2018年12月15日

フィッシュ・オイルは心の平穏をもたらす!?

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体に良い栄養成分の代表として、「オメガ3系多価不飽和脂肪酸」があります。
「何それ?!」と思われる方も、その中の“御三家”を挙げたら聞き覚えがあるのではないでしょうか。その3つとは「エイサコペンタエン酸(EPA)」「ドコサヘキサエン酸(DHA)」「アルファ・リノレン酸(ALA)」です。ALAは植物油由来なのですが、EPA、DHAはフィッシュ・オイルの成分として知られており、サンマ、イワシ、サバ、マグロ(トロの部分)に豊富に含まれています。

EPA、DHAはサプリメントとしても有名で、世界中で多くの愛用者を獲得しています。その効能として最も喧伝されているのは抗動脈硬化作用で、日本のメディアでは、しばしば“血液サラサラ”と表現されています。これらが他のサプリメントと一線を画するのは、ともに保険適応医薬品として認可されていることです。「高中性脂肪血症」や「閉塞性動脈硬化症」などが適応疾患となっています。

当初はEPA、DHAの効果への期待はどんどん大きくなり、2012の米国栄養学会機関誌に掲載されたある総説(栄養学の進歩・オックスフォード出版 2012)などは 「EPA、DHAには生涯を通じての健康利益がある」とし、胎児の成育、心血管病やアルツハイマー病に対する予防効果など、まさに“ゆりかごから墓場まで”の健康利益をぶち上げています。

しかし私自身のEPAやDHA製剤の処方経験を正直言えば、“明瞭な手応え”は乏しく、また効能効果を保証する第一級の文献も見当たらず、ただでさえ疑り深い私は、しだいに処方を控えるようになりました。こういう場合には、EPAやDHAの有効性についての論文を1編や2編ではなく、できるだけたくさん集めてその効果を検証する“メタ解析”で決着をつける必要があります。

最近、権威あるメタ解析の専門誌である「コクラン・データベース・システマテック・レビュー」に注目すべき論文が掲載されました(2018年7月)。この論文ではEPAやDHAによる心血管病の一次予防(既往のない人が心血管病になるのを予防する)と二次予防(既往のある人の再発を予防する)について検証を行っています。

その結果は・・・・・・ランダム化比較試験79論文のうち、偏りが少なく、まともそうな論文25編を対象として解析したところ、「EPAやDHA摂取を増やすことの益はほとんど、あるいは全くない。今まで喧伝されていた結果は“研究対象や手法の偏りによる偶然の結果”の可能性がある。ALAは、ひょっとしたら、ちょっとはマシかも知れないけど、その科学的根拠は弱い」という結果でした。また、同時期に他誌に掲載された糖尿病患者を対象にオメガ3系多価不飽和脂肪酸サプリメントの血管イベントに対する効果を検証した論文でもやはり有意な結果は得られませんでした(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン 2018年8月号)“やっぱりな〜”という感じですね・・・・・・

しかし現在「では、精神心理的病態に対してはどうか」という観点でEPAやDHAの効果についての研究を進めているグループがあります。日本の国立がん研究センターは健常者やさまざまな精神疾患、身体疾患をもつ患者さんにおけるEPAやDHAの不安軽減効果についてのメタ解析を行い、有意な効果を報告しています(米国医師会雑誌・ネットワーク・オープン 2018)。この研究は9月にはメディアでも取り上げられ、「毎日サンマ1.5匹、三か月で不安を軽減!」と紹介されました(今年はサンマが大量だったので良かったです)。まあ、そんなに強い抗不安効果ではないのですけど。

EPA・DHAを豊富に含むフィシュ・オイル・リッチな食生活は“心血管病を防ぐ”という科学的根拠は乏しいけれども、心の平穏をもたらしてくれる可能性があるかも知れません。なので、不安に襲われた時には苦手でなければぜひどうぞ。ただしサプリメントを購入してまで無理に摂取する必要はないと思います。となればサンマ・イワシ・サバの出番かも・・・・・・ほんとはマグロのトロが一番EPA・DHAが豊富なのだけど、値段高いし、三か月毎日は飽きるし・・・・・・

でもフィシュ・オイル・リッチな食生活による“有害事象(副作用)”もないわけではありません。それはもちろん“小骨が喉に刺さる”ことです。だんだん老眼が進むとリスクが高まりますから用心して下さいね。それに一度小骨が刺さると、また刺さるのではないか、という不安が逆に高まって、せっかくの抗不安作用も帳消しなんてことも・・・・・・なんだか自分でもすごく嫌みな論文の読み方をしているような気がするので、この辺で・・・・・・

……サンマが苦くても塩っぱくても(突然ですが佐藤春夫さんです)、
食べても食べなくても、皆さまに平穏な新年が訪れますように……



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2018年12月01日

簡単な“体力測定”で糖尿病リスクを評価する

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平成28年の厚生労働省発表によれば、日本人の成人で「糖尿病が強く疑われる人」は12.1%(男性16.3%、女性9.3%)、「糖尿病の可能性が否定できない人」は男女ともほぼ12.1%とのことです。合計すれば何と約2000万人です。まさに“堂々たる国民病”です。

さて、糖尿病の危険因子といえば、肥満、運動不足、座位時間が長いこと、不適正な食事習慣・・・・・・などたくさんあるのですが、知りたいのは「現在の自分にとって、将来の糖尿病リスクはどの程度か」ということではないでしょうか。
それもできれば簡単な方法で知りたいところです。その有力候補のひとつが「運動能力」です。とくに最大酸素摂取量などを測定する「心肺フィットネス」で示される運動能力は糖尿病罹患率と逆相関することが明らかになっています(欧州疫学会雑誌 2015)。とはいえ、この心肺フィットネスなるもの、専門的な心機能評価やアスリートの能力評価に用いるレベルの検査なので、広く普及させて誰にでも手軽に利用できるようにするのには、ちょっと無理があります。

そこで注目されるのは「ニイガタ・ウェルネス・スタディ」という日本のグループによる研究です(日本疫学会英文誌 2018)。この研究の対象は2001/04〜2002/03に登録された日本人21,802人(女性6,649人)です。この人たちは登録時には糖尿病に罹患しておらず、この時点で“体力測定”を実施、その後2001/04〜2008/03の間に“体力測定”を少なくとも2回実施しつつ,糖尿病罹患状況を調査しました。

この研究でおこなった“体力測定”の内容ですが;@筋力指標としての「握力」:立位で左右1回ずつ、高い方の値を採用し、体格差を補正するために握力(kg)/体重(kg)で評価、A下肢筋力指標としての「垂直跳び」:2回試技、良い方の記録(cm)/体重(kg)で評価、B体幹バランス指標としての「閉眼片足立ち」:両手は後ろに廻して“4分頑張って下さい”と伝えて3回試技、もっとも長かった時間を採用、C体幹柔軟性指標としての立位前屈:1回試技、できるだけのばした中指の位置を記録とする、D「全身反応時間」:圧センサー付マットに立って、2m先に発光シグナル装置を配置し、光ったらすかさずジャンプする。圧センサーで“シグナル発光から両足が空中にある時間を測定”する。3回試技で平均値を採用、E腹筋を評価する「下肢挙上時間」:臥位で両足を伸ばして踵を床から30cm以上挙上してできるだけ長く保持する。1回試技・・・・・・まあ、ふつうの“体力測定”だけど、全身反応時間だけは装置にお金をかけていますね。

この研究結果の解析方法ですが、すべての項目で、記録の良い順に並べて4等分して4つのランクに分けます。そして最も良い記録だったグループを基準にして、体力テストの記録が悪くなれば糖尿病の罹患率がどうなるかを検討しています。対象の年齢の中央値は50歳で、平均観察期間は5年、この間糖尿病を発症した人は972人(4.5%)でした。

さて、“体力測定”のどの項目の成績が悪いと、糖尿病リスクが高くなるかをみてみますと、6項目のうち、さまざまな因子をきっちり補正したうえで、なおかつ有意差があるのは@握力とB閉眼片足立ちの二つでした。最下位1/4のグループは最上位1/4のグループに比べて@では56%、Bでは39%の糖尿病罹患リスクが増加しました。実際、どれくらいの記録でリスクが高くなるのかといえば、握力/体重で0.5〜0.6(体重60kgなら握力30〜36kg)、閉眼片足立ちで10〜20秒以下ならちょっとやばいかも……

もっともこの結果をすぐに私たちに当てはめられるか、については問題があります。まずこのデータの対象者は私たちより十数年若い集団です。これだけ年齢が違うと、直ちに適応するのは難しいかも・・・・・・それに握力と糖尿病リスクの関係を否定する先行研究(ランセット誌 2015)もあるし・・・・・・もうひとつ、これを読んで頂いた方に重要なご注意を!・・・・・・「よし、では握力トレーニングや片足立ちを練習しよう!」と思った方もおられるかも知れませんが、訓練で握力が強くなり、また片足立ちが上手になったからといって、糖尿病の罹患率が下がる証拠はありません。また、「閉眼片足立ち」は、けっこう難しく、年齢による衰えは思っているよりもずっと大きいかも知れません。どうしてもやるなら周りを片付けたうえで、くれぐれも転倒・怪我には気をつけて。一方、握力については、握力計を入手する必要がありますが、わりあい安価なものもありますし、リスクはほぼないので、興味ある方は試してみてください。ただし勢い余って手関節を痛めることはあり得るので、そこはご注意を!


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2018年11月15日

便潜血でわかる健康リスク〜大腸がんだけではない

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便ヒトヘモグロビン検査、通称“便潜血”は大腸がんスクリーニングとして世界中で普及しています。検診で便潜血を行うことにより、大腸がん死亡率を低下させることができ、しかも検査自体にはリスクがなく、最も優れた“がん検診”のひとつと言っても過言ではありません。

便潜血が陽性であれば、必ず全大腸内視鏡検査が必要です。検診での便潜血陽性率は4〜5%くらいと報告している施設が多いのですが、全大腸内視鏡を行うと、陽性者のうちの2%くらいに大腸がんがみつかるとされています。では、もし大腸内視鏡で異常がなければ、「ラッキー、もう大丈夫」と言って良いのか、というのが今回のテーマです。どうも話はそう簡単ではないようです。

最近、英国スコットランドのグループが「便潜血陽性は“大腸がんの死亡率”のみならず、“すべての原因による死亡率”と“大腸がん以外の原因による死亡率”にも関係している」と報告しました(「ガット(腸)誌」2018年7月号)。彼らは2000年3月〜2016年3月に便潜血検査を受けた134,192人(女性53%)を対象に便潜血の結果と死亡原因との関係を調査しました。対象者のうち2,714人(約2%)が便潜血陽性でしたが、男性の陽性率は2.6%、女性は1.5%、と男性で陽性率が高く、また年齢が高いほど陽性率が高い傾向にありました。また便潜血陰性者の約18%、陽性者の約29%が、アスピリンなどの出血を来しうる薬剤を処方されていました。2016年末の観察終了時点で便潜血陰性者の9.6%、陽性者の21.9%が死亡しており、死亡時平均年齢は陰性者で71歳、陽性者で70歳でした。

さて、問題となる原因別による死亡リスクですが、結果に影響し得るさまざまな因子について補正を行って比較すると、便潜血陽性者の大腸がん(正確には結腸直腸がん)による死亡リスクは陰性者に比べ高く、7.79倍と算出されました。便潜血陽性者には進行大腸がん、あるいはがんが発見され、その治療後に再発した大腸がんの患者さんが多数含まれているはずですので、当然予想された結果です。

次に著者らは“すべての原因による死亡率”で便潜血陽性者と陰性者を比較しているのですが、この比較でも陽性者は陰性者に比べて1.76倍高い、という結果でした。しかしこの結果には“大腸がんによる死亡率の高さ”が影響しているはずです。そこで検討すべきは“大腸がんを除くすべての原因による死亡率”です。ところが、これについても便潜血陽性者は1.58倍の死亡リスクがあるという結果でした。さらに“すべての循環器疾患による死亡”でくらべてみると、やはり便潜血陽性者の死亡率は陰性者に比べ1.28倍高いという結果が認められました。同様に“呼吸器疾患による死亡率”では1.96倍、“消化器疾患による死亡率”では3.36倍、“神経精神疾患による死亡率”では1,66倍、“血液・内分泌疾患による死亡率”では2.06倍と、実に多彩な疾患において、便潜血陽性者の死亡リスクの上昇がみられたのです。

確かに便潜血陽性者は陰性者と比較して、大腸がん以外の病気に罹患している確率は高いと思われます。この論文の対象者をみても、アスピリンやその他の出血しやすくなる(同時に血栓ができにくくなる)薬剤(抗凝固剤や抗炎症剤)を処方されている人の比率は便潜血陽性者で多かったのです。心血管を主とした血栓性疾患や炎症性疾患の罹患者が少なくなかったと推察されます。血栓のできやすさは多くの心血管病につながりますし、炎症は死亡につながるような多くの病気の原因や増悪因子になり得る病態です。やはり“便潜血陽性”という状態はいろいろな意味からも多種多様な健康リスクをはらんでいる、と言っても過言ではないかも知れません。

では便潜血陽性で大腸内視鏡に異常がなければ、どうしたら良いでしょうか。
少なくとも大腸の非がん病変も、もしあれば見つかると思います。あとは高血圧、肝腎機能、脂質、血糖関連検査をよく見て下さい。基本的な炎症マーカーであるCRPの値があれば有益です。きっちり見た上で、かかりつけ医がおられたらぜひ相談してみて下さい。要するに健診項目をみる場合は、すべての項目を“気合いを入れてみる”のが良いかもしれません。単なる流し読みは読まないより悪いのでご注意を!チコちゃんに「ボーと生きてんじゃねえよ!」と叱られますよ(意味が分からない人は「チコちゃん・NHK」で検索してくださいね)。

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2018年11月01日

“運動はがんのリスクを下げるPart2”〜夢、はかなく?!

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2016年7月15日付けのこのブログで、“運動はがんのリスクを低下させる”というお話を紹介しました。その後も、このテーマで毎年数え切れないほどの研究論文が発表されています。生活習慣病の予防・治療における運動の効果は明らかなので、がん予防効果についても大いに期待されるところです。たとえわずかな低下でも、全世界で行えば大きな効果があります。多くの熱心な研究も、その期待の現れなのでしょう。

一方、このような状況で「しかし、ちょっと待て」・・・・・・という研究者も当然も出てきます。なぜなら、みんなが期待している結果は論文としてよりたやすく採択され、出版される確率が高くなることはよく知られています。これを「出版バイアス」といいます。要するに“研究が日の目をみるハードルが下がる”という現象が起こるのです。そこでブラジルのグループは、この問題について現時点での総括を試みました。彼らは今まで出版された19編の総説、26編のメタ解析(がんと運動についての総説を集めて解析する研究です)と541編の原著論文を合わせて、計22種類のがん、770,000症例を解析した結果を報告しました(英国スポーツ医学雑誌 2018年)。

ここで“運動とがんリスク”についての研究史に触れておきます。運動による大腸がんと乳がんのリスクが低下については30年前くらいから報告がありました。そしてここ10年ばかりの間で、膀胱がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、膠芽腫(脳の悪性腫瘍)、腎がん、肺がん、髄膜腫(脳腫瘍で一部悪性)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんでも運動のリスク低下効果が報告されるようになってきました。2016年にこのブログで紹介した論文も、26種類のがんのうち、10種でリスク低下を認めた、としていました。何だか運動はオールマイティにがんリスクを低下させる!との勢いです。

しかし今回のブラジルの研究者たちは、そう考えるには、より精緻な検証が必要と考えました。そこで“がんリスクを低下させるという根拠の強さ”について詳細に検討したところ、「まず間違いなさそうな科学的根拠があるのは、大腸がんと乳がんだけ」という結果になりました。その他のがん種では、バイアスも無視できないし、論文間のばらつきも多く、確かとは言えない、ということです。ちょっと夢はしぼみぎみ・・・・・・というところですね。

しかし一方、大腸がんと乳がんにおける運動のがんリスク低下効果は、十分信用できると考えて良さそうです。そうなると問題になるのは、なぜこのふたつだけなのか、ということでしょうね。運動には、慢性炎症・高インスリン血症の抑制作用、抗酸化作用があり、これががんリスク低下と関係している、と考察されるのですが、これでは“なぜ大腸がんと乳がんだけ?”の説明にはなりません。

運動は便秘の改善に有用で、大腸での便停留時間を短縮して消化管内容物から発生する発がん物質との物理的接触を減少させる、という説もあります。しかしリスク低下は結腸がんだけで直腸がんにはみられないという報告もあり(BMC公衆衛生 2018年;BMCはドイツのシュプリンガー社が出版する生物・医学関連雑誌)、発がん物質を特定して運動との関連を明らかにしない限り、仮説の域をでません。

一方、運動はエストロゲンの分泌を抑制する、という報告があります(乳癌の研究と治療誌 2015年)。乳がんの多くはエストロゲンなどの女性ホルモンで増殖する・・・・・・となればこれががんリスク低下のメカニズム!と言いたいところですが、乳がんの多くは更年期以降〜高年齢域に発症します。この時期はエストロゲン分泌が低下しているはずなので、単純な運動によるエストロゲン分泌低下で説明するのは無理があります。

更年期以降の女性ホルモン感受性の乳がんは、副腎皮質から少量分泌される男性ホルモン(女性でも少量の男性ホルモンが分泌されています)を、がん細胞自身が「アロマターゼ」という酵素でエストロゲンに転換して増殖するとされています(従って“アロマターゼ阻害剤”は有力な乳がん治療薬となっています)。そして運動自体は男性ホルモン分泌を抑制しないので、現時点では、この経路に関する運動の乳がん予防効果についての納得のいく説明はありません。

結論は「運動は結腸がんと乳がんのリスクを低下させる。ただしその機序は不明。また他のがんについての運動の効果のほどは怪しい」ということになります。「たった二つだけ〜」と思われるかも知れませんが、ないよりはマシ・・・・・・それにやりようによっては、コストもかからないし、体重が減るとか、他に良いこともあるし、無理のない程度で頑張って下さいね。

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2018年10月15日

“風呂は命の洗濯”のエビデンス

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ある有名アニメの中で「風呂は命の洗濯よ〜」というセリフがありました。疲れた後など、ほんとうにそのとおりだな〜と思いますね。もちろん、世界中どこでも日本のように、ゆったりと湯船に浸かる・・・・・・という国ばかりではありません。格別水事情が悪くなくとも、ホテルの部屋はシャワーだけ、というところも少なくないようです。それはそれで不便というほどではないのだけれど、やはり何か物足りませんね〜とはいえ、私はどちらかといえば“カラスの行水”だから、たとえ立派な“檜風呂”とか“岩風呂”とかでも、大して変わりはないのですが・・・・・・

温泉大国ニッポンでは、昔から入浴の健康に対する効用については各地で言い伝えられてきました。“湯治”という言葉もありますしね。それ以上に日本では入浴は一種の文化でした。もっとも“銭湯の文化”は“時代は遠くなりにけり”ですけど……銭湯文化を歌っている南こうせつさんの「神田川」は今でもよく耳にしますけど、実感がない人も増えているでしょうね。

医学研究の世界においても入浴の効用についての科学的根拠が報告されるようになったのはつい最近のことです。やはりこの分野を牽引するのは日本をはじめとする温泉大国の研究グループです。最近の報告をみますと、まずサウナ浴(sauna bathing)の効果についての報告が国内外からされました(米国心臓病学会誌:富山大学2012、米国医師会雑誌・内科学:東フィンランド大学2015、日本循環器学会誌・英語版;和温療法研究所2016)。なお「和温療法」というのは鹿児島大学名誉教授(現和温療法研究所)鄭 忠和先生が開発された“サウナ浴15分+安静保温30分+水分補給”からなる心不全などに対する日本発の入浴治療法です。これらの臨床研究は、サウナ浴には心血管疾患の死亡率の低下や、心不全患者の運動能力改善などの効果が期待されることが示されています。

では、私たちが日常普通に行っている入浴(hot water bathing)には効果はあるのでしょうか?この観点から研究を行った愛媛大学のグループの論文が最近発表されました(サイエンティフィック・リポーツ 2018)。対象は同大学の“抗加齢・予防医療センター”の人間ドックの受診者873名(平均年齢約66歳、男女比=4:6)で、入浴に関するアンケートを行う一方、動脈硬化指標として「超音波による頚動脈内膜中膜厚」と「上腕足首間脈波伝搬速度」を測定、また「中心血圧(大動脈起始部での血圧:普通に測定する血圧よりも低く、その質も異なっていて、臨床研究の評価項目としてより適正だとする意見があります)」の推定値を橈骨動脈(ふつうに脈をとる場所です)圧波形から求め、さらに心臓負荷の指標として血液中B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP:既に心機能を簡便に知る血液検査として定着しています)を測定しています。

さて、結果ですが、一回あたりの入浴時間は最長120分、平均12.4±9.9分でした。1週間あたりの入浴回数最多はなんと24!回(この方は道後温泉近くにお住まいかと推察します)で平均回数は5.8±1.9回でした。湯の温度については熱め(41℃<)は約13%、多くの人は中間温度(40−41℃)かぬるめの温度(40℃>)で入浴していました。入浴の効果について要約すると、「週5回以上の人は、4回以下の人に比べて動脈硬化指標、中心血圧、心臓の負荷、いずれもが低くなる。なお2回以上データがとれた対象者164人でみると、週5回以上の入浴者では経年的変化でも良い傾向がみられる」ということでした。

以上の結果から、効果を期待するなら週5回以上は入浴した方が良さそうです。動脈硬化を遅らせ、血圧を下げ、また心臓に対する負荷を減らせる、となれば値打ちがありそうですね。なお湯の温度については、“熱め(41℃<)”の方が、より高い効果が得られそうなのですが、これについては、著者らは「さらに検討が必要」としています。風呂が嫌いじゃなかったら毎日入浴、で良さそうです。湯の温度については、今のところ個人の好みに合わせれば良いのではないでしょうか。

この入浴に関する研究、日本では大いに発展しそうです。“有○温泉VS草○温泉”とか“天然温泉VS温泉の素”とか・・・・・・でも大規模研究ともなれば時間もお金もかかるからな〜実際にやるかどうかは、温泉にでも浸かってゆっくり考えてからかな。

以上のように“風呂は命の洗濯”はあながち間違いではなさそうです。一方、入浴して“極楽、極楽〜”という良いながらリラックスする、という場面もよく目にするのですが、入浴と心血管病の予後について検討を加えてきた立場から言うと、「極楽」を連呼するのは、いかがなものかと思うので、やはり“命の洗濯”としておきましょう・・・・・・




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2018年10月01日

静かに蔓延しつつある慢性腎臓病(CKD)

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腎臓は「後腹膜(腹腔の背中側、脊椎の両脇)」に左右1対で存在し、ヒトの体液環境の恒常性維持という役割を担っています。すなわち、@腎臓は人体の水とナトリウム(塩分)の排泄を調節することにより、血液の浸透圧と水分量を一定に保ち、Aナトリウムのみならずカリウムなどのさまざまな「電解質」も適正範囲に維持しています。また、B体内で生じた代謝老廃物を排泄し、C血液における酸塩基平衡を調節しています(血液のpHを一定に保つ働き)。これらの機能を果たすために、腎臓は1日に流入する150Lほどの血液を「腎糸球体」に存在する「ネフロン」という“濾過器”で濾過することにより、必要な成分は再吸収しつつ、流入血液量の百分の一量ほどの尿を作り、それを媒体として老廃物を体外に排泄します。その他の重要な機能としてはD赤血球造血を調節する「エリスロポエチン」というホルモンを産生・分泌しています。このような多彩な機能をもつ腎臓の病気で重要なのは、その原因や病態というよりも“腎機能障害の程度”です。

腎臓の機能は左右合計して約200万個ある「ネフロン」という “濾過器の数”に依存しています。腎臓の機能障害には、さまざまな原因で数時間〜数日のうちに進展する「急性腎機能障害」と“深く静かに発症して長い経過をとる”「慢性腎機能障害」がありますが、健康問題として注意を喚起すべきは後者です。急性なら原因を除去できれば完全に回復することも期待できますが、慢性腎機能障害の場合は、知らないうちにある程度まで腎臓機能が低下すれば、もはや回復は困難となり、腎機能は進行性に低下して「腎不全」に至ります。腎不全がとことん進行すれば、生命を維持するために人工透析(または腎移植)が必要となります。

現在、慢性の経過をたどる腎機能障害の原因としては糖尿病が最も多く、その他高血圧症、糸球体腎炎などが主なものですが、これらを一括して「慢性腎臓病(CKD)」とよんで、早期に発見して腎機能保護を図り、できるだけ腎機能低下の速度を遅くして、最終段階である透析導入を可能な限り遅らせる、という試みが世界中で進められています。CKDを放置すれば透析のリスクが大きくなるのは当然ですが、透析導入前の状態でも心血管疾患や感染症などの罹患率が高くなることが知られています。すなわちCKDは他の重大な疾患の危険因子でもあるのです。しかもCKDはかなり進行するまでは、ほとんど自覚症状がなく気付きにくいという特徴があり、国内外の専門学会でその啓発に本腰をいれているところです。

CKDは、「一定以上の蛋白尿」(“−〜3+”のような定性検査ではなく、“○○mg/dl”のような定量検査での評価が必要です)または「一定以上の糸球体濾過量(上記ネフロンの実力を示します)の低下」が3ヶ月以上持続する状態、と定義されます。その頻度は学会の推計によれば全国で約1,300万人、なんと成人人口の13%に及ぶとされています。なお、今年の7月の国際腎臓病学会プレス・リリースによると、全世界のCKD患者は全人口の10~11%、約8億5千万人とのことです。また、日本人のネフロンの数は欧米人に比べると数が少なく、2/3くらいしかないという報告があり(米国臨床研究学会誌 2017年)、日本人は欧米人に比べてCKDになりやすい可能性があります。

CKDは放置できません。まず第一歩は自分の腎機能レベルを知ることです。そのためには、検診、人間ドック、あるいは診療所、病院で行った検査結果の中の「クレアチニン(Cr、CRNなどと記載してあるかも)」という項目を見て下さい。これは腎機能障害を判断する上で非常に有用性が高い検査です。たとえわずかでも正常範囲を超えていたら無視できませんし、たとえ正常範囲でも、上限に近い値なら油断できません。

次にクレアチニン値の近くに(すぐ下の欄が多いのですが)「推算GFR(eGFR)」という項目が書かれているかどうかを確認してください。もし記載がないなら、ネットで「eGFRの計算式」で検索すると必ずヒットしますので、性別・年齢・クレアチニン値を入力すると「eGFR」が分かります。「eGFR」は腎臓の実力を示す「糸球体濾過量」の推定値です。「eGFR」は「○○ml/分/1,73m2(体表面積1,73m2あたりの値))」という単位で表示されます。これが60未満ならばCKDの可能性があります。まあ、試験に例えたら60点未満で欠点というところです。該当する方は放置しないで、必ずかかりつけ医に相談して、追試(再検査やその他の腎疾患・腎機能関連検査)や指導(食事療法や合併する生活習慣病の治療など)を受けてください。腎臓病の管理は、「一に根気、二に根気、三、四も根気、五も根気」というのが特徴ですが、頑張って下さいね。



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2018年09月15日

地球温暖化を防ぐ食生活とは?!


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前回が“プラネタリー・ヘルス”、すなわち地球という惑星規模からみた健康問題だったので、今回も視野を広げて・・・・・・ということで論文を探していると、 “食品による環境負荷を減らすには?”という研究がありました(サイエンス誌 2018年6月号)。英国オックスフォード大学とスイスのライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の研究所との共同研究です。

環境問題の中心といえば、やはり「CO2排出量と地球温暖化」でしょうね。この問題は元米国副大統領のアル・ゴアさんが主演した2006年の映画「An Inconvenient Truth(不都合な真実)」ですっかり有名になりました。現在の主要先進国の趨勢は“地球環境を守るために化石燃料使用を減らしてCO2排出量を削減し、温暖化に歯止めをかけよう!”ということなのですが、「CO2による温暖化なんてフェイクだ!」という人たちや、あるいは「発展途上国にはCO2を排出する権利がある!」という主張もあって、今でもホットな、というか、ほとんど喧嘩腰の議論が戦わされています。

単なる気象やCO2データの科学的解析だけなら、簡単に結論がでそうなものだけど、そうはいかないのが世の常・・・・・・確かにCO2削減となれば、国や地域によっては死活問題だろうし、政治的・経済的にさまざまな利害関係を持った勢力がこの問題にコミットして問題を複雑化しているようだし・・・・・・おそらく数十年〜100年といった時間がこの議論に決着をつけてくれるのでしょうけど、“時、既にtoo late”だったら困りますね〜

とりあえず今、原稿を書いている私の立場としては、@少なくともここ数十年間、急速にCO2排出量が増加しているのは事実。ACO2(だけではないけれど)が温室効果を持つことも間違いない。Bよって、どれくらいの割合で寄与しているかは別にして、CO2排出が地球温暖化に関与している可能性は除外できない。Cそうなら食生活に関してもCO2排出は減らせるものなら減らす方が良い・・・・・・ということで冒頭の研究に話を戻します。

著者らは、「生産者〜消費者の過程で、食物が環境に与える負荷をどのようにしたら減らすことができるか?」という観点で研究を進めています。彼らは世界中から38,700の農場と1,600の加工工場、包装、小売を調査してデータベース化し、主としてさまざまな食品が製品化される過程で主として排出されるCO2排出量に焦点を当てて解析しています。

研究結果から、食品を生産するのにどれくらいのCO2が排出されるかを紹介しますと、まず蛋白質ですが、豆腐100g生産するときに排出されるCO2量を2とすると、牛肉100g生産に要するCO2排出量は50、以下羊肉20、豚肉7.6、チーズ11、鶏肉5.7、養殖魚6、卵4.2、豆類0.3〜1.2でした。乳飲料1Lの生産では牛乳3.2、豆乳1、でんぷん質1,000kcalでみると米1.2、ポテト0.6、その他果物や野菜などを比べてみても、やはり牛肉など肉類・乳製品の生産が際だって多量のCO2を排出することが分かります。また、肉類・乳製品は人類の消費カロリーの18%を供給しているのだけど、その生産のために農地の83%を占有し、CO2排出原因のうちの60%を占めているそうです。加えて肉類・乳製品の生産は水の使用量と水質汚染、酸性化物質の放出にも大きなウエイトを占めていました。

そこで著者たちはこう主張します。「食物と環境問題を考える時、生産者のできることは限られており、むしろ消費者が果たすべき役割の方が大きい。もし人類が完全なベジタリアンになれば、現在のCO2排出量を半減できるのみならず、世界の農場の75%を自然に戻すことができる、そのうえ、酸性化物質も水質汚染も半減できる」・・・・・・う〜ん、なかなかラディカルな主張ですね・・・・・・

「すごい!これぞ温暖化の救世主!」と言いたいところですが、さすがにちょっと非現実的です(まあ、著者らもそれは分かっているのですが)。仮に温暖化が防げても、人類の生活がとても貧しくなってしまうような気も・・・・・・第一、人類は一度手にいれた“豊かな食生活”は手放せないのではないでしょうか。やっぱり私も肉も卵も食べたいし・・・・・・なんて言っていると「喝!母なる地球を守る気がないのか!」という叱責が飛んできそうなのですが・・・・・・でもね、私も一人の弱い人間なのです・・・・・・(定番の居直り方です)

例えば車や電気製品は“環境に優しいエコ仕様にシフトしよう”という方向にあるけど、その効果たるや、たかが知れたものです(と、この論文の著者らは述べております)。それよりずっと大きなインパクトがある“環境負荷が少ない食生活”について一人一人が考え“CO2排出の少ない食品を選ぶ”という意識を持って努力するべき時が来ているのかも知れませんね。

「そう言うあなたは努力する気あるの?」とお聞きになりたい方もあると思いますが、字数も尽きましたので、その話はまた今度・・・・・・

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2018年09月01日

pm2.5による大気汚染と糖尿病

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糖尿病ネタが続きますが……“大気汚染”は世界レベルでみても極めて重大な健康リスクであり、その評価と対策は喫緊の課題(お役所的表現!)です。大気汚染と他のリスクと比べてみると、ヒトが自らの文明発展と引き替えに地球環境を変えてしまったツケを払う……という構図が特徴的だと思うのです。大気汚染の中で最も注目されているのは、かの有名な微小粒子「pm2.5」です。

pm2.5による大気汚染と健康リスクについては、既に多くの研究がなされていて、心血管病、呼吸器疾患、腎臓病など多くの、いわゆる“非感染性疾患”の罹患リスクを上昇させることが知られています。また、最近では糖尿病罹患リスク上昇が注目されているのですが、いったいどの程度のリスク増加を来すのかについては明らかではありませんでした。

そこで米国ワシントン大学のグループは、登録時点で糖尿病の病歴のない退役軍人約173万人をデータベースから抽出し、中央値で8.5年にわたって患者情報と環境情報を観察した結果を解析しました(ランセット・プラネタリー・ヘルス誌 2018年7月号)。さまざまな因子で補正して統計処理を行ったところ、pm2.5が10μg/m3増加すると「糖尿病の罹患リスク」が15%上昇し、「すべての原因による死亡リスク」は8%上昇しました。この上昇が偶然によるものではないことを検証するためのひとつの方法として、pm2.5とは関連がないと考えられる「下肢骨折発症率」を対象として検討したところ、pm2.5が増加しても下肢骨折発症は全く増加していませんでした。一方、大気中のpm2.5の対象として大気中のナトリウム濃度と糖尿病との関係について検証してみると、両者の間には全く相関は認められませんでした。著者らは、これらのデータに基づき、2016年の全世界の糖尿病罹患患者のうち約320万人(24%)はpm2.5によるものと推論しています。

このpm2.5による糖尿病リスク、わずか2.4μg/m3あたりから増加し始め、10μg/m3では上記の如く明らかに増加します。そしてこのpm2.5レベル、毎日ネットにアップされる“全国各地、現在のpm2.5情報”をみると、いかに低いレベルで糖尿病リスクが増加するのかがわかります。この原稿を書いている時点(7月12日の午後)の大阪府全体の平均値は15μg/m3ですが、定点観測値のデータをみると「浜寺」は45μg/m3、「深井」は29μg/m3でした。“この日はpm2.5が少ない日”とのことでしたので、“普通の日”や“多い日”はもっと高くなって、軽く数十μg/m3を超えているのでしょう。なお環境省が公表しているpm2.5に関する基準が「年平均15μg/m3以下、1日平均35μg/m3以下が望ましい」ということですので、糖尿病罹患リスクを上昇させる10μg/m3の増加という現象は“注目もされない日常茶飯事の出来事”とことになります。

そこで著者らは「今の基準は甘過ぎる。基準を緩めようとするロビー活動もあるが(やはり規制緩和を求める人たちも少なくないようです)、もっと厳しくすべき」と考えているようです。私も「おっしゃるとおり!」と言いたいのですが、だったらどうしたら下げられるのか?となるとかなり疑問符が……文明の質というか、パラダイムそのものをシフトしないと無理なような気も……要するにグローバルな視点で大気汚染を考え直して国際協調、ということが必要なのでしょうけど、うまくいった国際協調なんて最近見たことないからな〜

なおpm2.5と糖尿病発症のメカニズムですが、pm2.5のような化学活性物質や酸性化物質を含む微小粒子を肺から吸入→肺胞で慢性炎症惹起(当然呼吸器疾患も起こります)→炎症は全身性反応として広がる→炎症状態によってインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)→糖尿病リスクが高まる、ということは十分あり得る話です。

さて、ここで「pm2.5は糖尿病リスクを高める、では既に糖尿病に罹患している患者に対するpm2.5の影響は?」という問いを立てることができます。これについては少し前に論文がでていて「長期間高いpm2.5にさらされた、とくに女性の糖尿病患者では心血管病と脳卒中リスクが44%ほど上昇する」と報告されています(米国心臓協会誌 2015年11月号)。この論文の著者らは、糖尿病患者は毎日pm2.5値をチェックして高い日は外出を控えたほうが良い、と述べています。それもまた大変な話ですが、確かにpm2.5は粒子サイズからみて、ハイ・レベルの作業用・医療用マスクでないと防げない(しかし装着していると息苦しい)ので外出しないほうが現実的かも……

さて、話が“プラネタリー・レベル”から急に小さくなって恐縮ですが、結論としては「pm2,5値の高い日は不要不急の外出を控える」という“荒天時の気象庁発表注意喚起”に準じた対策でいかがでしょうか。
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2018年08月15日

がんになると糖尿病に罹りやすくなる!?


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糖尿病は代表的な生活習慣病であり、患者数は数百万人を超えると言われています。糖尿病でみられる高血糖・高インスリン血症・インスリン抵抗性は網膜・腎臓・末梢神経に独特の「糖尿病性細血管障害」を引き起こすだけではなく、全身の動脈硬化病変の進展を加速し、心血管病や末梢動脈疾患のリスクを大きく高めることはよく知られています。一方、糖尿病は「がん」の危険因子でもあることが明らかにされています。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖尿病の患者さんはがんに罹りやすいことは、まず間違いないと考えられています。

では、逆にがんに罹ると糖尿病になりやすくなることはあるのでしょうか。最近、お隣韓国のグループこの問題について研究を発表しました(米国医師会雑誌・腫瘍学 2018年6月、オンライン版)。韓国では医療保険が一元化されていて、すべての外来・入院患者情報は国の機関が管理しているので正確な大規模データが得られますし、日本人と人種的にも近いので、参考にすべき点も多いと思うのです。

著者らはまず、データベースから、2003年から2013年の間で、調査の時点で糖尿病に罹患しておらず、がんの病歴もない20〜70歳の住民ピックアップし、その後のがんの発症と糖尿病発症リスク増加との関連を検討しています。対象となったのは住民494,189人(男女比1:1)で、平均7年間フォローアップしたところ15,130人ががんを発症し、26,610人が糖尿病を発症しました。結果を年齢・性別・がん発症前の糖尿病の危険因子などで補正して解析したところ、がんを発症すると、その後の糖尿病に罹患する危険度は、がんを発症していない人に比べて1.35倍高いことが分かりました(がん発症後の糖尿病発症率の実測値は患者1,000人あたり1年に17.4人)。すなわち“がんに罹ること”は糖尿病の独立した危険因子だったのです。


がんの部位別でみると、最もリスクが高くなるのは膵臓がんで約5.2倍、ついで腎がん、肝臓がんで約2倍、血液がん、乳がんで約1.6倍、胃がん、甲状腺がんで約1.3倍でした。
一方、子宮・卵巣がん、大腸がん、前立腺がんなどでは糖尿病発症のリスク増加はみられませんでした。がん発症後の年数でみると、がん発症後1〜2年以内が最も高くて約1.5倍だったのですが、少なくとも10年後までは糖尿病発症リスクは約1.1〜1.2倍程度高まったまま推移しました。

膵臓は糖尿に最も深くかかわるインスリンの産生臓器ですから膵臓がん発症後に糖尿病発症リスクが著しく高くなるのは当然かも知れないのですが……その他の部位のがんと糖尿病発症との関連を明快に説明することは簡単ではありません。しかしがんに罹患することによって生じるさまざまな内臓機能の変調や炎症・免疫システムの変化、あるいはさまざまな治療による生物学的ストレスの増加など、いずれもインスリン作用を阻害し、これらがその後の糖尿病発症に結びつく可能性は十分あります。そう考えると「がんに罹ること」が糖尿病の独立した危険因子であることは、それほど不思議なことではありません。

この研究を踏まえて、実践に生かせることがあるとすれば、ひとつは、がんに罹患して運良く長期生存ないし治癒が得られても、糖尿病を対象とした項目を含む検診を怠らないことです。できればがんの経過観察とともに、新たな病気にも目配りして頂けるような「かかりつけ医」を決めておくことをお勧めします。

もうひとつは、めでたく長期生存ないし治癒〜すなわち“がんサーバイバー”になったからと言って、「おれの人生観は変わった。せっかく勝ち取った残りの人生、うまいものをたらふく食って、思い切り酒飲んで……」という生き方は止めておく方が無難です。こういう方、実は少なくないのですよね〜まあ、気持ちは分からなくはないけど……「幸運を無駄使いすれば、すり減ってタダの運になる」という警句をご存じですか?えっ、知らない!?そうでしょうね〜今、思いついた警句ですから……でも自分では真実に近いと思っています。

Good luck, my friends!

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2018年08月01日

“うつ病の時代”〜薬剤誘発性抑うつ障害

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病気のことを、あまり単純化して説明するのはいかがなものか、とは思うのですが、うつ病という病気をあえて一言でいえば、「うつ病は心的エネルギーの低下である」となります。その中核となるのは“悲哀(メランコリー)”や“自己否定”の感情で、しばしば睡眠障害や食欲低下、頭痛・腰痛などの身体症状を伴い、身体症状のみが前面に出ることも稀ではありません(仮面うつ病)。また一見、“落ち込み”ではなく“不安・焦燥・興奮”などがめだつこともあります。「うつ病」「抑うつ障害」「気分調節障害」などさまざまな名で呼ばれ、その病型分類は複雑です。加えて最近は「新型うつ病」など、新たな概念や名称が提唱されたりして、よけいにややこしくなっています。

うつ病(いろいろなうつ状態をひっくるめていると考えて下さい)、いったいどれくらいの人が罹っているのでしょうか。以前は日本では一般人口の1〜2%と言われていました。しかし欧米では10〜20%以上という報告はざらにあります。日本も1〜2%どころではなく少なくとも5%程度はあると考えるのが自然です。すなわちうつ病はありふれた病気なのです。また、うつ病は本質的には治る病気です。軽症なら診察を受けるだけでもかなり改善しますし、中等症〜重症でも多くは投薬治療で改善します(すなわち脳内に生化学的変化が生じているのです)。とにかく早めに専門医の診察を受けることが大事で、これによりうつ病の最悪の転帰である自殺企図のリスクを最少化できます。

また、私たちの年代では、うつ病を違った観点から考える必要があります。“持病”と“薬剤”の影響です。たとえばがんや糖尿病などの病気に罹患しているとうつ病を発症する確率はかなり上昇し、欧米人並に20%以上となるという意見もあります。もうひとつの問題は薬の服用で起こり得る“薬剤誘発性抑うつ状態”です。どんな薬がうつ病を起こすのかについては、「ほとんどの薬でその可能性がある。しかし頻度は不明(実際、副作用リストにもそう記載されます)」と言わざるを得ません。

“うつ状態を起こし得る薬剤”の横綱格は、多種多様の炎症・免疫疾患などに処方される「副腎ホルモン剤」、それにウイルス肝炎治療に効果を発揮する注射剤の「インターフェロン」です。後者については、最近優れた経口抗ウイルス剤がでてきたので、使用機会はめっきり減りましたが……このふたつの薬剤なら投与された人の数%くらいに確実にうつ病の症状が現れます。次に多いのはおそらくは降圧剤です。多くの種類の降圧剤でうつが生じることが報告されています。頻度はそう高くはないと推測されますが、何しろ使用頻度が高く、もともと一般人口の約5%がうつ病に罹患しているので、個々のケースで薬剤が原因であると特定することは容易ではありません。また降圧剤以外にも、頻用される抗潰瘍剤、頭痛薬、心臓病薬など、うつ病を引き起こすポテンシャルを持つ薬剤は枚挙にいとまがありません

また、高齢になればなるほど、複数の病気を抱えることが多くなってきます。ということは複数の薬剤が処方され、何種類も服用する〜これを“ポリファーマシー”といいます〜機会が増えることになります。では、この現象はどれくらいうつ病のリスクを高めるのでしょうか。

この問題に関連して、最近米国イリノイ大学シカゴ校のグループが米国医師会雑誌6月号に論文を発表しました。著者らは18歳以上の米国人26,192人(平均年齢46.2歳、男性49%・女性51%、うつ病罹患7.6%)を対象に2005年から2014年までの10年間、「可能性がある有害事象として“うつ”が記載されている薬剤」の処方歴と、実際にうつ病と共存しているか否かを解析しています。なお、市販薬の抗うつ剤を使用している人(米国では抗うつ剤が市販されていて診察なしで購入可能とのこと。常用者はなんと数千万人!?)、既に抗うつ剤で治療を受けている人、降圧剤で治療を受けている高血圧症患者は対象から除外されています。

さて結果ですが、副作用として“うつ”記載がある薬剤の使用者は、ここ10年で35%から38.4%に上昇しており、これらの薬剤を3種類以上同時に服用している人は6.9%から9.5%に増加していました。また、観察期間中にうつ”の症状が現れたのは、これらの薬剤3種類以上同時服用者では15%、これらの薬剤を全く服用していなかった人では4.7%でした。やはり“ポリファーマシー”には一定のリスクがありそうです。

ありふれた薬剤服用中に、ありふれた病気の症状がでてくる……その関連性の有無を検証することは簡単ではありませんが、たいていの薬剤はネットで副作用の詳しい情報を得ることができます(処方薬をもらう薬局で薬剤師さんが副作用の概略は説明してくれるのですが、稀なものも含め、すべての可能性のある副作用に言及するのは無理だと思います)。

「このところ気持ちがネガティブになってしまう、体のだるさや食欲不振がとれない……
昔はこんな自分じゃなかった……」なんて思うときには、「薬剤惹起性うつ!?」ということもあるので、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。

「役に立つクスリ、でもときどきリスク」ということもまた、現代のありふれた情景なのです。



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