2019年07月01日

肝機能検査で糖尿病発症を予測する!?


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多くの人が検診・健診を受けているのに、またメディアもあれほど糖尿病の注意喚起を行っているのに、糖尿病は今もなお増え続けているようです。国立がん研究センターなどの多施設共同研究によれば、HbA1c≧6.5%、または空腹時血糖≧126mg/dl かつ/または 75gブドウ糖負荷試験2時間値≧200mg/dlで定義すると、2010年における女性の糖尿病有病率は6.1%、男性では9.9%、全人口の7.9%と推計され、2030年までには女性6.7%、男性13.1%、全人口の9.8%にまで増加すると推計されています(アジア糖尿病学会機関誌 2015年9月号)。

検診・健診の結果を目にしても血糖やHbA1cといった“ダイレクトな糖尿病指標”に異常なければ「今回はOK〜」と思いがちですし、体重管理・肥満の解消・カロリー/糖質制限などの生活習慣における注意は「もう、わかった、わかった。“耳タコ”だよ〜」と聞き流してしまいがちです。しかし、もし血糖やHbA1c以外の、一見糖尿病とは関係のなさそうな検査値から糖尿病リスク高くなるのが予測できるとすれば、また違ったインパクトがあるかも知れません。そしてより科学的に言えば、糖尿病リスクと関連する検査が明らかになれば、また違った角度から糖尿病の病態に迫る道が開け、新しい糖尿病治療の方法論を立てることができるかも知れません。

そう考えて“血液や尿のバイオマーカーと糖尿病発症リスク”に興味を持って研究している学者たちも増えてきているようです。最近の英国のグループが中心になって行った研究(前向き研究139編を集積して分析;プロス・ワン誌 2016年10月号)によれば、今までに糖尿病発症リスクとの関連に関して血液・尿検査項目、総計167項目が検討されていますが、十分評価に耐えうるデータあるものは35項目程度で、そのいずれもが糖尿病発症予測に寄与すると明確に結論付けることはできなかったようです。

とはいえ・・・・・・糖尿病発症リスクを予測ができるものはないか、しかも一般的な検査で、と考えるとやはり第一に肝機能検査が頭に浮かびます。事実肝臓は血糖レベルの調節、とりわけ空腹時血糖の調節に大きな役割を果たしているからです。肝機能を代表する検査を二つあげるとすれば、やはり肝細胞障害を忠実に表現するALT(旧名GPT)と胆道系機能やアルコール性障害,脂肪肝を反映するγGTPでしょうか。どちらも肝臓の意義が異なる代表的機能の指標ですし、検診・健診にも必ずと言ってよいほど含まれている検査ですから。実際、香港大学の研究者らはALT高値が糖尿病罹患リスク増大に関係することを報告しています(サイエンティフィック・リポーツ誌 2016年12月号)。

糖尿病の病態や発症率にはかなり人種差がありますので、ここは日本人を対象にした研究結果が知りたいところです。そこで2018年9月にアジア糖尿病学会機関誌に発表された名古屋大学のグループの論文を紹介します。対象は日本人の男性勤労者2,775名(35〜66歳)です。12年間の観察(27,040人・年)で276人の2型糖尿病が発症しました(10.2人/1,000人・年)。そこでALT基準範囲内(5〜27)、ALT高値(28≦)、γGTP基準範囲内(8〜48)、γGTP高値(49≦)にわけて、さらに他の交絡因子による補正を加えて糖尿病発症率を検討しています。

さて結果ですが、最も厳密に交絡因子補正を行った場合(年齢・家族歴・運動量・喫煙・アルコール消費量・BMIに加えて空腹時インスリン値や空腹時血糖値で補正)を紹介しますと、ALTとγGTPのどちらか片方が高かったときには糖尿病発症リスクは1.4倍高まり、両方とも高かったときにはリスクは2.0倍高くなりました。ただし中性脂肪が基準範囲内(<150mg/dl)のときには、この相関はかなり弱くなります。

今回紹介した研究では、代表的な肝機能検査であるALT・γGTPと糖尿病リスクとの一定の関係を示唆してはいますが、まだすっきりとはしません。上記の香港のグループの研究では、γGTPと糖尿病リスクの関連を否定していますし、名古屋グループの研究でも中性脂肪の影響の意味するところが解決されていません。しかしとりあえずは、検診・健診での血液検査、とりわけ肝機能異常があるときには糖尿病リスク増加の可能性を考えて生活習慣を再点検した方が良さそうです。

具体的には・・・・・・健診の結果を手にとってみて・・・・・・@空腹時血糖やHbA1cが異常値→もう立派な糖尿病なのかも→直ちにかかりつけ医に相談して下さい。A空腹時血糖やHbA1cは正常→安心せずに肝機能ALTとγGTPをみる→高値なら糖尿病発症リスクは1.5〜2倍高いかも→体重管理・肥満解消・適度の運動・食生活の改善にGO!・・・・・・というところでしょうか。


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2019年06月15日

女性の脳は男性より三歳若い?!

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最近“脳の老い”、感じたことはありますか?「いや〜ワシも歳とったわ。なかなか思いだせないし、新しい事は覚えられないし・・・」「ワタシは大丈夫よ!まだまだ若い人には負けないわ〜」さて、あなたはどちらでしょう?・・・なぜ語り口に性差をつけているのだ!とご不満の方もおられるかも知れませんが、この書き分けは科学的根拠に基づいています。女性の脳は男性より“代謝年齢”では三歳ほど若いようです。

脳は活動に必要なエネルギーのすべてをブドウ糖に依存しています。ブドウ糖は細胞に取り込まれると“解糖系”という生化学的システムで分解され、その過程でエネルギーを発生します。酸素がなくてもエネルギーは産生できるのですが、酸素があれば、はるかに効率よく(およそ18倍)エネルギーを産生することができます。前者を嫌気的解糖、後者を好気的解糖とよびます。脳の糖代謝は嫌気的、好気的両方の解糖系が動いているのですけど、このシステムは大きく加齢に影響されることが分かってきました。

セントルイス・ワシントン大学(“ワシントン大学”という名称は全米で複数あるので、所在地を付けて表記するようになったようです)のグループは以前から“脳の老化と糖代謝の関係”に注目して研究をすすめてきました。彼らによれば、若い脳では好気的解糖と嫌気的解糖が混在しているのですが、加齢が進むにつれ好気的解糖は減少し、60歳あたりでほぼ消失するそうです。ただしこの変化は認知機能が正常で、認知症と関係が深いアミロイド沈着がない人にも生じるので、加齢の指標ではあっても病的な神経変性によるものではないようです(「細胞代謝誌」2014 年、2017年)。でもこの加齢による変化によって、かなり脳内のエネルギー産生効率が悪くなりそうな気がしますね〜何となく実感とも合致するし。

最近この研究グループが加齢と脳内糖代謝の男女差を明らかにするために、認知機能正常の20〜82歳の成人(女性121、男性84名)を対象として「陽電子放射断層撮影(PET)」を用いて脳の局所ブドウ糖利用、酸素消費量、脳血流のデータを得て、それらをもとに好気的解糖を計算したデータを加えてコンピュータにインプットし、「機械学習アルゴリズム」に“年齢と脳代謝の関係”を見つけるように訓練させました(コンピュータを訓練して演算式を求めるやり方です。何でもできるようになっているのですね〜)。次にそれに基づいて実年齢と“代謝年齢”との関係における男女差を比較したのです(「米国科学アカデミー紀要」 2019年2月号)。

さて結果ですが、男性のデータで学習したアルゴリズムに女性のデータをインプットすると「女性の脳年齢は実年齢(男性のデータに基づいています)より3.8歳若い」という結果が得られ、逆に女性のデータで学習したアルゴリズムに男性のデータをインプットすると「男性の脳年齢は実年齢(女性のデータでに基づいています)より2.4歳老化している」という結果が得られました。すなわち「女性の代謝年齢は男性より3歳ほど若い」と推論できます。

この“女性の脳の若さ”は既に20歳代からみられ80歳まで一貫しているようです。「やっぱり!そうじゃないかと思っていたわ!」と強気になる方もおられるかも知れませんが、ここは慎重に考える必要があります。確かに高齢の同年齢で比較すれば女性が有利かも知れません。実際、高齢者の認知機能を同年齢で比較すると女性の方が良い結果を出す、という報告も少なくないことと符合します。しかしこれを“脳の老化についての性差の優劣”と解釈すべきではない、という意見があります。脳は他の臓器とは異なり、身体が大人になってからも成熟を続ける性質を持っています。この性質を「幼形成熟」というのですが、この特性を考慮すると、今回紹介した研究の知見は単に“男性の脳の方が成人期に女性より3年早く成熟し、その差が老年期まで持続している”ことを示しているに過ぎないと考えることもできます(著者らもこの可能性を指摘しています)。

だったら「20歳頃の男女の脳の成熟度を比べてみたら分かるじゃないか、男性脳が先に成熟しているはずだから」となりますよね。この研究は口で言うほど簡単ではなく、実際にこれを検討した論文は寡聞にして知らないのですが、個人的な感覚で言えば、20歳レベルで男性脳が女性脳より成熟しているとはとても思えません・・・・・・私は女性脳が3歳若くてちょうど良いと思います。だって女性の平均寿命は男性より6年長いのですから。6−3は3、もうあと3年若返りたいところ・・・・・・なんて余計なお世話ですね。

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2019年06月01日

結核は稲作と一緒に渡来した?!


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少し前にネットで鳥取大学医学部の先生たちのグループが中国の長江流域の遺跡で東アジア最古、約5,000年前の結核の痕跡がある女性の人骨を発見した、という記事をみつけました。面白そうだったので記事の元になった論文(「国際古生物病理学雑誌」エルゼビア出版 2019年1月号)を読んでみました。

このグループが発掘したのは上海市にある「広富林遺跡」で、肥沃な長江のデルタ地帯にあり、数千年前から盛んに稲作を行われていました。どうやらこのあたりから稲作技術が日本に渡来したと推測されているそうです。発見された人骨には胸椎と腰椎が癒合・変形した「結核性脊椎炎(脊椎カリエス)」の徴候がありました。専門家によれば、日本では結核の痕跡は縄文時代の遺跡からは発見されておらず、弥生時代に渡来したと考えられるので、今回の発見は結核が長江流域から稲作とともに日本に渡来した可能性を示唆している、とのことです。

結核は日本のみならず、世界中で猛威を振るった、そして今も振るっている感染症です。日本ではかつては“労咳”と呼ばれ恐れられてきました。結核によって多くの著名人が亡くなっていますが、ここ150年くらいで幾人か名前を挙げると、幕末歴史ファンなら新撰組の沖田総司と長州の高杉晋作、文学ファンなら脊椎カリエスで34歳の若さで亡くなった明治の俳人、正岡子規の名が頭に浮かびます・・・・・・「いくたびも 雪の深さを 尋ねけり」なんて、病床に臥せる彼の心情が分かるような気がするな〜

結核は飛沫感染または空気感染で経気道的に人から人に伝搬します。体内に入った結核菌はまず肺胞に定着しますが、そのほとんどは人体の感染防御を担う好中球と肺胞マクロファージにより貪食され処理されます。しかし時には結核菌が自らを貪食したマクロファージの中で増殖し、ついにはマクロファージを殺して初感染巣を作ります(ちょっとした“エイリアン”ですね)。

しかしたいていは、結核病巣は“乾酪壊死”という現象を起こして、結核菌も封じ込められて病気も終息・・・・・・なのですけど一部の人では結核菌は早期にリンパ節、その後血流に入って肺以外に病巣を作る「肺外結核症」を発症し、また、一見何事もなく治ったかにみえても、死なずに残った結核菌が長い時間の後、免疫が低下したときに再燃する、などの現象が起こります。なお脊椎カリエスのような骨・関節結核は未治療の数%に発症するとされていますが、幸い現在では稀な合併症です。

ドイツの研究グループによれば、結核菌群のルーツは約40,000年前の東アフリカまで辿ることができるそうです。彼らは人類がアフリカを出て世界中に移り住むようになるのと一緒に結核もグローバルに広がったと推論しています(「PLOS微生物学」2008年)。

また、結核症の痕跡は数千年前のエジプト、先コロンブス期(石器時代〜西欧人の米大陸進出までの期間とのことです)のアメリカ大陸、新石器時代のヨーロッパにみてとることができます。脊椎カリエスなどの肉眼的な人骨の変化のみならず、最近のDNA解析技術により、一見病変のないミイラの組織や骨にも結核菌の存在を証明することができます(「米国微生物病学会誌」2016年8月)。

稲作・農耕技術が確立したことにより、人類は安定した食物エネルギーを入手できるようになりました。それによって狩猟で動物を追いかけてあちこち移動する必要がなくなり、定住生活が可能となって人口も飛躍的に増加しました。実はこの人類の定住化と人口増加が“人から人への伝搬で生き延びている”結核菌にとっても絶好の条件だったのです。

人口の増加(正確には人口密度の増加)以外に結核菌繁殖にとって好都合な条件といえば戦乱による衛生環境の悪化(集団の免疫不全につながります)があります。実際、結核は産業革命や第一次世界大戦などで増加し、抗生物質の発見によって一時頭打ちとなり、その後HIVの蔓延で再度増加傾向を示していることが明らかになっています(「ネイチャー遺伝学」2015年3月)。

今の日本、とくに大阪府は稲作・農耕が盛んでもないし、戦乱もないけど人口密集地域です。また、若者を中心に結核菌に対して免疫のない人も少なくありません。従って会社や施設で複数人が同時に結核に感染することがあります。また結核患者さんがそれとは知らず、一般病院外来を受診したことが判明して感染対策で大騒ぎすることも珍しくはありません。

微熱・咳・痰などが2週間以上続けば、とりあえず胸部X線写真をとるべきだと思います。必要があれば痰の検査や結核に対するリンパ球の反応をみる検査など、診断ツールは揃っています。結核は“誰でもなる可能性がある病気”、“他の人に伝染する可能性がある病気”であることを忘れないで下さいね。
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