2018年02月01日

コーヒー摂取量と健康、結論はいかに?!

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2015年6月15日付のこのブログで、日本初のコーヒー摂取量と健康についての研究を紹介したのですが、その後もコーヒー摂取量と健康に関する研究論文は多数出版され、その益や害に関する意見もさまざま・・・・・・そこでより正確な結論を得るために、複数の論文のデータを統合して解析する「メタ解析」あるいは「システマティク・レビュー」という手法をとった論文も続々出版されるようになりました。「では、その更に上を行く研究を・・・・・・」となれば複数の「メタ解析」・「システマティク・レビュー」を統合した研究手法があります。これを「アンブレラ・レビュー」といいます。イメージとしては“傘解析”・・・・・・今回はコーヒーと健康に関するアンブレラ・レビュー(英国医師会雑誌2017年11月号)を紹介します。

コーヒーは世界で最も愛飲されている飲物のひとつです。ですからコーヒーが健康に何らかのインパクトを与えるのなら、たとえ個人にとっての影響はわずかでも、世界中で積算される影響は“計り知れない”とも言えます。より深い科学的検討と洞察が望まれるところですが、これは簡単ではありません。なにしろ焙煎したコーヒーに含まれる生理活性物質は何と1,000種類を超え(欧州食品研究技術誌オンライン 2014年10月)、そのいくつかの成分は抗酸化作用、抗炎症作用、抗線維化作用(線維化とは組織の炎症後などに線維芽細胞が増殖して組織が硬くなり機能障害に陥ること〜例えば肝炎後の肝硬変症など)、そして抗がん作用を持つことが知られています。

コーヒーの生理活性物質のうち、その核となるものがいくつか同定されており、カフェイン、クロロゲン酸、ジテルペン、カフェストール、カーウェオールなどが代表的成分で、それらの作用も詳細に分析されています(食物機能誌 2014年8月)。そうは言っても、コーヒーは未焙煎の生豆の状態から焙煎されることによって“化学的変容”を遂げてさまざまな生理活性を示すと考えられています。その過程は複雑で、アラビカ豆かロブスタ豆かによっても違うし、焙煎から抽出に至る方法によっても影響を受けます。生理活性がある限りは、その量によって益と害が生じる割合は異なってくると想像されますが、一定の結論を得るには、大量の文献情報をまとめて解析するしか手はありません。そこでこの「アンブレラ・レビュー」の出番ということになります。

この「アンブレラ・レビュー」の対象となった論文は201編の観察型研究と17編の介入型研究で合計76の知見が報告されていました。コーヒー摂取はおおむね益が害に勝っていて、摂取量は増えれば増えるほど、とはいえないのですが、1日3〜4杯くらいが最も益がでる可能性が高いという結論が得られました。“1日3〜4杯摂取群”と“コーヒーを全く飲まない群”とを比較すると、「すべての原因による死亡」におけるコーヒー摂取群のリスクは0.83(すなわち17%リスク減少)でした。また「心血管病による死亡」リスクは0.81、「心血管病罹患」リスクは0.85でした。がんについては「コーヒー摂取量が多い」と「少ない」群を比べると、摂取量が多い群で18%のリスク低下が認められました。その他にもコーヒー摂取はいくつかの特定のがん、パーキンソン病などの神経疾患、代謝疾患や肝疾患のリスク減少に関係しているという結果も得られました。コーヒー摂取の害については、多くの場合、喫煙という因子で補正すると影響は消失しました。

しかしコーヒーの多量摂取を絶対避けるべき状況があります。それは妊娠です。コーヒーの高容量摂取は低体重出生児や早産あるいは死産のリスクを20〜46%くらい高めるという結果が得られました。コーヒーの成分であるカフェインは妊娠中血中濃度が2倍になり、しかも胎盤を容易に通過することが知られています。おまけに胎児のカフェイン代謝活性は低いので、この結果は重要視すべきです。親しい方に対象の方がおられるなら、頭の隅に留めておいてくださいね。またコーヒー摂取は女性においては骨折リスクを高める可能性があるのですが、男性ではこの傾向は認められず、むしろ逆に骨折リスクが低下します。この点については、もうちょっとデータの積み重ねが必要かと思われます。

さて結論は・・・・・・コーヒー摂取は、妊娠など特別な状況は別にして、健康には悪くはなさそうです。益もありそうです。コーヒー好きの方は引き続き安心して飲んで頂いて良さそうです。しかし女性の骨折リスクなどまだまだ未解決の問題もあるので、コーヒーを飲まない方が、今から飲み始める必要もないと思います。「時々飲むのだけど・・・・・・」という方は、ここはじっくり考えてみてくださいね。まっ、とりあえずコーヒーを1杯淹れて・・・・・・

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2018年01月15日

飲酒と喫煙は外見を老化させる!?


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可視性年齢関連徴候、すなわち“見た目の老化徴候”は生物学的年齢に相関し、これらの早期出現は“実年齢に比べて不健康な状態にある可能性”を示唆するという考えがあります。一方、飲酒や喫煙はさまざまな加齢にも関わる疾患のリスク・ファクター(RF)であることは周知の事実です。そこでデンマークの研究者のグループは、飲酒と喫煙が“見た目の老化徴候”と関連しているか否かについて検討して「疫学と地域健康誌」2017年12月号に発表しました。

この研究の対象はコペンハーゲン在住の111,613人で研究期間は1976〜2003年、この間飲酒・喫煙の状況やその他のライフスタイルについての聞き取りを行ない、加えて“4大加齢関連徴候”を調査しています。なお週当たりの平均飲酒量は女性でグラス2.6杯、男性で11.4杯、喫煙者の割合は女性57%、男性67%でした。別の大規模疫学研究のデータを用いているので調査年代が少し古く、喫煙率は今と比べてずいぶん高めになっています。

さて、この研究で調査された“4大老化徴候”とは@角膜環(黒眼と白眼の境目にできる灰白色のリング状のゾーン、A眼瞼黄色腫(上まぶたにできる黄色の結節)、B耳たぶの深いヒダ(耳たぶの後下方に走るヒダ)〜「フランク徴候」ともいいます。@〜B、思わず鏡をみてしまいそうでしょう?C男性型禿頭〜英語ではmale pattern baldnessというのだけど、androgenetic alopeciaという言い方もあって略称AGA、こちらの方はテレビのコマーシャルで耳にしたことがあるかも・・・・・・

では、これら4徴候がRFとしてそれぞれどのように評価されているかということについてですが、@角膜輪は、男性の心臓血管病において他のRFとは独立したRFとする報告があります(米国眼科学会誌2017)。Aの眼瞼黄色腫は高脂血症、とくに高コレステロール血症との関連がよく知られているのですが、脂質異常のない人にもしばしば見られるので、健診などで脂質測定が広く行われている日本ではRFとしての価値はそれほど高くはありません。Bの耳たぶのヒダについては、脳血管障害で入院した患者さんで検討すると、一過性脳虚血より脳梗塞において、より多く見られたとする報告があります(米国内科学会誌2017)。Cの男性型禿頭については早期に始まる人では脳血管疾患やメタボリック・シンドロームのリスクが高いとのことです(ブラッド・プレッシャー誌2016)。しかし男性型禿頭は欧米人のみならず日本人でも若くてもざらにあるし、他の老化徴候とはちょっと違うような・・・・・・いずれにしても@〜Cとも、多少の報告はあるけれども、それほど強いRFではありません。

さて、デンマークの研究に話を戻します。結論として、喫煙量が増えるに従って、@〜Bの徴候が出現するリスクは増大しました。飲酒量に関しては、大量飲酒者で@とBの出現リスクが増大していましたが、少量〜中等量の飲酒は影響しませんでした。要するに、喫煙と多量の飲酒は、見た目の老化徴候を起こしやすくなる可能性があるということです。とくに「角膜輪」と「耳たぶのヒダ」とは顔の老化を特徴づける代表的な徴候だから、「やっぱり幾つになっても若く見られた方が良いな〜」と思う人は、もしスモーカーなら禁煙して、お酒も控えめにしてくださいね。「それで絶対、見た目若々しくなるの!?」と言われても困りますけど・・・・・・「タバコも吸わないし、お酒も飲まないのだけど、どうしたら良いの?」とおっしゃる方、いや〜きっと周りの人たちは、あの人若いな〜と思っていますよ〜(ちょっと無責任になっているけど)

余談ながら、予想どおり喫煙・飲酒関連老化徴候としては相関に乏しかった「男性型禿頭」だけど、イタリアのグループが2017年8月に「国際皮膚科雑誌」に「過体重と喫煙量増加が組み合わさると男性型禿頭が悪化する」という研究報告を行っていました。こちらの方は、やはり老化というよりメタボリック・シンドロームとの関連の方が深そうです。

とりあえずは、若く見えたほうが良ければ、飲酒は控えめに!・・・・・・日本の基準では「多量飲酒者」というのは1日あたり純エタノール換算で60ml(ほぼ日本酒3合またはビール中瓶3本)以上とされているのですが、ちょっと甘すぎ・・・・・・せいぜい40mlまでが無難かな〜

結局のところ“年齢を経ても見た目若々しくあるには、禁煙してお酒も控えめに”というごく常識的な結論でした。あまりにも意外性がなさ過ぎる結論ではありますが、やはり「健康に王道なし」ということでしょうね。
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2018年01月01日

やっかいな“無症状のインフルエンザ”

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あけましておめでとうございます。同期のみなさまには恙なく新年を迎えられたことと存じます。もっとも私のように“恙なく”とは言えない方もいらっしゃるでしょうが・・・・・・。

さて今年もインフルエンザの季節がやってきましたね。ここにきて患者さんの数も増えつつあるようです(もっとも、この原稿は11月に書いているので、ほんとうのところは分からないのですけど)。インフルエンザの最大の特徴の一つに強力な伝搬力を挙げることができます。とにかく流行しやすいのです。病院など健康でない不特定多数の人が出入りする場所はとくに注意が必要なのですが、意外にやっかいなのは「軽症・無症状のインフルエンザ患者」です。何しろ本人の自覚がないので、感染源としては、つい“ノーマーク”になりがちなのです。

さて、この軽症・無症状のインフルエンザ、普通のインフルエンザを比べて、どのような特徴があるのでしょうか。本当に感染源になり得るのでしょうか。この問題について検討した研究はそれほど多くありません。その中から、比較的日本に近いエリアで行われ、2017年5月に「臨床感染症(オックスフォード大学出版局)」に発表された論文を紹介します。この研究は2008年から2014年にかけて香港で行われた“地域密着型研究”で、「確実にインフルエンザ(A香港型)と診断された人と家庭内で接触し、研究にエントリーした時には健康であった人」を対象にしています。対象となった人たちに毎日体調・症状の記録をつけてもらって、インフルエンザウイルスの排出状況も調べていく、という方法をとっています。

この方法により家庭内でインフルエンザに二次感染した患者さん235名が特定されました。これらの患者さんは症状によって以下の3群に分類されています。@有症状インフルエンザ(37.8℃以上の発熱、頭痛、筋肉痛、咳、咽頭痛、鼻汁、喀痰のうち、二つ以上の症状がある人)A軽症インフルエンザ(@に挙げた症状が一つだけ認められた人)B無症状インフルエンザ(上記症状が全く無かった人)・・・235名のうち、軽症例は31名(13%)、無症状例は25名(11%)でした。すなわち家庭内で二次感染した人のうち、4人に1人は症状がほとんどないか、または全く無症状だったことになります。

ではこの軽症例・無症状例はインフルエンザウイルスを排出していたのでしょうか。答えはyesでこれらの患者さんもまたウイルスを排出していました。ただし有症状例に比べると、ウイルス排出期間は短く、かつ急速に排出が減少・消失する傾向にありました。結局のところ、軽症例・無症状例のウイルス排出総量は有症状例の10〜100分の1程度でした。

とはいえ、この研究はごく軽症の患者や無症状のインフルエンザ患者においても、少ないながらもウイルスが排出されていて感染源になる可能性を示唆しています。いくらウイルス量が少なくとも、家庭内や閉鎖空間での接触があれば感染が成立する可能性は十分あると思われます。よく「インフルエンザが流行していますので、外出時はマスク着用、帰宅時には手洗い励行してください」という注意が促されますが、家にいてもマスクが必要!?となればちょっと大変です。それに実際のところ、これらの感染対策で軽症例・無症状例インフルエンザによる伝搬がどの程度防げるかについてはよく分かっていません。それを検証するには、かなりの労力と費用が必要なので実施は難しいかも・・・・・・

この研究結果からみても、「インフルエンザ対策は一筋縄ではいかない」と言わざるを得ません。インフルエンザ流行期には病院でも「どこから入ったか分からないインフルエンザの集団発生」がしばしば見られます。ここに軽症・無症状インフルエンザ患者さんが関与していても不思議はない、と思いますし、これらの患者さんがパンデミックに一役かっている可能性は十分ありますね・・・・・・

さて、では何ができるか、ということになると、流行期前のワクチン接種に加えて、流行期の「手洗い・マスク」くらいしか思いつきません。むろんワクチンやマスクの効果を科学的根拠に乏しいとして疑問視する意見もあります。でもね、やはり現時点では“やらないよりはマシ”かな〜しかし海外ではマスク着用の習慣がない国も少なくありません。むしろマスクしていると“怪しい人物”と判断される場合もあるそうな・・・・・・インフルエンザ流行期でも海外ではその国の状況を確かめる方が良いかも知れません。“郷に入っては郷に従え”というやつですね。

では今年もお暇なときにおつきあいください。

posted by みみずく at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記