2018年11月01日

“運動はがんのリスクを下げるPart2”〜夢、はかなく?!

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2016年7月15日付けのこのブログで、“運動はがんのリスクを低下させる”というお話を紹介しました。その後も、このテーマで毎年数え切れないほどの研究論文が発表されています。生活習慣病の予防・治療における運動の効果は明らかなので、がん予防効果についても大いに期待されるところです。たとえわずかな低下でも、全世界で行えば大きな効果があります。多くの熱心な研究も、その期待の現れなのでしょう。

一方、このような状況で「しかし、ちょっと待て」・・・・・・という研究者も当然も出てきます。なぜなら、みんなが期待している結果は論文としてよりたやすく採択され、出版される確率が高くなることはよく知られています。これを「出版バイアス」といいます。要するに“研究が日の目をみるハードルが下がる”という現象が起こるのです。そこでブラジルのグループは、この問題について現時点での総括を試みました。彼らは今まで出版された19編の総説、26編のメタ解析(がんと運動についての総説を集めて解析する研究です)と541編の原著論文を合わせて、計22種類のがん、770,000症例を解析した結果を報告しました(英国スポーツ医学雑誌 2018年)。

ここで“運動とがんリスク”についての研究史に触れておきます。運動による大腸がんと乳がんのリスクが低下については30年前くらいから報告がありました。そしてここ10年ばかりの間で、膀胱がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、膠芽腫(脳の悪性腫瘍)、腎がん、肺がん、髄膜腫(脳腫瘍で一部悪性)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんでも運動のリスク低下効果が報告されるようになってきました。2016年にこのブログで紹介した論文も、26種類のがんのうち、10種でリスク低下を認めた、としていました。何だか運動はオールマイティにがんリスクを低下させる!との勢いです。

しかし今回のブラジルの研究者たちは、そう考えるには、より精緻な検証が必要と考えました。そこで“がんリスクを低下させるという根拠の強さ”について詳細に検討したところ、「まず間違いなさそうな科学的根拠があるのは、大腸がんと乳がんだけ」という結果になりました。その他のがん種では、バイアスも無視できないし、論文間のばらつきも多く、確かとは言えない、ということです。ちょっと夢はしぼみぎみ・・・・・・というところですね。

しかし一方、大腸がんと乳がんにおける運動のがんリスク低下効果は、十分信用できると考えて良さそうです。そうなると問題になるのは、なぜこのふたつだけなのか、ということでしょうね。運動には、慢性炎症・高インスリン血症の抑制作用、抗酸化作用があり、これががんリスク低下と関係している、と考察されるのですが、これでは“なぜ大腸がんと乳がんだけ?”の説明にはなりません。

運動は便秘の改善に有用で、大腸での便停留時間を短縮して消化管内容物から発生する発がん物質との物理的接触を減少させる、という説もあります。しかしリスク低下は結腸がんだけで直腸がんにはみられないという報告もあり(BMC公衆衛生 2018年;BMCはドイツのシュプリンガー社が出版する生物・医学関連雑誌)、発がん物質を特定して運動との関連を明らかにしない限り、仮説の域をでません。

一方、運動はエストロゲンの分泌を抑制する、という報告があります(乳癌の研究と治療誌 2015年)。乳がんの多くはエストロゲンなどの女性ホルモンで増殖する・・・・・・となればこれががんリスク低下のメカニズム!と言いたいところですが、乳がんの多くは更年期以降〜高年齢域に発症します。この時期はエストロゲン分泌が低下しているはずなので、単純な運動によるエストロゲン分泌低下で説明するのは無理があります。

更年期以降の女性ホルモン感受性の乳がんは、副腎皮質から少量分泌される男性ホルモン(女性でも少量の男性ホルモンが分泌されています)を、がん細胞自身が「アロマターゼ」という酵素でエストロゲンに転換して増殖するとされています(従って“アロマターゼ阻害剤”は有力な乳がん治療薬となっています)。そして運動自体は男性ホルモン分泌を抑制しないので、現時点では、この経路に関する運動の乳がん予防効果についての納得のいく説明はありません。

結論は「運動は結腸がんと乳がんのリスクを低下させる。ただしその機序は不明。また他のがんについての運動の効果のほどは怪しい」ということになります。「たった二つだけ〜」と思われるかも知れませんが、ないよりはマシ・・・・・・それにやりようによっては、コストもかからないし、体重が減るとか、他に良いこともあるし、無理のない程度で頑張って下さいね。

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2018年10月15日

“風呂は命の洗濯”のエビデンス

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ある有名アニメの中で「風呂は命の洗濯よ〜」というセリフがありました。疲れた後など、ほんとうにそのとおりだな〜と思いますね。もちろん、世界中どこでも日本のように、ゆったりと湯船に浸かる・・・・・・という国ばかりではありません。格別水事情が悪くなくとも、ホテルの部屋はシャワーだけ、というところも少なくないようです。それはそれで不便というほどではないのだけれど、やはり何か物足りませんね〜とはいえ、私はどちらかといえば“カラスの行水”だから、たとえ立派な“檜風呂”とか“岩風呂”とかでも、大して変わりはないのですが・・・・・・

温泉大国ニッポンでは、昔から入浴の健康に対する効用については各地で言い伝えられてきました。“湯治”という言葉もありますしね。それ以上に日本では入浴は一種の文化でした。もっとも“銭湯の文化”は“時代は遠くなりにけり”ですけど……銭湯文化を歌っている南こうせつさんの「神田川」は今でもよく耳にしますけど、実感がない人も増えているでしょうね。

医学研究の世界においても入浴の効用についての科学的根拠が報告されるようになったのはつい最近のことです。やはりこの分野を牽引するのは日本をはじめとする温泉大国の研究グループです。最近の報告をみますと、まずサウナ浴(sauna bathing)の効果についての報告が国内外からされました(米国心臓病学会誌:富山大学2012、米国医師会雑誌・内科学:東フィンランド大学2015、日本循環器学会誌・英語版;和温療法研究所2016)。なお「和温療法」というのは鹿児島大学名誉教授(現和温療法研究所)鄭 忠和先生が開発された“サウナ浴15分+安静保温30分+水分補給”からなる心不全などに対する日本発の入浴治療法です。これらの臨床研究は、サウナ浴には心血管疾患の死亡率の低下や、心不全患者の運動能力改善などの効果が期待されることが示されています。

では、私たちが日常普通に行っている入浴(hot water bathing)には効果はあるのでしょうか?この観点から研究を行った愛媛大学のグループの論文が最近発表されました(サイエンティフィック・リポーツ 2018)。対象は同大学の“抗加齢・予防医療センター”の人間ドックの受診者873名(平均年齢約66歳、男女比=4:6)で、入浴に関するアンケートを行う一方、動脈硬化指標として「超音波による頚動脈内膜中膜厚」と「上腕足首間脈波伝搬速度」を測定、また「中心血圧(大動脈起始部での血圧:普通に測定する血圧よりも低く、その質も異なっていて、臨床研究の評価項目としてより適正だとする意見があります)」の推定値を橈骨動脈(ふつうに脈をとる場所です)圧波形から求め、さらに心臓負荷の指標として血液中B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP:既に心機能を簡便に知る血液検査として定着しています)を測定しています。

さて、結果ですが、一回あたりの入浴時間は最長120分、平均12.4±9.9分でした。1週間あたりの入浴回数最多はなんと24!回(この方は道後温泉近くにお住まいかと推察します)で平均回数は5.8±1.9回でした。湯の温度については熱め(41℃<)は約13%、多くの人は中間温度(40−41℃)かぬるめの温度(40℃>)で入浴していました。入浴の効果について要約すると、「週5回以上の人は、4回以下の人に比べて動脈硬化指標、中心血圧、心臓の負荷、いずれもが低くなる。なお2回以上データがとれた対象者164人でみると、週5回以上の入浴者では経年的変化でも良い傾向がみられる」ということでした。

以上の結果から、効果を期待するなら週5回以上は入浴した方が良さそうです。動脈硬化を遅らせ、血圧を下げ、また心臓に対する負荷を減らせる、となれば値打ちがありそうですね。なお湯の温度については、“熱め(41℃<)”の方が、より高い効果が得られそうなのですが、これについては、著者らは「さらに検討が必要」としています。風呂が嫌いじゃなかったら毎日入浴、で良さそうです。湯の温度については、今のところ個人の好みに合わせれば良いのではないでしょうか。

この入浴に関する研究、日本では大いに発展しそうです。“有○温泉VS草○温泉”とか“天然温泉VS温泉の素”とか・・・・・・でも大規模研究ともなれば時間もお金もかかるからな〜実際にやるかどうかは、温泉にでも浸かってゆっくり考えてからかな。

以上のように“風呂は命の洗濯”はあながち間違いではなさそうです。一方、入浴して“極楽、極楽〜”という良いながらリラックスする、という場面もよく目にするのですが、入浴と心血管病の予後について検討を加えてきた立場から言うと、「極楽」を連呼するのは、いかがなものかと思うので、やはり“命の洗濯”としておきましょう・・・・・・




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2018年10月01日

静かに蔓延しつつある慢性腎臓病(CKD)

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腎臓は「後腹膜(腹腔の背中側、脊椎の両脇)」に左右1対で存在し、ヒトの体液環境の恒常性維持という役割を担っています。すなわち、@腎臓は人体の水とナトリウム(塩分)の排泄を調節することにより、血液の浸透圧と水分量を一定に保ち、Aナトリウムのみならずカリウムなどのさまざまな「電解質」も適正範囲に維持しています。また、B体内で生じた代謝老廃物を排泄し、C血液における酸塩基平衡を調節しています(血液のpHを一定に保つ働き)。これらの機能を果たすために、腎臓は1日に流入する150Lほどの血液を「腎糸球体」に存在する「ネフロン」という“濾過器”で濾過することにより、必要な成分は再吸収しつつ、流入血液量の百分の一量ほどの尿を作り、それを媒体として老廃物を体外に排泄します。その他の重要な機能としてはD赤血球造血を調節する「エリスロポエチン」というホルモンを産生・分泌しています。このような多彩な機能をもつ腎臓の病気で重要なのは、その原因や病態というよりも“腎機能障害の程度”です。

腎臓の機能は左右合計して約200万個ある「ネフロン」という “濾過器の数”に依存しています。腎臓の機能障害には、さまざまな原因で数時間〜数日のうちに進展する「急性腎機能障害」と“深く静かに発症して長い経過をとる”「慢性腎機能障害」がありますが、健康問題として注意を喚起すべきは後者です。急性なら原因を除去できれば完全に回復することも期待できますが、慢性腎機能障害の場合は、知らないうちにある程度まで腎臓機能が低下すれば、もはや回復は困難となり、腎機能は進行性に低下して「腎不全」に至ります。腎不全がとことん進行すれば、生命を維持するために人工透析(または腎移植)が必要となります。

現在、慢性の経過をたどる腎機能障害の原因としては糖尿病が最も多く、その他高血圧症、糸球体腎炎などが主なものですが、これらを一括して「慢性腎臓病(CKD)」とよんで、早期に発見して腎機能保護を図り、できるだけ腎機能低下の速度を遅くして、最終段階である透析導入を可能な限り遅らせる、という試みが世界中で進められています。CKDを放置すれば透析のリスクが大きくなるのは当然ですが、透析導入前の状態でも心血管疾患や感染症などの罹患率が高くなることが知られています。すなわちCKDは他の重大な疾患の危険因子でもあるのです。しかもCKDはかなり進行するまでは、ほとんど自覚症状がなく気付きにくいという特徴があり、国内外の専門学会でその啓発に本腰をいれているところです。

CKDは、「一定以上の蛋白尿」(“−〜3+”のような定性検査ではなく、“○○mg/dl”のような定量検査での評価が必要です)または「一定以上の糸球体濾過量(上記ネフロンの実力を示します)の低下」が3ヶ月以上持続する状態、と定義されます。その頻度は学会の推計によれば全国で約1,300万人、なんと成人人口の13%に及ぶとされています。なお、今年の7月の国際腎臓病学会プレス・リリースによると、全世界のCKD患者は全人口の10~11%、約8億5千万人とのことです。また、日本人のネフロンの数は欧米人に比べると数が少なく、2/3くらいしかないという報告があり(米国臨床研究学会誌 2017年)、日本人は欧米人に比べてCKDになりやすい可能性があります。

CKDは放置できません。まず第一歩は自分の腎機能レベルを知ることです。そのためには、検診、人間ドック、あるいは診療所、病院で行った検査結果の中の「クレアチニン(Cr、CRNなどと記載してあるかも)」という項目を見て下さい。これは腎機能障害を判断する上で非常に有用性が高い検査です。たとえわずかでも正常範囲を超えていたら無視できませんし、たとえ正常範囲でも、上限に近い値なら油断できません。

次にクレアチニン値の近くに(すぐ下の欄が多いのですが)「推算GFR(eGFR)」という項目が書かれているかどうかを確認してください。もし記載がないなら、ネットで「eGFRの計算式」で検索すると必ずヒットしますので、性別・年齢・クレアチニン値を入力すると「eGFR」が分かります。「eGFR」は腎臓の実力を示す「糸球体濾過量」の推定値です。「eGFR」は「○○ml/分/1,73m2(体表面積1,73m2あたりの値))」という単位で表示されます。これが60未満ならばCKDの可能性があります。まあ、試験に例えたら60点未満で欠点というところです。該当する方は放置しないで、必ずかかりつけ医に相談して、追試(再検査やその他の腎疾患・腎機能関連検査)や指導(食事療法や合併する生活習慣病の治療など)を受けてください。腎臓病の管理は、「一に根気、二に根気、三、四も根気、五も根気」というのが特徴ですが、頑張って下さいね。



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