2019年01月15日

乳製品はやっぱり体に良い!?

片桐先生2.jpg
世界的に見て、食生活のガイドラインには、高脂肪乳製品を控えるように指導しているものが少なくありません。高脂肪乳製品は飽和脂肪酸を多く含有しているため血清脂質に悪影響を与え、それゆえ心血管病や死亡リスクを上昇させると考えられているからです。しかしこれを明確に示した研究は少なく、結果のばらつきも大きいのです。まあ、食品と健康・疾病の関係に関する研究では、よくあることなのですが・・・・・・

食生活は国や地域によって大きく異なるので、何か物を言おうと思えば研究の規模を、対象人数のみならず地政学的にも拡大する必要があります。この観点から企画されたのがPUREスタディ:「都会農村前方視的疫学研究」で、五大陸21カ国が参加し(政治国際会議なら紛糾必至の組み合わせです)、35〜70歳の136,384人がエントリーし、参加者を平均9.1年間観察した大規模研究です(ランセット誌 2018年9月号)。

結果を紹介する前に、まず食品の摂取量を表す“単位”についての説明を・・・・・・1サービングというのが「1食での一人前量」です。乳製品でいえば牛乳コップ1杯・ヨーグルト1カップ、ともにおおむね244g、チーズなら一切れで15g、バターなら茶さじ1杯で5gとなります。牛乳・ヨーグルトなら150Kcal、チーズ、バターなら40〜50Kcal前後かと思います。

さて、結果ですが、全乳製品をたくさん摂取する人(>2サービング/日)は乳製品を全く摂取しない人に比べ、総合アウトカム(すべての原因による死亡+心血管疾患発症)が16%低く、さらに全死亡、非心血管死亡、心血管死亡でもそれぞれ17%、14%、23%低かったのです。主要心血管発症と脳卒中発症をみても、やはり22%、34%低いという結果が得られました。ただし心筋梗塞発症については、差はみられませんでした。この乳製品による死亡と心血管病リスク低下は牛乳とヨーグルトで有意だったのですが、チーズとバターでは例数が少なかったためか、有意ではありませんでした。

乳製品には当然のことながら乳脂肪が含まれます。一方、現代社会の“食生活と健康”という議論では、脂肪はしばしば“悪玉”とされがちです。しかし乳製品は良質の蛋白質を含み、さらにカルシウム、リン、カリウムなどの無機質、ビタミンA、B2をはじめとするビタミンも豊富に含む、優れた食品です。従って今回の結果はさほど驚くにはあたりません。

少し前に高脂肪乳製品・低脂肪乳製品を意識的に摂取した場合、血清脂質など生活習慣病マーカーに悪影響を及ぼすか否かを検討したメタ解析が発表されました(プロス・ワン誌 2013)。これは20の研究から1677名を集計し、1日平均3.6サービングの乳製品を平均26週間食べ続けた影響を解析したものですが、これによれば、どちらの乳製品摂取を増加させても腹囲は増えず、空腹時血糖上昇はわずか1.32mg/dl、インスリン抵抗性は変化なし、悪玉コレステロールの増加も1.85mg/dl程度で、血圧の変化もありませんでした。ただし体重は少し増加しました(+0.4〜0.8kg)。要するに乳製品摂取を増やしても、生活習慣病の指標は体重を除き、それほど悪化しないという結果です。

以上の結果から、もし今まで乳製品をあまり摂取していないのなら、今後食事に乳製品を積極的に取り入れるのも悪くありません。1日牛乳1本 and/or ヨーグルト1カップ、チーズ1〜2切れくらいを食事に組み入れてみたらいかがでしょう。ちょっと気分も変わるかも・・・・・・

とは言っても摂取総カロリーを考える必要がありますね。わたしたちの年代ならおおむね1日2,000〜2,200 Kcalくらいが適正として、ここでまず糖質の総カロリーにおける割合を決める必要があります。 “糖質、脂質、いずれが悪玉か?”という問題については、いまだに結論があっちにいったり、こっちにいったりしているのですが、ランセット誌 2018年9月号、10月号掲載の論文をみると、話はさらにややこしくなっています。

どうやら総カロリーにおける糖質割合は高すぎても、低すぎても死亡率上昇に繋がり、総カロリーの50%くらいに設定するとリスクが最少になるようです。すなわち最近人気の糖質制限は支持されません。これには強い根拠に基づいた有力な反対意見も少なく信用して良さそうです。しかし従来推奨されてきた「脂肪は総カロリーの30%以下、飽和脂肪酸は10%以下に抑える」には、かなり異論がでてきています。「脂肪は種類を問わずいくら摂ってもOK」という意見さえあります(もちろん糖質を50%に維持する必要がありますし、一定の蛋白質も必要ですが)。

とりあえず現時点では総カロリーは体重が増えない程度、糖質は50%、獣肉蛋白ばかりでなく植物蛋白も摂取、脂肪はカロリーを増やさない範囲であれば難しいことを考えなくてもOK、くらいでどうかな〜私はといえば・・・・・・好きな物を好きなだけ食べています。先のことなんか考えてられないもんね〜
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年01月01日

アスピリン“百年の夢”はうたかた!?

片桐先生2.jpg
あけましておめでとうございます。今年もお暇なときに、このブログを読んで頂けたら嬉しいです。

アスピリンは最も古く、かつ最も頻用されている薬のひとつです。ドイツ・バイエル社が鎮痛解熱剤として販売を開始したのが1899年、今年で120年になります。発売当初から、その切れ味鋭い効果で世界を席巻しました。1970年代には少量投与で血小板凝集抑制作用をもつことが明らかとなり、現在では脳梗塞や虚血性心疾患などいくつかの疾患で血栓再発抑制の標準治療薬となっています。さらに近年、アスピリンは大腸がんをはじめとする様々ながんの発生率を低下させる可能性があることが報告され(ランセット誌 2010~2012)、アスピリンで心血管病のみならず、がんも予防できるのではないか、という期待がふくらみました。

「再発予防」(二次予防)から一歩進んで、“未だ病気を発症していない人を対象にして、薬を投与し、発症を未然に防止すること(一次予防)を「化学予防」といいます。心血管病やがんなど、頻度が高く健康に重大な影響を及ぼす病気がターゲットになります。むろんリスクが高い人を対象として投与するのが一般的ですが、効果が確実であれば、すべての健康人を対象にすることも考えられます。       

用いられる薬は長期間服用することが前提となるので、副作用が軽微ないしコントロール可能であること、そして安価なことが条件となります。この条件に合う薬剤としてアスピリンとコレステロール降下剤であるスタチンが考えられます。価格面ではアスピリンが1日投与量で約6円、スタチンはその数倍ですのでアスピリンに軍配が上がります。そこでアスピリンは“人類の健康寿命を延ばす夢の薬”かも知れないという期待が高まりました。

ここでアスピリンがどうして効くか、について簡単にふれておきます。アスピリン、化学的には「アセチルサリチル酸」という物質ですが、この薬には強力な生理活性物質である「プロスタグランジン(PG)」の生成を阻害し、PGによる炎症を抑制し、その結果発熱や痛みを和らげます。またアスピリンは少量投与で止血・血栓形成の最初の重要なステップである血小板の凝集を抑制します(同時に“出血しやすくなる”という問題が生じます)。心血管病の再発抑制には血小板凝集抑制作用が深くかかわっているのですが、がん抑制効果については、炎症抑制作用が関係している可能性が示唆されています。

ところが昨年10月、臨床系医学雑誌の最高峰である「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に4編の論文が同時に掲載されたのですが、これがなんと“アスピリンの夢”を“ちゃぶ台返し”するような結果だったのです。

これらの論文のうち、3編は米国・豪州の共同研究で、同じ対象集団について三つの異なった観点から解析を行っています。対象は70歳以上(米国の黒人とヒスパニックは65歳以上)で心疾患、認知症、身体障害のない人19,114名で、アスピリン100mgと偽薬にランダムに割り付けられています(アスピリン群9.525人、偽薬群9,589人)。

3編の研究結果を要約しますと;@健康な高齢者においてアスピリンは“障害のない生存期間”を延長できるか?→観察期間4.7年で、すべての原因による死亡(全死亡)、認知症、持続性の身体障害、いずれも両群で差はなかった。A健康な高齢者においてアスピリンは心血管イベントを防げるか?→心血管イベントのリスクは両群で差はなかった。重大な出血のリスクはアスピリン群で38%増加した。B健康な高齢者においてアスピリンは全死亡を減少させ得るか?→逆にアスピリン群で全死亡リスクが14%高かった。高くなった原因の主たるものはがんによる死亡であった。

もう惨憺たる結果ですね〜とくにがん死亡までが増加するとは・・・・・・
著者らもこの意外な結果に「解釈は慎重に行う必要がある」と、ちょっと腰が引けています。現時点では健康な高齢者を対象としたアスピリンの一次予防は、 “時期尚早”と思われます。

なお、4つめの論文は異なるグループの研究で、「心血管イベントを未だ発症していない糖尿病患者を対象としたアスピリンの予防効果」を検証したものですが、これによるとアスピリン群では偽薬群に比べ、糖尿病患者の心血管イベントは12%抑制されるものの、重大な出血が29%増加するため、益は害で相殺されてしまう、という結果でした。

念のために繰り返しますが、脳梗塞・心筋梗塞など心血管病を既に発症した患者さんにおけるアスピリンの再発予防効果は確立しています。でも、「では先手をとって発症する前にアスピリンを投与・・・・・・」というのは今の段階では難しい、ということです。

アスピリンの夢、見込みありそうだったけどな〜小椋佳さん作曲、阿久悠さん作詞の名曲「古城の月(1987)」にあるように、「夢は砕けて夢と知り・・・・・・」となるのかも。




posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年12月15日

フィッシュ・オイルは心の平穏をもたらす!?

片桐先生2.jpg
体に良い栄養成分の代表として、「オメガ3系多価不飽和脂肪酸」があります。
「何それ?!」と思われる方も、その中の“御三家”を挙げたら聞き覚えがあるのではないでしょうか。その3つとは「エイサコペンタエン酸(EPA)」「ドコサヘキサエン酸(DHA)」「アルファ・リノレン酸(ALA)」です。ALAは植物油由来なのですが、EPA、DHAはフィッシュ・オイルの成分として知られており、サンマ、イワシ、サバ、マグロ(トロの部分)に豊富に含まれています。

EPA、DHAはサプリメントとしても有名で、世界中で多くの愛用者を獲得しています。その効能として最も喧伝されているのは抗動脈硬化作用で、日本のメディアでは、しばしば“血液サラサラ”と表現されています。これらが他のサプリメントと一線を画するのは、ともに保険適応医薬品として認可されていることです。「高中性脂肪血症」や「閉塞性動脈硬化症」などが適応疾患となっています。

当初はEPA、DHAの効果への期待はどんどん大きくなり、2012の米国栄養学会機関誌に掲載されたある総説(栄養学の進歩・オックスフォード出版 2012)などは 「EPA、DHAには生涯を通じての健康利益がある」とし、胎児の成育、心血管病やアルツハイマー病に対する予防効果など、まさに“ゆりかごから墓場まで”の健康利益をぶち上げています。

しかし私自身のEPAやDHA製剤の処方経験を正直言えば、“明瞭な手応え”は乏しく、また効能効果を保証する第一級の文献も見当たらず、ただでさえ疑り深い私は、しだいに処方を控えるようになりました。こういう場合には、EPAやDHAの有効性についての論文を1編や2編ではなく、できるだけたくさん集めてその効果を検証する“メタ解析”で決着をつける必要があります。

最近、権威あるメタ解析の専門誌である「コクラン・データベース・システマテック・レビュー」に注目すべき論文が掲載されました(2018年7月)。この論文ではEPAやDHAによる心血管病の一次予防(既往のない人が心血管病になるのを予防する)と二次予防(既往のある人の再発を予防する)について検証を行っています。

その結果は・・・・・・ランダム化比較試験79論文のうち、偏りが少なく、まともそうな論文25編を対象として解析したところ、「EPAやDHA摂取を増やすことの益はほとんど、あるいは全くない。今まで喧伝されていた結果は“研究対象や手法の偏りによる偶然の結果”の可能性がある。ALAは、ひょっとしたら、ちょっとはマシかも知れないけど、その科学的根拠は弱い」という結果でした。また、同時期に他誌に掲載された糖尿病患者を対象にオメガ3系多価不飽和脂肪酸サプリメントの血管イベントに対する効果を検証した論文でもやはり有意な結果は得られませんでした(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン 2018年8月号)“やっぱりな〜”という感じですね・・・・・・

しかし現在「では、精神心理的病態に対してはどうか」という観点でEPAやDHAの効果についての研究を進めているグループがあります。日本の国立がん研究センターは健常者やさまざまな精神疾患、身体疾患をもつ患者さんにおけるEPAやDHAの不安軽減効果についてのメタ解析を行い、有意な効果を報告しています(米国医師会雑誌・ネットワーク・オープン 2018)。この研究は9月にはメディアでも取り上げられ、「毎日サンマ1.5匹、三か月で不安を軽減!」と紹介されました(今年はサンマが大量だったので良かったです)。まあ、そんなに強い抗不安効果ではないのですけど。

EPA・DHAを豊富に含むフィシュ・オイル・リッチな食生活は“心血管病を防ぐ”という科学的根拠は乏しいけれども、心の平穏をもたらしてくれる可能性があるかも知れません。なので、不安に襲われた時には苦手でなければぜひどうぞ。ただしサプリメントを購入してまで無理に摂取する必要はないと思います。となればサンマ・イワシ・サバの出番かも・・・・・・ほんとはマグロのトロが一番EPA・DHAが豊富なのだけど、値段高いし、三か月毎日は飽きるし・・・・・・

でもフィシュ・オイル・リッチな食生活による“有害事象(副作用)”もないわけではありません。それはもちろん“小骨が喉に刺さる”ことです。だんだん老眼が進むとリスクが高まりますから用心して下さいね。それに一度小骨が刺さると、また刺さるのではないか、という不安が逆に高まって、せっかくの抗不安作用も帳消しなんてことも・・・・・・なんだか自分でもすごく嫌みな論文の読み方をしているような気がするので、この辺で・・・・・・

……サンマが苦くても塩っぱくても(突然ですが佐藤春夫さんです)、
食べても食べなくても、皆さまに平穏な新年が訪れますように……



posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記