2020年08月01日

COVID-19―5 アビガン臨床試験最終報告とワクチン開発を 阻む!?「抗体依存性感染増強」


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一旦収束に向かうかと思われたCOVID-19は自粛解除となって以後、再び首都圏、そして大阪を中心とする関西圏でも患者数が増加しつつあります。今回はとくに若年層での感染拡大がめだちます。特定の場所や特定の状況での感染が強調されているわりには、なぜか“行政の打つ手がぬるい”気がします。経済的な理由などで、強い規制ができないのかな・・・

6月1日のこのブログで藤田医科大学のアビガン臨床試験の中間報告について紹介しましたが、去る7月10日同大学からこの臨床試験の最終報告がプレス・リリースされました。簡単に試験の概要を記しますと、無症状あるいは軽症状のPCRで確定したCOVID-19患者を、アビガンを1日目から内服する群(通常投与群)と6日目から内服する群(遅延投与群)の2群にランダムに割り付けて6日目までのウイルス消失率(主評価項目)、ウイルス量対数値50%減少割合(副評価項目)を比較するものです。

最終的に試験に参加された患者さんは計88名(通常投与群44名、遅延投与群44名)でしたが、19名は試験参加時にはウイルスが消失していたため、ウイルス量の比較は通常投与群36名、遅延投与群33名で行われました(後述する臨床的評価は88名で解析)。なお対象例のうち重症化した例や死亡例はありませんでした。

さて、結果ですが・・・・・・まず主要評価項目の「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%で統計指標であるP値=0.269(0.05以下であれば統計的学に有意差あり、と判定されます)、副次評価項目の「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は通常群94.4%、遅延群78.8%、P値=0.071でした。一方、事前に規定されていた臨床的評価項目である「37.5℃未満への解熱までの平均日数」は通常群2.1日、遅延群3.2日、P値=0.141でした。なおアビガン投与による副作用としては血中尿酸値上昇が84.1%、中性脂肪上昇が11.0%、肝機能上昇が10%以下にみられましたが、内服終了後のフォローでほぼ全員が回復しており、痛風の発症はありませんでした。

プレス・リリースには「アビガン通常投与群でウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向がみられたもの有意差には達しなかった」とありますが、まあ、そのとおりで・・・・・・最低限の有意差水準5%(両群の差が偶然に生じる確率が5%)もクリアできていないので、“弱い!弱すぎる〜”という結果です。対象患者数が少なく、しかも無症状〜軽症例ばかり集めてウイルスの消失をみる、というのは“有意差が得られにくそうな、しんどい研究”だったと思います。なおアビガンについては、製薬会社の方で“重篤ではない肺炎を合併したCOVID-19患者”を対象とした治験が進行中ですので、その結果を待ちたいと思います。

全世界的にはCOVID-19は収束の気配さえなく、WHOも悲観的なコメントを連発しています。“有効なワクチンと治療薬が現れない限り、オリンピックは無理”とさえ言われています。ワクチンは世界中で精力的に開発が進んでいるようですが、“COVID-19とワクチンは相性が良くないかも知れない”という危惧があります。

ワクチンは弱毒化あるいは無毒化した病原体の一部を投与して生体に有効な抗体を作成させ、病原体の感染性や病原性を失わせることを目的としています。COVID-19の場合には、細胞に感染するときに重要な役割を果たすスパイク(S)蛋白質がワクチンのターゲット抗原になると考えられています。

ところがこの抗体なるもの、感染防御において、必ずしも常に味方とは限らないのです。ウイルス感染防御では、ある条件が整うとウイルスと結合した抗体がマクロファージという感染免疫の起点となる免疫細胞に取り込まれて、なんと免疫細胞の中でウイルスが増殖します。すなわち抗体がウイルス増殖の増強を招くのです。そればかりではなく、免疫細胞ネットワークの暴走を引き起こして逆に重症化に導く、ということさえ起こり得るのです。この現象は「抗体依存性感染増強(ADE)」と呼ばれています(免疫レビュー誌 2015)。

一般にコロナウイルスはこのADEが起こりやすいのではないかという意見があります。実際、新型コロナウイルスと近縁の初代SARSではこのADEが観察されているようです(香港医学誌 2016)。

COVID-19/SARS-CoV-2の感染免疫において、ADEが生じるか否かについては、まだ分かっていません。また、不確実ながら“抗体ができにくい”あるいは“一旦産生された抗体が短期間で消失した”などの情報も伝わってきています。ただ、どうもSARS-CoV-2に対する抗体産生は“素直じゃない”印象があります。

COVID-19におけるワクチンによる予防は一筋縄ではいかないかも知れません。
有効な抗体が得られにくい、あるいはADEのリスクがあるなど、まだまだ結論はでないでしょう。それだけに今は手洗いやマスクによる地道な感染予防が重要だと思うのです。

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2020年07月15日

イヌはネコよりヘビ毒に弱い〜消費性凝固障害の話

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幸いにしてまだ道端で毒ヘビにお目にかかったことはありませんが、学生時代に沖縄に旅行にいったときに、土地の人から「夜に散歩するとハブにやられるぞ」と脅かされました。“貸しマングース”があれば安心できたのにな〜

ヘビは全世界に約3.000種が棲息していますが、その中で危険な毒をもつものは約15〜20%、多くはマムシの仲間です。毒ヘビに咬まれる事故は米国で年間約45,000件、死者は70人位だから致死率はおおむね0.15%、日本では年間約3,000件で死亡は数人ですから致死率はほぼ同じです。ただ全世界では、年間10万人以上が毒ヘビ咬傷で命を落としているそうです(メルク・マニュアル 第20版 2018)。

ヘビの毒は酵素活性を持った複雑な蛋白質から構成されているのですが、主な毒性は二つあり、ひとつは血管の透過性を高める作用で、局所の浮腫・腫脹を引き起こし、高度になれば循環血液量が減少してショックや腎不全を起こします。いまひとつは血液凝固の引き金を引くことによって、血液中の止血凝固のための多種多様の蛋白が消費されて枯渇し、その結果重篤な出血が生じます。後者の病態は「消費性凝固障害」と呼ばれています。

毒ヘビ咬傷はヒトだけでなくペット、とくにイヌやネコにも起こります。その際、イヌはネコよりずっと致命率が高いのです。その機序について豪州の研究者が専門誌に研究成果を発表しました(比較生化学と生理学 Part C:毒性学と薬理学 5月3日 オンライン 2020エルゼビア出版)。

豪州では、ペットの毒ヘビ咬傷の3/4は「東部褐色ヘビ」によるものですが、イヌやネコが死に至る場合、そのほとんどがヘビ毒による「消費性凝固障害」が原因となります。しかしイヌとネコでは生存率に大きな差があり、抗血清の治療が行われなかった場合、イヌの生存率はわずか31%ですが、ネコの生存率は66%でした。また抗血清治療を行った場合でもネコの方が、有意に生存率が高かったのです。

このような差が生じる原因を明らかにするために、著者らは「東部褐色ヘビ」の毒を含む11種のヘビ毒をイヌ・ネコの血漿に添加して凝固活性を検討しました。その結果、どの毒を用いてもイヌの方がネコより迅速に血液が凝固することが分かりました。すなわちヘビ毒に曝露された場合、イヌの方がネコより「消費性凝固障害」が生じやすいことが明らかになりました。

加えて、イヌとネコの習性の違いも関係しているそうです。ヘビと出会った場合、イヌは嗅覚に頼って鼻を近づけて咬まれてしまいます。イヌの鼻には血管が豊富に分布しているので、咬まれたときの毒のまわりが早いのです。一方、ネコは“ネコパンチ”の手を出して触ろうとします。そのため咬まれた時のリスクはネコの方が低い・・・・・・ほんとかな〜まあ、ありそうな話だけど。

血液止血凝固機構はなかなかよくできた仕組みで、何事もなければ、複数の止血凝固蛋白は何の反応も起こさずに静かに血液中を循環しています。しかし一旦血管が破綻して出血が起こると、その刺激が引き金となって、止血凝固蛋白は次々に活性化され、あたかも連なる瀑布に水が流れるように一連の反応が進み、最終的に血管の破綻部分を凝固した血液が覆って止血します。止血の完成とともに一連の反応は停止し、もとの状態に戻ります。もしこの反応がヘビ毒のような外来物の注入で起これば、一連の反応は制御されずに進行して止血凝固蛋白は消費し尽くされてついには枯渇し、重篤な出血が起こり得ます。これがヘビ毒による「消費性凝固障害」の本態です。イヌでもネコでもヒトでもこのようなことがヘビ咬傷で起こるわけです。

むろんヒトの「消費性凝固障害」は、ほとんどの場合ヘビ咬傷以外のさまざまな原因で起こります。血液がんである急性前骨髄球性白血病(APL)、産科的大出血・巨大血管腫・解離性大動脈瘤などの急性に生じる大きな体内血腫、重症感染症などに合併する微小血栓多発による播種性血管内凝固症候群(DIC)などが知られています。とくにAPLによる「消費性凝固障害」は病態生理の点でヘビ咬傷と似たところがあり、血液凝固を引き起こすヘビ毒が注入されるかわりに、白血病細胞から血液凝固の引き金をひく活性をもった蛋白質が分泌されて急性かつ重篤な出血傾向が起こります。しばしば病初期に致死的な脳出血や肺出血が生じるのですが、最近は非常によく効くAPL専用の抗白血病薬があるので、治療成績は昔より格段に良くなりました。

私が医師になった頃、商品名レプチラーゼという止血剤(注射剤)がありました。この薬剤は蛇毒から精製・分離されたヘモコアグラーゼという酵素製剤です。私自身はもう40年以上使っていませんが、つい最近まで薬として認可されていました。しかし昨年製造中止になったようです。原因は科学的根拠不足か、はたまた原料の毒ヘビの不足か・・・・・・いずれにしろ薬剤としての役割は終えた、ということでしょうね。

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2020年07月01日

糖尿病とがん、そして細胞競合


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糖尿病はインスリンというホルモンの作用不足によって高血糖を来たし、さまざまな血管障害や臓器障害を生じる疾患です。自己免疫によってインスリン産生細胞そのものが破壊される1型糖尿病はさておき、糖尿病の大部分を占める2型糖尿病では、インスリン産生が障害されるというより、むしろインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)ことがインスリン作用不足の主因であるとされていて、そのため多くの患者さんで高インスリン血症が生じます。

一方、糖尿病ではずいぶん昔から“がんになりやすい”ことが経験的に知られていました。近年、糖尿病とがんに関する科学的根拠を蓄積されてきて、糖尿病はがんのリスクであること、その病態としては、細胞の増殖因子でもあるインスリンが高値となる、すなわち高インスリン血症が関わっているという意見が受け入れられつつあります(内分泌関連がん雑誌 2009、ダイアベィテス・ケア 2010)。事実、非糖尿病者でも肥満の有無にかかわらず、高インスリン血症がある人はない人に比べ、がん死亡リスクが1.9〜2.0 倍高いとする報告もあります(国際対がん連合機関誌 2017)。

では、なぜ高インスリン血症があるとがんになりやすいか、については未だ解明されてはいませんでした。ところが最近、京都大学生命科学研究科の井垣達吏教授のグループが“高インスリン血症による「細胞競合の破綻」”というユニークな切り口でこの謎の一端を明らかにしました(デベロップメンタル・セル誌 2020)。

自然界では常に個体間あるいは生物種間で、適者生存を目指した競合が行われています。もっともときには「イソギンチャクとクマノミ」のような“助け合い”にみえる共生・協調がみられることもあるのですが、基本は競合が世の習いです・・・・・・ところがこの競合、多細胞生物であるヒトの内部でも起こっていることが知られています。

生体内で“がん”という名の異常細胞は、あちこちで、しょっちゅう生まれています。幸いなことに、そのほとんどは成長することなく体内から除去されます。その多くは“腫瘍免疫機構を担当する免疫細胞”によって非自己と識別され、除去されると考えられているのですが、どうも安全装置はそれだけではないようです。

京都大学のグループはショウジョウバエを用いて、生体には細胞競合という、発生したがん細胞を除去する仕組みが備わっており、高インスリン血症がおこると、このがんに対する“セーフティーネット”が破綻して、がん細胞の増殖を許してしまうことを明らかにしました。ショウジョウバエではchico(チコ)遺伝子というインスリン受容体基質遺伝子があり、この遺伝子に変異がおこると高インスリン血症が生じるのです(ぼ〜としていると叱られそうな遺伝子です)。高インスリン血症を来すと、健常時では生じないはずのがん細胞増殖が起こるのです。さらにこの実験系にヒトの糖尿病の基本薬剤のひとつであり、インスリン抵抗性の改善作用を持つ「メトホルミン」を添加すると細胞競合が復活して癌増殖が抑制されるというきれいな結果が示されています。

細胞競合というのは、かりにがん細胞が出現しても、その周囲を健常細胞が囲んでいると、癌細胞は除去(細胞自殺プログラムが発動して“アポトーシス”を起こして細胞は死んでしまう)されるという現象です。異端者は許さない!という中世的な恐ろしさも感じないではないですが、生体の恒常性を維持するためには異端者は除くほかないのです。生体内では弱者の声を聞くとか、多数決で決める、というのもダメです。残念ながら生体でしばしば出現するがん細胞という異端者は弱者ではなく、個体を死に追いやるいわば“暴力革命勢力”になるからです。

ショウジョウバエとヒトが、全く同じシステムを共有しているとは言えないとしても、この高インスリン血症による細胞競合というがん抑制機構の破綻と、それによるがん増殖、さらにそれをメトホルミンで阻止できる、というのは、ショウジョウバエを使った基礎実験でありながら実臨床に近い非常に優れた研究だと思います。

やはり糖尿病臨床の中核は、食事療法+運動療法、加えて薬剤やインスリンを用いた血糖の適性管理、そして忘れてはならないのは高インスリン血症の是正、ということになるのでしょうね。問題はただひとつ。「言うは易し、行うは難し」ですよね〜



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2020年06月15日

骨格筋を守るラジオ体操

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2016年11月15日付のグロブで「前期高齢者が気になるカタカナ語の警鐘」と題して、身体・社会・精神神経機能の衰えを意味する「フレイル」、運動機能低下を意味する「ロコモティブシンドローム」、そして筋肉量・筋力の低下を意味する「サルコペニア」を紹介しました。このサルコペニアはそれ自体“加齢症候群”のひとつであるとともに、フレイルやロコモティブシンドロームの主要原因でもあります。サルコペニアの予防は、“健やかな老後”の大きな柱のひとつです。そこで今回は、サルコペニアを防ぐのにラジオ体操が有効!というお話です。

私たちの世代でラジオ体操を知らない人や、やったことがないという人はいないでしょうね。ラジオ体操第一、第二の音楽が聞こえたら自然に体が動く、という人も少なくないかも知れません。私も小学生のときに夏休み朝6:00からのラジオ体操に皆勤したら文房具がもらえると聞いて、初日から行きましたが、三日くらいで止めました。「やっぱり三日坊主か」と言われそうですが、子供心にも、“払う労苦”と“得られる利得”を天秤にかけたとき、「割に合わない」という結論に至ったからだと思います。我ながら幼くして“トレード・オフ”の概念が確立していたと評価できます。この概念が医師になってどれだけ役だったことか・・・・・・(「嘘つけ!」と思われた方、正解です)

さて、私とは違ってラジオ体操を高く評価され、研究を続けられていたのは京都府立医科大学の先生方です。彼らは最近、強度の高い筋力トレーニングでなくとも、1日2回のラジオ体操を行うことによって糖尿病患者(サルコペニアのハイリスク群です)の筋肉量を維持できることを報告しました(英国医師会雑誌オープン:糖尿病研究&ケア 2020 8:e001027)。

この研究の対象者は「糖尿病教育入院(2週間)」の入院患者さんたちです。糖尿病教育入院は糖尿病診断時、あるいは悪化時に入院し、糖尿病についての講義や食事療法・運動療法の実践、合併症精査そして治療方針決定を行うシステムです。日本中の病院で大流行したのですが、最盛期ほどではないにしろ、今でも行われています。

著者らは42人の2型糖尿病のうち15人(男性11人、女性4人)に朝食前と夕食後の1日2回、ラジオ体操第二(第一よりも筋力を鍛える効果が高いとされています)を3分間行ってもらいました(ラジオ体操実施群)。残りの27人(男性13人、女性14人)は対照となるラジオ体操未実施群です。なお両群とも1日60分の有酸素運動(速歩)を行いました。なお両群間で年齢やBMI、糖尿病管理状態の指標であるHbA1cなどには差がありませんでした。

この研究では、入院14日後の体重と身体組成(とりわけ四肢骨格筋量)の変化を両群で比較するのが主な目的なのですが、ここで身体組成評価の方法を簡単に書いておきます。最近はちょっと上等の体重計には脂肪量や筋肉量が測定できる機能が付いているものが市販されていますが、身体組成評価で最も信頼できる測定法は二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)です。体重計の付属機能は生体電気インピーダンス分析(簡単に言えば電気抵抗で組成を推定する方法)の原理を応用しているのですが、さすがに臨床研究となればDXA法との相関が極めて良いことが証明されている機器を用いる必要があります。この研究ではInBody 720という機器を用いているのですが、これは市販の体重計より桁2つくらい高価でDXA法と高い相関があることが証明されています。

さて、結果はといえば、体重はラジオ体操実施群、未実施群ともに入院期間終了後に1.5〜1.7kgほど減少していましたが、骨格筋量指数(SMI=四肢骨格筋量/身長[m]2)の平均値はラジオ体操実施群ではほぼ不変であったのに対し、未実施群では有意に減少していました。SMIが減少していた人は、未実施群で85.2%(23/27人)であったのに対し、実施群では46.7%(7/15人)に止まりました。

糖尿病の有無にかかわらず、筋肉量の維持には有酸素運動、筋肉負荷がかかった状態での運動(レジスタント・トレーニング)が良いのは周知の事実ですが、きっちり実行できる人は少ない、というのが世界共通の悩みです。一方、日本伝統のラジオ体操は1回3分という手軽さながら、ラジオ体操第二であれば、その運動量は4.0-4.5 MET、すなわちバドミントン13分間に匹敵します(ちょっとホントか、と思いますがホントみたいです)。

筋肉量というものは、運動量が減少したら、簡単に減ってしまいます。これを防ぐには、そりゃ、ちゃんとした運動を毎日行うのに越したことはないけど、もっと楽をして何とかならないか、と思う方にはラジオ体操がオススメかも知れませんよ。いまなら私もラジオ体操を高く評価するのに吝かではありません。別に毎日早起きしなくても良いし、筋肉量を維持できるのなら賞品を貰えなくても我慢できるしね・・・・・・

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2020年06月01日

COVID-19−4「PCR」と「アビガン騒動」


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COVID-19患者数は確実に減ってきました。5月21日に大阪府で、そして5月25日には全国で「緊急事態宣言」が解除されました。今後たとえ小さな患者増の波があったとしても、中長期的にはこのまま落ち着いてくれたら良いのですが・・・・・・

最近、どうしてもCOVID-19関連文献に目がいくので、他の分野の興味深い文献がなかなか見つけにくくなってきました。そこでCOVID-19増刊号−4 の予定を定期ブログの6月1日号として割り込ませて頂くことにしました。まあ、手抜きといえば手抜きですが・・・・・・今回は話題をふたつ、「COVID-19に感染後に、いつ、どれくらいの確率でPCR検査が陽性になるか?」と「アビガン騒動」です。

COVID-19のPCR(正しくは逆転写PCR=RT-PCR)検査はSARS-CoV-2ウイルスのRNAを増幅して検出する検査です。PCRは臨床検査のひとつですので、本来は“問診や症状などから新型コロナウイルス感染の可能性が一定以上あると考えられる人”を対象として診断を確定するために実施します。しかしCOVID-19が指定感染症となっているために“とにかく診断の白黒をつける”必要があるので、今やCOVID-19診断の“黄金基準”として扱われています。そのためどのような人を対象にPCRを行うかについては、未だに専門家・非専門家が入り乱れて、やや不毛な議論が続いています。私見では、COVID-19が疑われる人(有症状者)、ウイルス曝露の可能性が高い人、病気があって高リスクとなる治療(たとえばがん化学療法など)を受ける人、入院予定の人、分娩予定の人などに優先して行うべきだと思います。無作為・可及的多数の人、できれば全住民対象というのは、検査のキャパシティや特性からみて適当ではありませんし、実現不可能です。

PCRの問題点はいろいろあるのですが、“検体採取時に感染対策が必要である”ことは措くとして、主なものは二つです。ひとつは“今日の陰性は明日の陰性を保証しない”ということ、すなわち陰性というのは“今回採取した検体にはSARS-CoV-2ウイルスの核酸(RNA)が増幅できるほど含まれていなかった”ということを示しているに過ぎません。もうひとつの問題は、PCRはウイルスに感染していない人を誤って陽性と判定することはまずないのですが(これは「特異度が極めて高い」と表現できます)、ウイルスに感染している人を陰性と判定することは、しばしばあるのです(すなわち「感度には多少問題がある」と表現できます)。

COVID-19のPCRの感度は70%くらいとされています。言い換えると感染している人のうち、PCRで陽性と判定される人は10人中7人ということを意味します。10人中3人は見落とされる(これを「偽陰性」といいます)ことになるわけです。感度70%というのは、臨床検査としては決して悪くはありません。しかも検体や機器の汚染がないのなら特異度は100%近いので、“目の前の患者さんを対象とした診断ツール”としては十分合格です。ただ指定感染症で“個々の診断のみならず、防疫のためのスクリーニングとしても使いたい”という際には、この「30%の偽陰性」は無視できません。PCR以外にもやや異なった原理に基づく核酸増幅検査や抗原検査も開発されていますが、感度でPCRを上回るところまでは至っていません。なお抗体検査は疫学的調査には有用ですが、臨床診断に用いるのには不適です。

PCRの感度を上げるには、良質の検体を採取する(綿棒で鼻咽頭ぬぐい液を採るのが一般的です)、適切に保存・運搬する、測定機器を良い状態にメンテナンスしておく、などが重要ですが、何よりも検体の中に一定量以上のウイルスが存在しないと話になりません。では新型コロナウイルスに感染してから、どれくらい経ったらPCRで検出できるのでしょうか?つい最近、ジョン・ホプキンス大学からこの問題に対するひとつの回答となる論文が発表されました(米国内科学会誌 2020年5月20日)。

著者らは7つの論文から、感染または発症からの日数が判明していて、PCRで解析された1330検体を集積し、感染または発症から何日目に、どれくらいの確率でPCR陽性になるかを検討しました。むろん個々のケースによって状況はさまざまに異なるのですが、このような個体差や地域差を踏まえて時間的・空間的相関を解析するために「階層ベイズモデル」という統計解析手法が用いられています。この手法で得られたモデルは感染して5日目に発症するのですが、感染から発症にいたる時間軸において、PCRの「偽陰性率=1−感度」が計算されています。

結果ですが、まず感染した当日の偽陰性率は100%です。すなわち感染当日はPCR陽性にはなりません。ウイルスが増殖する時間がないから当然の結果といえます。感染2日目も陰性のままで、3日目ではわずかながら陽性になる人もあるのですが、平均値でみると依然として偽陰性率はほぼ100%です。感染4日目(発症前日)では、偽陰性率は67%まで低下します。すなわち3人のうち1人が陽性になります。発症日(感染5日目)の偽陰性率は38%ですので、おおむね10人中6人が陽性になります。そしてPCR陽性率は発症後72-96時間で最大となり約80%まで上昇(偽陰性率でいえば20%まで低下)しますが、その後陽性率は徐々に低下し、発症15日後には発症前日とほぼ同レベルになります。

この結果をみると、巷間言われている“PCRの感度70%”というのは、ほぼ正しいと考えてもよさそうです。ただし感染源に曝露した当日の検査はほとんど意味がなく、発症前の検査は陽性率が低く、発症当日も多少低い、ということになります。しかしながらCOVID-19では、発症直前も直後に負けず劣らず感染性が強いとする台湾の報告(米国医師会雑誌・内科学 2020年5月1日)もあるので、発症前のPCRの感度については、もう少しデータの集積が必要かも知れません。

次の話題は臨床試験中のアビガンです。ネット記事によると、アビガン研究開発代表者の湯澤由紀夫藤田医大病院長が5月20日に臨時オンライン記者会見を開き、「国の承認審査にデータが活用できると期待された臨床研究でアビガンの明確な有効性は示されなかった」とした同日の共同通信社の記事に対して「誤解を招きかねない表現」として強い懸念を示しました。またブルームバーグによる“藤田医大のグループが安倍首相の発言に批判的なコメントをしたかのような事実無根の記事”に強く抗議したことを明らかにしました。

藤田医大のアビガンの臨床研究(研究責任医師 藤田医大土井洋平教授)は、国立保健医療科学院の「臨床研究実施計画・研究概要公開システム」で誰でもみることができます。研究のデザインは、RT-PCR法で新型コロナウイルス陽性が確認された“無症状または軽症の(少なくとも歩行や家事はふつうにできる)人”が対象で、@試験開始後直ちにアビガン服用を開始し、10日間服用、A試験開始から6日目〜15日目までアビガンを服用する、という二つのグループに分け、試験開始6日目にRT-PCRを行って、主評価項目としてウイルス消失率、副評価項目としてウイルス90%減少率を比較する、というものです。今回問題になった共同通信の記事は「中間解析で効果が認められなかった」ともとれる内容だったので、藤田医大が強く異議を唱えたのです。

中間解析(intern analysis)は文字通りあくまで中間的なものです。中間解析を行う主な目的は、“臨床試験被験者の安全確保・権利の保護”です。従って主たる評価対象は、「臨床試験を継続するにあたって、問題となる副作用はないか」ということになります。ただし稀ながら “被験薬に圧倒的な効果がある”または“被験薬に全く効果がなく害の方が大きい”ことが明らかになっていれば、この時点で臨床試験中止、ということもないではありません。アビガンの場合も、対象患者数の予定は84例で、今回@20例+A20例=合計40例の段階での中間報告(解析は藤田医大グループから独立した評価委員会が行います)を実施、問題となる大きな副作用もなく、引き続き臨床試験継続となったようです。ただし最終的な結果の解析にはもう少し時間を要するので、安倍首相が以前に言及していた5月中の認可は無理ですけど・・・・・・

私も最近やっと“大人の知恵”がついてきたので、多少なりとも今回の出来事の“裏読み”もできそうな気がします。だいたい「中間解析」のような専門的な臨床試験用語の意義が正しくマスメディアに伝わると思う方がどうかしています。またわざわざ中間解析を発表する必要もなく(試験中止なら発表しないといけませんが)、どうしても発表するなら、「中間解析の時点で、臨床試験に影響するような副作用は確認されず、予定通り試験を継続」で済む話です。

“大人になった私”は、誰かが共同通信社に「中間解析の時点では、アビガンの有効性は確認されなかったようですよ(この言い方は明らかにミス・リーディングではありますが、完全にフェイクとも言えません)」という情報を流したのではないかと疑っています。またブルームバーグは米国の大手情報サービスの会社だそうです。だとすればここからの情報発信は米国または顧客のために行われると考えてしまいます。何か意図があるのでは、と思うのです(株価とか動きそうだし)。いずれにしろCOVID-19の治療薬に関する情報は、政治やイデオロギー、そしてマネーゲームのフィルターがかかっているのかも知れません。もっともっと大人にならなければ・・・・・・

エビデンスのない陰謀論はこの辺でおしまいにします。まじめな話に戻りますが、上記のアビガンの臨床試験のハードルはそれほど低くはなさそうです。COVID-19の臨床像から考えて、重篤になってからではどんな薬剤も効きそうではありません。ですから軽症のうちに投与、というのは理にかなってはいますが、そうなれば“80%は自然に治る”という特徴がネックになります。薬剤の効果をきれいに証明するのは簡単ではありません。そのためにPCRによるウイルスの消失(主)またはウイルス量90%の減少(副)を有効性の判定指標としているのですが、PCRにそれほど精密な定量性があるのかな?という疑問もあります。「だったらどうしたら良いのだ!」と言われても良い代案があるわけじゃないのだけど・・・・・・まあ、最終結果を待ちたいと思います。

おまけ情報を少し。トランプ大統領イチオシの抗マラリア剤「ヒドロキシクロロキン」はごく最近の論文ではCOVID-19に対する有効性は疑わしくなっており、むしろ副作用による死亡率上昇!という情報も(ランセット誌 2020年5月)・・・・・・日本の症例報告では有効と思わせる論文もあるのですが、製薬会社であるサノフィ日本法人も不整脈の副作用などについて注意喚起をしているので、今後の使用はかなり難しくなりそうです。

一方、2015年ノーベル賞医学生理学賞に輝いた大村智教授が発見された抗寄生虫病薬のイベルメクチン(商品名ストロメクトール)がCOVID-19の治療薬として有望視されてきています。豪州からの報告では、培養細胞を用いた実験で新型コロナウイルス増殖を強く抑制し(アンチ・バイラル・リサーチ 2020年6月掲載予定)、ユタ大学の報告では、実際に臨床症例に対しても常用量投与で明らかな致死率の低下がみられた(ソーシャル・サイエンス・リサーチ・ネットワーク 2020年4月号)とのことです。日本でも北里大学が臨床試験を開始するようです。この薬は数十年の歴史があり、既に何億人という人に投与されているので、安全性は極めて高いといえます。

幸いCOVID-19は減ってきています。しかしそれ故にある程度の症例数が必要な臨床試験の実施は難しくなってくるかも知れません。でも、まもなく来るかも知れない第二波、第三波のためにも、今後の長い歴史で人類の敵として立ちふさがるかも知れない新型コロナウイルスに対する備えとしても、今の間に有効な薬剤を軸とした治療戦略を確立しておきたいところです。




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2020年05月15日

ここ百数十年、平熱が下がり続けている?!

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あなたの平熱はどれくらいですか? 言い方を変えたら、何℃を超えたら“微熱”があると思いますか? 一般的には「37℃以上は微熱」と考える人が多いのではないでしょうか。もっとも、「私は平熱が低いから、36.7℃でも、微熱なのです」と訴える方も少なくないのですが・・・・・・平熱の範囲や微熱の定義は、実ははっきり決まっているわけではありません。

おそらく世界で最も有名な内科学のテキストである「ハリソン内科学 18版(最新版ではないですが)」には、平熱について、“18歳から40歳の人の健康成人を対象にして口腔内体温を測定すると36.8±0.4℃、正常上限値は朝6時で37.2℃、夕方4時で37.7℃であった”と記載しています。口腔内計測は、日本でよく用いられる腋窩(腋の下)での計測より0.4℃ほど高いので、このデータを信用すれば腋窩でも37.3℃くらいまでは微熱あり、とはいえないということになります。実際、このあたりを正常上限とするテキストの記載や臨床研究も少なくありません。

従来、欧米では正常体温は平均37℃(腋窩測定;36.2〜37.5℃)とする説が有力でした。これは1851年にドイツの医師、カール・ラインホルト・アウグスト・ヴィンダーリッヒ先生(重厚な名前ですね〜)が発表した約25,000人のライプツイッヒの患者さんからのデータに基づくとのことです。この基準、「高すぎるのではないかな〜」と言うのが率直な感想です。自分の経験は、37℃超えるとしんどいので(37℃超えの数字をみただけでしんどくなるタイプです)・・・・・・

そう思うのは私だけではないようです。最近の35,488人(平均52.9歳、女性64%、非白人41%)で243,506回測定した米国からの論文(英国医師会雑誌 2017)では、平均体温は36.6℃(35.7〜37.3℃;95%範囲)と報告されています。他にも類似の報告もいくつかあり、そこで「これは、ここ百数十年でヒトの体温は下がっているのではないか」との仮説を立てて検証した論文が現れました(イーライフ eLife誌 2020;生命保険か通販みたいな名前ですが、けっこう引用されている立派なon lineの学術誌です)。

米国のスタンフォード大学のグループは、時代の異なる三つの体温に関するデータ・ベースを調べて比較しました。ひとつはCivil War(南北戦争 1861-1865;ご存じ「風とともに去りぬ」の時代です)に関わった現役・退役軍人のデータ(23,710人;1860-1940)、二つ目は米国国民健康栄養調査のデータ(15,301人;1971-1975)、三つ目はスタンフォード大学のデータ(150,280人;2007-2017)で、分析した体温測定の記録総数は677,423件でした。

さて、結果ですが、性別、年齢、身長、体重などなど、さまざまな因子で補正すると、たとえば2000年代に生まれた男性は1800年代に生まれた男性より平均体温は0.59℃低く、2000年代に生まれた女性は1890年代に生まれた女性より平均体温は0.32℃低いことがわかりました。全体を通してみると、ここ157年間で10年遅く生まれる毎に、平均体温は0.03℃低下していることが明らかになったのです。

ではこれは何を意味しているか、ということですが、体温に重要な影響を与える二大因子として、体内のエネルギー産生=「代謝」と体の恒常性を維持する免疫機構の発動としての「炎症」の二つの要因を挙げることができます。確かにここ百数十年、一般論で言えば私たちを取り巻く衛生や居住環境は良くなりました。かつて炎症に深く関わった結核やマラリアなどの感染症も抑え込むことができるようになりました。事実、19世紀の半ばでは人口の3%が活動性結核であったと報告されています(プロス・ワン誌 2011)。また最近の動向をみても、さまざまな用途で有効な抗炎症剤が使われるようになり、ここ10年で最も普遍的な炎症マーカーである血液中のCRPの平均値が5%ほど下がっているとする論文もあります(米国疫学雑誌 2013)。

あれやこれやの理由で、少なくとも先進国エリアでは平均体温は下がっているようです。これは寿命が延びていることと、同じ現象を違う角度から見ているのかも知れません。これを“文明の勝利”として「コングラチュレーションズ!」で済ますのは楽観的過ぎるでしょう。“人類の炎症レベルは下がっている”かも知れませんが、動脈硬化が進んでいる人では炎症レベルが上昇していて、病気の進展に関わっているとされています(米国心臓病協会誌 2018)。やはり問題とすべきは“それぞれの体温”、“自分の体温”なのです。

先に紹介した2017の英国医師会雑誌の論文によれば、高齢者は比較的低体温なのだけど、持病にも影響を受けて、たとえば甲状腺機能低下症では低体温になるし、がんや肥満では高体温になりがちです。とはいえ、これらの病気は体温の変動の8.2%を説明できるに過ぎないようです。しかし驚くべきことに、すべての関連因子で補正しても、0.149℃の体温上昇が年間死亡率8.4%の上昇に関連している、との結果がでています。微熱もバカにできません。やはり体温は毎日測りましょう!

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2020年05月01日

噛めば噛むほど認知症予防・・・・・・


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皆さんは食事時にしっかり噛むほうですか?私は医師になって間もない頃は食事時間が惜しい気がして、ずいぶん食べるのが早くなりました。そのために噛むのもいい加減になって、今も続いているような・・・・・・しかし噛む、すなわち咀嚼という行動は大事です。摂食・消化・吸収に重要な役割を果たすばかりではなく、どうやら脳にも好影響をもたらせてくれるようです。

以前から咀嚼によって脳血流が増加することは知られていたのですが、その詳細な機序については明らかではありませんでした。このテーマについて、昨年末に東京都健康長寿医療センターのグループが「脳血流と代謝誌(BMC出版)12月25日 2019」に興味深い論文を発表しました。

著者らが明らかにした脳内メカニズムは次のようなものでした。咀嚼すると脳の奥まった場所にあるマイネルト基底核という神経細胞が活性化します。マイネルト神経核からは神経線維が広範囲の大脳皮質に放射されていて、それを介する信号によって大脳皮質の血流量が大きく増加します。マイネルト神経核はアルツハイマー型認知症で脱落することが知られていて、認知機能に重要な役割を果たしていると考えられています。すなわちこの部位の活性化によって脳血流が増加するという現象からみて、咀嚼が認知機能の維持・認知症の予防に役立つことが期待できるというのです。

この研究の面白いところは、咀嚼によって脳血流が増えると言っても、必ずしも咀嚼筋を動かす必要はない、ということを示したことです。著者らはラットを用いた実験系でいろいろな工夫を加えて、この現象の機序の解明に迫っています。印象深いのは、咀嚼筋自体は動かない状態にしておいて大脳皮質の咀嚼中枢を刺激してみると、普通の咀嚼と同様にマイネルト神経核が活性化し、脳血流が増加することが分かりました。これをヒトに例えると、「しっかり噛むぞ!」と思っただけで脳血流が増加する、ということになります。

なぜ咀嚼が脳に良いのか、についてはひとつのヒントがあります。この研究グループは以前から歩行が同様に脳血流を増加させることを報告してきました(自律神経科学誌 エルゼビア出版 2003、日本老年医学会英文誌 2010)。これがどれくらい認知機能にとって役立つかについては、実際に高齢者を対象とした疫学的なデータがあります。東北大学のグループはしっかり歩く高齢者はそうでない高齢者に比較して認知症のリスクが30%近く低くなる、という結果を発表しています(年齢と老化誌 オックスフォード出版 2017)。東京都健康長寿医療センターのグループは歩行や咀嚼などの“リズミカルな運動”がマイネルト神経を刺激して、この神経核を経由した脳血流増加が起こると考えているようです。

ここでちょっと思いつきました。咀嚼も歩行も、マイネルト神経核を刺激して脳血流を増やすことができます。そしてそれは認知機能に良い影響を与える可能性があります。だったら咀嚼と歩行を組み合わせて、“歩きながら物を食べる”のが、最も効率良く認知機能を鍛えることができるのでないか・・・・・・でもやはりこれは“行儀が悪い”“不作法”“迷惑”“品が無い”などという批判の嵐を覚悟しないといけませんね。最近の言葉で言うと、“炎上する”というやつです。これは困ります。ましてや私はどちらかと言えば品格で勝負するタイプですので、さすがにこれは実行しづらいし、お勧めできません。

でも心配いりません。今回紹介した論文には “何も咀嚼筋を動かさなくても良い。咀嚼中枢が活性化する=咀嚼すると思うだけで脳血流が増える”と書いてあります。これが事実なら、“歩きながらしっかり噛む”というイメージ・トレーニングを行うだけで効果が上がるかも知れません。いくらなんでもちょっと話がうますぎる気はするのですが・・・・・・それにイメージ・トレーニングだけでは、歩行という運動の効果も得られないし、噛まずにいると消化・吸収はどうするのだ、ということになります。

やはりここは、めんどうがらずに、1日10,000歩目指して、しっかり歩くとともに、朝・昼・晩(あるいは+間食)食べるときには、しっかり噛みましょう!
しかもリズミカルに・・・・・・そうすれば体も顎も鍛えられ、消化吸収も良くなり、おまけに認知機能も保たれて、「健康ジジ・ババ」への道が開けるかも知れませんよ。



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2020年04月28日

特別増刊号−3  「COVID-19の薬」の続報と「COVID-19流行中の予定 入院」について


私が毎朝の通勤で乗る大阪シティバスは梅田まで12分ほどなのですが、乗客は2人くらい、梅田から乗る阪急宝塚線急行は朝で1車両に10人ちょっと、帰りは数人です。この光景にはなかなか慣れません。見るたびに私たちは今、非日常の世界にいることを痛感します。

現時点で、医療現場がなによりも必要としているものは、まずガウン/エプロン・マスク・ゴーグル/フェイスシールドなどの個人感染防御具(PPE)の十分な配備、数十分〜1時間以内で判明するCOVID-19迅速診断検査、そして有効な治療薬です。PPEについては、国や自治体の有効な対策、善意の寄付、さらに自力で作成(DIY)!(まさか本当にこれが必要になるとは思いませんでした)など、何でも良いからとにかく入手するしかありません。PCR以外のもっと早く診断できる検査法については、少しずつですが進展しつつあります。でもなんと言っても待たれるのは、有効な治療薬です。“攻撃に勝る防御なし”は感染症治療においても事実です。守ってばかりでは勝てそうもないので。もっとも、麻疹レベルの有効なワクチンが広く行き渡ればまた話は別なのですが・・・・・・

前回の増刊号で紹介しましたように、最も効果が期待できそうな薬剤は、ウイルスRNAの合成を阻害する二つのRNAポリメラーゼ阻害剤、ファビピラビル(アビガン)とレムデシビル(増刊号−2で“レムデシベル”と書いていました、すいません。“デシベル”は音量の単位だ・・・・・・)です。ごく最近、両剤に関する論文が閲覧可能になりましたので、紹介します。

[ファビピラビル(アビガン)] 前号で論文に行き着けなかったと書いていた研究です。「エンジニアリング誌(中国工程院〜中国の技術分野における最高機関〜英文機関誌)」に“印刷中”として閲覧ができるようになっていました。前に閲覧できなかった理由は、一旦論文が撤回されたからのようですが、このあたりの事情はよく分かりません。何かあったのかも・・・・・・多少の“きな臭さ”はあります。論文のタイトルは「COVID-19に対するファビピラビルの実験的治療:オープンラベル(患者も医療従事者も治療内容が分かっている=盲検化していない)対照研究」で、広東省深セン市の第三人民病院の医師らによる研究です。

さて研究の概要ですが、比較している治療法はファビピラビル(アビガンのジェネリックです)を初日1600mg 1日2回、2〜14日目は600mgを1日2回服用)+インターフェロンα吸入(1回500万単位、1日2回)群35例VS カレトラ(抗HIV薬)+インターフェロンα吸入群45例です。ファビピラビルの1日投与量は日本で新型インフルエンザに認可されている量と同じですが、インフルエンザの場合は5日までの投与となっています。

結果ですが、投与からウイルス消失までの期間では、ファビピラビル群で平均4日、カレトラ群で平均11日、また胸部CT画像の改善率はファビピラビル群で91.4%、カレトラ群で62.2%でした。副作用もファビピラビルの方が軽微であったとのことです(11.4% VS 55.6 %)。このデータからはファビピラビルの判定勝ち、と言っても良さそうです。薬効に関する科学的な評価については、より洗練された臨床試験が必要なのですが、COVID-19の現状をみると、その実施には倫理的な問題など、さまざまな障壁があります。

もうひとつは、やはり中国発の論文で、こちらは“プレプリント・サーバー”に登録された「査読前論文」です。専門家の批判的吟味を受ける前の状態ですので、解釈には注意がいります(読み手の自己責任です)。武漢の病院や大学、北京大学などの共同研究です。

研究方法はファビピラビルとアルビドールとの前向き、ランダム化、オープンラベルの比較試験です。なおアルビドールというのはロシア産の広域抗ウイルス剤で(抗ウイルス剤研究誌 エルゼビア出版 2014)、COVID-19の治療については、カレトラ投与群34例とアルビドール投与群16例を比較した論文があります。重症肺炎患者は対象外なのですが、投与14日目のウイルス消失率をみるとアルビトールで100%、カレトラで56%であったとのことです(英国感染学会誌 2020)。

さて、話を上記査読前論文に戻しますが、240例のCOVID-19を120例ずつファビピラビル群とアルビドール群に割り付けています。投与7日目の臨床的な改善については、有意差はなかったのですが(ファビピラビル群 61.2%VSアルビドール群 51.7%)、ファビピラビル群で発熱や咳の持続期間が短く、副作用も軽微であったということです。この研究の対象患者には死亡例が含まれておらず、論文を読んでもすっきりしないところがありますが(なんで比較対照がアルビドールやねん!)、アルビドールと比較して互角以上、ということにしておきましょう。

当然ここで、日本のデータが知りたいところです。これについては4月18日に行われた日本感染症学会 Web特別シンポジウムで藤田医科大学の土井洋平教授が現在行われつつある臨床試験の迅速観察結果を報告されています。全国の約200の医療機関が参加した臨床試験なのですが、対照群をおいた比較試験ではない、吸入ステロイドの併用例もある、転帰の判断は各主治医にまかされるなど、さまざまな観察研究の限界はあるものの、346例(男性262、女性84)が解析対象となっている貴重なデータです。

COVID-19患者を重症度で3群に分けて(軽症:酸素投与なし、中等症:酸素投与あり、機械換気(人工呼吸)なし、重症:機械換気あり)、アビガン投与後7日目/14日目の改善率をみると、軽症で70/90%、中等症で66/85%、重症で41/61%でした。ただし重症では7日目/14日目の悪化が34/33%あったということです。すなわち、重症に至らないうちにアビガンを投与すれば、良い結果が期待できそうな印象がありますが、巷間で伝えられているようにCOVID-19患者の80%は重症化しないのなら、とくに軽症者に対する効果の検証は容易ではありません。「投与した、効いた(とくに有名人の患者さんが良くなると)」でつい前のめりになりがちですが、土井教授がおっしゃっておられるように、さらなる検証が必要です。たとえ今、混乱の中にあったとしても、この先将来にわたって続くであろうCOVID-19との戦いに備えて、質の高い科学的根拠をすくい上げておくことが重要であろうと思います。

[レムデシビル] こちらは「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」のサイトで2020年4月10日にアップされました。論文のタイトルは「重症COVID-19患者に対するレムデシビルの人道的投与(Compassionate Use)」です。「重症COVID-19患者を助けたいがために、人道的見地から(ギリアド社の提供した)レムデシビルを投与した結果なので、臨床研究の方法論としては不備なところも多々あるが、そこは理解してほしい」という著者たちの心の内が感じられます。米国、欧州、カナダ、そして日本の医師・研究者も共同著者に名を連ねています。

対象となったのは入院中のCOVID-19患者で、室内気または酸素吸入下で酸素飽和度が94%以下(95%以上が正常範囲ですが、ほとんどの健常人は98〜100%を示します)を示した人たち(計61名)です。レムデシビルは初日200mgを経静脈投与、以後2〜10日目は100mgが投与されるデザインでしたが、治療後データの欠如や投与量の誤りで8例は除外となり解析対象となったのは53人(米国22例、欧州・カナダ22例、日本9例)でした。

投与前の状態をみると重症例が多く、30/53例(57%)は人工呼吸器管理されていて、4/53例(8%)は体外式膜型人工肺(ECMO)使用中でした。結果は、平均18日の観察期間で、36名(68%)では酸素供給状態の改善がみられました(人工呼吸器管理を受けていた30例中17例で人工呼吸器離脱)。また合計25名(47%)は退院し、死亡したのは7名(13%)でした。死亡率はハイレベルの人工呼吸管理を受けていた患者では18%(6/34)、そうでない患者では5%(1/19)でした。この結果からレムデシビルは重症COVID-19患者にも一定の効果があると考えられ、偽薬を対照群としたランダム化試験が進行中とのことです。

でもこの後4月24日にWebニュースで「WHOが中国で行われていたレムデシビルの臨床試験が失敗に終わったと発表し、レムデシビルを製造するギリアド社の株価が5%低下。だがギリアド社は、これはWHOの誤発表であったとして抗議しWHOは発表撤回・・・・・・」というように混乱していて、情報も錯綜しているようです。中国、米国、WHOの関係もぎくしゃく、というか乱闘寸前!というふしもあるので、論文もより慎重に読まないといけないかも知れません。それにしても、COVID-19の問題については、「ちょっといいかげんにしてよ!WHO!」と言いたくなります。私もしつこい性格じゃないけど、ことの始めの頃にWHOがどう言っていたか、しっかり覚えているものね・・・・・・そりゃね、新しい病気だから、すべてを見通せる人なんていないのは分かっているけど、明らかな間違いを言ったのなら「ごめんなさい」の一言くらいあっても良いと思うのです!愚痴になるからもう言わないけど・・・・・・

愚痴のついでに・・・・・・4月28日に「日本でレムデシビルが5月中にも特例承認される」と安倍首相が述べたというニュースが流れました。それは良いけど、アビガンはどうなったのでしょう?!COVID-19に対して第一線で診療にあたっている医師を信じて、早くアビガン使用の自由度をあげてほしいと思います。今のような状況になれば、厚生行政のコントロールが日本中、津々浦々行き渡るのは不可能です。アビガンの真の効果や最善の使いどころは、臨床の現場から届く情報でしか分からないと思うのです。そして「新たな脅威となった疾病に対する最善の治療法を決める段階で、“医学的・科学的でない事情”が干渉している」ことがないように願いたいです。

ではついでにCOVID-19に関する別の話題をひとつ・・・・・・

COVID-19が世界を変えてしまって、日本でも、ほとんどの病院が影響を受けています。たとえば、別の病気で以前から手術の予約をしていたのだけど、それが延期になってしまった・・・・・・という話は珍しくありません。せっかく入院申し込みをした患者さんは「コロナで混乱しているのは分かるけど、院内感染に注意して、何とか予定通りに手術ができないものか」と思っておられるでしょうね。でもCOVID-19は感染していから発症するまでの期間(潜伏期間)が3〜10、最長14日(あるいはもっと)とされています。もちろんこの期間は症状がないので気づきません。では、もし知らずに感染していて、潜伏期間に入院して手術を受けることになれば、何か不利なことがあるのでしょうか?実はこれはかなりの高リスクになるという論文がありました。

武漢の4病院の医師たちは、結果的に潜伏期間中に予定手術を受けることになった34名の患者について分析してランセット誌の姉妹紙である「Eクリニカルメディシン(エルゼビア出版) 2020」に発表しました。対象患者は平均年齢55歳、58.8%が女性でした。手術術式は腹腔鏡あるいは開腹のがん手術、整形外科、婦人科、脳外科領域などさまざまでした。
最終的には15名(44.1%)でICU管理が必要となり、7名(20.5%)が死亡しました。死亡した患者さんは平均年齢59.2歳とやや高く、手術前からあった合併症の頻度も高い傾向があったのですが、術式をみても、平常時であれば、こんなべらぼうな死亡率になるはずがありません。COVID-19と知らずに手術し、術後に発症すると、予後が悪くなることは間違いなさそうです。すなわちCOVID-19の潜伏期間中の手術は、結果としてかなりの高リスクになるわけです。

ですから今のような時期に予定手術を受ける際には、入院までの間は、極力感染機会を避け、体温の記録を怠らず、体調の変化を細かく記録しておくべきだと思います。万一変化があれば、たとえ入院当日であろうと、必ずまず主治医に電話連絡をしてください。

これから梅雨の時期を経て、そしていつもの暑い夏がやってきます。温度と湿度が上がり、紫外線が増えたら、COVID-19の蔓延も収まってくるのでしょうか?COVID-19感染と気候の関連については、肯定する文献も否定する文献もあります。私見ですが、患者数には大きな差があるとはいえ、北半球にも南半球にも感染は広まりました。東アジアでも暖かい都市でも発症がみられました。やはり気候よりも、ソーシャル・ディスタンス、3密を避ける方が重要だと思うのです。

季節の移ろいに期待するよりも地道な努力・・・・・・でも経済や学校教育のことを考えると、たとえCOVID-19が収まっても、本当に大変なのはその後かも知れません。後世の史書に「令和は忍耐の時代であった。」とか書かれることになりそうな・・・・・・


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2020年04月15日

人類の進化と情動を司る遺伝子変異

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私たち人類の祖先(ヒト属)が地球に誕生して約200万年、さまざまな幸運に見舞われ、地上の覇者となりました。まだ人類の祖先が無力な原始哺乳類だった6500万年前には巨大隕石衝突が起こって、当時の覇者だった恐竜があっという間に絶滅したのは運以外の何者でもないし、二足歩行・脳の発達にしても、たまたま起こった進化=遺伝子変異が運良く“当たり”だっただけかも知れませんしね・・・・・・

覇者になったとはいえ、人類は他の動物種とは違って、しょっちゅう仲間割れするし、意図的でないにしろ他の生物種を絶滅に追い込むし、ふつうの動物種では当たり前に備わっている本能が弱くて、生きる意味とか、自己実現とかのお題目を無理矢理考え出さないといけないし・・・・・・なんだか“生物種としての不完全性”が目立ちますね〜自分を振り返っても、ホント、そう思います。

数十万年前、多くの類人猿が世界中に乱立・跋扈していた中から、いかにして我らヒト属が生き残ったか、についてはさまざまな説があります。医学的な観点からこのような議論を展開できる分野のひとつとして、大脳生理学・神経科学があげられます。

ある生物種が少数しか存在していないとき、その生物種の行動や情動の特性は種の生き残りに大きな影響を与える可能性があります。そうなるとヒト属の場合、行動とそれを裏打ちする脳の情動は大きな意味を持ちますが、その情動は脳内の神経伝達物質という脳神経細胞活動を賦活・制御する物質の支配下にあると考えられます。一方、神経伝達物質にはそれを取り込んで輸送する固有の蛋白質があるので、この蛋白質の機能が結果として脳神経細胞活動、ひいては情動に大きな影響を与えます。

このような観点から、東北大学のグループは情動に関わる神経伝達物質の取込に深く関わる「小胞モノアミントランスポーター1(VMAT1)」という蛋白質の進化段階を検討しました(進化生物学誌 BMC出版 2019)。著者らはVMAT1の変異体を培養細胞で再現する技術を用いて類人猿から現代人に至るまでに5段階のVMAT1を作成し進化論的分析を加えています。

VMAT1変異が起こる、すなわち遺伝子配列の突然変異によって蛋白質を構成するアミノ酸がわずか1個変化しただけで、神経伝達物質の取込能が変わって、個体の認知や情動がかなり変化することが分かっています。VMAT1は進化の過程で5段階の変異が起こったのですが、1〜4段階までの過程では神経伝達物質の取込が、かなり減少する方向に変異したようです。これはヒト属において、不安やうつ傾向が強くなっていったことを意味しているそうです。ところが最終の5段階目の変異によって神経伝達物質の取込は大きく上昇しました。これが起こったのは今から約10万年前で、ちょうど私たちの直接の先祖であるヒト属が、アフリカ大陸を出て、世界中に散らばっていった時期に一致するのです。

ちょっと出来過ぎた話のような気もしないではないのですが、確かにヒトの黎明期は厳しい環境にあり、認知・行動・情動の“方向”が生存を左右したことは想像に難くありません。すなわち“環境による自然選択”が働き、“適者生存”〜“フィッターズ・ビクトリー”の原則によって、適応したものが生き残った、ということです。「不安」は自己防衛に繋がりますし、「うつ」も私たちが想起するような薬物治療が必要なレベルはさておき、やや古典的な言説に想像を交えて考えると、しばしば“うつになりやすい性格”とされる「他者に配慮する」、「几帳面」、「責任感の強さ」を豊富に持つことが厳しい環境での比較的小さな集団の維持・生存に有利に働いたのかも知れません。

そしてさらに環境が悪化し、どうにもならなくなった時には、不安やうつ傾向に乏しい“行動的な”ヒトが現れ、新天地に飛び出して行った・・・・・・「出エジプト」ならぬ「出アフリカ」ですね。あるいは行動・前進を恐れぬモーゼのような(顔は「十戒」のチャールトン・ヘストン似)リーダーが皆を引っ張って行ったのかも・・・・・・

それが起こったのはほんと10万年前か?ということで調べてみると、最近の発見から考察すると出アフリカはもっと古く、遅くとも18万年前という意見も(サイエンス誌 2011)・・・・・・まあ、遺伝子変異の時期を正確に推計するのも困難ですし、数万年の差はあまり気にしなくても良いのかも知れませんが。

それよりひっかかるのは、人類の進化も、そして今それを考察しているこの私の思考も、脳内の神経伝達物質とそれを運ぶVMAT1などのトランスポーター蛋白のなせる技・・・・・・ということになると、ちょっと虚しい気もしないではありません。やはりこの生身の体は、所詮は遺伝子の乗り物に過ぎないのかも知れません・・・・・・乗り物だとすれば、ちょっとガタが来始めているのが気がかりです。

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2020年04月10日

特別増刊号−2  「COVID-19の薬」、「COVID-19と薬」


ついに緊急事態宣言が発令されました。大阪市内も不気味なほど人出が減っていますが、患者数は未だ増え続けています。日本は過去にインフルエンザのパンデミックは経験しているはずですが、このように街の風景が変わるのは、初めての経験ですね・・・・・・

前回のCOVID-19特別増刊号の記述を振り返ってみると、昨今の状況を見るに薬物療法の記述はちょっと愛想無かったかな〜と反省。もちろん、“COVID-19に確実に有効な薬”は未だ知られてはいないけど、さまざまな国で有効薬剤を探すべく、懸命の研究が進んでいます。そこで今回は多少なりとも明るい希望を探る視点で「COVID-19の薬」の現状を紹介し、併せて最近話題となった、普段よく服用している薬とCOVID-19との関連、すなわち「COVID-19と薬」についての情報について書いておきたいと思います。

これは想像なのですが、中国は2002のSARS、2012のMERSの経験から、再度の新型コロナウイルス感染症の発症をある程度予期し、それなりにシュミレーションもしてきたのではないかと思うのです。事実COVID-19の発症とともに、低酸素血症を来している入院患者199人を対象に、既にHIVの治療で実績のある抗ウイルス剤カレトラ錠(リトナビル/ロピナビル配合剤)の治験を遅滞なく行いました。その結果は3月18日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メデイシン誌に掲載されたのですが、カレトラ投与+標準治療群VS標準治療群で比較すると、カレトラ投与群で死亡率はわずかに低い傾向があったものの有意差はなく、臨床的改善や治療後のウイルス検出率にも差がなく、副作用はカレトラ投与群で多く、13.8%で投与中止となりました。このデータを見て、世界中の多くの専門家は、がっかりしたのではないでしょうか。もちろん「カレトラはもう、見込みなし」と判断するにはまだ早いのですが・・・・・・しかしCOVID-19の蔓延は止まることを知らずに拡大しつつあり、確実に効果がある薬・治療法の探求は急務です。

その期待される薬剤の中でも、安倍総理の口からよくでるのが新型・再興インフルエンザ治療薬のアビガン(ファビピラビル)です。まずは日本の期待の星、アビガンから・・・・・・

[アビガン(ファビピラビル)] 富山大学名誉教授・現千里金蘭大学副学長の白木公康先生が中心となって開発された抗インフルエンザ薬です。合成、製造はこの分野で高い技術力をもつ(株)富山化学(現富士フィルム富山化学)が担当しています。既に国内に相当量が備蓄はされていますが、日本では高病原性新型または再興型インフルエンザが発生し、国が認めたときにのみ投与可となります。今の流れでは、臨床試験で一定の効果がでたら速やかにCOVID-19でも認可されて投与が始まると思います。

アビガンはインフルエンザウイルスの遺伝子であるRNAが複製される過程で、RNA合成酵素が“偽の材料”としてアビガンを取り込むことにより、RNA合成が停止し、ウイルスの増殖を阻止します。動物実験モデルではタミフルが無効の“致死的実験系のマウス”をすべて救命できたと報告されています。また薬剤耐性が生じず、インフルエンザ以外にもエボラ出血熱ウイルス、ラッサ熱ウイルス、狂犬病ウイルス、ダニに媒介される重症発熱血小板減少症候群(SFTS)ウイルスなどの多くの致死的RNAウイルスに実験系や動物実験モデルで効果を発揮します(薬理学&治療薬 エルゼビア出版 2020 オンライン先行出版〜白木先生ご自身の著作論文です)。日本でも、もう臨床試験が始まっていると思います。

中国では既に2月14日にアビガンのジェネリック薬を用いた臨床試験が開始されています。アビガン投与群と対照群(カレトラ投与群のようです)併せて80名規模の臨床試験ですが、アビガンの効果はカレトラを上回り、問題となる副作用もなかったようです(青島大学の研究者による「ドラッグ・デイスカバリー & テラピューテイクス誌 2020」の総説による;実際の臨床試験の具体的な内容は中国語の記事にしか行き着けず検索断念)。白木公康先生ご自身もアビガンのCOVID-19に対する効果には自信を持っておられるようで、心強い限りです。結果の発表が待たれるところです。なお動物実験では催奇性があるので妊婦の方には投与できません。

[レムデシビル(4/29修正済)] 米国ギリアド社のエボラ出血熱治療薬です。この薬剤も4月には臨床試験開始とのことです。アビガンとよく似た部位でRNAウイルスの複製を抑制するので、多くのRNAウイルス感染症で効果が期待されています。ただ実際にコンゴでエボラ出血熱に対して投与された結果では、効果は抗体療法に劣っていたようで(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メデイシン誌 2019)、ちょっと心許ない気もしないではありません。

[ナファモスタット:先発商品名 フサン] この薬剤は既に長期間臨床の場で広く使われてきました。急性増悪状態の膵炎や播種性血管内凝固症候群とよばれる血液凝固異常に保険適応があり、安全性も確立しています。SARS-CoV-2がヒト細胞に感染する際には、ウイルス外膜とヒト細胞の細胞膜が融合することが必要なのですが、今年の3月東京大学医科学研究所はナファモスタットがこの過程を強力に阻害することを報告しました。この効果が臨床レベルで見られるのなら、COVID-19に対する強力な武器になるかも知れません。なお、同効薬に経口剤のカモスタット(先発商品名 フォイパン)というのがあるのですが、これも同様の抗ウイルス効果をもつことをドイツのグループが発表しているそうです。ただし血中濃度からみると、ナファモスタットの方がより期待できそうだけど。

[シクレソニド:商品名 オルベスコ−喘息用吸入ステロイド剤] 現在では吸入タイプのステロイド剤が気管支喘息の標準治療となっています。強力な抗炎症作用を持つステロイドは喘息の原因となる「気道の慢性炎症」を改善し、喘息を寛解に導きます。副作用も少ない優れた治療ですが、細菌・ウイルスなどによる感染症の悪化を来すことがあるので注意が必要、というのが今までの常識でした。ところがこの吸入薬がCOVID-19の重症肺障害に有効であったという報告(日本感染症学会HPで症例報告が閲覧できます)があり、一躍この薬剤が注目を集めました。確かに国立感染症研究所のコロナウイルス研究室はこの薬剤がSARS-CoV-2のRNAの複製を阻害すると報告していて、この薬剤の効果が単に気道炎症の抑制のみならずSARS-CoV-2に対する直接作用による可能性も示唆されています。また、市場にでている数多くの喘息様吸入ステロイド剤のうち、SARS-CoV-2への効果が証明されたのは今のところシクレソニドのみ、ということです。現在全国から症例を集積して臨床試験が進行中です。なお、COVID-19の肺障害に対するステロイドの全身投与の有効性は確認されていない、という意見が一般的です(ランセット誌 2020 on line )。

[クロロキン/ヒドロキシクロロキン] もともとは70年以上の歴史を持つマラリア治療薬ですが近年“免疫調節作用”も併せ持つことが明らかになり、自己免疫疾患などに投与されるようになってきました。日本でも全身性エリテマトーデスと皮膚エリテマトーデスに保険適応が認められました。ただこの薬剤、マラリアにも免疫疾患にも、どのようなメカニズムで効くのか分かっていません。COVID-19に対しても単独で、あるいはアジスロマイシンという抗菌剤との併用で有効であったという報告もありますが(国際抗菌剤化学療法学会誌 エルゼビア出版2020、バイオサイエンス・トレンド誌 2020)、未だ根拠不十分とする専門家もいます。しかし日本でも今回のCOVID-19に有効であった症例もあるようです。米国のトランプ大統領は、なぜかこの薬剤がお気に入りのようで、認可にも熱心ですし、最近「医療従事者に予防投与したらどうか。オレも服用する」と言ったとか、言わないとか・・・・・・でも米政権の感染症問題の知恵袋的存在のアンソニー・ファウチ国立感染症研究所所長(私でも名前を知っているような内科学・感染症学の巨匠です。著書も買ったことがあります。)はこの薬剤の導入については慎重な立場をとっています。一方ピーター・ナヴァロ大統領補佐官もこの薬剤に肩入れしていて、ファウチ博士とバトルしたとか・・・・・・経済学者のくせに失礼な奴だ(怒)・・・・・・あっ、別に経済学者みんながどうこうと言うつもりはありませんので、誤解なきようお願いします。


次は、COVID-19がふだん服用する薬に影響を与えるかも知れないと、ネットなどで話題になった話についてです。

[降圧剤:アンジオテンシン転換酵素阻害薬ACE-I、アンジオテンシンU受容体拮抗薬 ARB]
ACE-I、ARBともにとても人気のある降圧薬です。とくにARBの方がよく使われています。同じく人気の降圧薬であるカルシウム拮抗薬との合剤もありますので、降圧薬を服用されている方はお薬手帳やネットでいちど成分を確認してみて下さい。これらの薬剤がなぜCOVID-19との関連が取りざたされたのかといえば、“SARS-CoV-2がヒトのACE-2受容体を介して感染する”からです。そこでACE-I、ARBのフル・ネームを見て下さい。ねっ、何か関係ありそうでしょう?まず話題になったのはACE-I、ARBを服用しているとACE2受容体が増加してくるので、感染しやすくなるのでは?という疑問でした、実際、COVID-19死亡の危険因子のひとつとして高血圧・心血管病が挙げられています。ところがACE-I、ARBは心疾患にも適応がありますので、高血圧・心血管病患者さんの多くがACE-I、ARBを服用しています。そこで「ACE-I、ARBを服用しているとCOVID-19のリスクが高い?!」という話が広まったのです。そのため外国では勝手に薬剤を中断して持病が悪化した人も少なくなかったようです。この状況を憂慮した米国と欧州の高血圧や心臓病の関連学会は、相次いで声明を発表しました。その骨子は、「ACE-I、ARBを服用していてもCOVID-19に罹りやすいとか、罹ったときに重症化しやすいというデータは全くないので、勝手に服薬を中断してはいけない」というもので、この声明はもっともです。COVID-19は肺のみならず心臓にも臓器障害を来すとされており、現段階では専門家でさえ「ACE-I、ARBがCOVID-19において、不利に働くか、有利に働くか、何ともいえない」というのが本当のところのようです(米国心臓病協会誌 2020)。一方、高血圧・心血管疾患そのものがCOVID-19の危険因子であることは間違いないので、十分な感染対策と高血圧・心臓病を良い状態に保つことがなによりも重要であることは疑いありません。

[非ステロイド系抗炎症剤 NSAID] NSAIDは非常によく使われる消炎鎮痛・解熱剤です。アスピリン(現在は少量を血栓予防剤として処方されることが多いです。鎮痛解熱剤として中等量以上を服用すれば日本人は胃腸障害が出やすい傾向にあります)とアセトアミノフェン(インフルエンザの発熱に対する第一選択薬です)は通常NSAIDの範疇には入れません。代表的なNSAIDにはイブプロフェン(ブルフェン、イブ)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)などがあります。これらのNSAIDはCOVID-19の予後を悪化させる、という話が広まりました。これは全く根拠がないわけではありません。NSAIDの長期連用は心血管病や呼吸器病に悪影響があり、腎障害のリスクもあります。また病初期に用いると発熱などの症状をマスクしてしまう可能性もあり、少なくともCOVID-19に罹患した可能性があるときには、NSAIDによる“付加リスク”の可能性は否定できず(英国医師会雑誌 社説 2020)、自己判断で服用するような薬剤ではありません。

とはいえ、NSAIDとCOVID-19との関連については、データは少なく、科学的根拠は乏しいのが現状です。慢性疼痛・慢性炎症性疾患ではNSAIDを連用せざるをえない状況も少なくありません。このような場合、NSAIDの自己中断もまた別のリスクとなります。それ以外なら、やはりアセトアミノフェンが第一選択になるかと思います。まあ、“効き目の切れが悪い”ときもあるのだけど・・・・・・ではみなさま、ご無事で。

posted by みみずく at 22:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記