”だったら困りますね〜

とりあえず今、原稿を書いている私の立場としては、@少なくともここ数十年間、急速にCO2排出量が増加しているのは事実。ACO2(だけではないけれど)が温室効果を持つことも間違いない。Bよって、どれくらいの割合で寄与しているかは別にして、CO2排出が地球温暖化に関与している可能性は除外できない。Cそうなら食生活に関してもCO2排出は減らせるものなら減らす方が良い・・・・・・ということで冒頭の研究に話を戻します。

著者らは、「生産者〜消費者の過程で、食物が環境に与える負荷をどのようにしたら減らすことができるか?」という観点で研究を進めています。彼らは世界中から38,700の農場と1,600の加工工場、包装、小売を調査してデータベース化し、主としてさまざまな食品が製品化される過程で主として排出されるCO2排出量に焦点を当てて解析しています。

研究結果から、食品を生産するのにどれくらいのCO2が排出されるかを紹介しますと、まず蛋白質ですが、豆腐100g生産するときに排出されるCO2量を2とすると、牛肉100g生産に要するCO2排出量は50、以下羊肉20、豚肉7.6、チーズ11、鶏肉5.7、養殖魚6、卵4.2、豆類0.3〜1.2でした。乳飲料1Lの生産では牛乳3.2、豆乳1、でんぷん質1,000kcalでみると米1.2、ポテト0.6、その他果物や野菜などを比べてみても、やはり牛肉など肉類・乳製品の生産が際だって多量のCO2を排出することが分かります。また、肉類・乳製品は人類の消費カロリーの18%を供給しているのだけど、その生産のために農地の83%を占有し、CO2排出原因のうちの60%を占めているそうです。加えて肉類・乳製品の生産は水の使用量と水質汚染、酸性化物質の放出にも大きなウエイトを占めていました。

そこで著者たちはこう主張します。「食物と環境問題を考える時、生産者のできることは限られており、むしろ消費者が果たすべき役割の方が大きい。もし人類が完全なベジタリアンになれば、現在のCO2排出量を半減できるのみならず、世界の農場の75%を自然に戻すことができる、そのうえ、酸性化物質も水質汚染も半減できる」・・・・・・う〜ん、なかなかラディカルな主張ですね・・・・・・

「すごい!これぞ温暖化の救世主!」と言いたいところですが、さすがにちょっと非現実的です(まあ、著者らもそれは分かっているのですが)。仮に温暖化が防げても、人類の生活がとても貧しくなってしまうような気も・・・・・・第一、人類は一度手にいれた“豊かな食生活”は手放せないのではないでしょうか。やっぱり私も肉も卵も食べたいし・・・・・・なんて言っていると「喝!母なる地球を守る気がないのか!」という叱責が飛んできそうなのですが・・・・・・でもね、私も一人の弱い人間なのです・・・・・・(定番の居直り方です)

例えば車や電気製品は“環境に優しいエコ仕様にシフトしよう”という方向にあるけど、その効果たるや、たかが知れたものです(と、この論文の著者らは述べております)。それよりずっと大きなインパクトがある“環境負荷が少ない食生活”について一人一人が考え“CO2排出の少ない食品を選ぶ”という意識を持って努力するべき時が来ているのかも知れませんね。

「そう言うあなたは努力する気あるの?」とお聞きになりたい方もあると思いますが、字数も尽きましたので、その話はまた今度・・・・・・

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2018年09月01日

pm2.5による大気汚染と糖尿病

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糖尿病ネタが続きますが……“大気汚染”は世界レベルでみても極めて重大な健康リスクであり、その評価と対策は喫緊の課題(お役所的表現!)です。大気汚染と他のリスクと比べてみると、ヒトが自らの文明発展と引き替えに地球環境を変えてしまったツケを払う……という構図が特徴的だと思うのです。大気汚染の中で最も注目されているのは、かの有名な微小粒子「pm2.5」です。

pm2.5による大気汚染と健康リスクについては、既に多くの研究がなされていて、心血管病、呼吸器疾患、腎臓病など多くの、いわゆる“非感染性疾患”の罹患リスクを上昇させることが知られています。また、最近では糖尿病罹患リスク上昇が注目されているのですが、いったいどの程度のリスク増加を来すのかについては明らかではありませんでした。

そこで米国ワシントン大学のグループは、登録時点で糖尿病の病歴のない退役軍人約173万人をデータベースから抽出し、中央値で8.5年にわたって患者情報と環境情報を観察した結果を解析しました(ランセット・プラネタリー・ヘルス誌 2018年7月号)。さまざまな因子で補正して統計処理を行ったところ、pm2.5が10μg/m3増加すると「糖尿病の罹患リスク」が15%上昇し、「すべての原因による死亡リスク」は8%上昇しました。この上昇が偶然によるものではないことを検証するためのひとつの方法として、pm2.5とは関連がないと考えられる「下肢骨折発症率」を対象として検討したところ、pm2.5が増加しても下肢骨折発症は全く増加していませんでした。一方、大気中のpm2.5の対象として大気中のナトリウム濃度と糖尿病との関係について検証してみると、両者の間には全く相関は認められませんでした。著者らは、これらのデータに基づき、2016年の全世界の糖尿病罹患患者のうち約320万人(24%)はpm2.5によるものと推論しています。

このpm2.5による糖尿病リスク、わずか2.4μg/m3あたりから増加し始め、10μg/m3では上記の如く明らかに増加します。そしてこのpm2.5レベル、毎日ネットにアップされる“全国各地、現在のpm2.5情報”をみると、いかに低いレベルで糖尿病リスクが増加するのかがわかります。この原稿を書いている時点(7月12日の午後)の大阪府全体の平均値は15μg/m3ですが、定点観測値のデータをみると「浜寺」は45μg/m3、「深井」は29μg/m3でした。“この日はpm2.5が少ない日”とのことでしたので、“普通の日”や“多い日”はもっと高くなって、軽く数十μg/m3を超えているのでしょう。なお環境省が公表しているpm2.5に関する基準が「年平均15μg/m3以下、1日平均35μg/m3以下が望ましい」ということですので、糖尿病罹患リスクを上昇させる10μg/m3の増加という現象は“注目もされない日常茶飯事の出来事”とことになります。

そこで著者らは「今の基準は甘過ぎる。基準を緩めようとするロビー活動もあるが(やはり規制緩和を求める人たちも少なくないようです)、もっと厳しくすべき」と考えているようです。私も「おっしゃるとおり!」と言いたいのですが、だったらどうしたら下げられるのか?となるとかなり疑問符が……文明の質というか、パラダイムそのものをシフトしないと無理なような気も……要するにグローバルな視点で大気汚染を考え直して国際協調、ということが必要なのでしょうけど、うまくいった国際協調なんて最近見たことないからな〜

なおpm2.5と糖尿病発症のメカニズムですが、pm2.5のような化学活性物質や酸性化物質を含む微小粒子を肺から吸入→肺胞で慢性炎症惹起(当然呼吸器疾患も起こります)→炎症は全身性反応として広がる→炎症状態によってインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)→糖尿病リスクが高まる、ということは十分あり得る話です。

さて、ここで「pm2.5は糖尿病リスクを高める、では既に糖尿病に罹患している患者に対するpm2.5の影響は?」という問いを立てることができます。これについては少し前に論文がでていて「長期間高いpm2.5にさらされた、とくに女性の糖尿病患者では心血管病と脳卒中リスクが44%ほど上昇する」と報告されています(米国心臓協会誌 2015年11月号)。この論文の著者らは、糖尿病患者は毎日pm2.5値をチェックして高い日は外出を控えたほうが良い、と述べています。それもまた大変な話ですが、確かにpm2.5は粒子サイズからみて、ハイ・レベルの作業用・医療用マスクでないと防げない(しかし装着していると息苦しい)ので外出しないほうが現実的かも……

さて、話が“プラネタリー・レベル”から急に小さくなって恐縮ですが、結論としては「pm2,5値の高い日は不要不急の外出を控える」という“荒天時の気象庁発表注意喚起”に準じた対策でいかがでしょうか。
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2018年08月15日

がんになると糖尿病に罹りやすくなる!?


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糖尿病は代表的な生活習慣病であり、患者数は数百万人を超えると言われています。糖尿病でみられる高血糖・高インスリン血症・インスリン抵抗性は網膜・腎臓・末梢神経に独特の「糖尿病性細血管障害」を引き起こすだけではなく、全身の動脈硬化病変の進展を加速し、心血管病や末梢動脈疾患のリスクを大きく高めることはよく知られています。一方、糖尿病は「がん」の危険因子でもあることが明らかにされています。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖尿病の患者さんはがんに罹りやすいことは、まず間違いないと考えられています。

では、逆にがんに罹ると糖尿病になりやすくなることはあるのでしょうか。最近、お隣韓国のグループこの問題について研究を発表しました(米国医師会雑誌・腫瘍学 2018年6月、オンライン版)。韓国では医療保険が一元化されていて、すべての外来・入院患者情報は国の機関が管理しているので正確な大規模データが得られますし、日本人と人種的にも近いので、参考にすべき点も多いと思うのです。

著者らはまず、データベースから、2003年から2013年の間で、調査の時点で糖尿病に罹患しておらず、がんの病歴もない20〜70歳の住民ピックアップし、その後のがんの発症と糖尿病発症リスク増加との関連を検討しています。対象となったのは住民494,189人(男女比1:1)で、平均7年間フォローアップしたところ15,130人ががんを発症し、26,610人が糖尿病を発症しました。結果を年齢・性別・がん発症前の糖尿病の危険因子などで補正して解析したところ、がんを発症すると、その後の糖尿病に罹患する危険度は、がんを発症していない人に比べて1.35倍高いことが分かりました(がん発症後の糖尿病発症率の実測値は患者1,000人あたり1年に17.4人)。すなわち“がんに罹ること”は糖尿病の独立した危険因子だったのです。


がんの部位別でみると、最もリスクが高くなるのは膵臓がんで約5.2倍、ついで腎がん、肝臓がんで約2倍、血液がん、乳がんで約1.6倍、胃がん、甲状腺がんで約1.3倍でした。
一方、子宮・卵巣がん、大腸がん、前立腺がんなどでは糖尿病発症のリスク増加はみられませんでした。がん発症後の年数でみると、がん発症後1〜2年以内が最も高くて約1.5倍だったのですが、少なくとも10年後までは糖尿病発症リスクは約1.1〜1.2倍程度高まったまま推移しました。

膵臓は糖尿に最も深くかかわるインスリンの産生臓器ですから膵臓がん発症後に糖尿病発症リスクが著しく高くなるのは当然かも知れないのですが……その他の部位のがんと糖尿病発症との関連を明快に説明することは簡単ではありません。しかしがんに罹患することによって生じるさまざまな内臓機能の変調や炎症・免疫システムの変化、あるいはさまざまな治療による生物学的ストレスの増加など、いずれもインスリン作用を阻害し、これらがその後の糖尿病発症に結びつく可能性は十分あります。そう考えると「がんに罹ること」が糖尿病の独立した危険因子であることは、それほど不思議なことではありません。

この研究を踏まえて、実践に生かせることがあるとすれば、ひとつは、がんに罹患して運良く長期生存ないし治癒が得られても、糖尿病を対象とした項目を含む検診を怠らないことです。できればがんの経過観察とともに、新たな病気にも目配りして頂けるような「かかりつけ医」を決めておくことをお勧めします。

もうひとつは、めでたく長期生存ないし治癒〜すなわち“がんサーバイバー”になったからと言って、「おれの人生観は変わった。せっかく勝ち取った残りの人生、うまいものをたらふく食って、思い切り酒飲んで……」という生き方は止めておく方が無難です。こういう方、実は少なくないのですよね〜まあ、気持ちは分からなくはないけど……「幸運を無駄使いすれば、すり減ってタダの運になる」という警句をご存じですか?えっ、知らない!?そうでしょうね〜今、思いついた警句ですから……でも自分では真実に近いと思っています。

Good luck, my friends!

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2018年08月01日

“うつ病の時代”〜薬剤誘発性抑うつ障害

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病気のことを、あまり単純化して説明するのはいかがなものか、とは思うのですが、うつ病という病気をあえて一言でいえば、「うつ病は心的エネルギーの低下である」となります。その中核となるのは“悲哀(メランコリー)”や“自己否定”の感情で、しばしば睡眠障害や食欲低下、頭痛・腰痛などの身体症状を伴い、身体症状のみが前面に出ることも稀ではありません(仮面うつ病)。また一見、“落ち込み”ではなく“不安・焦燥・興奮”などがめだつこともあります。「うつ病」「抑うつ障害」「気分調節障害」などさまざまな名で呼ばれ、その病型分類は複雑です。加えて最近は「新型うつ病」など、新たな概念や名称が提唱されたりして、よけいにややこしくなっています。

うつ病(いろいろなうつ状態をひっくるめていると考えて下さい)、いったいどれくらいの人が罹っているのでしょうか。以前は日本では一般人口の1〜2%と言われていました。しかし欧米では10〜20%以上という報告はざらにあります。日本も1〜2%どころではなく少なくとも5%程度はあると考えるのが自然です。すなわちうつ病はありふれた病気なのです。また、うつ病は本質的には治る病気です。軽症なら診察を受けるだけでもかなり改善しますし、中等症〜重症でも多くは投薬治療で改善します(すなわち脳内に生化学的変化が生じているのです)。とにかく早めに専門医の診察を受けることが大事で、これによりうつ病の最悪の転帰である自殺企図のリスクを最少化できます。

また、私たちの年代では、うつ病を違った観点から考える必要があります。“持病”と“薬剤”の影響です。たとえばがんや糖尿病などの病気に罹患しているとうつ病を発症する確率はかなり上昇し、欧米人並に20%以上となるという意見もあります。もうひとつの問題は薬の服用で起こり得る“薬剤誘発性抑うつ状態”です。どんな薬がうつ病を起こすのかについては、「ほとんどの薬でその可能性がある。しかし頻度は不明(実際、副作用リストにもそう記載されます)」と言わざるを得ません。

“うつ状態を起こし得る薬剤”の横綱格は、多種多様の炎症・免疫疾患などに処方される「副腎ホルモン剤」、それにウイルス肝炎治療に効果を発揮する注射剤の「インターフェロン」です。後者については、最近優れた経口抗ウイルス剤がでてきたので、使用機会はめっきり減りましたが……このふたつの薬剤なら投与された人の数%くらいに確実にうつ病の症状が現れます。次に多いのはおそらくは降圧剤です。多くの種類の降圧剤でうつが生じることが報告されています。頻度はそう高くはないと推測されますが、何しろ使用頻度が高く、もともと一般人口の約5%がうつ病に罹患しているので、個々のケースで薬剤が原因であると特定することは容易ではありません。また降圧剤以外にも、頻用される抗潰瘍剤、頭痛薬、心臓病薬など、うつ病を引き起こすポテンシャルを持つ薬剤は枚挙にいとまがありません

また、高齢になればなるほど、複数の病気を抱えることが多くなってきます。ということは複数の薬剤が処方され、何種類も服用する〜これを“ポリファーマシー”といいます〜機会が増えることになります。では、この現象はどれくらいうつ病のリスクを高めるのでしょうか。

この問題に関連して、最近米国イリノイ大学シカゴ校のグループが米国医師会雑誌6月号に論文を発表しました。著者らは18歳以上の米国人26,192人(平均年齢46.2歳、男性49%・女性51%、うつ病罹患7.6%)を対象に2005年から2014年までの10年間、「可能性がある有害事象として“うつ”が記載されている薬剤」の処方歴と、実際にうつ病と共存しているか否かを解析しています。なお、市販薬の抗うつ剤を使用している人(米国では抗うつ剤が市販されていて診察なしで購入可能とのこと。常用者はなんと数千万人!?)、既に抗うつ剤で治療を受けている人、降圧剤で治療を受けている高血圧症患者は対象から除外されています。

さて結果ですが、副作用として“うつ”記載がある薬剤の使用者は、ここ10年で35%から38.4%に上昇しており、これらの薬剤を3種類以上同時に服用している人は6.9%から9.5%に増加していました。また、観察期間中にうつ”の症状が現れたのは、これらの薬剤3種類以上同時服用者では15%、これらの薬剤を全く服用していなかった人では4.7%でした。やはり“ポリファーマシー”には一定のリスクがありそうです。

ありふれた薬剤服用中に、ありふれた病気の症状がでてくる……その関連性の有無を検証することは簡単ではありませんが、たいていの薬剤はネットで副作用の詳しい情報を得ることができます(処方薬をもらう薬局で薬剤師さんが副作用の概略は説明してくれるのですが、稀なものも含め、すべての可能性のある副作用に言及するのは無理だと思います)。

「このところ気持ちがネガティブになってしまう、体のだるさや食欲不振がとれない……
昔はこんな自分じゃなかった……」なんて思うときには、「薬剤惹起性うつ!?」ということもあるので、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。

「役に立つクスリ、でもときどきリスク」ということもまた、現代のありふれた情景なのです。



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2018年07月15日

我が内なる海、マイクロビオーム


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ヒトは無数の細菌・微生物と共生しています。ヒトの全構成細胞数は約40〜60兆個とされていますが、体内に住む細菌・微生物は約200種、その数、実に数百から千兆個と考えられています。これらの細菌・微生物群は「マイクロビオーム」とよばれ、ヒトの細胞・組織と情報伝達を行いつつ、ヒトの「健全な恒常性維持」に重要な役割をはたしています。「マイクロビオーム」の異常が多くの疾患の発症・進展に関わっていることは、もはや疑いなく、マイクロビオームの大票田である腸内細菌叢を中心に精力的に研究が進められています。ある種の疾患では “健常者からの便移植治療!”が行われており、一定の効果をあげています。

マイクロビオームはしばしば外界からの影響をうけるのですが、その代表的なものに抗生剤の投与があげられます。抗生剤は細菌感染症の治療に必要不可欠ですが、過度な抗生剤使用は、抗生剤が効かない「耐性菌」の出現に繋がります。時には現在使用できる、ほぼすべての抗生剤が効かない「多剤耐性菌」が院内感染の形で集団発生し、治療に難渋することも稀ではありません。

そうは言っても、抗生剤治療は現在、もっとも有効な治療手段のひとつです。しかし抗生剤はたとえ適切に投与されても「マイクロビオーム」に一定の影響を及ぼすはずです。その場合、いったいどんなリスクがあるのでしょうか。

個人レベルの抗生剤投与による短期的影響として、欧米では「退院後90日以内の敗血症リスク」が注目されています。敗血症とは細菌感染が血流に乗って全身に広がり、重大な臓器障害を引き起こしている状態で、致命率も高い危険な病気です。ある米国の研究報告では、43,095人を対象として「感染症に関連しない入院」「感染症に関連する入院」「クロストリジウム・ディフィシル感染症(強力な抗生剤治療のあと“マイクロビオームの撹乱=菌交代現象”によって増殖し重篤な腸炎を引き起こします)による入院」の三つに分けると、退院後90日以内の重症敗血症の発症率はそれぞれ、4.1%、7.1%、10.7%でした。また退院後90日以内とそれ以降の期間での重症敗血症発症率を比較すると、退院後90日以内では3.3倍高いという結果がえられました(米国呼吸器集中治療医学雑誌 2015)。

まあ、ちょっと退院後90日以内の敗血症発症率が高すぎるような気がしますけど、“感染症による入院”→“抗生剤治療”→“マイクロバイオームの撹乱”→“退院後の敗血症”という図式は成立します。そこで最近報告された「米国疾病防疫センター(CDC)」のグループは抗生剤投与と退院後90日以内の敗血症の発症についての大規模研究を見てみましょう(臨床感染症 2018 年4月号)。

この研究の著者らによれば、516病院のデータからのべ約1,275万件!の退院事例について調査したところ、0.17%の患者が退院後90日に重症敗血症または敗血症ショックを発症していました。入院中に投与抗生剤が投与された患者をマイクロビオームに対する影響の大きさによって、“高リスクの抗生剤が投与された患者”、“低リスクの抗生剤が投与された患者”、“極小リスクの抗生剤が投与された患者”の三群に分けると、高リスク抗生剤投与群では抗生剤非投与群に比べて敗血症が65%増加していました。 一方、低リスク、極小リスクの抗生剤の影響は小さかったようです。

なお、著者らが定義したマイクロバイオームを撹乱しやすい“高リスクの抗生剤”には、主として現在非常によく使われている、強力で広い範囲の細菌に効果がある「最新・最強の抗生剤グループ」が含まれ、 “低リスク”は30〜40年前から使われてきた「長く使われているが今も有用な抗生剤」です。“微小リスク”には「最古の抗生剤であるペニシリンと投与経路の組織移行の特殊性から考えてほとんど腸内細菌に影響しない薬」が含まれます。

いずれにしても抗生剤投与は必要最小限として、できるだけ「マイクロバイオーム」を乱さない方が無難のようです。そして入院で抗生剤投与を受けたときには、退院して少なくとも3ヶ月は体温くらい計っておいた方が良さそうですね。

かく言う私も、最初の入院は5年前 20日ほどでしたが退院後2ヶ月で敗血症を発症して緊急入院しました。確かに初回入院時に使った抗生剤は“高リスク”の薬剤だったような……もちろん退院後体温は毎日計っていましたよ。それでこれはやばい、と思って、119をコールして救急車に来てもらいました。医師としては何度も乗っていますが、むろん患者としては初めてでした……まあ、乗り心地は悪い、サイレンはうるさい(文句言っている場合じゃないですけど)、なによりも恥ずかしい……あの経験は一度でこりごりです。



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2018年07月01日

座位時間が長いと時間旅行ができなくなる?!

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皆さんは最近記憶力が悪くなったな〜と思いませんか?やはり若い頃のようにはいきませんよね。私は新しいことを憶えたら、その分古いことを忘れていくような気がします。「騏麟も老いては駑馬に劣る」という古い中国の諺がありますが、もともと“騏麟”じゃないので、どこまで衰えるかと思えば、ちょっと怖いな……

人の記憶には二通りあります。ひとつは“普通の記憶”で、個人の過去・現在・未来とは関わりのない事象に関する記憶、例えば「円の面積はπr2で求めることができる」や「大政奉還は1867年」などがこれにあたり「意味記憶」とよばれます。もうひとつが「エピソード記憶」で、それぞれの人の過去の“人生におけるイベント”の記憶です。

この「エピソード記憶」、最大の特徴は、“時空を超え、いついかなる時でも、そのイベントがあった時、所、人、そしてその時の感情さえも、鮮やかに再構成できる”ことです。そればかりではなく、空想という翼をつければ、現在を超え、はるか未来のことまで脳裏に描くことも可能です。この脳の“記憶とともに主観的な時間軸に沿って行き来する機能”を、記憶研究の第一人者であるトロント大学のエンデル・タルヴィング博士は「メンタル・タイムトラベル」と名付けました(米国アカデミー紀要 2010)。なかなかロマンティックな命名ですね〜

このメンタル・タイムトラベルという機能を発揮する際には、記憶の主座である脳の海馬を中心とした内側側頭葉(MTL)という部位が重要な働きをしていて、そこでは“物に関する情報”と“時間に関する情報”が見事に統合されるようになっているそうです(サイエンス誌2011)。そして加齢とともにこのMTLの機能も低下するとされていますので、ここは何とかMTLの機能を維持したいところです。

現代人は座位時間が長くなりすぎている、といわれています。とくに高齢者でこの傾向が強いようです。最近、「座位時間と健康・疾病との関連」についてさまざまなデータが蓄積されつつあります。例えば座位時間が長いことは“すべての原因による死亡”や“心血管病による死亡”の増加と関連していて(欧州疫学雑誌2018)、“がんの罹患率”も上昇させると報告されています(ランセット腫瘍学2017)。また、たとえ座位以外の時間帯に運動を励行しても、座位時間が長いことによる悪影響を必ずしも打ち消せないとする報告も少なくありません。

高齢者にとって、過去を振り返ることは、単なる“ノスタルジー”以上の意味がありそうです。たぶん現在の自分を肯定的に承認するうえで重要なのではないかと思うのですが……例えばフランク・シナトラの「My Way」なんてエピソード記憶による自己肯定の塊のような歌ですよね。ちょっと品がないけど……「だからシナトラは好きになれない!」とおっしゃる方、シャルル・アズナブールの「帰り来ぬ青春 Yesterday When I Was Young」はいかがでしょう? いずれにしても「エピソード記憶」は高齢になっても「時をかける高齢者」であるためにとても重要なのだろうと思うのです。

しかしあまり座ったままの生活を送っていると、「エピソード記憶」の主座であるMTLが薄くなってくる、という研究結果が報告されました(プロス・ワン誌2018)。米国UCLAのグループは35人の認知症のない中高年(男性10人、女性25人、45〜75歳)を対象に、質問表で生活習慣を問うとともに高解像度MRIでMTLの厚みをチェックしました。すると、座位時間の長さとMTLの厚みは逆相関するという結果が得られました。一方、運動とMTLの厚さとの間には相関は見られませんでした。要するに座りっぱなしだと大事なMTLが痩せてくる、というわけです。すなわち体重だけ増えて、MTLは痩せるということでしょう。これは、いくらなんでも最悪です。「エピソード記憶」の貯蔵量がどんどん減っていくのは勘弁してほしいな〜と思いますね。

となれば“アームチェアに腰掛けながらブランデーのグラスを傾ける時、過ぎ去りし日の想い出がよみがえる”…というのは、どうもリスクが高そうです。想い出に浸る時は、ちょっとせわしないですけど、20〜30分に一度は立ち上がって、軽い体操をして、少し周りを歩いた方が・・・・・・とにかく生涯タイムトラベラーであり続けるには、長く座り続けない生活習慣が肝要です。



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2018年06月15日

睡眠不足とアルツハイマー型認知症〜たとえ一晩の徹夜でもリスクが高まる?!〜


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ご承知のとおり日本は超高齢化社会にむけて突き進んでいるところですが、いまだ有効な対策は立てられてはいません。社会の高齢化が進めば、加齢にかかわる病気の罹患率は確実に上昇します。とりわけアルツハイマー型認知症の増加は、家族、コミュニティ、医療現場、そして社会における大きな問題となると思われます。

アルツハイマー型認知症は脳内にいわば“タンパク質のゴミ”が蓄積して、神経細胞のネットワークが破壊されていく病気です。蓄積するタンパク質は大きく二種に分けられます。
ひとつはアミロイドβ(Aβ)で、もうひとつはタウ(Tau)タンパク質です。Aβは大脳皮質の神経細胞外に蓄積してアミロイド斑を形成し、一方リン酸化されたTauは神経細胞内部に蓄積し“神経原線維変性”を生じます。これらの変化は進行性で、近傍の正常神経細胞がドミノ倒しのように変性していって認知症に至るとされています。詳細なメカニズムはまだ未解明ですが、初期病変の発症・進行にかかわる可能性がある因子のひとつとして“睡眠不足や睡眠の質の悪化”が挙げられています。

現代人の多くは睡眠時間が不足しがちで、それが積み重なって“睡眠負債(sleep debt)”を背負った状態になっているといわれています。この言葉は最近とみに有名になり、2017年の流行語大賞ベスト10にも選ばれました。この睡眠負債なるもの、少々やっかいで、認知症のみならず、免疫系や神経内分泌システムにストレスとして働き、さまざまな疾患を引き起こす可能性が指摘されています。普通の負債のように、○○法律事務所に相談してもダメで、着手金無料、過払い金が戻ってくる、というわけにもいきません。仕事や生活環境を見直し、適度な午睡もとりながら生体リズムにそって規則正しい生活の中で睡眠時間を確保し睡眠負債を返済していく・・・・・・そんなこと言われなくても分かっているわ!・・・・・・ですよね〜まあ、努力目標ということで。なお“午睡”ですけれど1回30分以内なら有益とされており、1回1時間以上となれば、とくに高齢者では心血管病のリスク増大につながる可能性あり(睡眠医学レビュー誌 2017)、とのことですのでご注意下さい。

さて、話を“睡眠とアルツハイマー型認知症”の問題に絞ります。まず睡眠が認知症と、どう関連するかですが、「睡眠は脳のなかにできたゴミを脳外に運び出すのに重要な働きをしている」という動物実験(マウス)の結果があります(サイエンス誌 2013)。その後この研究結果は専門家の間で支持されつつあるようです。上述のAβもリン酸化されたTauもいわば脳内のゴミですから、睡眠が不足するとゴミがたまりやすくなり、ひいては認知症のリスクが高まる可能性はあり得ます。

ではほんとうにヒトでもマウスのように睡眠不足でゴミがたまるのでしょうか?その答えとなるかも知れない論文が最近発表されました。それによると「確かに睡眠を妨げるとAβが溜る。しかも一晩徹夜しただけでも、その分ゴミが溜る」ということが報告されました(米国アカデミー紀要 2018)。最近の脳内イメージングの進歩には目をみはるものがあり、フッ素の放射線同位元素である18Fで標識したフロルベタベンという物質を注射して、がん検診などに使うPETで撮像すれば、注射薬は脳内のAβに結合して、その分布を可視化することができます。

結果は、たった一晩徹夜するだけで、アルツハイマー型認知症の主要病変部位である海馬、海馬傍回、視床にAβの蓄積が確認されたとのことです。ただこれらのAβ蓄積部位は、慢性の睡眠不足で生じるAβの蓄積部位とは異なっているようで、アルツハイマー型認知症における意義については、まだまだこれからの検討課題ではありますが・・・・・・

さすがに60代も後半になって徹夜する人はあまりいないだろうけど・・・・・・皆さんも学生時代の麻雀(最近の若者は麻雀を知らない人も多く世代の差を実感します)、社会にでてからは夜間勤務などで徹夜した経験のある人も少なからずおられると思います。私の場合は病院の当直勤務で月数回ペース・・・・・・当直って、急患が多ければもちろん、少なくても寝られないのですよね〜

いまさら言っても仕方ないけど、当時の徹夜による睡眠負債は脳内Aβの蓄積となって、現在脳内で密かに進行しているかも・・・・・・しかも利子がついて・・・・・・願わくば、サラリー・ローンのような法外な利子は勘弁してほしいな〜そしてもう手遅れかも知れないけど、良質の睡眠をしっかりとりましょうね。





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2018年06月01日

血液型O型は重症外傷での死亡率が高い?!

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ABO血液型性格診断なるものがあります。これが根強く流布しているのは日本などアジア地域だけで、欧米などから「非科学的であるうえに、“血液型ハラスメント”の原因にもなる!」として批判されています。私もこの批判には同意しますけど、かつて大統領とファースト・レディが星占いにのめり込んでいた某国には言われたくないな〜と思うのですが……

しかし、性格はともかく、ある種の病気や病態がABO血液型と関連しているか否か?ということになれば、これは「ほぼ間違いなく関連している」と言えます。従来から血液型との関連が示唆されている疾患として、がん、感染症、虚血性心疾患、血栓症などが報告されていたのですが、今回紹介するのは血液型が重症外傷での死亡率と関連するという研究で、東京医科歯科大学からの報告です(クリティカル・ケア誌on line 2018年5月)。

さてABO血液型について、ざっくり説明しますと、すべての人(希有な例外はあるけど)は赤血球表面にH抗原を持っていて、これだけだと血液型はO型になります。このH抗原に「N-アセチルガラクトサミン」という糖が結合すればA型に、「D-ガラクトース」という糖が結合すればB型に、両方が結合すればAB型になります。これらの血液型表面抗原は赤血球のみならず、上皮細胞、血管内皮細胞、血小板などにも発現しているので、生体内で何らかの機能を担っていることは疑いなく、血液型の違いによって、その機能にも違いが現れてくる可能性は十分考えられます。

さて。東京医科歯科大学救命救急部の論文ですが、対象となった患者さんは901名で、外傷部位と程度で決まる「外傷総合重症度(1〜75点でランク付)」で>15点、すなわち入院が必要なレベルの患者さんたちです。血液型の分布はO型32%、A型32%、B型23%、AB型13%で、日本人におけるABO血液型の分布と大きくは違いません。この研究でもっともインパクトのある結果は“すべての原因による死亡率”で、O型以外の血液型での死亡率は11%であったのに対しO型では28%と、明らかに高かったのです。結果に影響を与えそうなさまざまな因子で補正しても、やはりO型は、O型以外と比較して死亡率は2.86倍高い、という結果が得られました。「えっ、ほんとに?!」と言いたくなるような差ですね・・・・・・

なぜ“O型”と“それ以外の血液型”で比べるのか、について少し補足しておきます。まずH抗原が糖で修飾されているか否か、という決定的な違いがあること、また4型に分けると、ABは少数で正確なデータが出にくいし、さらに諸外国ではAB型のみならずB型も少なくてO+Aで90%を越える国が多く、4型に分ける意味はあまりないのです。

さまざまな病気におけるO型vs非O型の違いについては以前からけっこう報告があります。簡単にまとめると、感染免疫学の視点からいえば、O型はマラリアの死亡率が低いがコレラには弱い(医学遺伝学サマリ 2012)、また、がん免疫でみれば、すい臓がんや胃がんのリスクが低いとされています(がんの疫学誌 2015)。一方、血栓・止血学からみるとO型は出血のリスクが高いが深部静脈血栓症や虚血性心疾患のリスクは低いと報告されています(止血と血栓セミナー誌 2012, 2013)。要するに血栓・止血の観点からいえば“O型は血液が固まりにくい”と解釈できます。

今回の救急医学領域のO型の死亡率上昇も、易出血性の観点から議論がされています(ただ輸血量でみると差はないようですが)。確かにO型は非O型に比べると、出血に対応する防御機能である止血システムの初期段階で重要な役割を果す「フォン・ビレブランド因子」の量が25〜30%ほど低く、この因子と密接に関連する凝固第[因子活性(この因子が先天的に欠乏している病気が「血友病A」です)も低いことが知られています。今後さらに洗練されたデザインでの追試が必要ですが、論文の著者らも外傷での死亡率の高さは“O型が出血しやすい”ことに関連していると考えているようです。

ということで、いちおうO型のみなさんは、交通事故などにはくれぐれも気をつけてくださいね。「どう気をつけたら良いのか?」というご質問に答えるとしたら……そうですね〜フォン・ビレブランド因子の量が25〜30%ほど低いので……非O型の人より30〜40%ほどよけいに注意するのが良いかと……ちょっといいかげん過ぎるかな〜

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