2019年02月15日

インフルエンザが心筋梗塞をひきおこす!?

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“風邪は万病の元”とよく言われますが、だったら風邪の親玉であるインフルエンザ(flu)は“メガ万病の元、ということになります。事実、香港大学の研究者が中心になって(日本の研究者も参加)、1998〜2009年のデータをまとめて発表した論文(感染症学雑誌 オックスフォード出版 2012年12月号)によれば、flu罹患によって、1年間で人口10万人あたり11.1人の死亡超過が生じ、その大部分は65歳以上で、死亡原因としては呼吸器系疾患が53%、心血管病が18%を占めていました。呼吸器系は当然としても、fluは心血管系にも大きな負のインパクトを与えるのです。

心筋梗塞は横綱格の心血管系疾患ですが、fluと心筋梗塞の関係は1930年代から注目されていました。要するに“fluが流行ると心臓発作で死ぬ人が増える”という現象が昔から知られていたのです。豪州のグループがこのテーマに関連する過去16編の論文をレビューして英国医師会雑誌の姉妹誌「ハート」(2015年8月号)に発表しているのですが、それによれば直近のflu、あるいはflu様疾患、または呼吸器感染症の罹患によって心筋梗塞の発症リスクは約2倍となり、fluワクチンはその心筋梗塞の発症リスクを約30%低下させるとの結果でした。

しかしこのような研究は規模を大きくする必要があり、一方「flu」「心筋梗塞」の診断の信頼度も問題になります。また、他に結果に影響を及ぼしそうな要因の検討はとくに重要です・・・・・・などの理由で、明瞭な結論を引き出すのは簡単ではないのです。ここは研究手法に一工夫が必要です。

そこでカナダのグループは、「自己対照ケース・シリーズ」という一捻りしたデザインの研究でこの問題に挑みました(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌 2018年1月号)。この論文の研究方法は、まず“対象期間”を設定し、この間に“flu陽性となり(ウイルス学的検査でflu陽性が確定)、かつ心筋梗塞を発症して入院した”患者さん364人を選び出しました。そしてflu陽性となってから7日間を“(fluによる)リスク期間”、そのリスク期間の前後1年間を“対照期間”として、“リスク期間”と“対照期間”とで、どちらが心筋梗塞を生じるリスクが高いかを比較しました。こうすれば、同一の患者さんを、同じ時間軸の上でflu罹患と心筋梗塞との時間的距離を測定するだけなので、他の要因の影響を最少にできます。

さて、結果ですが、リスク期間の心筋梗塞発症リスクは対照期間より6.05倍高いことがわかりました。fluの型や他のウイルスで比較してみると、flu Bのリスクが一番高くて10.11倍、次にflu Aで5.17倍、RSウイルスは3.51倍、その他のウイルスで2.77倍という結果でした。ウイルス性急性呼吸器感染症は、その多くが心筋梗塞発症リスクを増大させるのですが、やはりfluが最もリスキーだと言えそうです。なおflu陽性後7日を過ぎるとリスク超過は消失します。

この研究はけっこう注目を集めたようで、同誌の6月号にさまざまな意見が「編集者への手紙」として寄せられました。いくつか紹介しますと「この研究方法を用いるとflu以外のさまざまな病気(例えば逆流性食道炎や胃炎)でも同様に心筋梗塞リスク増大という結果が得られる」「fluにより稀に発症するウイルス性心筋炎が除外できているのか?」などなど・・・・・・なかでも私が注目したいのは「flu感染時に服用した鎮痛解熱剤が心筋梗塞のリスクを上げている可能性は?」という意見です。

鎮痛解熱剤の多くは「非ステロイド系消炎鎮痛剤(略称NSAID)」に分類される薬剤です。そしてほぼすべてのNSAIDはfluとは無関係に心筋梗塞のリスクを高めるとする報告があります(英国医師会雑誌 2015年5月号)。これは100%確実とまでは言えませんが、無視できないレベルの報告が蓄積されています。また最も歴史がある鎮痛解熱剤であるアスピリン(NSAIDには含まれません)は、小児ではfluで稀に生じる脳症との関連が否定できず禁忌となっているのですが、高齢者でflu罹患時のアスピリンの功罪については信頼できるデータがなく、やはり頓用の鎮痛解熱剤としては、避けておく方が無難です。従ってfluの時には、比較的安全だとされる「アセトアミノフェン」が第一選択の鎮痛解熱剤として処方されることが常です。

以上まとめますと、fluに罹患すると1週間は心筋梗塞のリスクが上昇する可能性があるので要注意。そしてもし鎮痛解熱剤を使うのなら、NSAIDやアスピリンではなくて、“fluの定番処方”となっている「アセトアミノフェン」を服用するのが無難です。とくに心筋梗塞のリスクが高めの人は気をつけて!時間がない・・・・・・とか言って、家で見つけた鎮痛解熱剤を勝手に服用する(これだけでも原則アウトです)前に、せめて薬剤名と成分を確かめましょう!

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2019年02月01日

アルコールと健康2018

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このブログでもアルコールの功罪について過去3度とりあげていますが、世界的にみても、相変わらずアルコールと健康に関する研究は盛んです。これは、アルコールをやめたい人、やめられない人、やめたくない人が世界にみち溢れていて、その経済効果も莫大・・・・・・しかし一方ではアルコール過剰摂取による有害事象は明らかで、それによる経済損失もまた途方もなく大きいからでしょうね。

現在のグローバル・スタンダードでは「純エタノール換算で男性1日10〜20g(週に1〜14単位),女性で1日10g(週に7単位)は “かろうじて”健康上の利益をもたらす」とされており、この量は「中等度(moderate)飲酒」と表現され、“適量”を意味します。これは欧米人の酒の強さを考えるとものすごく少ない量です。度数5%のビールでいえば、男性は500ml缶 1本、女性ならその半分に相当します。“どちらかといえば、いける口”なら「もう、健康上の利益なんかどうでも良い〜もっと飲みたい〜」というレベルですね。

科学的根拠の世界でのアルコール擁護派にとっての最後の砦は「中等度飲酒の虚血性心疾患と認知症のリスク減少効果」なのですが、今回はこれについての最新の研究論文紹介です。

1本目の論文は「世界的疾患負荷研究2016」と題して1990〜2016年の期間で195の国と地域(オリンピック並です)で行われた研究を集めて解析したものなのですが(ランセット誌 2018年9月号)、20ページのうちざっと半分は共同研究者の名前リストです。ものすごく小さな活字で、ざっと眺めただけですが、日本からも東大、京大、筑波大学、横浜市大、それに聖路加国際大学、大阪国際がんセンターの研究者が名を連ねています。

この研究結果を簡単に言えば、「すべての原因による死亡とがん関連死亡は、飲酒量増加とともに直線的に増加し、中等度飲酒の益は認められない。要するに
安全飲酒域は存在しない」というものでした。まあ、「けんもほろろ・・・・・・」という感じですね。ただし例外として、以前から指摘されていたように、虚血性心疾患に対しては中等度飲酒の予防効果はありそうなのですが、その他の害を考えたらその益は相殺される可能性大です。

もうひとつの論文は、英国のグループによるアルコール摂取量と認知症に関する研究で(英国医師会雑誌 2018年8月号)、認知症のない人9,100人(登録時年齢35〜55歳)を平均23年間追跡調査したものです。認知症は397人で発症し、結果に影響しそうなさまざまな因子で補正すると、週に1〜14単位飲酒する人と比較して、中年期に禁酒した人の認知症リスクは1.5倍ほど高くなりました。また飲酒量が週に14単位を超えると、7単位/週増加する毎に7%リスクが増加することが明らかとなりました。なお、禁酒による認知症リスク増加の原因の少なくともいくらかは、禁酒した人の心疾患や代謝疾患罹患(禁酒の動機となったのかも知れません)によるものである可能性が指摘されています。

日本人は欧米人ほどアルコールに強い人種ではありません。それでも日本では「アルコールの適量は1日ビール2本、お酒なら2合まで」と思っている人が少なくありません。ネットなどに1単位=アルコール約20gで記載されていることも関係しているのかも知れませんが、これでは過量になってしまいます。欧米論文の「moderate drink=中等度の飲酒」の翻訳も良くないのだと思います。また“moderate drink”が虚血性心疾患や認知症のリスクを低下させる効果は否定できませんが、益と害の大きさを総合的に比較すれば、益の過大評価は禁物だと思います。

あと、最初の論文に記載されている重要な情報をふたつ。ひとつは女性の乳がんリスクです。これについては、アルコール摂取量と乳がん発生率の間にはきれいな直線関係があります。1日2単位飲めば、飲まない人より20%リスクが高くなり、1日数単位以上では50%近くリスクが増大します。

いまひとつは飲酒量増加による結核再活性化のリスク増加です。これはグローバルな視点でみると開発途上国にみられる傾向ですが、日本は先進国の中では未だに結核が多い国なのです。とくに大阪府は結核が多くて・・・・・・

私たちの年代は、一度は結核菌が体内に入って冬眠状態にあると考えられます。最近、さまざまな疾患で新たに開発された強力な薬剤による免疫抑制療法を受ける患者さんが増加しているのですが、その際に結核菌が再活性化して結核を発症することがしばしば経験されています。そしてこの免疫抑制と並んで、“過度の飲酒”もまた、結核再活性化の強いリスク要因だと考えられているのです。

お酒を飲む人も、飲まない人も、2週間以上持続する咳・痰や微熱があれば必ず受診をしてくださいね・・・・・・
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2019年01月15日

乳製品はやっぱり体に良い!?

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世界的に見て、食生活のガイドラインには、高脂肪乳製品を控えるように指導しているものが少なくありません。高脂肪乳製品は飽和脂肪酸を多く含有しているため血清脂質に悪影響を与え、それゆえ心血管病や死亡リスクを上昇させると考えられているからです。しかしこれを明確に示した研究は少なく、結果のばらつきも大きいのです。まあ、食品と健康・疾病の関係に関する研究では、よくあることなのですが・・・・・・

食生活は国や地域によって大きく異なるので、何か物を言おうと思えば研究の規模を、対象人数のみならず地政学的にも拡大する必要があります。この観点から企画されたのがPUREスタディ:「都会農村前方視的疫学研究」で、五大陸21カ国が参加し(政治国際会議なら紛糾必至の組み合わせです)、35〜70歳の136,384人がエントリーし、参加者を平均9.1年間観察した大規模研究です(ランセット誌 2018年9月号)。

結果を紹介する前に、まず食品の摂取量を表す“単位”についての説明を・・・・・・1サービングというのが「1食での一人前量」です。乳製品でいえば牛乳コップ1杯・ヨーグルト1カップ、ともにおおむね244g、チーズなら一切れで15g、バターなら茶さじ1杯で5gとなります。牛乳・ヨーグルトなら150Kcal、チーズ、バターなら40〜50Kcal前後かと思います。

さて、結果ですが、全乳製品をたくさん摂取する人(>2サービング/日)は乳製品を全く摂取しない人に比べ、総合アウトカム(すべての原因による死亡+心血管疾患発症)が16%低く、さらに全死亡、非心血管死亡、心血管死亡でもそれぞれ17%、14%、23%低かったのです。主要心血管発症と脳卒中発症をみても、やはり22%、34%低いという結果が得られました。ただし心筋梗塞発症については、差はみられませんでした。この乳製品による死亡と心血管病リスク低下は牛乳とヨーグルトで有意だったのですが、チーズとバターでは例数が少なかったためか、有意ではありませんでした。

乳製品には当然のことながら乳脂肪が含まれます。一方、現代社会の“食生活と健康”という議論では、脂肪はしばしば“悪玉”とされがちです。しかし乳製品は良質の蛋白質を含み、さらにカルシウム、リン、カリウムなどの無機質、ビタミンA、B2をはじめとするビタミンも豊富に含む、優れた食品です。従って今回の結果はさほど驚くにはあたりません。

少し前に高脂肪乳製品・低脂肪乳製品を意識的に摂取した場合、血清脂質など生活習慣病マーカーに悪影響を及ぼすか否かを検討したメタ解析が発表されました(プロス・ワン誌 2013)。これは20の研究から1677名を集計し、1日平均3.6サービングの乳製品を平均26週間食べ続けた影響を解析したものですが、これによれば、どちらの乳製品摂取を増加させても腹囲は増えず、空腹時血糖上昇はわずか1.32mg/dl、インスリン抵抗性は変化なし、悪玉コレステロールの増加も1.85mg/dl程度で、血圧の変化もありませんでした。ただし体重は少し増加しました(+0.4〜0.8kg)。要するに乳製品摂取を増やしても、生活習慣病の指標は体重を除き、それほど悪化しないという結果です。

以上の結果から、もし今まで乳製品をあまり摂取していないのなら、今後食事に乳製品を積極的に取り入れるのも悪くありません。1日牛乳1本 and/or ヨーグルト1カップ、チーズ1〜2切れくらいを食事に組み入れてみたらいかがでしょう。ちょっと気分も変わるかも・・・・・・

とは言っても摂取総カロリーを考える必要がありますね。わたしたちの年代ならおおむね1日2,000〜2,200 Kcalくらいが適正として、ここでまず糖質の総カロリーにおける割合を決める必要があります。 “糖質、脂質、いずれが悪玉か?”という問題については、いまだに結論があっちにいったり、こっちにいったりしているのですが、ランセット誌 2018年9月号、10月号掲載の論文をみると、話はさらにややこしくなっています。

どうやら総カロリーにおける糖質割合は高すぎても、低すぎても死亡率上昇に繋がり、総カロリーの50%くらいに設定するとリスクが最少になるようです。すなわち最近人気の糖質制限は支持されません。これには強い根拠に基づいた有力な反対意見も少なく信用して良さそうです。しかし従来推奨されてきた「脂肪は総カロリーの30%以下、飽和脂肪酸は10%以下に抑える」には、かなり異論がでてきています。「脂肪は種類を問わずいくら摂ってもOK」という意見さえあります(もちろん糖質を50%に維持する必要がありますし、一定の蛋白質も必要ですが)。

とりあえず現時点では総カロリーは体重が増えない程度、糖質は50%、獣肉蛋白ばかりでなく植物蛋白も摂取、脂肪はカロリーを増やさない範囲であれば難しいことを考えなくてもOK、くらいでどうかな〜私はといえば・・・・・・好きな物を好きなだけ食べています。先のことなんか考えてられないもんね〜
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2019年01月01日

アスピリン“百年の夢”はうたかた!?

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あけましておめでとうございます。今年もお暇なときに、このブログを読んで頂けたら嬉しいです。

アスピリンは最も古く、かつ最も頻用されている薬のひとつです。ドイツ・バイエル社が鎮痛解熱剤として販売を開始したのが1899年、今年で120年になります。発売当初から、その切れ味鋭い効果で世界を席巻しました。1970年代には少量投与で血小板凝集抑制作用をもつことが明らかとなり、現在では脳梗塞や虚血性心疾患などいくつかの疾患で血栓再発抑制の標準治療薬となっています。さらに近年、アスピリンは大腸がんをはじめとする様々ながんの発生率を低下させる可能性があることが報告され(ランセット誌 2010~2012)、アスピリンで心血管病のみならず、がんも予防できるのではないか、という期待がふくらみました。

「再発予防」(二次予防)から一歩進んで、“未だ病気を発症していない人を対象にして、薬を投与し、発症を未然に防止すること(一次予防)を「化学予防」といいます。心血管病やがんなど、頻度が高く健康に重大な影響を及ぼす病気がターゲットになります。むろんリスクが高い人を対象として投与するのが一般的ですが、効果が確実であれば、すべての健康人を対象にすることも考えられます。       

用いられる薬は長期間服用することが前提となるので、副作用が軽微ないしコントロール可能であること、そして安価なことが条件となります。この条件に合う薬剤としてアスピリンとコレステロール降下剤であるスタチンが考えられます。価格面ではアスピリンが1日投与量で約6円、スタチンはその数倍ですのでアスピリンに軍配が上がります。そこでアスピリンは“人類の健康寿命を延ばす夢の薬”かも知れないという期待が高まりました。

ここでアスピリンがどうして効くか、について簡単にふれておきます。アスピリン、化学的には「アセチルサリチル酸」という物質ですが、この薬には強力な生理活性物質である「プロスタグランジン(PG)」の生成を阻害し、PGによる炎症を抑制し、その結果発熱や痛みを和らげます。またアスピリンは少量投与で止血・血栓形成の最初の重要なステップである血小板の凝集を抑制します(同時に“出血しやすくなる”という問題が生じます)。心血管病の再発抑制には血小板凝集抑制作用が深くかかわっているのですが、がん抑制効果については、炎症抑制作用が関係している可能性が示唆されています。

ところが昨年10月、臨床系医学雑誌の最高峰である「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に4編の論文が同時に掲載されたのですが、これがなんと“アスピリンの夢”を“ちゃぶ台返し”するような結果だったのです。

これらの論文のうち、3編は米国・豪州の共同研究で、同じ対象集団について三つの異なった観点から解析を行っています。対象は70歳以上(米国の黒人とヒスパニックは65歳以上)で心疾患、認知症、身体障害のない人19,114名で、アスピリン100mgと偽薬にランダムに割り付けられています(アスピリン群9.525人、偽薬群9,589人)。

3編の研究結果を要約しますと;@健康な高齢者においてアスピリンは“障害のない生存期間”を延長できるか?→観察期間4.7年で、すべての原因による死亡(全死亡)、認知症、持続性の身体障害、いずれも両群で差はなかった。A健康な高齢者においてアスピリンは心血管イベントを防げるか?→心血管イベントのリスクは両群で差はなかった。重大な出血のリスクはアスピリン群で38%増加した。B健康な高齢者においてアスピリンは全死亡を減少させ得るか?→逆にアスピリン群で全死亡リスクが14%高かった。高くなった原因の主たるものはがんによる死亡であった。

もう惨憺たる結果ですね〜とくにがん死亡までが増加するとは・・・・・・
著者らもこの意外な結果に「解釈は慎重に行う必要がある」と、ちょっと腰が引けています。現時点では健康な高齢者を対象としたアスピリンの一次予防は、 “時期尚早”と思われます。

なお、4つめの論文は異なるグループの研究で、「心血管イベントを未だ発症していない糖尿病患者を対象としたアスピリンの予防効果」を検証したものですが、これによるとアスピリン群では偽薬群に比べ、糖尿病患者の心血管イベントは12%抑制されるものの、重大な出血が29%増加するため、益は害で相殺されてしまう、という結果でした。

念のために繰り返しますが、脳梗塞・心筋梗塞など心血管病を既に発症した患者さんにおけるアスピリンの再発予防効果は確立しています。でも、「では先手をとって発症する前にアスピリンを投与・・・・・・」というのは今の段階では難しい、ということです。

アスピリンの夢、見込みありそうだったけどな〜小椋佳さん作曲、阿久悠さん作詞の名曲「古城の月(1987)」にあるように、「夢は砕けて夢と知り・・・・・・」となるのかも。




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2018年12月15日

フィッシュ・オイルは心の平穏をもたらす!?

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体に良い栄養成分の代表として、「オメガ3系多価不飽和脂肪酸」があります。
「何それ?!」と思われる方も、その中の“御三家”を挙げたら聞き覚えがあるのではないでしょうか。その3つとは「エイサコペンタエン酸(EPA)」「ドコサヘキサエン酸(DHA)」「アルファ・リノレン酸(ALA)」です。ALAは植物油由来なのですが、EPA、DHAはフィッシュ・オイルの成分として知られており、サンマ、イワシ、サバ、マグロ(トロの部分)に豊富に含まれています。

EPA、DHAはサプリメントとしても有名で、世界中で多くの愛用者を獲得しています。その効能として最も喧伝されているのは抗動脈硬化作用で、日本のメディアでは、しばしば“血液サラサラ”と表現されています。これらが他のサプリメントと一線を画するのは、ともに保険適応医薬品として認可されていることです。「高中性脂肪血症」や「閉塞性動脈硬化症」などが適応疾患となっています。

当初はEPA、DHAの効果への期待はどんどん大きくなり、2012の米国栄養学会機関誌に掲載されたある総説(栄養学の進歩・オックスフォード出版 2012)などは 「EPA、DHAには生涯を通じての健康利益がある」とし、胎児の成育、心血管病やアルツハイマー病に対する予防効果など、まさに“ゆりかごから墓場まで”の健康利益をぶち上げています。

しかし私自身のEPAやDHA製剤の処方経験を正直言えば、“明瞭な手応え”は乏しく、また効能効果を保証する第一級の文献も見当たらず、ただでさえ疑り深い私は、しだいに処方を控えるようになりました。こういう場合には、EPAやDHAの有効性についての論文を1編や2編ではなく、できるだけたくさん集めてその効果を検証する“メタ解析”で決着をつける必要があります。

最近、権威あるメタ解析の専門誌である「コクラン・データベース・システマテック・レビュー」に注目すべき論文が掲載されました(2018年7月)。この論文ではEPAやDHAによる心血管病の一次予防(既往のない人が心血管病になるのを予防する)と二次予防(既往のある人の再発を予防する)について検証を行っています。

その結果は・・・・・・ランダム化比較試験79論文のうち、偏りが少なく、まともそうな論文25編を対象として解析したところ、「EPAやDHA摂取を増やすことの益はほとんど、あるいは全くない。今まで喧伝されていた結果は“研究対象や手法の偏りによる偶然の結果”の可能性がある。ALAは、ひょっとしたら、ちょっとはマシかも知れないけど、その科学的根拠は弱い」という結果でした。また、同時期に他誌に掲載された糖尿病患者を対象にオメガ3系多価不飽和脂肪酸サプリメントの血管イベントに対する効果を検証した論文でもやはり有意な結果は得られませんでした(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン 2018年8月号)“やっぱりな〜”という感じですね・・・・・・

しかし現在「では、精神心理的病態に対してはどうか」という観点でEPAやDHAの効果についての研究を進めているグループがあります。日本の国立がん研究センターは健常者やさまざまな精神疾患、身体疾患をもつ患者さんにおけるEPAやDHAの不安軽減効果についてのメタ解析を行い、有意な効果を報告しています(米国医師会雑誌・ネットワーク・オープン 2018)。この研究は9月にはメディアでも取り上げられ、「毎日サンマ1.5匹、三か月で不安を軽減!」と紹介されました(今年はサンマが大量だったので良かったです)。まあ、そんなに強い抗不安効果ではないのですけど。

EPA・DHAを豊富に含むフィシュ・オイル・リッチな食生活は“心血管病を防ぐ”という科学的根拠は乏しいけれども、心の平穏をもたらしてくれる可能性があるかも知れません。なので、不安に襲われた時には苦手でなければぜひどうぞ。ただしサプリメントを購入してまで無理に摂取する必要はないと思います。となればサンマ・イワシ・サバの出番かも・・・・・・ほんとはマグロのトロが一番EPA・DHAが豊富なのだけど、値段高いし、三か月毎日は飽きるし・・・・・・

でもフィシュ・オイル・リッチな食生活による“有害事象(副作用)”もないわけではありません。それはもちろん“小骨が喉に刺さる”ことです。だんだん老眼が進むとリスクが高まりますから用心して下さいね。それに一度小骨が刺さると、また刺さるのではないか、という不安が逆に高まって、せっかくの抗不安作用も帳消しなんてことも・・・・・・なんだか自分でもすごく嫌みな論文の読み方をしているような気がするので、この辺で・・・・・・

……サンマが苦くても塩っぱくても(突然ですが佐藤春夫さんです)、
食べても食べなくても、皆さまに平穏な新年が訪れますように……



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2018年12月01日

簡単な“体力測定”で糖尿病リスクを評価する

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平成28年の厚生労働省発表によれば、日本人の成人で「糖尿病が強く疑われる人」は12.1%(男性16.3%、女性9.3%)、「糖尿病の可能性が否定できない人」は男女ともほぼ12.1%とのことです。合計すれば何と約2000万人です。まさに“堂々たる国民病”です。

さて、糖尿病の危険因子といえば、肥満、運動不足、座位時間が長いこと、不適正な食事習慣・・・・・・などたくさんあるのですが、知りたいのは「現在の自分にとって、将来の糖尿病リスクはどの程度か」ということではないでしょうか。
それもできれば簡単な方法で知りたいところです。その有力候補のひとつが「運動能力」です。とくに最大酸素摂取量などを測定する「心肺フィットネス」で示される運動能力は糖尿病罹患率と逆相関することが明らかになっています(欧州疫学会雑誌 2015)。とはいえ、この心肺フィットネスなるもの、専門的な心機能評価やアスリートの能力評価に用いるレベルの検査なので、広く普及させて誰にでも手軽に利用できるようにするのには、ちょっと無理があります。

そこで注目されるのは「ニイガタ・ウェルネス・スタディ」という日本のグループによる研究です(日本疫学会英文誌 2018)。この研究の対象は2001/04〜2002/03に登録された日本人21,802人(女性6,649人)です。この人たちは登録時には糖尿病に罹患しておらず、この時点で“体力測定”を実施、その後2001/04〜2008/03の間に“体力測定”を少なくとも2回実施しつつ,糖尿病罹患状況を調査しました。

この研究でおこなった“体力測定”の内容ですが;@筋力指標としての「握力」:立位で左右1回ずつ、高い方の値を採用し、体格差を補正するために握力(kg)/体重(kg)で評価、A下肢筋力指標としての「垂直跳び」:2回試技、良い方の記録(cm)/体重(kg)で評価、B体幹バランス指標としての「閉眼片足立ち」:両手は後ろに廻して“4分頑張って下さい”と伝えて3回試技、もっとも長かった時間を採用、C体幹柔軟性指標としての立位前屈:1回試技、できるだけのばした中指の位置を記録とする、D「全身反応時間」:圧センサー付マットに立って、2m先に発光シグナル装置を配置し、光ったらすかさずジャンプする。圧センサーで“シグナル発光から両足が空中にある時間を測定”する。3回試技で平均値を採用、E腹筋を評価する「下肢挙上時間」:臥位で両足を伸ばして踵を床から30cm以上挙上してできるだけ長く保持する。1回試技・・・・・・まあ、ふつうの“体力測定”だけど、全身反応時間だけは装置にお金をかけていますね。

この研究結果の解析方法ですが、すべての項目で、記録の良い順に並べて4等分して4つのランクに分けます。そして最も良い記録だったグループを基準にして、体力テストの記録が悪くなれば糖尿病の罹患率がどうなるかを検討しています。対象の年齢の中央値は50歳で、平均観察期間は5年、この間糖尿病を発症した人は972人(4.5%)でした。

さて、“体力測定”のどの項目の成績が悪いと、糖尿病リスクが高くなるかをみてみますと、6項目のうち、さまざまな因子をきっちり補正したうえで、なおかつ有意差があるのは@握力とB閉眼片足立ちの二つでした。最下位1/4のグループは最上位1/4のグループに比べて@では56%、Bでは39%の糖尿病罹患リスクが増加しました。実際、どれくらいの記録でリスクが高くなるのかといえば、握力/体重で0.5〜0.6(体重60kgなら握力30〜36kg)、閉眼片足立ちで10〜20秒以下ならちょっとやばいかも……

もっともこの結果をすぐに私たちに当てはめられるか、については問題があります。まずこのデータの対象者は私たちより十数年若い集団です。これだけ年齢が違うと、直ちに適応するのは難しいかも・・・・・・それに握力と糖尿病リスクの関係を否定する先行研究(ランセット誌 2015)もあるし・・・・・・もうひとつ、これを読んで頂いた方に重要なご注意を!・・・・・・「よし、では握力トレーニングや片足立ちを練習しよう!」と思った方もおられるかも知れませんが、訓練で握力が強くなり、また片足立ちが上手になったからといって、糖尿病の罹患率が下がる証拠はありません。また、「閉眼片足立ち」は、けっこう難しく、年齢による衰えは思っているよりもずっと大きいかも知れません。どうしてもやるなら周りを片付けたうえで、くれぐれも転倒・怪我には気をつけて。一方、握力については、握力計を入手する必要がありますが、わりあい安価なものもありますし、リスクはほぼないので、興味ある方は試してみてください。ただし勢い余って手関節を痛めることはあり得るので、そこはご注意を!


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2018年11月15日

便潜血でわかる健康リスク〜大腸がんだけではない

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便ヒトヘモグロビン検査、通称“便潜血”は大腸がんスクリーニングとして世界中で普及しています。検診で便潜血を行うことにより、大腸がん死亡率を低下させることができ、しかも検査自体にはリスクがなく、最も優れた“がん検診”のひとつと言っても過言ではありません。

便潜血が陽性であれば、必ず全大腸内視鏡検査が必要です。検診での便潜血陽性率は4〜5%くらいと報告している施設が多いのですが、全大腸内視鏡を行うと、陽性者のうちの2%くらいに大腸がんがみつかるとされています。では、もし大腸内視鏡で異常がなければ、「ラッキー、もう大丈夫」と言って良いのか、というのが今回のテーマです。どうも話はそう簡単ではないようです。

最近、英国スコットランドのグループが「便潜血陽性は“大腸がんの死亡率”のみならず、“すべての原因による死亡率”と“大腸がん以外の原因による死亡率”にも関係している」と報告しました(「ガット(腸)誌」2018年7月号)。彼らは2000年3月〜2016年3月に便潜血検査を受けた134,192人(女性53%)を対象に便潜血の結果と死亡原因との関係を調査しました。対象者のうち2,714人(約2%)が便潜血陽性でしたが、男性の陽性率は2.6%、女性は1.5%、と男性で陽性率が高く、また年齢が高いほど陽性率が高い傾向にありました。また便潜血陰性者の約18%、陽性者の約29%が、アスピリンなどの出血を来しうる薬剤を処方されていました。2016年末の観察終了時点で便潜血陰性者の9.6%、陽性者の21.9%が死亡しており、死亡時平均年齢は陰性者で71歳、陽性者で70歳でした。

さて、問題となる原因別による死亡リスクですが、結果に影響し得るさまざまな因子について補正を行って比較すると、便潜血陽性者の大腸がん(正確には結腸直腸がん)による死亡リスクは陰性者に比べ高く、7.79倍と算出されました。便潜血陽性者には進行大腸がん、あるいはがんが発見され、その治療後に再発した大腸がんの患者さんが多数含まれているはずですので、当然予想された結果です。

次に著者らは“すべての原因による死亡率”で便潜血陽性者と陰性者を比較しているのですが、この比較でも陽性者は陰性者に比べて1.76倍高い、という結果でした。しかしこの結果には“大腸がんによる死亡率の高さ”が影響しているはずです。そこで検討すべきは“大腸がんを除くすべての原因による死亡率”です。ところが、これについても便潜血陽性者は1.58倍の死亡リスクがあるという結果でした。さらに“すべての循環器疾患による死亡”でくらべてみると、やはり便潜血陽性者の死亡率は陰性者に比べ1.28倍高いという結果が認められました。同様に“呼吸器疾患による死亡率”では1.96倍、“消化器疾患による死亡率”では3.36倍、“神経精神疾患による死亡率”では1,66倍、“血液・内分泌疾患による死亡率”では2.06倍と、実に多彩な疾患において、便潜血陽性者の死亡リスクの上昇がみられたのです。

確かに便潜血陽性者は陰性者と比較して、大腸がん以外の病気に罹患している確率は高いと思われます。この論文の対象者をみても、アスピリンやその他の出血しやすくなる(同時に血栓ができにくくなる)薬剤(抗凝固剤や抗炎症剤)を処方されている人の比率は便潜血陽性者で多かったのです。心血管を主とした血栓性疾患や炎症性疾患の罹患者が少なくなかったと推察されます。血栓のできやすさは多くの心血管病につながりますし、炎症は死亡につながるような多くの病気の原因や増悪因子になり得る病態です。やはり“便潜血陽性”という状態はいろいろな意味からも多種多様な健康リスクをはらんでいる、と言っても過言ではないかも知れません。

では便潜血陽性で大腸内視鏡に異常がなければ、どうしたら良いでしょうか。
少なくとも大腸の非がん病変も、もしあれば見つかると思います。あとは高血圧、肝腎機能、脂質、血糖関連検査をよく見て下さい。基本的な炎症マーカーであるCRPの値があれば有益です。きっちり見た上で、かかりつけ医がおられたらぜひ相談してみて下さい。要するに健診項目をみる場合は、すべての項目を“気合いを入れてみる”のが良いかもしれません。単なる流し読みは読まないより悪いのでご注意を!チコちゃんに「ボーと生きてんじゃねえよ!」と叱られますよ(意味が分からない人は「チコちゃん・NHK」で検索してくださいね)。

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2018年11月01日

“運動はがんのリスクを下げるPart2”〜夢、はかなく?!

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2016年7月15日付けのこのブログで、“運動はがんのリスクを低下させる”というお話を紹介しました。その後も、このテーマで毎年数え切れないほどの研究論文が発表されています。生活習慣病の予防・治療における運動の効果は明らかなので、がん予防効果についても大いに期待されるところです。たとえわずかな低下でも、全世界で行えば大きな効果があります。多くの熱心な研究も、その期待の現れなのでしょう。

一方、このような状況で「しかし、ちょっと待て」・・・・・・という研究者も当然も出てきます。なぜなら、みんなが期待している結果は論文としてよりたやすく採択され、出版される確率が高くなることはよく知られています。これを「出版バイアス」といいます。要するに“研究が日の目をみるハードルが下がる”という現象が起こるのです。そこでブラジルのグループは、この問題について現時点での総括を試みました。彼らは今まで出版された19編の総説、26編のメタ解析(がんと運動についての総説を集めて解析する研究です)と541編の原著論文を合わせて、計22種類のがん、770,000症例を解析した結果を報告しました(英国スポーツ医学雑誌 2018年)。

ここで“運動とがんリスク”についての研究史に触れておきます。運動による大腸がんと乳がんのリスクが低下については30年前くらいから報告がありました。そしてここ10年ばかりの間で、膀胱がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、膠芽腫(脳の悪性腫瘍)、腎がん、肺がん、髄膜腫(脳腫瘍で一部悪性)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんでも運動のリスク低下効果が報告されるようになってきました。2016年にこのブログで紹介した論文も、26種類のがんのうち、10種でリスク低下を認めた、としていました。何だか運動はオールマイティにがんリスクを低下させる!との勢いです。

しかし今回のブラジルの研究者たちは、そう考えるには、より精緻な検証が必要と考えました。そこで“がんリスクを低下させるという根拠の強さ”について詳細に検討したところ、「まず間違いなさそうな科学的根拠があるのは、大腸がんと乳がんだけ」という結果になりました。その他のがん種では、バイアスも無視できないし、論文間のばらつきも多く、確かとは言えない、ということです。ちょっと夢はしぼみぎみ・・・・・・というところですね。

しかし一方、大腸がんと乳がんにおける運動のがんリスク低下効果は、十分信用できると考えて良さそうです。そうなると問題になるのは、なぜこのふたつだけなのか、ということでしょうね。運動には、慢性炎症・高インスリン血症の抑制作用、抗酸化作用があり、これががんリスク低下と関係している、と考察されるのですが、これでは“なぜ大腸がんと乳がんだけ?”の説明にはなりません。

運動は便秘の改善に有用で、大腸での便停留時間を短縮して消化管内容物から発生する発がん物質との物理的接触を減少させる、という説もあります。しかしリスク低下は結腸がんだけで直腸がんにはみられないという報告もあり(BMC公衆衛生 2018年;BMCはドイツのシュプリンガー社が出版する生物・医学関連雑誌)、発がん物質を特定して運動との関連を明らかにしない限り、仮説の域をでません。

一方、運動はエストロゲンの分泌を抑制する、という報告があります(乳癌の研究と治療誌 2015年)。乳がんの多くはエストロゲンなどの女性ホルモンで増殖する・・・・・・となればこれががんリスク低下のメカニズム!と言いたいところですが、乳がんの多くは更年期以降〜高年齢域に発症します。この時期はエストロゲン分泌が低下しているはずなので、単純な運動によるエストロゲン分泌低下で説明するのは無理があります。

更年期以降の女性ホルモン感受性の乳がんは、副腎皮質から少量分泌される男性ホルモン(女性でも少量の男性ホルモンが分泌されています)を、がん細胞自身が「アロマターゼ」という酵素でエストロゲンに転換して増殖するとされています(従って“アロマターゼ阻害剤”は有力な乳がん治療薬となっています)。そして運動自体は男性ホルモン分泌を抑制しないので、現時点では、この経路に関する運動の乳がん予防効果についての納得のいく説明はありません。

結論は「運動は結腸がんと乳がんのリスクを低下させる。ただしその機序は不明。また他のがんについての運動の効果のほどは怪しい」ということになります。「たった二つだけ〜」と思われるかも知れませんが、ないよりはマシ・・・・・・それにやりようによっては、コストもかからないし、体重が減るとか、他に良いこともあるし、無理のない程度で頑張って下さいね。

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2018年10月15日

“風呂は命の洗濯”のエビデンス

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ある有名アニメの中で「風呂は命の洗濯よ〜」というセリフがありました。疲れた後など、ほんとうにそのとおりだな〜と思いますね。もちろん、世界中どこでも日本のように、ゆったりと湯船に浸かる・・・・・・という国ばかりではありません。格別水事情が悪くなくとも、ホテルの部屋はシャワーだけ、というところも少なくないようです。それはそれで不便というほどではないのだけれど、やはり何か物足りませんね〜とはいえ、私はどちらかといえば“カラスの行水”だから、たとえ立派な“檜風呂”とか“岩風呂”とかでも、大して変わりはないのですが・・・・・・

温泉大国ニッポンでは、昔から入浴の健康に対する効用については各地で言い伝えられてきました。“湯治”という言葉もありますしね。それ以上に日本では入浴は一種の文化でした。もっとも“銭湯の文化”は“時代は遠くなりにけり”ですけど……銭湯文化を歌っている南こうせつさんの「神田川」は今でもよく耳にしますけど、実感がない人も増えているでしょうね。

医学研究の世界においても入浴の効用についての科学的根拠が報告されるようになったのはつい最近のことです。やはりこの分野を牽引するのは日本をはじめとする温泉大国の研究グループです。最近の報告をみますと、まずサウナ浴(sauna bathing)の効果についての報告が国内外からされました(米国心臓病学会誌:富山大学2012、米国医師会雑誌・内科学:東フィンランド大学2015、日本循環器学会誌・英語版;和温療法研究所2016)。なお「和温療法」というのは鹿児島大学名誉教授(現和温療法研究所)鄭 忠和先生が開発された“サウナ浴15分+安静保温30分+水分補給”からなる心不全などに対する日本発の入浴治療法です。これらの臨床研究は、サウナ浴には心血管疾患の死亡率の低下や、心不全患者の運動能力改善などの効果が期待されることが示されています。

では、私たちが日常普通に行っている入浴(hot water bathing)には効果はあるのでしょうか?この観点から研究を行った愛媛大学のグループの論文が最近発表されました(サイエンティフィック・リポーツ 2018)。対象は同大学の“抗加齢・予防医療センター”の人間ドックの受診者873名(平均年齢約66歳、男女比=4:6)で、入浴に関するアンケートを行う一方、動脈硬化指標として「超音波による頚動脈内膜中膜厚」と「上腕足首間脈波伝搬速度」を測定、また「中心血圧(大動脈起始部での血圧:普通に測定する血圧よりも低く、その質も異なっていて、臨床研究の評価項目としてより適正だとする意見があります)」の推定値を橈骨動脈(ふつうに脈をとる場所です)圧波形から求め、さらに心臓負荷の指標として血液中B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP:既に心機能を簡便に知る血液検査として定着しています)を測定しています。

さて、結果ですが、一回あたりの入浴時間は最長120分、平均12.4±9.9分でした。1週間あたりの入浴回数最多はなんと24!回(この方は道後温泉近くにお住まいかと推察します)で平均回数は5.8±1.9回でした。湯の温度については熱め(41℃<)は約13%、多くの人は中間温度(40−41℃)かぬるめの温度(40℃>)で入浴していました。入浴の効果について要約すると、「週5回以上の人は、4回以下の人に比べて動脈硬化指標、中心血圧、心臓の負荷、いずれもが低くなる。なお2回以上データがとれた対象者164人でみると、週5回以上の入浴者では経年的変化でも良い傾向がみられる」ということでした。

以上の結果から、効果を期待するなら週5回以上は入浴した方が良さそうです。動脈硬化を遅らせ、血圧を下げ、また心臓に対する負荷を減らせる、となれば値打ちがありそうですね。なお湯の温度については、“熱め(41℃<)”の方が、より高い効果が得られそうなのですが、これについては、著者らは「さらに検討が必要」としています。風呂が嫌いじゃなかったら毎日入浴、で良さそうです。湯の温度については、今のところ個人の好みに合わせれば良いのではないでしょうか。

この入浴に関する研究、日本では大いに発展しそうです。“有○温泉VS草○温泉”とか“天然温泉VS温泉の素”とか・・・・・・でも大規模研究ともなれば時間もお金もかかるからな〜実際にやるかどうかは、温泉にでも浸かってゆっくり考えてからかな。

以上のように“風呂は命の洗濯”はあながち間違いではなさそうです。一方、入浴して“極楽、極楽〜”という良いながらリラックスする、という場面もよく目にするのですが、入浴と心血管病の予後について検討を加えてきた立場から言うと、「極楽」を連呼するのは、いかがなものかと思うので、やはり“命の洗濯”としておきましょう・・・・・・




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2018年10月01日

静かに蔓延しつつある慢性腎臓病(CKD)

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腎臓は「後腹膜(腹腔の背中側、脊椎の両脇)」に左右1対で存在し、ヒトの体液環境の恒常性維持という役割を担っています。すなわち、@腎臓は人体の水とナトリウム(塩分)の排泄を調節することにより、血液の浸透圧と水分量を一定に保ち、Aナトリウムのみならずカリウムなどのさまざまな「電解質」も適正範囲に維持しています。また、B体内で生じた代謝老廃物を排泄し、C血液における酸塩基平衡を調節しています(血液のpHを一定に保つ働き)。これらの機能を果たすために、腎臓は1日に流入する150Lほどの血液を「腎糸球体」に存在する「ネフロン」という“濾過器”で濾過することにより、必要な成分は再吸収しつつ、流入血液量の百分の一量ほどの尿を作り、それを媒体として老廃物を体外に排泄します。その他の重要な機能としてはD赤血球造血を調節する「エリスロポエチン」というホルモンを産生・分泌しています。このような多彩な機能をもつ腎臓の病気で重要なのは、その原因や病態というよりも“腎機能障害の程度”です。

腎臓の機能は左右合計して約200万個ある「ネフロン」という “濾過器の数”に依存しています。腎臓の機能障害には、さまざまな原因で数時間〜数日のうちに進展する「急性腎機能障害」と“深く静かに発症して長い経過をとる”「慢性腎機能障害」がありますが、健康問題として注意を喚起すべきは後者です。急性なら原因を除去できれば完全に回復することも期待できますが、慢性腎機能障害の場合は、知らないうちにある程度まで腎臓機能が低下すれば、もはや回復は困難となり、腎機能は進行性に低下して「腎不全」に至ります。腎不全がとことん進行すれば、生命を維持するために人工透析(または腎移植)が必要となります。

現在、慢性の経過をたどる腎機能障害の原因としては糖尿病が最も多く、その他高血圧症、糸球体腎炎などが主なものですが、これらを一括して「慢性腎臓病(CKD)」とよんで、早期に発見して腎機能保護を図り、できるだけ腎機能低下の速度を遅くして、最終段階である透析導入を可能な限り遅らせる、という試みが世界中で進められています。CKDを放置すれば透析のリスクが大きくなるのは当然ですが、透析導入前の状態でも心血管疾患や感染症などの罹患率が高くなることが知られています。すなわちCKDは他の重大な疾患の危険因子でもあるのです。しかもCKDはかなり進行するまでは、ほとんど自覚症状がなく気付きにくいという特徴があり、国内外の専門学会でその啓発に本腰をいれているところです。

CKDは、「一定以上の蛋白尿」(“−〜3+”のような定性検査ではなく、“○○mg/dl”のような定量検査での評価が必要です)または「一定以上の糸球体濾過量(上記ネフロンの実力を示します)の低下」が3ヶ月以上持続する状態、と定義されます。その頻度は学会の推計によれば全国で約1,300万人、なんと成人人口の13%に及ぶとされています。なお、今年の7月の国際腎臓病学会プレス・リリースによると、全世界のCKD患者は全人口の10~11%、約8億5千万人とのことです。また、日本人のネフロンの数は欧米人に比べると数が少なく、2/3くらいしかないという報告があり(米国臨床研究学会誌 2017年)、日本人は欧米人に比べてCKDになりやすい可能性があります。

CKDは放置できません。まず第一歩は自分の腎機能レベルを知ることです。そのためには、検診、人間ドック、あるいは診療所、病院で行った検査結果の中の「クレアチニン(Cr、CRNなどと記載してあるかも)」という項目を見て下さい。これは腎機能障害を判断する上で非常に有用性が高い検査です。たとえわずかでも正常範囲を超えていたら無視できませんし、たとえ正常範囲でも、上限に近い値なら油断できません。

次にクレアチニン値の近くに(すぐ下の欄が多いのですが)「推算GFR(eGFR)」という項目が書かれているかどうかを確認してください。もし記載がないなら、ネットで「eGFRの計算式」で検索すると必ずヒットしますので、性別・年齢・クレアチニン値を入力すると「eGFR」が分かります。「eGFR」は腎臓の実力を示す「糸球体濾過量」の推定値です。「eGFR」は「○○ml/分/1,73m2(体表面積1,73m2あたりの値))」という単位で表示されます。これが60未満ならばCKDの可能性があります。まあ、試験に例えたら60点未満で欠点というところです。該当する方は放置しないで、必ずかかりつけ医に相談して、追試(再検査やその他の腎疾患・腎機能関連検査)や指導(食事療法や合併する生活習慣病の治療など)を受けてください。腎臓病の管理は、「一に根気、二に根気、三、四も根気、五も根気」というのが特徴ですが、頑張って下さいね。



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