2019年11月01日

“白衣高血圧”というリスク


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みなさんの中で、ふだんの血圧は正常なのに、健診や診察室で血圧を測ると高くなっていて、「血圧ちょっと高いですね〜」と言われた方、いませんか?これが「白衣高血圧」です。その頻度は診察室や医療環境で血圧高値を示した人の15〜20%、あるいはそれ以上とも言われていて、加齢につれて増加します。

実はかく言う私も「白衣高血圧」で、家庭血圧は正常だし、例えば化学療法治療前に血圧測定しても正常なのに年1回の職場健診に限って高いのですよね〜
これは昔からそうで、恥ずかしいから名札などは全部外して部署や職責が分からないようにして受診していました(健診を担当するのは病院職員じゃなくて業者だから“面は割れて”ません)。

白衣高血圧というのは、比較的知名度は高いのですが、類似概念や相反概念もあるので、整理しておきます。まず「白衣高血圧」は1984年に米国心臓病協会機関誌の「高血圧誌」に発表された概念で、「外来診察室の血圧が(140/90以上)だけど、ふだんの血圧=診察室外の血圧(厳密には24時間自動血圧計による測定値、簡便には家庭血圧)135/85未満であり、降圧剤は処方されていない状態」と定義されます。一方、良く似た用語に「白衣効果」があります(米国高血圧学雑誌:オックスフォード出版1995年)。これは「降圧剤処方の有無やふだんの血圧レベルにかかわりなく、診察室では血圧がふだんより上昇する状態」です。すなわち白衣効果は既に高血圧治療中の患者さんにもしばしばみられます。

白衣高血圧、白衣効果の逆が「仮面高血圧」です。この概念は2000年代初頭に提唱されたのですが「診察室では正常範囲だがふだんの血圧が高い−家庭血圧なら135/85以上−を示す状態」です。正常血圧者の10%くらいがこの仮面高血圧だとされていて、降圧剤治療中の人にも少なからず存在するので要注意です。これは24時間血圧モニタリングや家庭血圧をチェックしない限り完全に見逃される“放置できない高血圧”ということになり、家庭血圧測定の重要性を如実に示す疾患単位と言えます。

さて、話を白衣高血圧・白衣効果に戻しますと、この“診察室(のみならず健診などすべての医療環境を含みますが)での血圧上昇”を示す人は正常血圧の人と比較して、臨床アウトカム(心血管病罹患や全死亡などを意味します)が異なるか、という問題についてはさまざまな意見があり、一定の見解は得られていませんでした。そこで、最近米国のグループがこの問題について、現在までに報告されている文献を集めて解析しました(米国内科学会誌 2019年6月号)。

著者らは観察期間が最低3年以上(3〜19年)ある27編の論文を収集し、“未治療白衣高血圧者”と“治療管理されている白衣効果を有する患者”25,786人と正常血圧者 38,487人を集積して心血管病罹患リスク、全死亡リスク、心血管病死亡リスクを比較しました。

結果はと言えば、白衣高血圧者は正常血圧者と比較すると、心血管病罹患リスクで36%、全死亡リスクで33%、心血管死亡リスクでは2倍のリスク増加が示されました。一方、脳卒中リスクの増加は明らかではありませんでした。なおこの白衣高血圧者のリスク増加は、とくに高齢者や他の心血管病リスクを有する人で顕著であることがわかりました。なお治療中の白衣効果を有する患者では正常血圧者と比較して格別のリスク増加はみられませんでした。この高齢かつ心血管病のリスク因子を複数もつ、すなわち“高リスク”の白衣高血圧者は正常血圧者に比べ、心血管病や死亡リスクが高くなる、という結果は過去の国際共同研究の報告(米国心臓病学会誌:エルゼビア出版 2016年)とも一致しています。

さて、ここで“高年齢層”の定義が気になるところですが、私たちは遺憾ながら、臨床研究レベルでは“押しも押されもしない高齢者”です。ただし年齢だけではそんなにリスクは上がりません。しかし白衣高血圧の他に糖尿病、肥満、喫煙、高脂血症、アルコール過飲などがあれば、綿密な家庭血圧測定が必要で、家庭血圧はぜひとも130/80未満をクリアしたいところです。また白衣高血圧者は将来高率に“普通の高血圧”に移行することが知られていますので、血圧の自己測定はずっと続けてくださいね。何なら高血圧を専門とする診療所や病院の外来で「24時間血圧モニタリング」を行う手もあります。これらの結果を踏まえて、主治医の先生とよく相談して必要に応じて降圧剤を処方、ということになります。

今後も確実に歳はとっていくので、白衣高血圧が分かったら、その他のリスク因子の管理はもちろんなのですが、問題になるものがなくとも、とりあえず生活習慣の見直しがお勧めです。すなわち塩分は控えめに、カリウムは多めに、そして体重は・・・・・・「目指せ、正常BMI!」ということでしょうね。
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2019年10月15日

塩分を取り過ぎるとお腹が張る!?

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内科外来で「お腹が張って苦しい」と訴える人は少なくありません。「ガスが溜って・・・・・・」と表現する人も多いです。実際、海外のテキストにはしばしば「ガス関連症状」という項目で記載されています。この症状に下痢・便秘という便通異常や腹痛が加わって3ヶ月以上も持続する・・・・・・ということになれば「過敏性腸症候群」という病名がつき、その有病率たるや、人口の20〜30%とする報告も珍しくありません・・・・・・

診察を受けたい、あるいは薬を処方がほしい、とまではいかないけど、“お腹が張る=腹満”が気になることがある人、とすれば確かに人口の30%も誇張ではないのかも。ではどうしたら腹満を防げるか・・・・・・これがなかなか難しいのです。

腸管には通常200mlくらいの空気が入っていますが、1日産生量は通常食で600〜700ml、うち75%は摂取した食事成分が、腸内細菌コロニーによって発酵することによって生じ、残りは“無意識に飲み込んだ空気”と血管から腸管内に拡散してきた空気です。そして何らかの理由で腸管内の空気量が増加すると、腹満が起こると言いたいところですが、個人の“ガス貯留に対する感受性”の違いはとても大きく1,000mlのガスが貯留してもほとんど症状がないという人もあれば、その1/10量でも我慢できない人もいます。

腹満の多くは、腸管に器質的な病変がない、すなわち腸管の運動や腸管内部の水分調節や腸内細菌活動の失調など“機能的”な原因である場合がほとんどで、その背景には高頻度に“腸管感覚の過敏性”が存在します。

とはいえ、どのような腹満でも機能性ガス貯留が原因と決めつけるわけにはいかないので、重大な原因がないか一度は探っておく必要があります。腫瘍性のものであれば大腸がんや卵巣がん、非腫瘍性のものであれば糖尿病の自律神経障害による消化管運動障害がとくに重要です(メルク・マニュアル第20版)。

一度気になると、より一層気になるのも腹満のひとつの特徴です。となれば、“腹満が起こりにくい食事”があれば良いな、と思いますよね。でも“腹満が起こりにくい食事”が一般に考えられている“健康に良い食事”とは限りません。

もう20年以上前から欧米では健康食として「DASH食」(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌 1997年)が知られています。これは“果物、ナッツ、野菜、食物繊維が豊富で低脂肪”を特徴とする食事で、高血圧や心血管病予防のために考案されて高い評価を受けています。日本でも腸の健全な活動・便通改善のために食物繊維を豊富に摂る、ということがしばしば推奨されています。しかし腹満相手では一筋縄ではいかないのです。

食物繊維とは、簡単に言えば食品に含まれる消化吸収できない成分で、その多くは「糖質」に分類されるものです(消化吸収できる糖質は「炭水化物」です)。これら消化できない糖質=食物繊維は腸内細菌の影響を受けて発酵を生じやすく、ガスを発生させます。ではどんな食事がガス発生や腹満を軽減し得るかについて、豪州のグループが過敏性腸症候群の患者さんを対象として行った有名な研究があります。著者らによれば、腹満や便通異常がある場合には発酵性の糖質(豆、小麦、玉葱、牛乳、ヨーグルト、果物、人工甘味料など)を避けることが重要で、そうすれば症状は半分くらいになるそうです(消化器病雑誌 エルゼビア出版 2014年)。

この主張はなるほど、と思わせるところもありますが、じゃあ何を食べたら良いのか、という問題がでてきます。高血圧、心血管病を予防しつつ、腹満も起こりにくい食事となると困ってしまいますね。

そこで最近、ジョン・ホプキンス大学のグループが発表した論文は、少し新味もあるので紹介しておきます(米国消化器病学会誌 2019年7月号)。彼らの研究対象は20年前!(新しい視点で昔のデータを使い回し・・・・・・最近流行の手法)の「DASH-Sodium(=ナトリウム)試験」の参加者です。健康成人(平均年齢48歳、女性 57%)を対象に上記DASH食(低脂肪・高食物繊維)と普通の食事(高脂肪・低食物繊維)を摂る群にランダムに割り付け、「塩分摂取量の違い」という新しい切り口を加えて腹満の発生状況を比較したものです。腹満を訴える人は全体の36.7%もいました。確かに高食物繊維食では塩分の多寡にかかわらず、腹満を訴える人は低食物繊維食に比べ40%も増加するのですが、逆に塩分が多いと食事内容にかかわらず、腹満は27%増加したのです。腸管内の塩分濃度が高いと水分が腸管内に侵入してきて腹満が増悪すると説明されています。

さて、結論は食物繊維も大事だが一時にたくさん食べないように、そして塩分は控えめに・・・・・・というごくごく常識的な結論になりました。それともうひとつ、「言いたいことは言う」ことかな〜諺に“物言わぬは、腹ふくるるわざ”というじゃないですか・・・・・・
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2019年10月01日

「一日一万歩あるきましょう!!」と言ったのは誰?!


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「一日一万歩あるきましょう!!」という推奨は日本だけではないようです。とはいえ、一日一万歩は、平均歩幅を身長×0.45(普通の歩き方ならこれくらいとされています)で計算して、約7kmに相当します。「今日は歩くぞ!!」という日はともかく、“普通の日”でも毎日一万歩、というのはちょっと厳しいかも知れません。しかし今や歩数計は、スマホはもとよりガラケーでも標準装備ですので、歩数表示を励みに頑張っている方も少なくないと思います。

ところで歩数計の原型が発明されたのはけっこう古く、18世紀のヨーロッパにまで遡れるようです。それが日本にも伝わり、かの平賀源内先生がこれを改良して「量程器」なるものを発明したとか・・・・・・そういえば香川県さぬき市の平賀源内記念館で複製品を見たような、見なかったような・・・・・・

現代の歩数計が日本に現れたのは、1965年のことで、潟с}サ時計計器が開発し「万歩メーター」と銘打って発売しました。売り出し価格は大卒初任給が2〜3万円の時代で2,200円とかなり高価でしたが、当時起こり始めたウォーキング・ブームに乗って「一日一万歩あるきましょう」のキャッチ・フレーズとともに人気商品となったようです(同社HPによる)。なお「万歩計」は同社が取得した登録商標(1984)で、一般名詞では「歩数計」と言うそうです。

最も活動的な年代ならともかく、高齢者の健康増進の観点からみて「ほんとうに一日一万歩も必要なのか?!」と考えたのは米国ボストンにあるハーバード大学医学部の主要関連病院として名高い「ブリガム・アンド・ウィメンズ病院」の研究者らのグループです。東大の先生も共同研究者に入っています。彼らは“一日一万歩”の科学的根拠がどうもあやしいと思ったようです。

そこで彼らは米国の女性の健康問題を検証するための大規模住民研究である「ウィメンズ・ヘルス・スタディ」に参加した高齢女性(72歳±標準偏差5.7歳)に“ウェアラブル加速度計”(歩数も歩行強度も測定できます)を装着してもらって、データを回収・解析し、一日の歩数、歩行強度と「すべての原因による死亡(全死亡)」との関係について解析しました(米国医師会雑誌・内科学 2019年5月号)。

最終的にデータ収集の最低条件(起きている時間で1日10時間以上、計4日間以上装着)を満たしたのは16,741人、1日平均歩数は5,499歩でした。平均観察期間4.3年の間に504人が何らかの原因で亡くなっています。そこでまず1日歩数と死亡リスクの関係を検討するために、平均歩数の少ない人〜多い人の順に並べて4つのグループに分けました。グループの平均歩数は、それぞれ2,718、4,363、5,905、8,442歩でした。

結果に影響するようなさまざまな因子で調整した全死亡率は、最も歩数が少なかったグループを1.00とすると、二番目に少なかったグループでは0.59、三番目は0.54、最も歩数が多かったグループは0.42となり、歩数が多いほど死亡リスクは低下しました。ただし1日歩数が7,500歩を超えると死亡率低下は横ばいになりました。また、歩行強度と死亡率の関係をみると、一見強度が強い方が死亡率低下に関係するようにみえるのですが、1日歩数で補正すれば関連は薄くなり、結局のところ歩行の運動強度はあまり関係なく、1日歩数が重要であることが分かりました。

この研究は、“毎日少しで良いから歩くこと”の重要性を示しています。1日歩数2,700歩という“おそらく日常運動としての意識的な散歩はほとんどしない人たち”でさえ、わずか1日1km強ほどの散歩を追加するだけで40%も死亡リスクが低下する、というのはちょっとびっくりです。しかも歩く速さは問題ではない、というのですから、無理に早歩きで頑張る必要もありません。そして1日5kmと少し歩けば、ほぼ目的は達することができるというわけです。

さて、この簡単かつ安全な“散歩運動療法”が、ここまで高齢女性の死亡率を下げるのが事実なら、より幅広い年齢層で男女を問わず、既存の運動療法と、その効果を比べてみたいところです。「わざわざ運動するのも、めんどうくさい」というナマケモノ人間にもぴったり・・・・・・

さて、話がうますぎる気もしないではないですが、「一日一万歩あるきましょう!!」のハードルはだいぶ下がったように思います。では誰が“一日一万歩”を言い出したのでしょうか・・・・・・この論文の著者たちは、日本で1960年代に大流行した「Manpo-kei」から始まっているのではないかと考えているようです。なるほど、“一日一万歩”の根拠は、サイエンスではなく、日本の一企業の卓越したキャッチ・コピーだったようです。



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2019年09月15日

摂取する食品の種類が多いほどリスクが下がる!?

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JPHC研究という日本の有名な「多目的コホート研究」があります。コホートとは、ある時点で研究対象とした病気にかかっていない人をたくさん集めて将来にわたって長期間観察を続けることにより、どのような要因がどのような病気の発生あるいは予防に関係するかを知る研究方法です。JPHCは国立がん研究センター、国立循環器病センターをはじめとする研究機関や大学、それに全国10の保健所が共同で多種多様なテーマについての研究を行っています。


今回紹介するのは、摂取する食品の数と死亡リスクとの関係を検討した研究で、
大妻女子大学の小林教授らを中心としたグループが欧州臨床栄養学雑誌(2019年5月号)に発表したものです。研究期間は1995〜2012年で、対象となった人は岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部と宮古、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、そして大阪府吹田の計10保健所管内に居住していて登録時点で虚血性心疾患、脳卒中、がんの既往がない79,940人(男性37,240人、女性42,664人:年齢45〜74歳)、平均観察期間は14.9年でした。

この研究では、133の食物・飲物(アルコールは含まない)品種をリストアップして、研究開始から5年目の時点で食事調査票アンケートを用いて調査しています。そしてこれら133品目について1日に何品目摂取したか、さらに魚・肉・野菜・果物・大豆製品については、それぞれについて何品目摂取したか、すなわち摂取食品の種類の多さ=“食事の多様性”とその後の全死亡、主要原因による死亡リスクとの関連を検討しています。

さて、結果ですが、男性と女性ではかなり異なっていました。摂取食品の数の多寡によって5段階のグループに分けて死亡リスクを比較すると、男性では摂取する食品目の数と、全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡、いずれとの間にも統計学的に意味のある相関はありませんでした。一方女性では、摂取する食品目が多いほど全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの有意な低下がみられました。品目が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて、全死亡率、循環器死亡率、その他の死亡率はそれぞれ19%、34%、24%低かったのです。

また食品ごとの多様性とリスクの関係をみると、男性では肉類を最も多品目摂取する人は全死亡リスクが有意に高く(35%)、果物を多品目摂取すればリスクは最大13%低下しました。また女性では大豆製品の品目が多ければ、全死亡リスクが11〜13%低下しました。

一般に「食事はできるだけ多くの食品目をバランス良く摂取するのが望ましい」ということになっています。これは日本のみならず諸外国でもそのように推奨されています。よく「1日目標30品目」といいますね。30品目をクリアするのは、なかなか大変じゃないかと思うのですけど、実際どれくらいの効果があるかについて、はっきり示した研究論文はなかったと思います。今回の研究はひとつの答えといえます。それに日本人が対象ですので、よけいに参考になるでしょうね。

そこで「多品目の食品を摂取することは、全死亡、循環器死亡、その他の死亡など、がん死亡以外のリスクを低下させる可能性がある」というのが、私の当面の結論です。この傾向が女性だけに現れ、男性では認められなかったことについて、著者らは(統計学的な補正操作は行ったようですけれど)「男性ではアルコール摂取量、喫煙者が女性より多かった」ことを原因に挙げています。あるいは“摂取食品目を増やすことによるリスク低下効果”はそれほど強いものではなく、“高リスクとなる良くない生活習慣”で打ち消される程度のものかも知れません。また、肉・果物・大豆製品などにおける“食品ごとの多様性とリスクの関係”については、まだ結論を下すには早いように思います。

考えてみれば、食事で食品目数を増やすことが健康に寄与することは容易に想像できます。そもそも品目を増やさないと“バランス”をとるのは難しいでしょうから。ただ多品目を食事に取り入れる=他品目の食品を購入する、ということですから、所帯あたりの人数が少ないと、不経済だし“食物ロス”にも繋がりかねない・・・・・ある意味、カロリー制限や運動の励行など個人の努力と意志で達成可能な対策に比べると、食品目数を増やすことには、“社会経済的な困難”があるかもしれません。

私の希望としては、高齢者都市住民を対象とした自宅調理、出来合のおかず購入、外食の割合とリスクの関連をぜひ研究してほしいと思うのです。そのほうがアーバン生活の実態を反映して・・・・・・待てよ、今から研究してもらっても、結果が論文になる頃にはもう・・・・・・やっぱりしてもらわなくても良いです。
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2019年09月01日

ナトリウムとカリウムの適正摂取量は!?


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高血圧の話題が続きましたが、続きついでに塩分1日摂取量の話です。国立研究開発法人医薬基盤健康栄養研究所(19字!長い!)によれば、2015年の日本人男性の1日平均塩分摂取量は約11g、女性は約9gで、ここ数十年間でかなり減ってきたとはいえまだまだ多いとされ、厚生労働省は男性<8g、女性<7gを推奨しています。WHOの推奨はさらに厳しく、1日<5gです。ここで言う塩分は食塩(NaCl)量なのですが、国際的には塩分摂取量は通常Na量で表現されます。上記WHO推奨はNaで <2gということになります。もしお手元の食品がNa量表示だったら、2.5倍すれば塩分量に換算できます。

Naはカリウム(K)と並んで、人体の恒常性や細胞活動を維持するのに必須のミネラルです。ともに体内では合成できず、毎日適量を飲食物として摂取する必要がありますが、Na摂取が過剰になれば血圧は上昇します。一方、地球上には極端な低Na摂取(Na≒0)でありながら健康な生活(むろん高血圧は非常に少ない)を送っているイヌイットなどの民族が存在するので、“Naは低ければ低いほど良い”とする意見も根強いのです。一方Kは豊富にとることによって血圧降下作用や心血管イベントの減少、死亡率の低下効果が得られるのですが、日本でも外国でも摂取不足になりがちです。K摂取の意義はもっと強調されるべきです。

そこでNa摂取を制限し、K摂取を増やすことが心血管リスクを下げ、健康に寄与するという観点から(英国医師会雑誌 2013年4月オンライン)、日本では上記のNa摂取目標に加えてKは>3g/日、WHOはK>3.5gを目標に掲げています。しかし日本も諸外国も、K摂取量はせいぜい2g強くらいなのが実情です。

Kをもっと摂取すべきなのは疑いありません。例外は中等度以上の腎機能障害をもつ人くらいです。一方、Naについては時々「あれっ?」という論文が発表されます。代表的なものに「摂取Naが増加すると収縮期血圧は上がるが心血管リスクとは関連せず、むしろ摂取Naが低すぎたらリスクが高まる」(米国医師会雑誌 2011年5月号)、摂取Naが高すぎても低すぎても死亡率が上がる」(米国高血圧学会誌 2014年7月号)、などがあります。これらの報告によればNa<2gはダメということになります。

ところで、どうやって1日摂取Na量を求めるかですが、食べ物や飲物をすべて記録して・・・・・・という方法ではまず不可能です。臨床研究で用いられるのは早朝1回尿から推定される1日尿中Na(またはK)排泄量をもって、Na、Kの1日摂取量の代用とする方法です(九州大学 川崎晃一ら;臨床実験薬理学・生理学誌 ワイリー出版:1993年1月号)。

本論に戻りますと、要するにK摂取増量推奨には異論ありませんが、Naの適正摂取量にはまだまだ議論があるのです。こうなれば実証しかありません。そこでカナダ・マクマスター大学の研究者ら31名の多国籍研究グループは18カ国、100,000人超を対象にして、1日尿中Na、K排泄量と心筋梗塞、脳卒中、心不全(主要有害心血管イベント)の発症および死亡率との関係を検討しました(英国医師会雑誌 2019年2月 オンライン)。

対象となった国と地域はバングラデッシュ、インド、パキスタン、ジンバブエ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、ポーランド、南アフリカ、トルコ、中国、コロンビア、イラン、カナダ、スウエーデン、イスラエル占領下パレスチナ地域とUAE、合計103,570人で、平均尿中Na排泄量は4.9g(塩分換算12.3g/日!)、平均尿中K排泄量は2.1gでした。観察期間の中央値8.2年後で6%が主要有害心血管イベントを経験するか、または死亡していました。

結果には少し驚かされます……そもそもWHO推奨の1日Na摂取<2gの人は全体のわずか1.5%に過ぎず、同様に推奨に近い1日K摂取>3gの人も6.6%しかいません。すなわちWHOが推奨するNa、Kの適正摂取量を摂取している人はごく僅かなのです。そして1日摂取Na<2gの人は明らかにリスクが高く、最もリスクが低くなるのは「Na摂取3〜5g(塩分換算7.5〜12.5g)、かつK摂取が高い人」という結果が得られました。

さて、この研究結果をどう評価するかですが、この研究の対象にはアジア人は含まれていますが日本人は入っていません。また対象になった国や地域はやや発展途上国に偏っています。ただNa摂取については、多すぎても少なすぎてもリスクが高くなる(U字型現象とよばれます)という同様の結果を示した先行研究も複数あるので、この結果は正しいのかも・・・・・・そうなると、ここは塩分<5gの目標は避けて厚生労働省の推奨どおりのNa<7〜8gの摂取目標が無難でしょう。そしてカリウム摂取を増やしましょう!

Kを豊富に含む果物はアボカド、バナナ、キウイ、野菜は豆類、イモ類、コマツナ、シソ、そしてトマトジュース、果物の缶詰・・・・・・一度調べてみて、お好みの食品を探して下さいね!
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2019年08月15日

“イナーシャ”という難敵

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前回紹介した日本高血圧学会(JSH)が発表した高血圧治療ガイドラインの中で、JSHは日本の高血圧治療は未だ不十分であり、その要因として、「不適切な生活習慣」、「アドヒアレンス(患者自身が病気をよく理解し、服薬遵守を含めて積極的に自らの治療に参画する姿勢)の不足」に加えて「臨床的イナーシャ」を挙げています。

“イナーシャ”ってロシア系女性の名前みたいですよね。イナーシャ・クチンスカヤとか体操競技にでてきそう・・・・・・でもロシア語ではありません。“イナーシャ inertia”は「慣性・惰性・怠惰」などの意味をもつ英語です。JSHがわざわざこの言葉を使ったのは、注目してほしかったからでしょうね。もう、すぐカタカナを使って気を引こうとするんだから・・・・・・まあ、人のことは言えないけど。

高血圧治療におけるイナーシャは、「血圧が高いのに治療を開始しない、あるいは治療中で血圧が治療目標に達していないのに治療を強化せずに、そのままにしておく」という意味です。これは単に患者さんだけの問題ではなく、医師・その他の医療従事者、医療システム、医療経済の問題など、“複合的な治療の障害”と捉えることができます。

高血圧治療に限ったことではありません。診療の現場で生じるイナーシャは「臨床的イナーシャ」または「治療的イナーシャ」とよばれ、近年、生活習慣病の治療・管理で注目されている治療目標達成阻害要因です。これに関する論文が最も多いのが糖尿病領域で、数百編の論文が発表されており、高血圧領域や高脂血症領域がこれに次ぎます。要するに「科学的根拠をもったガイドラインに準拠すればタイムリーに治療を開始すべき、または治療を強化すべきときに、それをしない」ということです。糖尿病治療で言えば「薬物治療開始時」「薬剤追加時」「インスリン治療導入時」に起こりやすく(糖尿病と代謝誌 エルゼビア出版 2017年7月号)、決断の遅れは平均1年以上で下手をすれば最長7年を超えるとの報告もあります(ダイアベテス・ケア誌 2018年7月号)。

急性かつ放置すれば致死的な疾患では、治療開始時に過度に逡巡する人はめったにいません(少し逡巡する人は珍しくありませんが)。でも生活習慣病では“生活習慣の改善”から“薬物療法開始”へ踏み出す場合、心理的ハードルは相当高いのはよく理解できます。「できれば薬は飲みたくない」という言葉は良く聞くフレーズです。一方、医師側の薬を飲まないといけない理由は“科学的根拠”、言ってみれば“益と害の確率論”です。薬剤の有効性、有害事象(副作用)の発現は本質的には確率論なのです。この“心理的ハードルvs確率論”はしばしばすれ違います。

でも心理的ハードルは医師の側にもあります。服薬による益と有害事象を天秤にかけた時、医師(または患者さん)が有害事象をより重く見るタイプである場合、治療開始はともかく、医師の治療強化の決断のハードルは少し上がります。するとしばしば、「では、もう少しこのまま様子をみましょうか」ということになります。これも典型的な“イナーシャ”です。

もちろん“惰性で流す”“逡巡する”のと“真剣に考えたあげく決断を保留する”というのは、患者さん側にとっても、医師にとっても、姿勢としては全く異なるのですが、正解が“Go! or Wait”のどちらかであるのなら、結果でみると同じです。それがまた困ったことなのですが・・・・・・

生活習慣病の治療においては、道標=ガイドラインは、多くともたかだか数万人を対象とした学術論文(多くの場合は複数ですが)に基づいて決められています。だから目の前の患者さんにあてはまるかどうかは100%の確信を持っては言うことはできません。だからと言っていつも直観や経験、又は好みで決めるわけにもいきません。直観・経験・好みは、しばしば裏切るのです。

となると、ガイドラインによれば治療開始又は追加すべき、という状況になれば、その人固有の既往歴、脳、心、腎、末梢動脈の合併症を勘案して、Wait! のサインがなければGo! を選択する方が正解の可能性は高いと思われます。そして万一有害事象がでたのなら、そこでStop! をかければ、たいていの場合、間に合います。

「そろそろ薬をはじめましょうか?」「薬ですか・・・・・・」「気が進みませんか・・・・・・」「気が進まないわけじゃないですけど・・・・・・」「じゃあ、もう少し様子をみましょうか。」これがイナーシャです。やはりなんとなく倦怠感と無気力感がありますね。やはりこれはよくない場合が多いのです。ただ主治医と患者さんが、ちゃんと相談したうえでのWaitなら、それはそれでひとつの選択だと思います。

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2019年08月01日

高血圧治療における降圧目標は?!


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今年4月に日本高血圧学会(JSH)が5年ぶりに「高血圧治療ガイドライン」を改訂しました。従来、75歳未満の成人の血圧の“基準値”(検診・健診では≒正常範囲)は収縮期血圧140mmHg未満/拡張期血圧90mmHg未満でしたが、今回の改訂で境界値あたりの血圧は4段階に層別化され、120/80未満が「正常血圧」、120-129/80未満は「正常高値血圧」、130-139/80-89は「高値血圧」で140/90以上が「高血圧」となりました。“血圧の基準値”は据え置きなのですが、“目指すべき血圧”=降圧の目標値は130/80未満となり、収縮期、拡張期とも基準値より10mmHg引き下げられました。

すなわち正常血圧と高血圧の間に2段階の階層ができて、高血圧の人はむろんのこと、高値血圧の人もリスク評価を行って、減塩、体重管理、適度な運動、禁煙などの生活習慣の改善を行い、脳心血管病のリスクが高いと判定された人は生活習慣是正で十分な降圧が得られない場合、降圧剤による治療も考慮という方針が示されたのです。なお、ここで言う血圧は「診察室で測定した血圧」で、「家庭での自己測定血圧」は、診察室血圧より5mmHgほど低いとされています。

「そんな、急に変えられても・・・・・・」という意見もあるかも知れませんが、この改訂はJSHとしてもさまざまな批判や反対は覚悟の上、それなりに思い切った判断だったと思います。JSHは薬剤よりも生活習慣是正の重要性を強調してはいますが、日本の“高血圧患者”は一挙に千万人単位で増加します(今でも4,000万人超!?)。各医療機関、健診・検診施設もそれぞれ対応が必要となります。なんのかんの言っても、改訂に沿った治療が普及すれば医療費は増大し、降圧による副作用イベントも増加します。一方、改訂による高血圧関連心血管疾患の罹患率や死亡率の減少という利点が明らかになるのは何年か先になります。

今回の改訂の背景にあるのは、2015年11月に「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌」に掲載された「SPRINT研究」という論文です。心血管病のリスク因子をもつが糖尿病のない9,361人を<120を目標とする群と<140を目標とする群にランダム化して治療を行い、心筋梗塞やその他の急性冠症候群、脳卒中、心不全などのイベント発生と心血管疾患による死亡を比較しました。研究開始から3.26年経過した時点で<120の群の年間主要イベント発生率が<140の群に比べて25%減少、全死亡リスクも27%減少という明らかな差が認められたため、この時点で研究は中止されました。ただ<120の群では、確かに目標とした心血管病イベントや死亡は減少したものの、低血圧・失神、電解質異常、急性腎機能障害という有害事象が多かったのも事実です。

この研究を主導したのがNIH(米国衛生研究所)であり、研究の規模も大きく信頼性も高かったので世界中で大きな反響を呼び、米国では高血圧の基準値が140/90から130/80以上と下方修正されました。しかし欧州と日本は高血圧の基準は据え置いて降圧目標のみ下方修正していますが、血圧は130/80未満が望ましいという基本的な考え方では一致しています。

なおSPRINT研究で用いられたのは「診察室自動血圧測定法」という方法です。自動血圧計の規格も決まっていますし、患者さんは医療従事者が退室した診察室で5分安静にした後に3回測定して平均をとっています。通常の診察室での測定より10mmHgほど低くなるそうです。日本の診療現場に導入するのはちょっと無理がありますが、安静時の家庭血圧はこれに近いかも知れません。

今回の改訂では、SPRINTの結果をそのまま日本人にあてはめても良いのかとか、過剰降圧のリスクの検証が必要だとか、生活習慣是正の励行が先ではないかとか、様々な異論もあります。SPRINT研究が発表された当初は、その結果の解釈では慎重論を唱える専門家が多かったのですが・・・・・・JSHは大局的に見て、従来の140/90未満という目標を下方修正する方が良い結果を生むと判断したのだと思います。もっとも、JSHも指摘しているように最大の問題は、現在治療中で140/90未満が達成出来ていない人、あるいは高血圧を放置している人が合計3,000万人!もいることでしょうね。

さて具体的には・・・・・・あなたの血圧が120/80未満なら、おめでとう!あなたは“血圧エリート”です。でも調子にのらないようにね。毎年確実に歳をとりますから。129/80未満なら、今の間に生活習慣の見直しをしましょう。もし130-139/80-89なら、いますぐ生活習慣の改善着手してください。それでも血圧が下がらなかったら・・・・・・脳血管障害の既往、心臓病、糖尿病、慢性腎臓病などがあれば降圧剤の適応があるかも・・・・・・主治医の先生に相談して下さい。140/90以上なら主治医の管理の元で生活習慣の改善を行って下さい。必要なら降圧剤も・・・・・・130/80未満まで降圧を行うべきか否かについては、合併症・動脈硬化の程度などで個々の人で異なります。既に治療中の方は、主治医の先生と降圧目標について再確認してくださいね。

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2019年07月15日

“血糖アラート犬”登場!!

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2015年5月15日付のこのブログで、訓練された犬が患者さんの呼気を嗅いで大腸がんの有無を判別する、という研究を紹介したのですが、今回も犬の驚異的な嗅覚を臨床応用する新たな試みの話です。対象疾患は前回に続いて糖尿病・・・・・・とは言っても、“普通の糖尿病”とは一線を画する「1型糖尿病」です。

糖尿病は血糖を調節するのに決定的な役割を果たすホルモンである“インスリンの作用不足”によって起こる病気です。糖尿病のほとんどは「2型糖尿病」で、素質にさまざまな外因が加わって発症すると考えられています。必ずしもインスリン分泌自体が低下しているわけではなく、インスリンが効きにくくなる、すなわち“インスリン抵抗性”が糖尿病の主因となっていることも少なくありません。治療は食事療法・運動療法に加え、多種多様の経口糖尿病治療薬が治療の主体となりますが、病状によってはインスリン注射も行われます。

これとは対称的に「1型糖尿病」はインスリンを分泌する膵臓にあるランゲルハンス島(顕微鏡でみると海に浮かぶ島にみえます)のβ(ベータ)細胞が破壊されて、インスリン分泌能が欠如したために発症する糖尿病です。ヒトはインスリンなしでは生存できないので、1型糖尿病では1日数回以上の「血糖自己測定」を指標にしてインスリン自己注射を1日複数回、生涯に渡って続けることが必須です。この治療は大きな負担ではあるのですが、うまく管理すれば、ほぼ不自由なく仕事に就き、また日常生活をおくることは十分可能です。

とはいえ、健常状態なら精緻にコントロールされて分泌されるインスリン動態を注射で再現することは簡単ではなく、さまざまな要因に影響されて、予想に反して著しく血糖が上昇(高血糖)、あるいは低下(低血糖)することも多いのです。とくに低血糖はあるレベル以下になると急速に意識障害から昏睡に至るため、運転中や危険作業中の大事故に繋がりかねません。

高血糖、低血糖を防ぐには体調・症状に注意し、血糖の自己測定の回数を増やすしかありませんが、これは大変なストレスです。もし血糖の上下に伴う代謝の変化が人体から発するある種の臭いにごくわずかな変調を来すのなら、ヒトには無理でも犬ならばそれを感知できるかも知れません。そこである程度以上の血糖変化を感知して飼い主にアラートを発するように訓練した“血糖アラート犬”を育成できたら、1型糖尿病患者の生活の質を改善できるのではないかという考えが生まれました。

この発想に基づく最初の報告は米国のグループによって2017年に「米国糖尿病技術協会機関誌」に発表されています。対象は“4〜48歳の患者−飼い犬”のペア8組で、飼い主の満足度は高かったのですが、アラート犬が低血糖を感知できた率(感度)は36%で診療に応用するには物足りないデータでした。

しかし最近、より大規模でより希望が持てそうな研究成果が英国のグループから発表されました(プロス・ワン誌 2019年1月)。“飼い主の1型糖尿病患者−飼い犬”のペア27組で、延べ4,000回以上の低血糖と高血糖イベントについて、血糖アラート犬の感知の正確性を検討しています。実際にはペア毎に“至適血糖範囲”を決めてその範囲を逸脱して血糖が低下したとき、上昇したときに犬が誤りなく感知し、飼い主に警告を発することができるか否かを記録していくのですが、至適範囲の下限は80〜90mg/dl(インスリン治療中なら低血糖に警戒すべきレベルです)、上限はペアによってかなり異なっていて、妥当と思われる220〜280mg/dlから厳格過ぎる150mg/dlに設定しているペアも・・・・・・

さて結果ですが、27ペアの平均で“低血糖アラート”の感度は平均83.3%、“高血糖アラート”の感度は67.0%、そして低血糖・高血糖を合わせた「陽性的中度」、すなわちアラート犬が「ワン!血糖低いよ(高いよ)!と告知して、本当に低かった(高かった)確率」は81.1%でした。むろん成績は犬によって大きく異なっていて、低血糖・高血糖を合わせた感度で27 匹中4匹が50%未満だった一方、7匹は感度90%超を記録、うち3匹は見事100%を達成しました。なお、血糖アラート犬の場合、陽性的中度が高いにこしたことはないけど、見落とし(吠え落とし?)を防ぐ意味で、感度の方がより重要かと思います。

この論文の著者らは、血糖アラート犬には期待を持てるとする一方、訓練の質、個々の犬の適性、飼い主との相性など、さまざまな要因があるので、それらをさらに検討する必要があると述べています。私はこの結果は悪くはないと思うのだけど、心配なのはアラート犬に事実上24時間、365日の“勤務”を強いることになるのではないか、ということです。これはたぶん盲導犬や介助犬にも言えることだと思うのですが・・・・・・

なお論文には「アラートがうまくいったら、ご褒美に食べ物を与える飼い主」のペアでは成績が良かったそうです。やはり働いてもらっているのなら、報酬はケチったらダメですよね。「ブラック企業」ならぬ「ブラック飼い主」になってしまいます・・・・・・
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2019年07月01日

肝機能検査で糖尿病発症を予測する!?


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多くの人が検診・健診を受けているのに、またメディアもあれほど糖尿病の注意喚起を行っているのに、糖尿病は今もなお増え続けているようです。国立がん研究センターなどの多施設共同研究によれば、HbA1c≧6.5%、または空腹時血糖≧126mg/dl かつ/または 75gブドウ糖負荷試験2時間値≧200mg/dlで定義すると、2010年における女性の糖尿病有病率は6.1%、男性では9.9%、全人口の7.9%と推計され、2030年までには女性6.7%、男性13.1%、全人口の9.8%にまで増加すると推計されています(アジア糖尿病学会機関誌 2015年9月号)。

検診・健診の結果を目にしても血糖やHbA1cといった“ダイレクトな糖尿病指標”に異常なければ「今回はOK〜」と思いがちですし、体重管理・肥満の解消・カロリー/糖質制限などの生活習慣における注意は「もう、わかった、わかった。“耳タコ”だよ〜」と聞き流してしまいがちです。しかし、もし血糖やHbA1c以外の、一見糖尿病とは関係のなさそうな検査値から糖尿病リスク高くなるのが予測できるとすれば、また違ったインパクトがあるかも知れません。そしてより科学的に言えば、糖尿病リスクと関連する検査が明らかになれば、また違った角度から糖尿病の病態に迫る道が開け、新しい糖尿病治療の方法論を立てることができるかも知れません。

そう考えて“血液や尿のバイオマーカーと糖尿病発症リスク”に興味を持って研究している学者たちも増えてきているようです。最近の英国のグループが中心になって行った研究(前向き研究139編を集積して分析;プロス・ワン誌 2016年10月号)によれば、今までに糖尿病発症リスクとの関連に関して血液・尿検査項目、総計167項目が検討されていますが、十分評価に耐えうるデータあるものは35項目程度で、そのいずれもが糖尿病発症予測に寄与すると明確に結論付けることはできなかったようです。

とはいえ・・・・・・糖尿病発症リスクを予測ができるものはないか、しかも一般的な検査で、と考えるとやはり第一に肝機能検査が頭に浮かびます。事実肝臓は血糖レベルの調節、とりわけ空腹時血糖の調節に大きな役割を果たしているからです。肝機能を代表する検査を二つあげるとすれば、やはり肝細胞障害を忠実に表現するALT(旧名GPT)と胆道系機能やアルコール性障害,脂肪肝を反映するγGTPでしょうか。どちらも肝臓の意義が異なる代表的機能の指標ですし、検診・健診にも必ずと言ってよいほど含まれている検査ですから。実際、香港大学の研究者らはALT高値が糖尿病罹患リスク増大に関係することを報告しています(サイエンティフィック・リポーツ誌 2016年12月号)。

糖尿病の病態や発症率にはかなり人種差がありますので、ここは日本人を対象にした研究結果が知りたいところです。そこで2018年9月にアジア糖尿病学会機関誌に発表された名古屋大学のグループの論文を紹介します。対象は日本人の男性勤労者2,775名(35〜66歳)です。12年間の観察(27,040人・年)で276人の2型糖尿病が発症しました(10.2人/1,000人・年)。そこでALT基準範囲内(5〜27)、ALT高値(28≦)、γGTP基準範囲内(8〜48)、γGTP高値(49≦)にわけて、さらに他の交絡因子による補正を加えて糖尿病発症率を検討しています。

さて結果ですが、最も厳密に交絡因子補正を行った場合(年齢・家族歴・運動量・喫煙・アルコール消費量・BMIに加えて空腹時インスリン値や空腹時血糖値で補正)を紹介しますと、ALTとγGTPのどちらか片方が高かったときには糖尿病発症リスクは1.4倍高まり、両方とも高かったときにはリスクは2.0倍高くなりました。ただし中性脂肪が基準範囲内(<150mg/dl)のときには、この相関はかなり弱くなります。

今回紹介した研究では、代表的な肝機能検査であるALT・γGTPと糖尿病リスクとの一定の関係を示唆してはいますが、まだすっきりとはしません。上記の香港のグループの研究では、γGTPと糖尿病リスクの関連を否定していますし、名古屋グループの研究でも中性脂肪の影響の意味するところが解決されていません。しかしとりあえずは、検診・健診での血液検査、とりわけ肝機能異常があるときには糖尿病リスク増加の可能性を考えて生活習慣を再点検した方が良さそうです。

具体的には・・・・・・健診の結果を手にとってみて・・・・・・@空腹時血糖やHbA1cが異常値→もう立派な糖尿病なのかも→直ちにかかりつけ医に相談して下さい。A空腹時血糖やHbA1cは正常→安心せずに肝機能ALTとγGTPをみる→高値なら糖尿病発症リスクは1.5〜2倍高いかも→体重管理・肥満解消・適度の運動・食生活の改善にGO!・・・・・・というところでしょうか。


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2019年06月15日

女性の脳は男性より三歳若い?!

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最近“脳の老い”、感じたことはありますか?「いや〜ワシも歳とったわ。なかなか思いだせないし、新しい事は覚えられないし・・・」「ワタシは大丈夫よ!まだまだ若い人には負けないわ〜」さて、あなたはどちらでしょう?・・・なぜ語り口に性差をつけているのだ!とご不満の方もおられるかも知れませんが、この書き分けは科学的根拠に基づいています。女性の脳は男性より“代謝年齢”では三歳ほど若いようです。

脳は活動に必要なエネルギーのすべてをブドウ糖に依存しています。ブドウ糖は細胞に取り込まれると“解糖系”という生化学的システムで分解され、その過程でエネルギーを発生します。酸素がなくてもエネルギーは産生できるのですが、酸素があれば、はるかに効率よく(およそ18倍)エネルギーを産生することができます。前者を嫌気的解糖、後者を好気的解糖とよびます。脳の糖代謝は嫌気的、好気的両方の解糖系が動いているのですけど、このシステムは大きく加齢に影響されることが分かってきました。

セントルイス・ワシントン大学(“ワシントン大学”という名称は全米で複数あるので、所在地を付けて表記するようになったようです)のグループは以前から“脳の老化と糖代謝の関係”に注目して研究をすすめてきました。彼らによれば、若い脳では好気的解糖と嫌気的解糖が混在しているのですが、加齢が進むにつれ好気的解糖は減少し、60歳あたりでほぼ消失するそうです。ただしこの変化は認知機能が正常で、認知症と関係が深いアミロイド沈着がない人にも生じるので、加齢の指標ではあっても病的な神経変性によるものではないようです(「細胞代謝誌」2014 年、2017年)。でもこの加齢による変化によって、かなり脳内のエネルギー産生効率が悪くなりそうな気がしますね〜何となく実感とも合致するし。

最近この研究グループが加齢と脳内糖代謝の男女差を明らかにするために、認知機能正常の20〜82歳の成人(女性121、男性84名)を対象として「陽電子放射断層撮影(PET)」を用いて脳の局所ブドウ糖利用、酸素消費量、脳血流のデータを得て、それらをもとに好気的解糖を計算したデータを加えてコンピュータにインプットし、「機械学習アルゴリズム」に“年齢と脳代謝の関係”を見つけるように訓練させました(コンピュータを訓練して演算式を求めるやり方です。何でもできるようになっているのですね〜)。次にそれに基づいて実年齢と“代謝年齢”との関係における男女差を比較したのです(「米国科学アカデミー紀要」 2019年2月号)。

さて結果ですが、男性のデータで学習したアルゴリズムに女性のデータをインプットすると「女性の脳年齢は実年齢(男性のデータに基づいています)より3.8歳若い」という結果が得られ、逆に女性のデータで学習したアルゴリズムに男性のデータをインプットすると「男性の脳年齢は実年齢(女性のデータでに基づいています)より2.4歳老化している」という結果が得られました。すなわち「女性の代謝年齢は男性より3歳ほど若い」と推論できます。

この“女性の脳の若さ”は既に20歳代からみられ80歳まで一貫しているようです。「やっぱり!そうじゃないかと思っていたわ!」と強気になる方もおられるかも知れませんが、ここは慎重に考える必要があります。確かに高齢の同年齢で比較すれば女性が有利かも知れません。実際、高齢者の認知機能を同年齢で比較すると女性の方が良い結果を出す、という報告も少なくないことと符合します。しかしこれを“脳の老化についての性差の優劣”と解釈すべきではない、という意見があります。脳は他の臓器とは異なり、身体が大人になってからも成熟を続ける性質を持っています。この性質を「幼形成熟」というのですが、この特性を考慮すると、今回紹介した研究の知見は単に“男性の脳の方が成人期に女性より3年早く成熟し、その差が老年期まで持続している”ことを示しているに過ぎないと考えることもできます(著者らもこの可能性を指摘しています)。

だったら「20歳頃の男女の脳の成熟度を比べてみたら分かるじゃないか、男性脳が先に成熟しているはずだから」となりますよね。この研究は口で言うほど簡単ではなく、実際にこれを検討した論文は寡聞にして知らないのですが、個人的な感覚で言えば、20歳レベルで男性脳が女性脳より成熟しているとはとても思えません・・・・・・私は女性脳が3歳若くてちょうど良いと思います。だって女性の平均寿命は男性より6年長いのですから。6−3は3、もうあと3年若返りたいところ・・・・・・なんて余計なお世話ですね。

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