2018年06月01日

血液型O型は重症外傷での死亡率が高い?!

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ABO血液型性格診断なるものがあります。これが根強く流布しているのは日本などアジア地域だけで、欧米などから「非科学的であるうえに、“血液型ハラスメント”の原因にもなる!」として批判されています。私もこの批判には同意しますけど、かつて大統領とファースト・レディが星占いにのめり込んでいた某国には言われたくないな〜と思うのですが……

しかし、性格はともかく、ある種の病気や病態がABO血液型と関連しているか否か?ということになれば、これは「ほぼ間違いなく関連している」と言えます。従来から血液型との関連が示唆されている疾患として、がん、感染症、虚血性心疾患、血栓症などが報告されていたのですが、今回紹介するのは血液型が重症外傷での死亡率と関連するという研究で、東京医科歯科大学からの報告です(クリティカル・ケア誌on line 2018年5月)。

さてABO血液型について、ざっくり説明しますと、すべての人(希有な例外はあるけど)は赤血球表面にH抗原を持っていて、これだけだと血液型はO型になります。このH抗原に「N-アセチルガラクトサミン」という糖が結合すればA型に、「D-ガラクトース」という糖が結合すればB型に、両方が結合すればAB型になります。これらの血液型表面抗原は赤血球のみならず、上皮細胞、血管内皮細胞、血小板などにも発現しているので、生体内で何らかの機能を担っていることは疑いなく、血液型の違いによって、その機能にも違いが現れてくる可能性は十分考えられます。

さて。東京医科歯科大学救命救急部の論文ですが、対象となった患者さんは901名で、外傷部位と程度で決まる「外傷総合重症度(1〜75点でランク付)」で>15点、すなわち入院が必要なレベルの患者さんたちです。血液型の分布はO型32%、A型32%、B型23%、AB型13%で、日本人におけるABO血液型の分布と大きくは違いません。この研究でもっともインパクトのある結果は“すべての原因による死亡率”で、O型以外の血液型での死亡率は11%であったのに対しO型では28%と、明らかに高かったのです。結果に影響を与えそうなさまざまな因子で補正しても、やはりO型は、O型以外と比較して死亡率は2.86倍高い、という結果が得られました。「えっ、ほんとに?!」と言いたくなるような差ですね・・・・・・

なぜ“O型”と“それ以外の血液型”で比べるのか、について少し補足しておきます。まずH抗原が糖で修飾されているか否か、という決定的な違いがあること、また4型に分けると、ABは少数で正確なデータが出にくいし、さらに諸外国ではAB型のみならずB型も少なくてO+Aで90%を越える国が多く、4型に分ける意味はあまりないのです。

さまざまな病気におけるO型vs非O型の違いについては以前からけっこう報告があります。簡単にまとめると、感染免疫学の視点からいえば、O型はマラリアの死亡率が低いがコレラには弱い(医学遺伝学サマリ 2012)、また、がん免疫でみれば、すい臓がんや胃がんのリスクが低いとされています(がんの疫学誌 2015)。一方、血栓・止血学からみるとO型は出血のリスクが高いが深部静脈血栓症や虚血性心疾患のリスクは低いと報告されています(止血と血栓セミナー誌 2012, 2013)。要するに血栓・止血の観点からいえば“O型は血液が固まりにくい”と解釈できます。

今回の救急医学領域のO型の死亡率上昇も、易出血性の観点から議論がされています(ただ輸血量でみると差はないようですが)。確かにO型は非O型に比べると、出血に対応する防御機能である止血システムの初期段階で重要な役割を果す「フォン・ビレブランド因子」の量が25〜30%ほど低く、この因子と密接に関連する凝固第[因子活性(この因子が先天的に欠乏している病気が「血友病A」です)も低いことが知られています。今後さらに洗練されたデザインでの追試が必要ですが、論文の著者らも外傷での死亡率の高さは“O型が出血しやすい”ことに関連していると考えているようです。

ということで、いちおうO型のみなさんは、交通事故などにはくれぐれも気をつけてくださいね。「どう気をつけたら良いのか?」というご質問に答えるとしたら……そうですね〜フォン・ビレブランド因子の量が25〜30%ほど低いので……非O型の人より30〜40%ほどよけいに注意するのが良いかと……ちょっといいかげん過ぎるかな〜

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2018年05月15日

転移性脳腫瘍始末記


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ふう〜っ、何とかブログに穴をあけずに済みました。危ないところだった……

昨年3月から、血液検査でがん腫瘍マーカーが上昇してきていたので外来化学療法を開始、当初は効果もあったのですが、昨年秋ごろから徐々に効果が薄れてきて今年に入ると明らかな悪化がみられました。そこで新たな転移巣を探すべく、MRIやPET-CT、内視鏡などさまざまな検査を行ったのですが不明のままでした。まさに“声はすれども姿は見えず”の状態ですね。しかし手をこまねいているわけにもいかず、今年2月末から“現時点での化学療法の最終兵器”である「オプジーボ」という薬剤を開始した矢先のことでした。

長期間外来化学療法を受けていると、代表的な副作用のひとつである末梢神経障害、すなわち手足の末梢のしびれ(しびれの場所の分布から“手袋・足袋型神経障害”と呼ばれます)がほぼ必発です。私も例外ではなく、日常生活にはさほど支障ないものの、常に四肢末梢のしびれはありました。ところが3月第2週に入るとしびれに加えて、突然左手の細かい動作が難しくなり、急速に悪化しました。この付加症状は末梢神経障害では説明できないものだったので、「ひょっとしたら脳梗塞でも起こった?まさか脳転移はないよね〜だよね〜……」と思いつつ、あくまで“念のため”脳のMRIをお願いしました。

こういう時には、病院勤務の強み、予約枠の合間にMRIを撮像してもらって、電子カルテで画像を確認しました。それをみた瞬間、「えっ、マジっ!?……」思わず患者番号・名前を見直しましたが間違いなく私の画像です。右の前頭葉に長径4pの腫瘍が映っていました。こりゃ、どうひいき目にみても胃がんの脳転移ということで、脳神経外科と放射線治療科の先生も巻き込んで大騒ぎとなり、急遽開頭による腫瘍切除術、その後に放射線療法という方針が決まりました。

「そんなになるまで分からないものなの?」と言われたら面目ないのですが、まず“胃がんの脳転移”はすごく稀です。また、今まで転移性脳腫瘍の代表的症状であるふらつき・頭痛・嘔吐は一度もなく、脳転移チェックにはあまり向いていないとはいえ、最近行った全身のPET-CTによる全身がんスクリーニングにも異常ありませんでした。頭部以外の画像検査は定期的にしないといけないし、頭の方は「まあ、症状がでたらMRIを考えよう」と思っていました。そのとおりにやったらこんな大きくなっていて……まあ、かなり短期間で大きくなったのは確かなのですが。

脳腫瘍のなかで転移性脳腫瘍=がん脳転移が占める割合は約30%で、決して珍しいものではありません。がんの原発部位で見ると、肺がんが約半数を占め、乳がん(約15%)がこれに次ぎます。一方、消化器のがんは全部合わせても5%に満たない程度です。またそれぞれの消化器がんがどれくらいの割合で脳転移を生じるか、という視点からみると、大腸がん1%、食道がん1.2%、胃がんについては欧米人も日本人も0.5−0.6%くらいと報告されています(キャンサー誌2011年8月号)。これだけ見ると、「運が悪かったな〜」なんですけど、ここに落とし穴が……

引用した論文は2011年発刊ですが、データ収集期間は1980年代〜2000年代初頭です。立派な論文ですが、データ収集と発表の間にタイム・ラグがかなりあります。当時と現在とでは化学療法による延命効果は格段に良くなっています。生存期間が延長するということは、稀な事象が生じる確率も高くなる、ということになります。論文の著者もこの可能性にきちんと言及しています。また私の場合、“過去に肝転移・肺転移を経験している=がんの芽は既に血流に乗っている”ので、もうちょっと用心しても良かったかな〜と思わないではありません。

もっとも治療を開始してからはツキも戻ってきたようです。転移性脳腫瘍の手術では他の部位のがん手術のように再発を防ぐため、“十分に切代(きりしろ)を確保する”ことはできません。局所再発防止を重視して切除領域を広げると、その分脳機能が失われるからです。そこで「誘発運動電位モニタリング」という方法で脳波をチェックしながら腫瘍外縁ギリギリを慎重に切除し、術後に放射線療法を追加する、というのが最善の方法です。

その放射線療法も、以前は“脳全体にまんべんなく照射する”という「全脳照射」が一般的でしたが、効果の点からも副作用の点からも満足のいくものではありませんでした。今の主流はCTで厳密に位置決めを行い、コンピュータ制御のロボットアームによって多方向からガンマ線を照射して、腫瘍に十分量の放射線を集中するとともに非がん部分のダメージを最小にする「定位放射線療法」が最も優れているとされていて、これは阪大病院に転院して施行して頂きました。

この最新鋭の放射線療法は「ガンマナイフ」とも呼ばれます。さながら電脳空間で目には見えない高エネルギーのナイフを操って病巣を自在に切り取る、というイメージで、映画でいえば「スター・ウオーズ」、アニメでは「機動戦士ガンダム」、「新世紀エヴァンゲリオン」の世界ですね……むろん副作用がでる可能性はあるのですが、私自身については幸運にも手術〜放射線療法を通じて“副作用は皆無”と言って良いほどでした。

振り返ると“ゲリラ豪雨、のち晴れ”というところかな。“悪運、じゃなかった天運に恵まれた”のかも。とにもかくにも、5月1日から仕事も再開しています。でも「始末記」はこれっきりにしたいな〜
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2018年05月01日

ハエ、マウス、ヒトが共有する体温日内リズム制御機構

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古来、日本では明と暗が接する時間帯、すなわち黄昏時は“禍々しいもの”に出会いやすいとされており、今も「逢魔時」という言葉が残っています。だけど私は、ふだんの行いが良いせいか、未だに禍々しいものに出会ったことはありません。でもひとつ例外があります。なぜか昼食後のひと時には、しばしば「魔」に遭遇します。言わずと知れた「睡魔」です。

「睡魔」については、想い出したくないことがいくつか・・・・・・かつて不覚にも居眠りして,自分の病院の研修医の先生が学会発表した演題を聴き逃したこと、重要な会議(差し障りがあるので具体的には書けませんが、病院外で開催される公的行事で、途中で居眠りするなど言語道断の会議です)でつい寝入ってしまって、病院から一緒に来ていた隣席の人に足を蹴飛ばされて起こされたこと・・・・・・後者の場合、あろうことかイビキもかいていたらしいです。もちろん自分では「記憶にございません」なのですけど。

さてこの睡魔なるもの、実体は「体温の日内リズム」に由来するとされています。動物にはこのリズムによって体温を下げて休息・睡眠に導く、というメカニズムが備わっています。ヒトも同じメカニズムが働いていて、まず血流が増加して温かくなって放熱し、体温を下げて眠りに誘う、というシステムです。小さい子が眠る前に手足が温かくなるのもそうですね。しかしこのリズムを制御する仕組みについては明らかではありませんでした。

ところが最近、京都大学とシンシナティ小児病院の研究者らが、動物に普遍的に存在する「カルシトニン受容体」が変温動物である昆虫(ショウジョウバエ:この種ではカルシトニン受容体ではなく「DH31受容体」という名称ですが、同じものです)と恒温動物であるマウスに共通した体温日内リズムの制御に関わっていることを明らかにしました(「ジーンズ& デベロップメント誌」 2018年 2月号)。昆虫とマウスが進化系統樹上で分離するのは約6億年前とされていますので、この「カルシトニン受容体」による体温リズム調節機構は少なくとも6億年以上の歴史があると考えられます。むろんヒトもこのシステムを共有しているのです。

カルシトニン受容体を発現する神経細胞は、哺乳類では視交叉上核に存在します。視交叉上核は脳の視床下部の一角の狭い場所にあります。ざっくり言えば、眼と眼の間の奥の方・・・・・・このあたりには、生体のさまざまな日内リズムを司る中枢が集まっているところです。いわば体内時計の集積所みたいな部位なのですが、さまざまな生体リズムがからみあって、相互に影響しながら、個としての生命体のリズムが作られていくと考えられています。どうです?昼間に眠くなると、つい眼と眼の間をごしごし擦りたくなりませんか?

今回の研究で実験対象として用いられているのも「ショウジョウバエ」です。「ショウジョウ」というのは漢字では「猩猩」、ヒヒのような伝説上の生き物ですが、ショウジョウバエは眼が赤くて、お酒に寄ってくるところが「猩猩」に似ているので、この名がついたようです。伝説の生き物に似ている・・・・・・と言われてもね〜見たことないし。

名前の由来はともかく、「ショウジョウバエ」ほど、生物学研究に貢献している生き物はいません。その歴史はもう100年以上にもなります。「ショウジョウバエ」が実験動物として用いられる分野は、遺伝学、発生学、生理学、行動学、進化学・・・・・・などなど広範囲に及びます。昨年ノーベル医学生理学をとった「体内時計」の研究にも使われていました。体温日内リズムも体内時計システムの一環だから、「ショウジョウバエ」が使われて当然なのかも・・・・・・

体長2-3mmの「ショウジョウバエ」と「ヒト」が遺伝子を共有して、その歴史が何億年、と言われたら、ただただ「すごいな〜」という他はないですが、これを思えば、やはり「眠気を根性で振り払ってむりやり眼を覚ます・・・・・・」というのは無理ですね。なんたって、進化の歴史の重みに一個人が抵抗できるわけはありませんから。

というわけで、過去の私の苦い想い出も、すべて“不可抗力という言い訳の海”に流してしまおうと思うのです。

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