2018年09月15日

地球温暖化を防ぐ食生活とは?!


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前回が“プラネタリー・ヘルス”、すなわち地球という惑星規模からみた健康問題だったので、今回も視野を広げて・・・・・・ということで論文を探していると、 “食品による環境負荷を減らすには?”という研究がありました(サイエンス誌 2018年6月号)。英国オックスフォード大学とスイスのライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の研究所との共同研究です。

環境問題の中心といえば、やはり「CO2排出量と地球温暖化」でしょうね。この問題は元米国副大統領のアル・ゴアさんが主演した2006年の映画「An Inconvenient Truth(不都合な真実)」ですっかり有名になりました。現在の主要先進国の趨勢は“地球環境を守るために化石燃料使用を減らしてCO2排出量を削減し、温暖化に歯止めをかけよう!”ということなのですが、「CO2による温暖化なんてフェイクだ!」という人たちや、あるいは「発展途上国にはCO2を排出する権利がある!」という主張もあって、今でもホットな、というか、ほとんど喧嘩腰の議論が戦わされています。

単なる気象やCO2データの科学的解析だけなら、簡単に結論がでそうなものだけど、そうはいかないのが世の常・・・・・・確かにCO2削減となれば、国や地域によっては死活問題だろうし、政治的・経済的にさまざまな利害関係を持った勢力がこの問題にコミットして問題を複雑化しているようだし・・・・・・おそらく数十年〜100年といった時間がこの議論に決着をつけてくれるのでしょうけど、“時、既にtoo late”だったら困りますね〜

とりあえず今、原稿を書いている私の立場としては、@少なくともここ数十年間、急速にCO2排出量が増加しているのは事実。ACO2(だけではないけれど)が温室効果を持つことも間違いない。Bよって、どれくらいの割合で寄与しているかは別にして、CO2排出が地球温暖化に関与している可能性は除外できない。Cそうなら食生活に関してもCO2排出は減らせるものなら減らす方が良い・・・・・・ということで冒頭の研究に話を戻します。

著者らは、「生産者〜消費者の過程で、食物が環境に与える負荷をどのようにしたら減らすことができるか?」という観点で研究を進めています。彼らは世界中から38,700の農場と1,600の加工工場、包装、小売を調査してデータベース化し、主としてさまざまな食品が製品化される過程で主として排出されるCO2排出量に焦点を当てて解析しています。

研究結果から、食品を生産するのにどれくらいのCO2が排出されるかを紹介しますと、まず蛋白質ですが、豆腐100g生産するときに排出されるCO2量を2とすると、牛肉100g生産に要するCO2排出量は50、以下羊肉20、豚肉7.6、チーズ11、鶏肉5.7、養殖魚6、卵4.2、豆類0.3〜1.2でした。乳飲料1Lの生産では牛乳3.2、豆乳1、でんぷん質1,000kcalでみると米1.2、ポテト0.6、その他果物や野菜などを比べてみても、やはり牛肉など肉類・乳製品の生産が際だって多量のCO2を排出することが分かります。また、肉類・乳製品は人類の消費カロリーの18%を供給しているのだけど、その生産のために農地の83%を占有し、CO2排出原因のうちの60%を占めているそうです。加えて肉類・乳製品の生産は水の使用量と水質汚染、酸性化物質の放出にも大きなウエイトを占めていました。

そこで著者たちはこう主張します。「食物と環境問題を考える時、生産者のできることは限られており、むしろ消費者が果たすべき役割の方が大きい。もし人類が完全なベジタリアンになれば、現在のCO2排出量を半減できるのみならず、世界の農場の75%を自然に戻すことができる、そのうえ、酸性化物質も水質汚染も半減できる」・・・・・・う〜ん、なかなかラディカルな主張ですね・・・・・・

「すごい!これぞ温暖化の救世主!」と言いたいところですが、さすがにちょっと非現実的です(まあ、著者らもそれは分かっているのですが)。仮に温暖化が防げても、人類の生活がとても貧しくなってしまうような気も・・・・・・第一、人類は一度手にいれた“豊かな食生活”は手放せないのではないでしょうか。やっぱり私も肉も卵も食べたいし・・・・・・なんて言っていると「喝!母なる地球を守る気がないのか!」という叱責が飛んできそうなのですが・・・・・・でもね、私も一人の弱い人間なのです・・・・・・(定番の居直り方です)

例えば車や電気製品は“環境に優しいエコ仕様にシフトしよう”という方向にあるけど、その効果たるや、たかが知れたものです(と、この論文の著者らは述べております)。それよりずっと大きなインパクトがある“環境負荷が少ない食生活”について一人一人が考え“CO2排出の少ない食品を選ぶ”という意識を持って努力するべき時が来ているのかも知れませんね。

「そう言うあなたは努力する気あるの?」とお聞きになりたい方もあると思いますが、字数も尽きましたので、その話はまた今度・・・・・・

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2018年09月01日

pm2.5による大気汚染と糖尿病

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糖尿病ネタが続きますが……“大気汚染”は世界レベルでみても極めて重大な健康リスクであり、その評価と対策は喫緊の課題(お役所的表現!)です。大気汚染と他のリスクと比べてみると、ヒトが自らの文明発展と引き替えに地球環境を変えてしまったツケを払う……という構図が特徴的だと思うのです。大気汚染の中で最も注目されているのは、かの有名な微小粒子「pm2.5」です。

pm2.5による大気汚染と健康リスクについては、既に多くの研究がなされていて、心血管病、呼吸器疾患、腎臓病など多くの、いわゆる“非感染性疾患”の罹患リスクを上昇させることが知られています。また、最近では糖尿病罹患リスク上昇が注目されているのですが、いったいどの程度のリスク増加を来すのかについては明らかではありませんでした。

そこで米国ワシントン大学のグループは、登録時点で糖尿病の病歴のない退役軍人約173万人をデータベースから抽出し、中央値で8.5年にわたって患者情報と環境情報を観察した結果を解析しました(ランセット・プラネタリー・ヘルス誌 2018年7月号)。さまざまな因子で補正して統計処理を行ったところ、pm2.5が10μg/m3増加すると「糖尿病の罹患リスク」が15%上昇し、「すべての原因による死亡リスク」は8%上昇しました。この上昇が偶然によるものではないことを検証するためのひとつの方法として、pm2.5とは関連がないと考えられる「下肢骨折発症率」を対象として検討したところ、pm2.5が増加しても下肢骨折発症は全く増加していませんでした。一方、大気中のpm2.5の対象として大気中のナトリウム濃度と糖尿病との関係について検証してみると、両者の間には全く相関は認められませんでした。著者らは、これらのデータに基づき、2016年の全世界の糖尿病罹患患者のうち約320万人(24%)はpm2.5によるものと推論しています。

このpm2.5による糖尿病リスク、わずか2.4μg/m3あたりから増加し始め、10μg/m3では上記の如く明らかに増加します。そしてこのpm2.5レベル、毎日ネットにアップされる“全国各地、現在のpm2.5情報”をみると、いかに低いレベルで糖尿病リスクが増加するのかがわかります。この原稿を書いている時点(7月12日の午後)の大阪府全体の平均値は15μg/m3ですが、定点観測値のデータをみると「浜寺」は45μg/m3、「深井」は29μg/m3でした。“この日はpm2.5が少ない日”とのことでしたので、“普通の日”や“多い日”はもっと高くなって、軽く数十μg/m3を超えているのでしょう。なお環境省が公表しているpm2.5に関する基準が「年平均15μg/m3以下、1日平均35μg/m3以下が望ましい」ということですので、糖尿病罹患リスクを上昇させる10μg/m3の増加という現象は“注目もされない日常茶飯事の出来事”とことになります。

そこで著者らは「今の基準は甘過ぎる。基準を緩めようとするロビー活動もあるが(やはり規制緩和を求める人たちも少なくないようです)、もっと厳しくすべき」と考えているようです。私も「おっしゃるとおり!」と言いたいのですが、だったらどうしたら下げられるのか?となるとかなり疑問符が……文明の質というか、パラダイムそのものをシフトしないと無理なような気も……要するにグローバルな視点で大気汚染を考え直して国際協調、ということが必要なのでしょうけど、うまくいった国際協調なんて最近見たことないからな〜

なおpm2.5と糖尿病発症のメカニズムですが、pm2.5のような化学活性物質や酸性化物質を含む微小粒子を肺から吸入→肺胞で慢性炎症惹起(当然呼吸器疾患も起こります)→炎症は全身性反応として広がる→炎症状態によってインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)→糖尿病リスクが高まる、ということは十分あり得る話です。

さて、ここで「pm2.5は糖尿病リスクを高める、では既に糖尿病に罹患している患者に対するpm2.5の影響は?」という問いを立てることができます。これについては少し前に論文がでていて「長期間高いpm2.5にさらされた、とくに女性の糖尿病患者では心血管病と脳卒中リスクが44%ほど上昇する」と報告されています(米国心臓協会誌 2015年11月号)。この論文の著者らは、糖尿病患者は毎日pm2.5値をチェックして高い日は外出を控えたほうが良い、と述べています。それもまた大変な話ですが、確かにpm2.5は粒子サイズからみて、ハイ・レベルの作業用・医療用マスクでないと防げない(しかし装着していると息苦しい)ので外出しないほうが現実的かも……

さて、話が“プラネタリー・レベル”から急に小さくなって恐縮ですが、結論としては「pm2,5値の高い日は不要不急の外出を控える」という“荒天時の気象庁発表注意喚起”に準じた対策でいかがでしょうか。
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2018年08月15日

がんになると糖尿病に罹りやすくなる!?


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糖尿病は代表的な生活習慣病であり、患者数は数百万人を超えると言われています。糖尿病でみられる高血糖・高インスリン血症・インスリン抵抗性は網膜・腎臓・末梢神経に独特の「糖尿病性細血管障害」を引き起こすだけではなく、全身の動脈硬化病変の進展を加速し、心血管病や末梢動脈疾患のリスクを大きく高めることはよく知られています。一方、糖尿病は「がん」の危険因子でもあることが明らかにされています。そのメカニズムは完全には解明されていませんが、糖尿病の患者さんはがんに罹りやすいことは、まず間違いないと考えられています。

では、逆にがんに罹ると糖尿病になりやすくなることはあるのでしょうか。最近、お隣韓国のグループこの問題について研究を発表しました(米国医師会雑誌・腫瘍学 2018年6月、オンライン版)。韓国では医療保険が一元化されていて、すべての外来・入院患者情報は国の機関が管理しているので正確な大規模データが得られますし、日本人と人種的にも近いので、参考にすべき点も多いと思うのです。

著者らはまず、データベースから、2003年から2013年の間で、調査の時点で糖尿病に罹患しておらず、がんの病歴もない20〜70歳の住民ピックアップし、その後のがんの発症と糖尿病発症リスク増加との関連を検討しています。対象となったのは住民494,189人(男女比1:1)で、平均7年間フォローアップしたところ15,130人ががんを発症し、26,610人が糖尿病を発症しました。結果を年齢・性別・がん発症前の糖尿病の危険因子などで補正して解析したところ、がんを発症すると、その後の糖尿病に罹患する危険度は、がんを発症していない人に比べて1.35倍高いことが分かりました(がん発症後の糖尿病発症率の実測値は患者1,000人あたり1年に17.4人)。すなわち“がんに罹ること”は糖尿病の独立した危険因子だったのです。


がんの部位別でみると、最もリスクが高くなるのは膵臓がんで約5.2倍、ついで腎がん、肝臓がんで約2倍、血液がん、乳がんで約1.6倍、胃がん、甲状腺がんで約1.3倍でした。
一方、子宮・卵巣がん、大腸がん、前立腺がんなどでは糖尿病発症のリスク増加はみられませんでした。がん発症後の年数でみると、がん発症後1〜2年以内が最も高くて約1.5倍だったのですが、少なくとも10年後までは糖尿病発症リスクは約1.1〜1.2倍程度高まったまま推移しました。

膵臓は糖尿に最も深くかかわるインスリンの産生臓器ですから膵臓がん発症後に糖尿病発症リスクが著しく高くなるのは当然かも知れないのですが……その他の部位のがんと糖尿病発症との関連を明快に説明することは簡単ではありません。しかしがんに罹患することによって生じるさまざまな内臓機能の変調や炎症・免疫システムの変化、あるいはさまざまな治療による生物学的ストレスの増加など、いずれもインスリン作用を阻害し、これらがその後の糖尿病発症に結びつく可能性は十分あります。そう考えると「がんに罹ること」が糖尿病の独立した危険因子であることは、それほど不思議なことではありません。

この研究を踏まえて、実践に生かせることがあるとすれば、ひとつは、がんに罹患して運良く長期生存ないし治癒が得られても、糖尿病を対象とした項目を含む検診を怠らないことです。できればがんの経過観察とともに、新たな病気にも目配りして頂けるような「かかりつけ医」を決めておくことをお勧めします。

もうひとつは、めでたく長期生存ないし治癒〜すなわち“がんサーバイバー”になったからと言って、「おれの人生観は変わった。せっかく勝ち取った残りの人生、うまいものをたらふく食って、思い切り酒飲んで……」という生き方は止めておく方が無難です。こういう方、実は少なくないのですよね〜まあ、気持ちは分からなくはないけど……「幸運を無駄使いすれば、すり減ってタダの運になる」という警句をご存じですか?えっ、知らない!?そうでしょうね〜今、思いついた警句ですから……でも自分では真実に近いと思っています。

Good luck, my friends!

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