2019年10月01日

「一日一万歩あるきましょう!!」と言ったのは誰?!


片桐先生2.jpg

「一日一万歩あるきましょう!!」という推奨は日本だけではないようです。とはいえ、一日一万歩は、平均歩幅を身長×0.45(普通の歩き方ならこれくらいとされています)で計算して、約7kmに相当します。「今日は歩くぞ!!」という日はともかく、“普通の日”でも毎日一万歩、というのはちょっと厳しいかも知れません。しかし今や歩数計は、スマホはもとよりガラケーでも標準装備ですので、歩数表示を励みに頑張っている方も少なくないと思います。

ところで歩数計の原型が発明されたのはけっこう古く、18世紀のヨーロッパにまで遡れるようです。それが日本にも伝わり、かの平賀源内先生がこれを改良して「量程器」なるものを発明したとか・・・・・・そういえば香川県さぬき市の平賀源内記念館で複製品を見たような、見なかったような・・・・・・

現代の歩数計が日本に現れたのは、1965年のことで、潟с}サ時計計器が開発し「万歩メーター」と銘打って発売しました。売り出し価格は大卒初任給が2〜3万円の時代で2,200円とかなり高価でしたが、当時起こり始めたウォーキング・ブームに乗って「一日一万歩あるきましょう」のキャッチ・フレーズとともに人気商品となったようです(同社HPによる)。なお「万歩計」は同社が取得した登録商標(1984)で、一般名詞では「歩数計」と言うそうです。

最も活動的な年代ならともかく、高齢者の健康増進の観点からみて「ほんとうに一日一万歩も必要なのか?!」と考えたのは米国ボストンにあるハーバード大学医学部の主要関連病院として名高い「ブリガム・アンド・ウィメンズ病院」の研究者らのグループです。東大の先生も共同研究者に入っています。彼らは“一日一万歩”の科学的根拠がどうもあやしいと思ったようです。

そこで彼らは米国の女性の健康問題を検証するための大規模住民研究である「ウィメンズ・ヘルス・スタディ」に参加した高齢女性(72歳±標準偏差5.7歳)に“ウェアラブル加速度計”(歩数も歩行強度も測定できます)を装着してもらって、データを回収・解析し、一日の歩数、歩行強度と「すべての原因による死亡(全死亡)」との関係について解析しました(米国医師会雑誌・内科学 2019年5月号)。

最終的にデータ収集の最低条件(起きている時間で1日10時間以上、計4日間以上装着)を満たしたのは16,741人、1日平均歩数は5,499歩でした。平均観察期間4.3年の間に504人が何らかの原因で亡くなっています。そこでまず1日歩数と死亡リスクの関係を検討するために、平均歩数の少ない人〜多い人の順に並べて4つのグループに分けました。グループの平均歩数は、それぞれ2,718、4,363、5,905、8,442歩でした。

結果に影響するようなさまざまな因子で調整した全死亡率は、最も歩数が少なかったグループを1.00とすると、二番目に少なかったグループでは0.59、三番目は0.54、最も歩数が多かったグループは0.42となり、歩数が多いほど死亡リスクは低下しました。ただし1日歩数が7,500歩を超えると死亡率低下は横ばいになりました。また、歩行強度と死亡率の関係をみると、一見強度が強い方が死亡率低下に関係するようにみえるのですが、1日歩数で補正すれば関連は薄くなり、結局のところ歩行の運動強度はあまり関係なく、1日歩数が重要であることが分かりました。

この研究は、“毎日少しで良いから歩くこと”の重要性を示しています。1日歩数2,700歩という“おそらく日常運動としての意識的な散歩はほとんどしない人たち”でさえ、わずか1日1km強ほどの散歩を追加するだけで40%も死亡リスクが低下する、というのはちょっとびっくりです。しかも歩く速さは問題ではない、というのですから、無理に早歩きで頑張る必要もありません。そして1日5kmと少し歩けば、ほぼ目的は達することができるというわけです。

さて、この簡単かつ安全な“散歩運動療法”が、ここまで高齢女性の死亡率を下げるのが事実なら、より幅広い年齢層で男女を問わず、既存の運動療法と、その効果を比べてみたいところです。「わざわざ運動するのも、めんどうくさい」というナマケモノ人間にもぴったり・・・・・・

さて、話がうますぎる気もしないではないですが、「一日一万歩あるきましょう!!」のハードルはだいぶ下がったように思います。では誰が“一日一万歩”を言い出したのでしょうか・・・・・・この論文の著者たちは、日本で1960年代に大流行した「Manpo-kei」から始まっているのではないかと考えているようです。なるほど、“一日一万歩”の根拠は、サイエンスではなく、日本の一企業の卓越したキャッチ・コピーだったようです。



posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年09月15日

摂取する食品の種類が多いほどリスクが下がる!?

片桐先生1.jpg

JPHC研究という日本の有名な「多目的コホート研究」があります。コホートとは、ある時点で研究対象とした病気にかかっていない人をたくさん集めて将来にわたって長期間観察を続けることにより、どのような要因がどのような病気の発生あるいは予防に関係するかを知る研究方法です。JPHCは国立がん研究センター、国立循環器病センターをはじめとする研究機関や大学、それに全国10の保健所が共同で多種多様なテーマについての研究を行っています。


今回紹介するのは、摂取する食品の数と死亡リスクとの関係を検討した研究で、
大妻女子大学の小林教授らを中心としたグループが欧州臨床栄養学雑誌(2019年5月号)に発表したものです。研究期間は1995〜2012年で、対象となった人は岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部と宮古、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、そして大阪府吹田の計10保健所管内に居住していて登録時点で虚血性心疾患、脳卒中、がんの既往がない79,940人(男性37,240人、女性42,664人:年齢45〜74歳)、平均観察期間は14.9年でした。

この研究では、133の食物・飲物(アルコールは含まない)品種をリストアップして、研究開始から5年目の時点で食事調査票アンケートを用いて調査しています。そしてこれら133品目について1日に何品目摂取したか、さらに魚・肉・野菜・果物・大豆製品については、それぞれについて何品目摂取したか、すなわち摂取食品の種類の多さ=“食事の多様性”とその後の全死亡、主要原因による死亡リスクとの関連を検討しています。

さて、結果ですが、男性と女性ではかなり異なっていました。摂取食品の数の多寡によって5段階のグループに分けて死亡リスクを比較すると、男性では摂取する食品目の数と、全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡、いずれとの間にも統計学的に意味のある相関はありませんでした。一方女性では、摂取する食品目が多いほど全死亡、循環器疾患死亡、その他の死亡リスクの有意な低下がみられました。品目が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて、全死亡率、循環器死亡率、その他の死亡率はそれぞれ19%、34%、24%低かったのです。

また食品ごとの多様性とリスクの関係をみると、男性では肉類を最も多品目摂取する人は全死亡リスクが有意に高く(35%)、果物を多品目摂取すればリスクは最大13%低下しました。また女性では大豆製品の品目が多ければ、全死亡リスクが11〜13%低下しました。

一般に「食事はできるだけ多くの食品目をバランス良く摂取するのが望ましい」ということになっています。これは日本のみならず諸外国でもそのように推奨されています。よく「1日目標30品目」といいますね。30品目をクリアするのは、なかなか大変じゃないかと思うのですけど、実際どれくらいの効果があるかについて、はっきり示した研究論文はなかったと思います。今回の研究はひとつの答えといえます。それに日本人が対象ですので、よけいに参考になるでしょうね。

そこで「多品目の食品を摂取することは、全死亡、循環器死亡、その他の死亡など、がん死亡以外のリスクを低下させる可能性がある」というのが、私の当面の結論です。この傾向が女性だけに現れ、男性では認められなかったことについて、著者らは(統計学的な補正操作は行ったようですけれど)「男性ではアルコール摂取量、喫煙者が女性より多かった」ことを原因に挙げています。あるいは“摂取食品目を増やすことによるリスク低下効果”はそれほど強いものではなく、“高リスクとなる良くない生活習慣”で打ち消される程度のものかも知れません。また、肉・果物・大豆製品などにおける“食品ごとの多様性とリスクの関係”については、まだ結論を下すには早いように思います。

考えてみれば、食事で食品目数を増やすことが健康に寄与することは容易に想像できます。そもそも品目を増やさないと“バランス”をとるのは難しいでしょうから。ただ多品目を食事に取り入れる=他品目の食品を購入する、ということですから、所帯あたりの人数が少ないと、不経済だし“食物ロス”にも繋がりかねない・・・・・ある意味、カロリー制限や運動の励行など個人の努力と意志で達成可能な対策に比べると、食品目数を増やすことには、“社会経済的な困難”があるかもしれません。

私の希望としては、高齢者都市住民を対象とした自宅調理、出来合のおかず購入、外食の割合とリスクの関連をぜひ研究してほしいと思うのです。そのほうがアーバン生活の実態を反映して・・・・・・待てよ、今から研究してもらっても、結果が論文になる頃にはもう・・・・・・やっぱりしてもらわなくても良いです。
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年09月01日

ナトリウムとカリウムの適正摂取量は!?


片桐先生2.jpg

高血圧の話題が続きましたが、続きついでに塩分1日摂取量の話です。国立研究開発法人医薬基盤健康栄養研究所(19字!長い!)によれば、2015年の日本人男性の1日平均塩分摂取量は約11g、女性は約9gで、ここ数十年間でかなり減ってきたとはいえまだまだ多いとされ、厚生労働省は男性<8g、女性<7gを推奨しています。WHOの推奨はさらに厳しく、1日<5gです。ここで言う塩分は食塩(NaCl)量なのですが、国際的には塩分摂取量は通常Na量で表現されます。上記WHO推奨はNaで <2gということになります。もしお手元の食品がNa量表示だったら、2.5倍すれば塩分量に換算できます。

Naはカリウム(K)と並んで、人体の恒常性や細胞活動を維持するのに必須のミネラルです。ともに体内では合成できず、毎日適量を飲食物として摂取する必要がありますが、Na摂取が過剰になれば血圧は上昇します。一方、地球上には極端な低Na摂取(Na≒0)でありながら健康な生活(むろん高血圧は非常に少ない)を送っているイヌイットなどの民族が存在するので、“Naは低ければ低いほど良い”とする意見も根強いのです。一方Kは豊富にとることによって血圧降下作用や心血管イベントの減少、死亡率の低下効果が得られるのですが、日本でも外国でも摂取不足になりがちです。K摂取の意義はもっと強調されるべきです。

そこでNa摂取を制限し、K摂取を増やすことが心血管リスクを下げ、健康に寄与するという観点から(英国医師会雑誌 2013年4月オンライン)、日本では上記のNa摂取目標に加えてKは>3g/日、WHOはK>3.5gを目標に掲げています。しかし日本も諸外国も、K摂取量はせいぜい2g強くらいなのが実情です。

Kをもっと摂取すべきなのは疑いありません。例外は中等度以上の腎機能障害をもつ人くらいです。一方、Naについては時々「あれっ?」という論文が発表されます。代表的なものに「摂取Naが増加すると収縮期血圧は上がるが心血管リスクとは関連せず、むしろ摂取Naが低すぎたらリスクが高まる」(米国医師会雑誌 2011年5月号)、摂取Naが高すぎても低すぎても死亡率が上がる」(米国高血圧学会誌 2014年7月号)、などがあります。これらの報告によればNa<2gはダメということになります。

ところで、どうやって1日摂取Na量を求めるかですが、食べ物や飲物をすべて記録して・・・・・・という方法ではまず不可能です。臨床研究で用いられるのは早朝1回尿から推定される1日尿中Na(またはK)排泄量をもって、Na、Kの1日摂取量の代用とする方法です(九州大学 川崎晃一ら;臨床実験薬理学・生理学誌 ワイリー出版:1993年1月号)。

本論に戻りますと、要するにK摂取増量推奨には異論ありませんが、Naの適正摂取量にはまだまだ議論があるのです。こうなれば実証しかありません。そこでカナダ・マクマスター大学の研究者ら31名の多国籍研究グループは18カ国、100,000人超を対象にして、1日尿中Na、K排泄量と心筋梗塞、脳卒中、心不全(主要有害心血管イベント)の発症および死亡率との関係を検討しました(英国医師会雑誌 2019年2月 オンライン)。

対象となった国と地域はバングラデッシュ、インド、パキスタン、ジンバブエ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、ポーランド、南アフリカ、トルコ、中国、コロンビア、イラン、カナダ、スウエーデン、イスラエル占領下パレスチナ地域とUAE、合計103,570人で、平均尿中Na排泄量は4.9g(塩分換算12.3g/日!)、平均尿中K排泄量は2.1gでした。観察期間の中央値8.2年後で6%が主要有害心血管イベントを経験するか、または死亡していました。

結果には少し驚かされます……そもそもWHO推奨の1日Na摂取<2gの人は全体のわずか1.5%に過ぎず、同様に推奨に近い1日K摂取>3gの人も6.6%しかいません。すなわちWHOが推奨するNa、Kの適正摂取量を摂取している人はごく僅かなのです。そして1日摂取Na<2gの人は明らかにリスクが高く、最もリスクが低くなるのは「Na摂取3〜5g(塩分換算7.5〜12.5g)、かつK摂取が高い人」という結果が得られました。

さて、この研究結果をどう評価するかですが、この研究の対象にはアジア人は含まれていますが日本人は入っていません。また対象になった国や地域はやや発展途上国に偏っています。ただNa摂取については、多すぎても少なすぎてもリスクが高くなる(U字型現象とよばれます)という同様の結果を示した先行研究も複数あるので、この結果は正しいのかも・・・・・・そうなると、ここは塩分<5gの目標は避けて厚生労働省の推奨どおりのNa<7〜8gの摂取目標が無難でしょう。そしてカリウム摂取を増やしましょう!

Kを豊富に含む果物はアボカド、バナナ、キウイ、野菜は豆類、イモ類、コマツナ、シソ、そしてトマトジュース、果物の缶詰・・・・・・一度調べてみて、お好みの食品を探して下さいね!
posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記