2020年04月03日

特別増刊号 COVID-19


大変なことになりましたね〜正直、ここまで大事になるとは思いませんでした。
過去に発生した重篤な肺炎を起こしうるコロナウイルス感染症といえば、2002のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012のMERS(中東呼吸器症候群)がありました。全世界の患者数はSARSで計8,000人超(死亡率約20%)、MERSで計2,000人超(死亡率約34%)だったのです。ところが今回のCOVID-19は今日4月3日朝の段階で感染者数1,011,490人、死亡数 52,863人、回復者数210,186人(死亡率約4.3%)です(ジョン・ホプキンス大学特設サイトによる)。死亡率はともかく、感染者数の増加の規模・速さともSARS、MERSとは比較になりません。

幸いなことにSARS、MERSともに日本での発生はありませんでした。日本では2009年5月には新型インフルエンザ(H1N1)の大流行があり、私も実際に診療に携わる機会がありましたが、日本上陸とともに軽症化していて、迅速検査キットや治療薬も完備していましたので、蔓延はしたものの、さほどの混乱もなく収束し、H1N1はそのまま季節性インフルエンザとして定着しています。

ところが今回のCOVID-19は4月2日の時点で国内の感染者数 2,617人、死亡数 65人、回復者数 505人(死亡率約2.1%)となっています。そしてなによりも社会的な影響が甚大で、東京や大阪の中心部でも大幅に人出が減っていて、マスクや消毒用アルコールなどが店頭から消えるなど、今までに経験したことがない状況になっています。言葉は悪いのですが、テレビは毎日のように危機感を煽り、専門家・非専門家が入り乱れて真偽のほどはさだかでないコメントを連発しています。

なお先に“真偽のほど”について私見を述べさせて頂きますと、COVID-19の問題は何よりもまず医学的問題、疫学的問題、公衆衛生の問題です。このような問題について議論するときには「科学的根拠」に基づくべきです。しかし残念ながら、新しいウイルス感染症に対する信頼できる科学的根拠は存在しません。ですので、科学的根拠のうち、“ふつうは当てにしない最低レベルの根拠”である「専門家の意見」に頼るしかないのが現状です。今回の大流行でたくさんの科学的根拠が得られるとは思いますが、今すぐには間に合いません。

医学文献の中には、このような現在進行形の問題について、できる限りリアルタイムに情報を収集し、速やかに更新しながら発信することを目的とした情報源が存在します。ウオルタース・クルーワー社の「UpToDate」という電子リソースは、その中でも最も質の高いもののひとつです。このUpToDateの「COVID-19」についての総説(ハーバード大学の専門家が担当していて、最終更新日は3月31日)を軸として、最新かつ最も正確と思われる情報を提供させて頂きます。なお一部を除いて引用文献は省略させて頂きます。長文ご容赦ください。

[名称]2019年末に中国の武漢で発生した新しいコロナウイルス感染症はWHOによって「COVID-19」と命名されました。そしてこのウイルスは国際的なウイルス命名委員会によって「SARS-CoV-2」と呼称されることになりました。

[SARS-CoV-2について]元来コロナウイルスというのは普通の風邪の原因として最もありふれたもののひとつ(20%くらいを占めるとされています)ですが、時に変異して、SARSやMERSのような伝染性の重篤な病気を引き起こします。今回のSARS-CoV-2は遺伝子配列でみるとMERSよりもSARSに近く、またコウモリがもつ二つのコロナウイルスに類似しています。ヒトの細胞にはアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)の受容体に結合して侵入します。ACEは血圧調節に重要な役割をはたしている酵素です。なおSARS-CoV-2にはL型とS型の2種類があり、L型が70%を占めるのですが、武漢以外ではS型優位との報告があります。この両型での臨床像の違いについては明らかではありません。個人的には日本と欧州・米国の間で感染拡大の推移や死亡率がずいぶん違うので、SARS-CoV-2の亜型や変異株の違いがこれに関係しているとすれば、今後の経過に十分な注意が必要です。

[感染の広がり]2019年末の段階で武漢の感染者数は80,000超、その後3ヶ月で感染者数は10倍を超え、現時点では南極大陸を除くすべての大陸にまで感染が拡大しています。当初は武漢の海鮮物や生きた動物が売られていた市場が感染源として注目されていましたが、今やヒト−ヒト間の感染が主体であることには疑う余地はありません。

[感染経路]感染経路して最も重要なのは感染者の咳・くしゃみ・会話などで発生する呼吸器由来の飛沫による感染です。飛沫に含まれるウイルスが粘膜に到達することによって、感染が成立するとされています。またウイルスが付着した環境物質の表面に接触した手で目や鼻や口を触ることも感染の原因となります。一般に飛沫自体は2m以上到達しないとされ、またウイルスが空気中に残ることはないとする意見が主流です。ただ実験室レベルの環境ではウイルスはエアロゾルの形で少なくとも3時間生存するという報告もあるので、空気感染並の感染対策をとっている国もあります。またSARS-CoV-2は血液中や糞便からも証明されるのですが、糞便−経口感染ルートは臨床的意義はないと考えられています。

[排出されるウイルス量]PCR検査によると、症状がでて間もない頃ほど排出されるウイルス量が多いと考えられるので感染初期の方が感染させるリスクが高いという仮説がありますが、証明されてはいません。ウイルス排出期間は軽症例ならほとんどが初発症状から10日以内に排出が止まる、というデータもありますが、重症例ではもっと長いとも考えられ、137例の解析によると中央値20日(8〜37日)と報告されています。また、一旦陰性となっても再び陽性となる事例の報告がありますが、検査の感度の問題なのか、ウイルスの再燃なのかについては検証されていません。

[感染力]SARS-CoV-2による感染がどれくらいの確率で生じるかについてはデータが錯綜している感があります。中国で数万人の濃厚接触者に対して行われた調査の結果では感染率は1〜5%と報告されています。しかし一方、日本の各地で“クラスター”の報告が相次いでいますので、感染者からのウイルス排出量、空調・換気、密集度、会話・食事形態などで、感染率は大きく影響される可能性が高いと思われます。

[SARS-CoV-2に対する抗体産生]SARS-CoV-2に感染すると抗体が産生されます。少なくともその一部は防御抗体となると考えられていますが、COVID-19に罹患した人がCOVID-19に免疫を持つか否か、それがどれくらい持続するかについては、まだ分かっていません。罹患し、回復した患者の血清抗体を治療に使うという試みもなされているのですが、その結果は未だ検証できるレベルにはありません。

[潜伏期間]ウイルス侵入から発症までの時間はおおむね14日以内、通常4〜5日と考えられています。また2.2日までに発症するのは全体の2.5%で、11.5日までに97.5%が発症するとのデータもあります。

[重症度(中国44,500人のデータ)] @軽症(肺炎がないか、あっても軽度):81%
A重症(呼吸困難、低酸素血症または24-48時間以内に肺の>50%に肺炎像が広がる):14%B重篤(呼吸不全、循環不全、多臓器障害):5%〜全死亡率は2.3%で、すべての死亡は重篤例から発生しました。死亡率は当初武漢で5.8%、それ以外の中国では0.7%と報告されていました。しかしCOVID-19が欧州に広がると、イタリアでは全症例の12%、入院患者の16%が集中治療室に搬入されることになり、死亡率は3月半ばで7.2%まで上昇しています。患者数の急増と医療体制の崩壊が起これば、死亡率は大きく上昇することが示唆されます。

[重症となる危険因子(イタリアのデータ)] @心血管病A糖尿病B高血圧C慢性肺疾患DがんE慢性腎臓病;死亡例355例を解析したところ、これら@〜Eの危険因子を平均2.7個持っていました。全く危険因子のなかった死亡は3例(0.8%)のみでした。年齢からみると高齢者ほどリスクが高いと報告されています。中国44,500人の解析では、30〜79歳が87%を占めていて、70〜79歳の死亡率は8%でしたが、80歳以上では15%にまで上昇します。この傾向はイタリアや米国でも同様です。また男性の方が女性に比べて高リスクであるとの報告があります。一方小児〜20歳未満の感染例は少なく、2(中国)〜6.3(韓国)%と報告されています。一般に小児〜若年者は軽症例が多いという意見が多かったのですが、ごく最近10代の死亡例の報告が欧米で散見されますので、まだ結論を出せる状況にはないと思われます。

[無症候性COVID-19]無症状のCOVID-19は間違いなく存在するようです。横浜港に停泊していたダイアモンド・プリンセス号では全乗客と全乗組員を対象にPCR検査が行われ、約17%で陽性でした。ところが感染が明らかになった時点では、感染者619人のうち約半数が無症状で、そのうち18%は発症することはありませんでした。またCOVID-19が集団発生したある介護施設のデータでは感染者23人中13人が無症状でしたが、そのうち10人は7日以内に症状が出現しました。無症状感染者のうち10〜20%程度が無症状のまま経過する可能性がありそうです。ただ無症状であってもCTを撮れば少なからず異常がみられるという報告があり、無症状でも感染源になりますし、無症状者から感染したからといって無症状〜軽症であるとは限りません。

[COVID-19肺炎]COVID-19の臨床症状として最も重要なのは肺炎なのですが、その症状は発熱、咳、呼吸困難、そして胸部X線での両側性の肺炎像など他の原因による肺炎と変わるところはありません。武漢で発生した138例のCOVID-19肺炎の臨床症状は次のように報告されています:発熱(99%)、倦怠感(70%)、痰を伴わない咳(59%)、食欲不振(40%)、筋痛(35%)、呼吸困難(31%)、痰排出(27%)。しかしこのうち発熱はあまり重要視できない可能性があります。発熱は高頻度に見られるがうち20%はごくわずかな微熱〜38度未満である、あるいは初診時には44%が37.5℃に満たない(経過中には89%があきらかな発熱を呈しますが)とする報告があります。

[嗅覚障害・味覚障害]他の症状については、最近COVID-19による嗅覚障害・味覚障害が話題になっています。イタリアの59例の報告では、34%が嗅覚・味覚障害のどちらかを訴え、19%はその両方を訴えたという報告があります。韓国のデータでも30%程度と報告されています。またごく最近、欧州の耳鼻科医グループが417例(女性263例)の軽症〜中等症のCOVID-19患者に質問紙法で調査を行っています。全身症状としては咳、筋痛、食欲不振が多く、耳鼻科的症状としては顔面痛と鼻閉が主体でした。85.6%が嗅覚障害を、88.0%が味覚障害を申告しました。この二つの症状は密接に関連していました。また11.8%で嗅覚障害は他の症状に先行しており、鼻閉や鼻汁のない患者でも79.7%に嗅覚障害が見られました。この症状はCOVID-19の重要な初期症状と思われます。鼻炎症状(これがあると原因にかかわらず嗅覚障害がでる可能性があるのですが)はCOVID-19ではそれほど多くないので、鼻炎症状を伴わない嗅覚障害はCOVID-19発見の指標になるかも知れません。

[COVID-19の呼吸不全・心障害] COVID-19の罹患後の経過はさまざまです。確かに80%は軽症なのですが、時には数日〜1週間程度で急速に進行する例があります。武漢のCOVID-19肺炎138例の解析では20%が平均8日で急性呼吸促迫症候群(ARDS)−ウイルス感染などを引き金として、肺で血液の酸素化ができなくなった重篤な状態−に至ったそうです。こうなれば人工呼吸器が必要となり、それでも酸素化が十分でなく、回復可能性があれば体外式膜性人工肺(ECMO)を用いることもあります。肺炎・呼吸不全以外の合併症としては不整脈、急性心筋傷害、循環不全などが起こりえます。危険因子は重篤化に関連していると思われますが、少なくとも一部の重篤例は抵抗力の低下というより、予想外の免疫反応の暴走によって状態が悪化していると考えられています。

[COVID-19の診断]COVID-19の診断については、社会的・公衆衛生的な問題もからむので、難しいところもあります。肺炎については胸部X線・胸部CTで簡単に診断できます。とくにCT検査は肺炎診断のゴールド・スタンダードと言っても過言ではありません。ただしCTでは基本的に病因診断はできないのです。従って、肺炎を来す他の原因を除外しつつCOVID-19が疑わしければPCR検査(正確にはRT-PCR検査)を行うことになります。この検査は現状では保健所の管理下で行われるので、PCR施行件数が少ない!などの批判がでていることころです。

[COVID-19におけるPCR検査]PCR検査の本質からいえば、COVID-19がある程度疑わしい人に行って、陽性になればCOVID-19、もし無症状ならSARS-CoV-2感染者と診断できます。PCRはSARS-CoV-2に感染していない人を誤って陽性と判断することはまずありません。これを「特異度が高い」というのですが、陰性の人を正しく陰性と判断できる確率が95%なのか、99%なのか、99.9%なのかは目の前の患者さんの診断では問題になりませんが、広く住民相手に行うときには話は簡単ではなくなります(99.9%でも10,000人検診すれば10人を誤って陽性と判断してしまいます)。逆にPCRはSARS-CoV-2に感染している人、あるいはCOVID-19の患者さんを正しく陽性と判定できるのでしょうか?言い換えれば「PCRの感度は十分高いか?」という問題があります。PCRは「咽頭ぬぐい液」「喀痰」を検体にすることが多いのですが、その感度はいかほどでしょうか。

PCR検査のリアル・ワールドの感度については重要な問題なので、中国から報告の文献を引用しておきます(米国医師会雑誌 online, March 11, 2020)。著者らは205人のCOVID-19患者平均年齢44歳:5〜67歳、19%は重症)から1,070の検体を採取しPCR検査を行いました。最も陽性率が高かった検体は気管肺胞洗浄液(14/15;93%:人工呼吸器装着下の採取と思われます)、次いで喀痰(75/104;72%)鼻咽頭ぬぐい液(5/8;63%)、咽頭ぬぐい液は126/398:32%)という結果でした。なお、便中からは44/153;29%で検出され、血液中からは307例中1例、尿中からは72例中1例も検出されませんでした。この結果を受けて米国CDCは鼻咽頭ぬぐい液の方が検体として優れているのではないかと考えているようです。なお、喀痰のある患者では喀痰採取が良いが、無理矢理咳を誘発して採痰することは推奨していません(環境汚染の確率が上がりますし、無理に採取しようとしても、なかなかうまくはいかないものです)。

[SARS-COV-2に対する抗体検査]いまひとつはSARS-COV-2に対する抗体検査です。日本でも既にキット(IgGとIgM)が販売されていますが、保険適応にはなっていません。抗体に関してはやはり中国からの報告があります(臨床感染症 オックスフォード出版 on line Mar 21,2020)。著者らは82例のCOVID-19確診例と強く疑われる58例(PCR陰性だが他の所見は典型的)で208の血漿検体について、IgG、IgM、IgAを検討しています。
SARS-COV-2に対するIgM抗体とIgA抗体は平均発症5日(四分範囲 3〜6日)で検出され、IgGは平均14日(10〜18日)で検出されました。陽性率はそれぞれ85.4%、92.7%、77.9%でした。発症後5.5日を経過するとIgMの検出率はPCRのそれを上回り、IgMとPCRを併用することにより検出率は98.6%(確診例と疑い例を含む)まで上昇しましたがPCR単独の検出率は51.9%でした。

私見ですが、ある集団の感染の拡がりを知るのには、PCRの感度は低すぎると思います。目の前にCOVID-19の可能性が十分ある患者さんに対しては咽頭ぬぐい液、鼻咽頭ぬぐい液、喀痰など収集できる検体を収集して検査すれば総合して高い感度が得られるかも知れません。しかし集団のスクリーニングとしては、ちょっと厳しいです。それに現行の体制
では、無症状でもSARS-CoV-2陽性なら入院となっていますので受入ベッドがあっという間に底を尽きますので、軽症・無症状者は自宅待機以外に無いと思うのです。ただしその前に呼吸困難がない、低酸素血症がないというのは押さえておかないといけないでしょうけど。同居人やペット(犬、猫とも感染が報告されています)とも“家庭内分離”をしたいところだが、日本家屋やマンションでは無理がありますね。でもたぶん近いうちに、そういう方針になると思います。

[薬物治療について] 世界中でいろいろな抗ウイルス薬などが治験に入っていますが、現時点で有効の可能性が高い薬剤はまだ知られていません。何か効果のある薬が早く見つかると良いのですが。しかし見つかっても、どういう患者さんに、どのタイミングで投与するか、副作用はどうか、などクリアすべきことは多々あります。でも今回は認可まで最高速で進みそうな気がします。なおワクチンについては早くても来年以降の話だと思います。

[手洗い・マスクについて] 手洗いの有効性は疑う余地はありません。ぜひ励行してください。仕事場でもし共用するパソコンのキーボードがあれば、よく拭いてくださいね。めちゃくちゃ不潔になっているはずですから。マスクはあっという間に無くなりましたね。当初は米国のCDCもWHOも、日本全国の感染管理の専門家もマスクは感染防御になるというエビデンスがない、という見解でした。確かに臨床研究でも手洗いは有意な効果があるけどマスクでは有意差がでない、とする論文が多かったのは事実です。マスクは表面に触れないように、触ったら口、鼻に触れないように頻回に交換する必要があるので、有意差を出すのが難しいのは確かです。でも今回のCOVID-19の欧米での大流行は、彼らのエビデンス至上主義を打ちのめすに十分なインパクトがありました。日本や韓国の“踏みとどまり方”は手洗い・マスク励行のため?という不安が欧米で巻き起こっているふしもあります。CDCもちょっとトーンが変化してきているし・・・・・・マスクは感染者からの飛沫をいくぶんか減らしますし、飛んでくる飛沫に対しても全く無力ではないでしょう。マスクをつけたら、“マスクの表面は汚い”ということを自覚して手洗い・マスクを続けることにしませんか?マスクは薄めのハイター液で洗って、水洗いして乾かせばたぶん再生使用可能です(今日も自作再生マスクを使用中。ないよりはマシ)効果のほどは何ともいえませんが・・・・・・もう一度言いますが、新しい感染症に対して自信を持って真実を言える人などいませんからね。専門家でもあやしいです。非専門家ならなおさら怪しい・・・・・・

では皆様のご幸運を祈念して。




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2020年04月01日

対決、 肉食派VS魚食派VS菜食派・・・・・・


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日本ではあまり目立っていないのかも知れませんが、最近欧米では菜食主義者が増え続けているそうです。一口に菜食主義者「ベジタリアン」と言ってもグレードがあり、“肉は食べない”から“動物由来の食物は一切ダメ”までさまざまで、最も先鋭な「ヴィーガン」と呼ばれる人達の一部は、動物性食物はむろんのこと、“牛革ベルトもダメ”という徹底ぶりです。

医学研究ではそこまで厳密に区別しないことも多いのですけど、菜食主義が心血管病罹患リスクにどのような影響があるかは興味深いテーマではあります。そこで最新の英国発の研究を紹介します(英国医師会雑誌 2019年11月号)。

この研究の対象は1993〜2001年に登録された、虚血性心疾患、脳卒中、狭心症あるいは心血管疾患の既往のない人48,188人で、食生活で3グループに分けています。「肉食派」(肉を食べる。魚・乳製品・卵摂取の有無は問わない:24,428人、女性75.7%)、「魚食派」(魚は食べるが肉は食べない:7,506人、女性82.4%)、「菜食派」(ヴィーガンを含む:16,254人、女性75.3%)の3グループです。食生活については最初の登録時とその後2010年頃(対象28,364人)に調査されています。

さて、結果ですが、18.1年の観察期間で、2,820例の虚血性心疾患と1,072 例の脳卒中(脳梗塞・脳塞栓519例、脳出血300例)が発症しました。社会地政学的な因子とライフスタイルの因子で調整すると、虚血性心疾患に関しては肉食派に比較して、魚食派と菜食派はそれぞれ13%、22%のリスク低下が見られました。これは実際にどれくらいの差になるかと言えば、菜食派では肉食派に比べて人口1,000人×10年あたりの虚血性心疾患の発症が10人少ないということになります。ただし自己申告のコレステロール高値、高血圧、BMIで補正すると、菜食派のリスク低下効果は10%にまで減弱しました。

一方、脳卒中については全く逆の現象が見られました。菜食派は肉食派に比べて脳卒中、とりわけ脳出血のリスクが20%も高かったのです。これは人口1,000人×10年あたり脳卒中が3人以上多く生じる計算になります。こうなれば菜食の健康に対する益は、だいぶ揺らいできますね〜

では、肉食派、魚食派、菜食派の人たちのプロフィールをもう少し詳しく見てみましょう。社会地政学的なプロフィールでまず目につくのは、平均年齢です。肉食派49.0歳、魚食派42.1歳、菜食派39.4歳と肉食を避ける人は若い層に多いことがわかります。また教育程度も魚食派と菜食派で高い傾向があります。喫煙率・アルコール消費、サプリメントの使用は3群で大差ないのですが、
運動をよく行う人は魚食派と菜食派で多かったようです。

持病や常用薬ではかなり差がありました。肉食派は魚食派・菜食派に比べて高血圧、高コレステロール(C)、糖尿病の既往がある人がやや多く、何らかの治療薬や女性ホルモン補充療法をうけている人も多かったのです。もっとも、実際の血圧や総Cの値は、3群で大きな差はなかったのですが・・・・・・

次に肉食、魚食、菜食の違いを栄養学的にみてみましょう。平均摂取カロリーは肉食1.983、魚食1,897、菜食1,867でした。また菜食では、牛乳・豆乳・チーズ・フルーツを他の2群よりたくさん摂取するので、総カロリーに占める栄養素の割合でみると、たんぱく質・脂質はそう少ないわけではありませんが、糖質はすこし多めになっています。

著者らは魚食派・菜食派は肉食派に比べ、虚血性心疾患のリスクが低いことは間違いない、と考えているようです。むろん高血圧、高C、糖尿病、肥満などの既知の危険因子も関連していることは確かなのですが、それらの影響を補正してもなお、リスクは有意に低くなると結論しています。その原因を求めるとすれば、やはり食事性の“悪玉C(LDL−Cあるいは、非HDL−C)”ということになるようです。

では逆に菜食派で脳卒中、とくに脳出血が増えるのはなぜか、という疑問が起こります。いままでに発表された研究報告も考え合わせると、これもまた肉食あるいはそれに含まれるLDL−Cなどの脂肪成分の不足による、とする意見があります。すなわち肉食や肉食由来の脂肪は脳出血に対して防御的に働く、という論文は複数存在し、その中には日本発の研究もあります(日本疫学会英文誌 1999、米国心臓病学会・米国麻酔科学会機関誌 2004など)。

ではどうしたら良いのでしょう?このような益・害相半ばする場合には常識的な対応が無難です。まず高血圧、高C、糖尿病、肥満など既知の危険因子があれば是正するのが第一。食生活では、あまり肉食を避ける必要はないけど、魚や乳製品もバランスよく摂取、野菜もしっかり食べましょう!何事によらず、よほどの科学的根拠がない限り、極端に走るのはかえってリスクが高くなるかも・・・・・・あいも変わらず当たり前の結論になってすいません・・・・・・

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2020年03月15日

宿題を先延ばしにするとメタボになりやすい?!

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臨床研究にはいろいろありますが、中には多くの人を敵に回すのも厭わない、という研究もあります。とくに昔のことをほじくり返して、某有名アニメのように、「おまえはもう〇〇している。」と言われても納得できない人もいるでしょうね。

子供の頃の宿題、とくに夏休みの宿題のことを思い出して下さい。いつまでに仕上げていましたか? 1.直ちに終わらせた、2.なるべく早めに終わらせた、3.期限内に終わるよう均等に仕上げた、4.期限の終わりの方で仕上げた、5.ギリギリになってやっと終わらせた、の五択です。1〜3は“先延ばし(procrastination)”しないタイプ、4は中等度の先延ばし傾向、5は強い先延ばし傾向と分類されます。

愛知医科大学の二人の研究者は、ある電気メーカーの男性従業員(795人、46.9±8.1歳、BMI 23.1 ±3.2kg/m2、“ホワイトカラー族”515人、“ブルーカラー族”280人)を対象に、宿題の仕上げ方と大人になってからの体重増加やメタボリック・シンドローム(Met S)のリスクについての関連を検討しました(英国医師会雑誌 Open On line 11月18日号)。

著者らが“宿題先延ばし傾向”と比較したパラメーターは、肥満(BMI >25kg/m2)、成人期体重10kg増加(AWG10: 20歳時と2015年の体重を比較して10kgを超える体重増加の有無)、内臓肥満(腹囲≧85cm)とMet S(腹囲≧85cmに加えて高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常のうち二つ以上を有する)です。対象とした795人中、肥満は182人(22.9%)、AWG10は169人(21.3%)で、Met Sと判定された人は123人(15.5%)でした。

さて、これらのパラメーターと“宿題先延ばし傾向”との関連ですが、“ホワイトカラー族”においては、強い先延ばし傾向を示した人は、先延ばし傾向がなかった人と比較すると、AWG10を示すリスクが1.85倍高く、Met Sになるリスクも2.29倍高いことが分かりました。また年齢、教育レベルやさまざまな生活習慣で補正してもホワイトカラー族では先延ばし傾向とMet Sリスクは相関していたのですが、ブルーカラー族にはこのような相関は認められませんでした。著者らは“先延ばし傾向と肥満関連因子とは相関するが、労働形態によって変容することが示唆される”としていますが、「ん?!どういうこと?!」と思わないではありません。ここはちょっとひっかかりますね〜

ただ、今回の論文が示した結果、背景に医学以外、とくに「行動経済学」という学問の裏付けがあるようです。論文の中に見慣れない記述や専門用語が頻出しているので調べてみました。曰く、“社会情緒的スキル、とりわけ自己管理や自己調節と、肥満などの良くない健康アウトカムとの関連が注目されている”だの“時間的非整合選好(「時間割引」または「現在バイアス」による選好)”だの、「なんのこっちゃ?」という箇所がたくさんありました。「時間的非整合・現在バイアス理論」は何と2002年ノーベル経済学賞を受賞していました・・・・・・

思い切り簡略化して言えば(簡略化しない部分=よく理解できなかった部分なのですけど)、「現時点で望ましいとされた行動は、将来の時点では望ましいとは限らない(時間的非整合)」「将来の利益や満足を、現在のそれに比べてどれくらい割り引くか(時間割引あるいは双曲割引)、という選好は選択者の“我慢のなさ”のパラメーターになる」ということのようです。

“将来の肥満による不利益よりも、今目の前にあるお菓子の美味しさ”を高く評価して選び取る(現在バイアス)、という行動は“宿題を先延ばしにして、より楽しいことを先にする”という行動に通じると言うのです。ここまで理解する?のに、主に大阪大学社会経済研究所教授をされていた池田新介博士(現関西学院大学経営戦略研究科教授)の国内・海外の論文を参考にさせて頂きました(健康経済学雑誌 2010 29:268 エルゼビア出版など)。池田教授の著書に「自滅する選択−先延ばしで後悔しないための新しい経済学(東洋経済新報社 2012)」というのがあります。このタイトル、まさにMet Sに対する刺激的すぎる警鐘です。

とはいえ、若干の疑問が残ります。私は夏休みの宿題は、休みに入って翌日には「絵画」(今も苦手です。でも猫の顔を描いたら孫は褒めてくれたけど・・・・・・)を除いてすべて終えていました。ところが大人になって60歳の時点で20歳時と比べた体重増加はちょうど10kg、腹囲はかろうじてセーフというところまで来ていて、病気にならなければ今頃は間違いなくMet Sに突入していたはずです。

いくら子供の頃は“先延ばしとは無縁”であっても、大人になってその“美点”を失って先延ばし族に仲間入りし、Met Sへまっしぐら、というのは珍しくないと思います。命名するとすれば「成人発症先延ばし症候群」かな・・・・・・まさに私自身が“リアル・ワールド・ケース・リポート”です。

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