2018年12月01日

簡単な“体力測定”で糖尿病リスクを評価する

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平成28年の厚生労働省発表によれば、日本人の成人で「糖尿病が強く疑われる人」は12.1%(男性16.3%、女性9.3%)、「糖尿病の可能性が否定できない人」は男女ともほぼ12.1%とのことです。合計すれば何と約2000万人です。まさに“堂々たる国民病”です。

さて、糖尿病の危険因子といえば、肥満、運動不足、座位時間が長いこと、不適正な食事習慣・・・・・・などたくさんあるのですが、知りたいのは「現在の自分にとって、将来の糖尿病リスクはどの程度か」ということではないでしょうか。
それもできれば簡単な方法で知りたいところです。その有力候補のひとつが「運動能力」です。とくに最大酸素摂取量などを測定する「心肺フィットネス」で示される運動能力は糖尿病罹患率と逆相関することが明らかになっています(欧州疫学会雑誌 2015)。とはいえ、この心肺フィットネスなるもの、専門的な心機能評価やアスリートの能力評価に用いるレベルの検査なので、広く普及させて誰にでも手軽に利用できるようにするのには、ちょっと無理があります。

そこで注目されるのは「ニイガタ・ウェルネス・スタディ」という日本のグループによる研究です(日本疫学会英文誌 2018)。この研究の対象は2001/04〜2002/03に登録された日本人21,802人(女性6,649人)です。この人たちは登録時には糖尿病に罹患しておらず、この時点で“体力測定”を実施、その後2001/04〜2008/03の間に“体力測定”を少なくとも2回実施しつつ,糖尿病罹患状況を調査しました。

この研究でおこなった“体力測定”の内容ですが;@筋力指標としての「握力」:立位で左右1回ずつ、高い方の値を採用し、体格差を補正するために握力(kg)/体重(kg)で評価、A下肢筋力指標としての「垂直跳び」:2回試技、良い方の記録(cm)/体重(kg)で評価、B体幹バランス指標としての「閉眼片足立ち」:両手は後ろに廻して“4分頑張って下さい”と伝えて3回試技、もっとも長かった時間を採用、C体幹柔軟性指標としての立位前屈:1回試技、できるだけのばした中指の位置を記録とする、D「全身反応時間」:圧センサー付マットに立って、2m先に発光シグナル装置を配置し、光ったらすかさずジャンプする。圧センサーで“シグナル発光から両足が空中にある時間を測定”する。3回試技で平均値を採用、E腹筋を評価する「下肢挙上時間」:臥位で両足を伸ばして踵を床から30cm以上挙上してできるだけ長く保持する。1回試技・・・・・・まあ、ふつうの“体力測定”だけど、全身反応時間だけは装置にお金をかけていますね。

この研究結果の解析方法ですが、すべての項目で、記録の良い順に並べて4等分して4つのランクに分けます。そして最も良い記録だったグループを基準にして、体力テストの記録が悪くなれば糖尿病の罹患率がどうなるかを検討しています。対象の年齢の中央値は50歳で、平均観察期間は5年、この間糖尿病を発症した人は972人(4.5%)でした。

さて、“体力測定”のどの項目の成績が悪いと、糖尿病リスクが高くなるかをみてみますと、6項目のうち、さまざまな因子をきっちり補正したうえで、なおかつ有意差があるのは@握力とB閉眼片足立ちの二つでした。最下位1/4のグループは最上位1/4のグループに比べて@では56%、Bでは39%の糖尿病罹患リスクが増加しました。実際、どれくらいの記録でリスクが高くなるのかといえば、握力/体重で0.5〜0.6(体重60kgなら握力30〜36kg)、閉眼片足立ちで10〜20秒以下ならちょっとやばいかも……

もっともこの結果をすぐに私たちに当てはめられるか、については問題があります。まずこのデータの対象者は私たちより十数年若い集団です。これだけ年齢が違うと、直ちに適応するのは難しいかも・・・・・・それに握力と糖尿病リスクの関係を否定する先行研究(ランセット誌 2015)もあるし・・・・・・もうひとつ、これを読んで頂いた方に重要なご注意を!・・・・・・「よし、では握力トレーニングや片足立ちを練習しよう!」と思った方もおられるかも知れませんが、訓練で握力が強くなり、また片足立ちが上手になったからといって、糖尿病の罹患率が下がる証拠はありません。また、「閉眼片足立ち」は、けっこう難しく、年齢による衰えは思っているよりもずっと大きいかも知れません。どうしてもやるなら周りを片付けたうえで、くれぐれも転倒・怪我には気をつけて。一方、握力については、握力計を入手する必要がありますが、わりあい安価なものもありますし、リスクはほぼないので、興味ある方は試してみてください。ただし勢い余って手関節を痛めることはあり得るので、そこはご注意を!


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2018年11月15日

便潜血でわかる健康リスク〜大腸がんだけではない

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便ヒトヘモグロビン検査、通称“便潜血”は大腸がんスクリーニングとして世界中で普及しています。検診で便潜血を行うことにより、大腸がん死亡率を低下させることができ、しかも検査自体にはリスクがなく、最も優れた“がん検診”のひとつと言っても過言ではありません。

便潜血が陽性であれば、必ず全大腸内視鏡検査が必要です。検診での便潜血陽性率は4〜5%くらいと報告している施設が多いのですが、全大腸内視鏡を行うと、陽性者のうちの2%くらいに大腸がんがみつかるとされています。では、もし大腸内視鏡で異常がなければ、「ラッキー、もう大丈夫」と言って良いのか、というのが今回のテーマです。どうも話はそう簡単ではないようです。

最近、英国スコットランドのグループが「便潜血陽性は“大腸がんの死亡率”のみならず、“すべての原因による死亡率”と“大腸がん以外の原因による死亡率”にも関係している」と報告しました(「ガット(腸)誌」2018年7月号)。彼らは2000年3月〜2016年3月に便潜血検査を受けた134,192人(女性53%)を対象に便潜血の結果と死亡原因との関係を調査しました。対象者のうち2,714人(約2%)が便潜血陽性でしたが、男性の陽性率は2.6%、女性は1.5%、と男性で陽性率が高く、また年齢が高いほど陽性率が高い傾向にありました。また便潜血陰性者の約18%、陽性者の約29%が、アスピリンなどの出血を来しうる薬剤を処方されていました。2016年末の観察終了時点で便潜血陰性者の9.6%、陽性者の21.9%が死亡しており、死亡時平均年齢は陰性者で71歳、陽性者で70歳でした。

さて、問題となる原因別による死亡リスクですが、結果に影響し得るさまざまな因子について補正を行って比較すると、便潜血陽性者の大腸がん(正確には結腸直腸がん)による死亡リスクは陰性者に比べ高く、7.79倍と算出されました。便潜血陽性者には進行大腸がん、あるいはがんが発見され、その治療後に再発した大腸がんの患者さんが多数含まれているはずですので、当然予想された結果です。

次に著者らは“すべての原因による死亡率”で便潜血陽性者と陰性者を比較しているのですが、この比較でも陽性者は陰性者に比べて1.76倍高い、という結果でした。しかしこの結果には“大腸がんによる死亡率の高さ”が影響しているはずです。そこで検討すべきは“大腸がんを除くすべての原因による死亡率”です。ところが、これについても便潜血陽性者は1.58倍の死亡リスクがあるという結果でした。さらに“すべての循環器疾患による死亡”でくらべてみると、やはり便潜血陽性者の死亡率は陰性者に比べ1.28倍高いという結果が認められました。同様に“呼吸器疾患による死亡率”では1.96倍、“消化器疾患による死亡率”では3.36倍、“神経精神疾患による死亡率”では1,66倍、“血液・内分泌疾患による死亡率”では2.06倍と、実に多彩な疾患において、便潜血陽性者の死亡リスクの上昇がみられたのです。

確かに便潜血陽性者は陰性者と比較して、大腸がん以外の病気に罹患している確率は高いと思われます。この論文の対象者をみても、アスピリンやその他の出血しやすくなる(同時に血栓ができにくくなる)薬剤(抗凝固剤や抗炎症剤)を処方されている人の比率は便潜血陽性者で多かったのです。心血管を主とした血栓性疾患や炎症性疾患の罹患者が少なくなかったと推察されます。血栓のできやすさは多くの心血管病につながりますし、炎症は死亡につながるような多くの病気の原因や増悪因子になり得る病態です。やはり“便潜血陽性”という状態はいろいろな意味からも多種多様な健康リスクをはらんでいる、と言っても過言ではないかも知れません。

では便潜血陽性で大腸内視鏡に異常がなければ、どうしたら良いでしょうか。
少なくとも大腸の非がん病変も、もしあれば見つかると思います。あとは高血圧、肝腎機能、脂質、血糖関連検査をよく見て下さい。基本的な炎症マーカーであるCRPの値があれば有益です。きっちり見た上で、かかりつけ医がおられたらぜひ相談してみて下さい。要するに健診項目をみる場合は、すべての項目を“気合いを入れてみる”のが良いかもしれません。単なる流し読みは読まないより悪いのでご注意を!チコちゃんに「ボーと生きてんじゃねえよ!」と叱られますよ(意味が分からない人は「チコちゃん・NHK」で検索してくださいね)。

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2018年11月01日

“運動はがんのリスクを下げるPart2”〜夢、はかなく?!

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2016年7月15日付けのこのブログで、“運動はがんのリスクを低下させる”というお話を紹介しました。その後も、このテーマで毎年数え切れないほどの研究論文が発表されています。生活習慣病の予防・治療における運動の効果は明らかなので、がん予防効果についても大いに期待されるところです。たとえわずかな低下でも、全世界で行えば大きな効果があります。多くの熱心な研究も、その期待の現れなのでしょう。

一方、このような状況で「しかし、ちょっと待て」・・・・・・という研究者も当然も出てきます。なぜなら、みんなが期待している結果は論文としてよりたやすく採択され、出版される確率が高くなることはよく知られています。これを「出版バイアス」といいます。要するに“研究が日の目をみるハードルが下がる”という現象が起こるのです。そこでブラジルのグループは、この問題について現時点での総括を試みました。彼らは今まで出版された19編の総説、26編のメタ解析(がんと運動についての総説を集めて解析する研究です)と541編の原著論文を合わせて、計22種類のがん、770,000症例を解析した結果を報告しました(英国スポーツ医学雑誌 2018年)。

ここで“運動とがんリスク”についての研究史に触れておきます。運動による大腸がんと乳がんのリスクが低下については30年前くらいから報告がありました。そしてここ10年ばかりの間で、膀胱がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、膠芽腫(脳の悪性腫瘍)、腎がん、肺がん、髄膜腫(脳腫瘍で一部悪性)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんでも運動のリスク低下効果が報告されるようになってきました。2016年にこのブログで紹介した論文も、26種類のがんのうち、10種でリスク低下を認めた、としていました。何だか運動はオールマイティにがんリスクを低下させる!との勢いです。

しかし今回のブラジルの研究者たちは、そう考えるには、より精緻な検証が必要と考えました。そこで“がんリスクを低下させるという根拠の強さ”について詳細に検討したところ、「まず間違いなさそうな科学的根拠があるのは、大腸がんと乳がんだけ」という結果になりました。その他のがん種では、バイアスも無視できないし、論文間のばらつきも多く、確かとは言えない、ということです。ちょっと夢はしぼみぎみ・・・・・・というところですね。

しかし一方、大腸がんと乳がんにおける運動のがんリスク低下効果は、十分信用できると考えて良さそうです。そうなると問題になるのは、なぜこのふたつだけなのか、ということでしょうね。運動には、慢性炎症・高インスリン血症の抑制作用、抗酸化作用があり、これががんリスク低下と関係している、と考察されるのですが、これでは“なぜ大腸がんと乳がんだけ?”の説明にはなりません。

運動は便秘の改善に有用で、大腸での便停留時間を短縮して消化管内容物から発生する発がん物質との物理的接触を減少させる、という説もあります。しかしリスク低下は結腸がんだけで直腸がんにはみられないという報告もあり(BMC公衆衛生 2018年;BMCはドイツのシュプリンガー社が出版する生物・医学関連雑誌)、発がん物質を特定して運動との関連を明らかにしない限り、仮説の域をでません。

一方、運動はエストロゲンの分泌を抑制する、という報告があります(乳癌の研究と治療誌 2015年)。乳がんの多くはエストロゲンなどの女性ホルモンで増殖する・・・・・・となればこれががんリスク低下のメカニズム!と言いたいところですが、乳がんの多くは更年期以降〜高年齢域に発症します。この時期はエストロゲン分泌が低下しているはずなので、単純な運動によるエストロゲン分泌低下で説明するのは無理があります。

更年期以降の女性ホルモン感受性の乳がんは、副腎皮質から少量分泌される男性ホルモン(女性でも少量の男性ホルモンが分泌されています)を、がん細胞自身が「アロマターゼ」という酵素でエストロゲンに転換して増殖するとされています(従って“アロマターゼ阻害剤”は有力な乳がん治療薬となっています)。そして運動自体は男性ホルモン分泌を抑制しないので、現時点では、この経路に関する運動の乳がん予防効果についての納得のいく説明はありません。

結論は「運動は結腸がんと乳がんのリスクを低下させる。ただしその機序は不明。また他のがんについての運動の効果のほどは怪しい」ということになります。「たった二つだけ〜」と思われるかも知れませんが、ないよりはマシ・・・・・・それにやりようによっては、コストもかからないし、体重が減るとか、他に良いこともあるし、無理のない程度で頑張って下さいね。

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